フィン・リーエ!旅に出ます!
「ほらほら!早く早く!もたもたしてたら置いて行っちゃうよ!」
「だー!わかってるって!ちょっとは落ち着けよフィン!」
「そんなに落ち着いていられるものですか!やっっっと外の世界を見に行けるっていうのに!!」
聖エルヴェリア王国。私が生まれたこの国は、代々聖女と呼ばれる人間によって人々に祝福を分け与えることで繁栄してきた。
そのため聖女は国の宝であり、汚れなき存在でなければならないとして、
16歳の成人を迎えるまでは、王宮の中に特別に創られた聖殿といわれる場所で
過ごさなければならない。
そんな決まりがあるため、小さいころからお世話をしてくれる乳母のリーリアと
王族で一番年齢の近かった幼馴染のイクス。それから何人かの護衛騎士さんだけが
私の知っている世界のすべてだった。
そんな退屈な日々を過ごしていた私は今日16歳の誕生日を迎え、
この国で立派な大人になったのである。
聖エルヴェリア王国では16歳の誕生日に成人の儀を迎えることで大人になったと
証明される。そのため成人の儀を迎えた聖女は聖殿を出て、人々に四季という
祝福を与える旅をしなくてはならない。
今まで本の中でしか知ることのできなかった外の世界に出るとこができるのだ。
そんな人生で最も楽しみにしていた光景が今目の前にある。
そりゃあ落ち着いてなんていられるものですか。
「ほーら!早く早く!やっと自由になれるんだから!街まで早く行こうよ!」
今回の旅の護衛兼見守り役でもあるイクスに早く早くと手を振るがゆっくりと
歩いてくる姿に頬を膨らませる。
「わかってるって!そんなに急がなくても街は逃げないから安心しろ。そもそも
聖女としてもう少しおしとやかにできないのか……?まったく、昔っから全然
成長してないなお前。」
「もー!うるさいなー。ほんとに置いていくからねー」
「あっ!おい待て!一人で行くな!バカ!」
「べーーー!っだ!」
(同じ景色はもうまっぴら!これからはたっくさんの景色を見て、この世界を自由に生きてやるんだから!)
そんな希望に満ちた始まりの日。この時まではまさかあんなことになるなんて
想像もしてなかった。
今はもうなくしてしまった大切な私の記憶。