権藤義政 一
山梨県、河口湖留守ヶ岩近郊自動車道。
三日つづいた雨脚は弱まったが、ぼんやりとした霧雨が視界を覆っている。
国道百三十七号線は通行止めとなっており、その奥では大勢の人間たちが駆け回っていた。
救急車が数台待機しており、クレーン車が湖に沈んだバスを引き上げた。
山梨警察、富士吉田警察署課長の権藤義政が、引き上げられたバスから大勢の遺体が搬出されるのを見ている。
「野球部の送迎バスだったそうです」
若い刑事が権藤に報告をした。
「事故当時のバスの乗員は三十名。 うち二十八名は杉並区立松原高校の野球部員、一名は運転手の柳健介であると判明しました」
「可哀想に……」
権藤の息子はすでに成人しているが、野球部だった。
年中、大会やら遠征の練習試合やらで、あちこちに移動していたのを思い出し、ついつい口に出てしまった。
「残りの一名は?」
「はい、現在身元を確認中です」
権藤は、搬出され、毛布に包まれた少年たちの元へ向かった。
顔から唇から耳から、青白くなった遺体を見て、大きなため息を漏らした。
そして小雨の降る天を睨んだ。
「この子たちが何をしたってんだ……ええ?」
そして、再び並べられた遺体たちを見た。
……その中で明らかに一人、異質な人間が紛れている。
その遺体は、身長は実に2mに達する大男だった。しかし、
引き締まった肉体はスポーツ選手を思わせる。
だが、格好がおかしいのだ。
男は、黒いスーツに革靴、車内からは黒い帽子が見つかっており、この男のものだと思慮される。
「……彼は?」
権藤は現場にきた鑑識に声をかけた。
「それが、身元がわかるものがないんです」
「野球部の顧問か……?」
権藤が尋ねると、部下の刑事が割って入ってきた。
「ただいま松原高校野球部の顧問と監督が到着しました。……別の車で移動していたそうです」
遺体の元に、野球部の監督が走ってくるや、生徒たちをみて大声で泣き始めた。
「あ……あああ………ああ……あ……あんまりだ……あんまりだ!!」
悲惨な光景に、あたりにいる刑事や関係者各位の表情も曇る。
権藤は、監督に話しかけた。
「この度は残念です。失礼。富士吉田署の権藤です」
「……野球部監督の田上です……生きてる子は……生きてる子はいないんですか」
「……残念ながら……」
監督は大声で嗚咽を漏らし、拳を地面に打ち付けて泣いた。
「田上さん。申し訳ありませんが、捜査に協力願えますか……。この男をご存知ですか?」
権藤は、黒スーツの男を指差す。
田上は数秒男を見て、
「……誰なんですか?」
と答えた。
「野球部の関係者ではない?」
「知りません……同じバスに乗ってたんですか? ……そんなわけないはずですが……」
「ええ同じバスから出てきたみたいです。……本当にご存知ない?」
権藤が聞いても、田上は首を振るばかりで、むしろ興味も湧かないようだった。
「記憶にもないです。知らない人間です」
権藤と鑑識は顔を合わせて、首を捻った。