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中学一年生の時の冒険 その5

 メイドの先導で食事場所まで案内された。

 俺とユーナ姫が丸テーブルの席に着くとベテラン風のメイドは出て行った。

 早速、お祈りをして買ってきたパンを食べ始めた。

 しばらくしてパンを半分食べたくらいの時、ユーナ姫が話し始めた。


「健太はあっちの世界で学校というのには行ってたの?」


 そういえば行っていたなと思い出した。


「行ってました。」

「そう。こっちでは行ってたの?」

「いえ、教会で勉強してました。」


 教会で神父から勉強を教わっていた。

 最初は行かせようかと神父は考えていたようだが、急に行かせても慣れないだろうということで、教会で教えた。

 そして、そのままなんとなく教会で勉強していた。

 それで良かった。

 別に学校で友達作りたいとか考えてなかった。

 どことなくこの世界の人と線を引いていて、川を挟んで向かい合っているような感覚だった。

 だから、無理して学校に行こうとは思わなかった。


「そうかあ。ならこっちの学校、特に紋章人の学校について話しておくわ。」


 そう言うと紋章人の学校についての話しが始まった。

 紋章人の学校は三段階ある。

 まずは下等部で7歳から12歳までが通う。

 基礎的な学習と初歩的な魔法をみっちり仕込まれる。

 次に上等部で13歳から15歳までが通う。

 レベルの高い学習と魔法の応用を学ぶ。

 最後に高等部で、これは16歳から20歳まで通う。

 着任予定の分野別の勉強と、高レベル魔法の習得、そして、軍事訓練を行う。

 紋章人はみんな戦闘のプロフェッショナルに育成される。

 非常に密度の濃い勉学の日々が約束されるそうだ。


「何か質問ある?」


 話し終えると何か満足げな様子だった。


「質問というか自分は何を勉強するのかなというかなんというか。」

「健太は私の右腕になるから政策関連の勉強することになると思うわ。」


 予想していたが、やってけるだろうか。

 勉強はあまり得意ではなく、元いた世界では中の下くらいだった。

 特に社会科は苦手だ。

 そんな俺が政策の勉強なんて出来るだろうか。

 

「そんな心配することはないよ。やればできる。」


 やっぱり、勉強するのは既定路線か。

 

「姫様も学校行ってるんですか?」


 そういえばと思って聞いてみた。

 王族は家庭教師なのかなと思った。


「私も紋章人の学校に通っているわ。」

「へぇ。」


 我ながら間抜けな反応だった。


「あなたと同じ学年よ。クラスもたぶん一緒になると思う。」


 右腕にだからかと理解した。


「お世話になります。」


 とりあえず、行儀よく挨拶した。

 ユーナ姫は笑いながら言った。


「そんな畏まらないで、長い付き合いになるかもしれないから。」

「帰れる日までですね。」


 中々、帰れる見込みは立たない。

 元いた世界に帰る方法が見つかるまで、この世界の流れに身を任せるしかないだろう。

 

「頑張りましょう。」


 そう言うとユーナ姫は微笑んだ。

 俺もはいととりあえず笑って返事した。

 食事が済むとユーナ姫は勉強があると言った。


「健太も勉強しない?」


 勉強デートの誘いにドキッとしたが、ハイレベルな勉強になりそうなので、丁重にお断りした。

 紋章人なら勉強に励むべきよと注意された。

 同い年の女子にそう言われると何だか妙な高揚感を持つ。

 城から帰った俺は部屋で黙々と荷物を開けていた。

 出かけてる間に必要な物一式届いていたのだ。

 家具や衣服、生活雑貨、しばらくの食料などが入っていた。

 それを整理し、収納していた。

 今日だけでは特に家具の配置は終わらないので、とりあえず、衣服の整理をした。

 下着やらシャツやら必要な衣料が揃っていた。

 いつ寸法測ったのかサイズもぴったりだった。

 何かそういうのがわかる魔法を使える人がいるのかなと思った。

 翌日、ポストに封筒が届いていた。

 朝食を食べながら封を切ると紋章人の学校の入学案内が入っていた。

 いよいよ俺も学生に戻るのかと思った。

 朝食の後片付けをして、昨日届いた服を着た。

 正式名称の知らないシャツとズボンを着た。

 あまり似合ってる気はしない。

 家を出て学校のある地区へと向かった。

 隣の地区なのでそれほど遠くない。

 紋章人が通い易いようにということだろう。

 学校に着くと生徒の姿はなかった。

 今日は休みらしい。

 校舎自体は西洋の古い大学のような外観で、壮厳である。

 入るのに躊躇していると、用務員らしき人が出て来た。

 校舎と対比すると違和感のある下男といった感じの男である。

 白髪混じりの老人一歩手前の見た目だ。

 

「どうなすった?」


 男が声をかけてきた。

 落ち着き払った優しい声で。


「入学の手続きをしに来ました。」


 そう言うと男はにっこりとして手招きをした。


「ならこっちに来なさい。そうかあなたが今日来ると言ってた健太くんか。私は用務員のアンドリューだ。」


 俺はアンドリューの後ろを付いて行った。

 校内に入ると歴史を感じさせる木製の柱が並ぶ。

 それに気圧されていた。

 こんなところ自分には似合わないなと思わずにはいられなかった。

 事務室と思われるところに着くとアンドリューは、ちょっと持つように言って、部屋に入っていった。

 しばらく、廊下で待っているとアンドリューが出て来て中に案内された。

 少々の気まずさを持ちながら入った。

 中は木製の机と棚が並び、事務員と思われる人たちが、せっせと働いていた。

 俺は来客用と思われる椅子に座るように促された。

 座ると良い香りという意味で癖のある香りがするお茶と小麦粉で作ったという菓子が出された。

 出してくれたのは背が自分と近い、20代だろうか女性である。

 我慢せずにお菓子を食べていると、アンドリューが書類を持ってきた。

 それを机に置くと、今度はさっきお菓子とお茶を持ってきてくれた女性事務員が、ペンを渡してきた。


「この書類に目を通してサインをしてくれ。」


 アンドリューに言われて目を書類に落とすとそれは入学案内や誓約書とかであった。

 一通り目を通してサインした。

 拒否する選択肢はないのだ。

 サインした書類を渡すとアンドリューはにっこりとしていた。

 入学手続きを終えたので、少し校内を散策することにした。

 ちょっとでもこの学校の雰囲気に慣れておこうというものである。

 特別な人たちが集まる学校というのはどんな場所なのだろうかと思ったのである。

 とりあえず、事務員に許可をもらい、自分が勉強することになるだろう教室へ行ってみた。

 人気のない校舎を一人歩く。

 廊下も階段も綺麗に清掃されており、手入れが行き届いている。

 自分がいた教会とは比べ物にならない。

 教会も掃除は一生懸命やっていたが、所々ガタがきていた。

 それに比べてここはどうだろうか。

 物は新品のようで、建物は建てたばかりのようだった。

 おそらく、多額の予算を使って常に新しくしたり、補修したりしているのだろう。

 それだけこの国を背負う人たちが、集まっているのだろう。

 階段を登り、3階まで来てそのうちの空き教室一つに入ってみた。

 教室内は大学の講義室のような席と机の配置だった。

 高度な授業をしているのかなと想像を膨らませた。

 ついて行けるかなと思ってしまう。

 机や椅子は木製で、木の風合いが出ている。

 いい木を使っている気がした。

 窓から入ってくる日光は涼やかだ。

 休みが明けたらここでこの国の未来を背負う学生たちが、日々研鑽をするのかと思う。

 窓から外を見た。

 少し遠くにさっき聞いた学生寮が見える。

 立派なホテルみたいな外装だ。

 あそこにはここの学生の8割近くが生活しているそうだ。

 自分は家から通うことにしていた。

 慣れる気がしないのだ。

 元の世界にいた時は、誰かと共に過ごすというのは安心感があり好きだった。

 しかし、紋章人の人達とはまだほとんど知り合いもおらず、どういう風に接したらいいかわからない。

 何か自分とは違う特別な人達という印象がある。

 この感覚から逃避しようと窓から目を離し、教室内をぐるりと一周する。

 綺麗に整っているという印象を受ける。

 教卓の横に立つ。

 そこからは教室内にいる生徒全員が見渡せそうであった。

 一通り見て回った後、教室の後ろから出た。

 廊下の大きな窓から校庭を見た。

 芝生もありサッカーしたら楽しそうだった。

 この世界のスポーツって何だろうと考えた。

 あるらしいが、見たことはなかった。

 馬を使った競技だったかな。

 興味がなかった。

 この学校でも何かスポーツが盛んなのだろうか。

 魔法を使った競技とか。

 それは面白そうだなと思った。

 入学したら部活に入ろうかと考えたが、たぶん勉強に追いつくので苦労するだろうからやめておこう。

 仲間が出来るのは良いことだが、それでやるべきことが疎かになるのは違う。

 そう思う。

 校内見て回ったので、そろそろ帰ろうかと思った。

 事務室に挨拶をして校舎を出た。

 校門で振り返り、ここが俺の新しい場所か、苦労しそうと憂鬱に少々なった。

 でも、やるしかない。

 ユーナ姫の腰ぎんちゃくにでもなって、乗り切ろう。

 そういう風に考えることにした。

 学校から真っ直ぐ家路についた。

 その後、数日はのんびりと過ごした。

 そして、学校への初登校の日を迎えた。

 朝、起き上がり、朝食を食べ、支度した。

 昼食は学校に食堂がある。

 学生は無料で食べれる。

 至れり尽くせりだなと思う。

 登校の準備が出来たので家を出た。

 

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