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ジヒドロゲンモノオキサイド
心の中で詫びながら、俺は渾身の言葉を口に出した。
「そんなに泣いてると危ないぞ。涙の主成分は『ジヒドロゲンモノオキサイド』という超危険な化学物質だから」
中山の慟哭が止まった。一応は効いたみたいだ。良かった。
だが、束の間の静寂はすぐに破られた。
中山の喉から今度は、専門用語では緩解音といわれる、列車のブレーキの音が轟いた。
目まぐるしく様々な音を出す忙しい女、中山。どこから声が出てるんだ?
「重岡くん。危なかったね。もし飲み物を飲んでる時だったら、ここに間歇泉が建つところだったよ」
やっぱり噴いちゃうよな。ごめん。俺の国語力ではこれが限界なんだ。
「ごめんな。下手な文章なのは分かってたんだけど、黙ってるのは絶対に間違いだと思ったから。それで、どうしたの?」
そう尋ねることしか出来なかった。こんな時、普通だったらローズヒップティーでも淹れて差し出すところなのだが、それはラノベだから出来ること。部室に湯を湧かせるアイテムは無い。
どうしてあげればいいかを何も思いつかずに、しばらく固まっていると、やがて中山は口を開いた。