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中学一年生の時の冒険 その6

 学校に着くと職員室に向かった。

 支給された学生カバンと制服を身に纏い、職員室の前に立った。

 

「すいません。今日からお世話になる佐藤ですけど。」


 そう言いながら3回ノックした。

 すると、大柄な男性が出て来た。

 きっと見た目の割に若いのだろうと思った。

 そういうものだ。


「君が佐藤くんか。」


 気の良さそうな喋り方だった。

 こんな先生は自分がいた世界の学校にはいなかった。

 大柄な男性の先生は威圧的な態度だった。

 舐められないようにするためだろう。

 うちの学校には荒れた生活態度の子もちらほらいたから。

 しかし、この紋章人の学校は違うのだろう。

 先生が生徒に舐められないように威圧的になる必要がないのだと思う。

 そういうところをこの先生から感じとった。


「よろしくお願いします。」

「こちらこそよろしく。え~と担任は、そうだアルフォン先生だ。アルフォン先生!」


 大柄な先生は後ろを向いて大声で、アルフォん先生を読んだ。


「呼びました?」


 頭を掻きながら隣の部屋からアルフォン先生が出て来た。

 少々の気だるげさを持ち合わせている若い男性の先生だった。頭は天パで背は大柄な先生ほどではないが、すらっとして高い。身なりをオシャレにすれば女性にモテそうだ。

 この人が俺の担任になるのかと思った。

 あまり頼りにならなそうだ。

 生徒間のトラブルに疎そうだ。

 

「アルフォン先生、佐藤くんが登校しました。」

「佐藤健太です。よろしくお願いします。」


 ペコリと頭を下げた。

 アルフォン先生はにっこりとしていた。


「よろしく佐藤くん。」


 思ったより出来る先生なのかもしれないと感じた。

 意外性のある人かもしれない。

 熱血教師だったりとか。

 

「よろしくお願いします。」


 2回目のよろしくお願いしますを言った。

 こういう挨拶を交わすのは慣れない。

 初めて会う人と話すのは苦手だ。

 間の取り方がわからない。

 そのためか初めて会った人やよくわからない人がグループに合流すると品定めをしてしまう。

 そういうところは良くないと分かりつつも、やってしまう。

 友達からも咎められたことがある。

 恥ずかしいからと。

 そんなことを考えてると、熱血教師疑惑のあるアルフォン先生が時計を見た。


「そろそろ時間だな。みんなに紹介するから付いて来なさい。」

「はい。」


 俺とアルフォン先生は職員室を出た。

 気温が今日は上がりそうな陽気。

 何かを始めるにはいい日かもしれないと思った。

 教室に向かうがてら、アルフォン先生と話した。


「君は異世界から来たというのは本当なのかい?」

「ええそうです。」


 どうやら担任には自分の情報が渡っているようだ。

 そりゃそうか。

 お姫様の右腕になるように言われてる人間が自分のクラスに入ってくるのだから、その辺の情報収集はしているか。


「色々大変だろうけど、この学校に入るということはこの国のために生きようと決めたわけだ。」


 別にそういうことではないが、頷いといた。


「そうだ、安心してくれ私のクラスはみんないい子たちばかりだからすぐに馴染むと思うよ。姫様もいるしね。」


 それは良かった。

 ユーナ姫がいるなら大丈夫だろう。

 先日、会った時も何だかいい雰囲気だったし、仲良くしてくれるだろう。

 

「クラスに生徒って何人くらいですか?」


 ちょっと、気になることを聞いてみた。

 やっぱり、クラスの規模感というのは把握していた方が良い。

 クラス内がどういう関係性で成り立っているか知っておくべきだからだ。


「今は52人かな。」

「多いですね。」


 日本の少人数授業とは大違いだ。


「まぁ、進路とかは担当官がいて、彼らがやるからワ私たち教員は勉強の指導とかするだけだから。あと、担任は複数いるから教室行ったら紹介するよ。」


 なるほど勉強と進路などを別々の人がやるのか。

 そして、複数担任制による一人の教員への負担が過多にならないようにしている。

 教員の負担は最小限にしてるのか。

 話していると教室に着いた。

 そこは昨日、入った教室だった。

 

「じゃあ、入ろうか。」

「はい。」


 緊張する。

 扉の前に立つ。

 ここから先には新たな世界が広がっていると想像する。

 アルフォン先生が入った。

 俺もそれに続く。


「みんな、席に着いてるな。今日は我々紋章人の新しい仲間を紹介する。今、私の隣にいる佐藤健太くんだ。」

「よろしくお願いします。」


 そう言って、俺は頭を下げた。

 教室内は静まり返っていた。

 たぶん、見た目も名前もこの国というか世界の住人と異なるところが怪しいのだろう。

 しばしの静寂というより品定めをされた後、教室の後方から声がした。


「じゃあ、健太は私の隣ね。」


 そちらの方を見るとユーナ姫がいた。

 制服を身に纏い城で見る姿とは違い可愛らしい。

 このクラスの中では一番の美形ではないだろうか。

 紋章人の学校という特殊な環境下で勉学に励まなくてはならない苦しみの中で、前向きになれる要素だ。


「そうだね。その方が良いか。じゃあ、佐藤健太くん、姫様の隣に座ってくれ。」


 アルフォン先生に促されてユーナ姫の隣に座った。

 その後は各々自己紹介が行われた。

 まぁ、無難に終わった。

 1時間目が何事もなく過ごした後の休憩時間。

 俺は質問攻め…されてなかった。

 みんな遠巻きに見ている。

 これは辛い。

 それもそのはずだった。

 まず、異世界の人間であること。これが怪しまれないはずはない。

 もう一つはユーナ姫の右腕として育成されるということだ。

 この国で紋章人であるかないか以外で、唯一の身分差である王族の側近となることになっている人に、親しみを持つ者などいないだろう。

 自分としても距離を持とうかと考えていたが、相手からこう距離を取られると中々悲しい。

 落ち込んでいるとユーナ姫が声をかけてきた。


「健太、まぁ、これからよ。」


 あまり励ましにならない励ましを頂いた。

 俺は苦笑した。

 まさか自分がこんな励まされ方をされる立場になるとは思わなかった。

 自分のこと選ぶ側の人間と考えていた。

 実際は相手のご厚意によりその気になっていただけだった。

 自分は品定めを受けて付き合うに足る人間か測られているだけだった。

 そう思うと何だか絶望的な気分になる。

 上手くやっていけるだろうかと思った。

 休憩時間が終わり授業が始まり、また、休憩とを何回か繰り返し、昼休みになった。

 授業は何とかついて行けた。

 教会で学んだことが役立っている。

 またもやユーナ姫から声をかけてきた。


「健太、昼食にしましょう。食堂に行きましょう。」

「はい、姫様。」


 とりあえず、ユーナ姫に付いて行こうと思った。

 ユーナ姫は立ち上がると何かを思い出したようで、前方の女子二人組に声をかけた。 


「アンリ、ヴェリス、あなたたちも一緒に食事どう?」 

「姫様、是非。良いよねアンリ。」

「もちろん。」


 アンリというのは確か銀髪ロングの子だ。

 自己紹介の時に言葉少なに話してた。

 かなりかわいい。

 男子人気高そうだなと思う。

 ヴェリスというのはメガネの方だ。

 ショートカットに優等生然とした佇まい、背はアンリよりも頭一つ低い。

 こちらもかわいい顔をしてる。

 こんな美少女たちと食事が出来るのか。

 少し気分が晴れやかになる。

 男の子というのは女の子と話せるだけでテンションが上がるものだ。

 とつくづく思う。

 こうして俺はユーナ姫とアンリ、ヴェリスと4人で食堂へ向かった。

 ちょっといい気になった。

 食堂はとてつもなく広かった。

 これだけ広ければ大半の生徒が一度に食事することが出来るだろう。

 適当な席を見つけてから料理を取りに行った。

 ここはいわゆるバイキング形式なようで、好きなものを好きなだけ取って食べる。

 ただ、ユーナ姫の話ではあまりバランスの悪い食事していると注意が入るらしい。

 指導室で手ほどきされるという。

 それは何だか嫌なので野菜もきちっと食べよう。

 各々、食べたい物を取ってくると席に着いた。

 みんな野菜中心のバランスの良さそうな料理と量だった。

 結局、肉を多く取った自分が恥ずかしい。

 もう少し考えて食事しようと豆腐な決意をするのだった。

 食事を始めると女子たちはお喋りを始めた。

 そこに俺の入る余地が無さそうに。

 特にアンリとヴェリスは会話が弾んでいた。

 そこにユーナ姫がちょいちょい話題に乗る。

 それにしてもこの国の人は王族だからと気を遣って会話をすることがない。

 一応、敬語と敬意みたいなのはあるが、あまりへりくだることはない。

 それに対してユーナ姫が不愉快そうにすることはなく、むしろ気楽そうだ。

 

「健太くんの国にはどんな魔法があるの?」


 興味深そうにヴェリスは聞いてきた。

 明日にでも見学に行くと言わんばかりに。


「僕の国には魔法はありません。」

「じゃあどうやって国を守ってるの?」


 俺の回答にヴェリスは驚きの反応をし、不思議がった。

 アンリも少し目を見開いていた。

 ユーナ姫は何故か得意気であった。


「科学というので生み出された兵器で防備を固めてます。」

「兵器ならこの国にもあるけど、あれだけじゃ心許ないわ。」


 ヴェリスが至極全うにといった口調で兵器は頼りないと言った。

 魔法のあるこの国ではそうだろうなと思った。

 魔法があるからこそ兵器が自分の世界で言う中世ぐらいのレベルで止まっているのだろう。


「ねぇ、健太くんの世界の話もっと聴かせて。」


 ヴェリスのお願いに何だかいい気分になって俺は語り始めた。

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