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中学一年生の時の冒険 その8

「頼むからあの人を側に置きたくないの。」


 小声で耳打ちするように言ってきた。

 まぁ、大体そんなものだろうなと思った。

 興味ない男に付きまとわれたら誰だってそう思う。

 しかし、これを言われると断れない。

 嫌がってる女の子の訴えを無視するわけにもいくまい。

 とはいえ、決闘などやってただで済むとは思えない。

 そこで提案した。


「わかりました。その決闘、受けましょう。」


 教室がざわつく。

 口々にロバートの戯言に乗る人初めて見たと言っている。

 みんなに相手にされてないのか。

 可哀想なやつ。

 ロバートは「ほう」といういけ好かない顔をしている。

 一々癇に障る。


「よく言いました。二人の勇姿、この私が見届けましょう。」

「姫様に我が勇姿、見ていただけるとは感激です。」


 姫様よう。

 あなたはただこの男を遠ざけたいだけだろう。

 そして、この男は知っているのか。

 自分のストーリー通りに物事を解釈するやついるよな。

 

「で、決闘方法なのですが。」

「それはもちろん剣と剣を交わして。」


 それやったら俺は死ぬ。

 ここは比較的平和な種目にしないと。


「魔法で的あてというのはどうですか?」

「また、幼稚な。紋章人ならその能力を使ってだな。」

「その能力を見せるためですよ。」


 ロバートは「ふむ」といういけ好かない顔をしている。


「紋章人は魔法を操る人々。その魔法を的確に扱えるか、それを見せることが出来るのが、的あてだと思うんです。」

「確かに集中力や適切な力加減。ただ、力任せに魔法を使うのではない高等なテクニックが必要だ。それを姫様にお示しする。うん、いい。」


 こいつチョロいな。


「ならそういうことで。」

「場所と会場設営はこのユーナ・デ・ノールストライトが用意しましょう。」

「姫様、日時は来週としましょう。それでよろしいかな佐藤健太くん。」

「わかりました。お互い死力を尽くしましょう。」

「ああ、望むところだ。」


 なぜか固い握手をした。

 それをユーナ姫は話がまとまったのを満足げに見ていた。

 これでロバートに付きまとわれなくなることを期待した目をして。


「さぁ、姫様どうしましょうか。」


 自分としてはユーナ姫に何とかご助力頂かないとどうにもならない。

 放課後、城のユーナ姫の勉強部屋で密談していた。

 何か作戦を立てようとこうして話している。

 二人で向かい合わせているテーブルから少し離れた窓の下で、家庭教師が静かに座っていた。


「申し訳ない。よく考えたらこんな勝負受けさせるべきでなかったわ。」


 今さらそんなこと言ってもどうにもならない。

 ユーナ姫、あなたは煽ってたじゃないですか。

 謝られたところで、よい方向には転ばない。

 それなら如何に贔屓してくれるかだ。


「ユーナ姫、僕は魔法は授業で触ったくらいです。これではあなたの望み通りにはならないでしょう。」

「いえ、あなたにも勝機はあるわ。とにかく、基礎練習をみっちりやっておきなさい。」


 そんなことで王家の側近を自認しているような奴を退けられるのか。

 実力あるからあんな態度なのではないのか。

 しかし、ふと頭を過ぎる。

 意外と弱いのかもしれない。

 確かにあの感じは噛ませ犬感が強い。

 実はかなり情けない奴なのかもしれない。

 それだったら確かに自分にも勝機ある。

 むしろ、楽勝かも。

 

「ふふ、ユーナ姫、何とかなるかもしれませんね。」

「そうよ。あなたならやれるわ。」


 妙な盛り上がり方をし始めた二人に居合わせていた家庭教師が、ため息をしていた。

 外は暗くなり始めていた。

 太陽が遠くに見える。


「ロバートって、前からああ何ですか?」


 ふと、思ったことを口にした。

 名門と思ってるからとはいえ、あそこまでユーナ姫の右腕であろうとするのは何か訳ありではないか。

 そう思った。

 人が人に入れ込むのにはそれなりに理由があると思う。

 ロバートからは並々ならぬものを感じさせる。

 彼にとってユーナ姫に忠節を尽くすことは大事なことなんだと思う。

 ユーナ姫は顎に手をやり、思案して言った。


「そうね。昔から親に言われてたみたい。我が家は王家のためにあるって。だから忠義を持って仕えよと。」

「小さい頃から言われてればそうもなりますね。」


 ありきたりなことだけど、きっと、ロバートには特別なことなのだろう。

 俺だったら親に言われたら反発して逆のことやるけどね。

 でも、ロバートにとってはそれは魂に入ってる言葉、戒めなのだろう。


「ロバートは両親を心から尊敬してるから。父親が昔、戦争で部隊を指揮して王国の主力を救ったことがあって、その話をよく周りにしてたわ。みんな辟易してたけど。」


 本当に両親が好きなんだな。

 翻って自分はどうだろう。

 普通のサラリーマンとパートの父と母。

 尊敬という眼差しを向けた記憶はない。

 親になるとその有難みが分かるというが、自分はまだ中学生。

 当分、そういう想いに駆られることはないだろう。

 今は自分のことだけ考えるので精一杯だ。

 ロバートという人間に対する仄かな尊敬を感じた。


「勝手に名門を名乗ってるから、疎む人もいて、それで以前にロバートの甥っ子が、揶揄われて。それを知ったロバートが殴りかかったてのもあったわね。その時はロバートがボロボロになってたけど。」

「そんな微笑ましいこともするんですね。」


 ユーナ姫は難しい顔をして、ため息した。


「そうなんだけど。普段があの調子だから。」


 それ以上は言わないようだ。

 まぁ、あんな調子に乗った態度されたら、根は良い人でも嫌だよな。

 今日、俺に絡んできた時も周りは呆れたような何時ものような感じで見ていた。

 あの視線の中に置かれるのは、注目を集める身分とはいえ、ユーナ姫は嫌だろうな。


「来週の勝負は必ず勝ちますよ。姫様の右腕として。」


 殊勝なことを言ってみた。

 姫様のために体を張る。

 勝つ見込みがあるなら、いい響きだ。

 勉強部屋は今、戦いに出る男とそれを見守る一国の姫様の世界となる。

 いい雰囲気かといえば、ただ単にあの男なんとかしろなのだが。


「頼むわ。申し訳ないと思うけど、何としてでも勝って来て。」

「任せてください。」


 固く誓った。

 離れた椅子に座り本を読んでる家庭教師はため息した。


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