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中学一年生の時の冒険 その1

 その日は授業を終えて下校していた時だった。

 学校では普段と変わらず、腕に落書きしてみたり、校舎で鬼ごっこやったりしてたな。我ながら子供だったなぁと思う。

 中学の帰り道に友人と途中で別れて一人歩いていた。家までもう少しというところで、神社の前に来た。

 その神社の祭神がどんなものかは知らないが、歴史は長いらしい。小さい頃、親父とここへ散歩しに来た時に聞いたのを、中学一年生だった当時の自分もそれぐらいは覚えていた。

 建物や鳥居は古さが強く感じさせていて、建ててからもう、何年も経っていることがわかる。風が吹く度に情緒を感じる小さな神社だった。

 今でもたまに寄って帰ることがある。気分的に考えごとしたい時に木の根元に座っていた。

 今日は一人で気を張り過ぎているなと思ったことを考えようと思った。神社の拝殿の後ろにある、そこそこ年取ってるだろう木の根元に足を崩して座った。

 学校で友人たちと楽しくしゃべる。それが気を遣ったりして少し疲れる。自分が配慮しなくてはと思ってしまうのだ。最近、そう感じることが、増えてきている。だから、今日は少し物思いにふけようと思ったのだ。

 気を遣う大切さというのはよくわかる。人間関係を潤滑油だからだ。しかし、それは俺には大変な負担だった。

 少し視点を変えて考えてみれば、一人で気を張っても仕方がない。気を遣っても限界はあるし、なんならきっと他の人が上手いことやってくれると、投げる気持ちの方が気は楽だろう。気遣いと鈍感さは両方のバランスを取るように、匙の加減を調整するのが、良いのかなとそんなことを考えていた。

 そうして俺は木にもたれかかろうとした時だった。木に接触すると思っていたら、何の感触もなくそのまま下に落ちるような感覚になった。


「痛い。」


 声が聴こえる下を見ると、女の子か下にいた。俺は女の子の背中に乗っかり、女の子はくの字という何とも不恰好な姿になっていた。


「どいてください。」

「ごめんなさい。」


 慌てて俺は女の子の背中から降りて謝罪した。


「いいんです。あなたはお怪我ありませんか?」

 

 そう言って彼女は立ち上がった。その姿は気品があり、大人びてるように思う。背は高く、俺よりも高いかもしれない。顔は端正な美人である。

 俺は自分が怪我してないか確認した。大丈夫だった。


「大丈夫だよ。君こそ怪我ない?」

「私は大丈夫です。ところであなたはどこから来たのですか?上から落ちてきたから、木に登っていたんですか?」

「いやぁ、神社で木にもたれかかろうとしたらさ。ん?」


 そういえばここはどこだ?

 周りを見ると全く覚えのない場所だった。神社はなく、代わりに教会と思われる建物がある。生えている木は神社のものと似ているが、地面は原っぱである。空は小さい雲が流れている。晴れている。

 頭が混乱してきた俺は冷静になろうと、必死で脳を鎮めた。とにかくここはどこかと聞くことにした。


「ここはどこですか?」

「ここはエール王国の王都よ。」


 全く聞いたことのない場所である。ヨーロッパかなと思った。目の前にいる女の子の恰好が、昔のヨーロッパの人が着ていそうな雰囲気の服である。ワンピースと言うのかなと思っていると、教会から軍服っぽい恰好した中年と思われる男の人がやって来た。その人は俺を見ると険しい顔していた。


「姫様、誰ですかこいつは。」


 いきなりこいつ呼ばわりとは失礼な。


「さぁ、私にもわかりません。いきなり上から落ちてきたから。」

「おい、お前何者だ。名を名乗れ。」

「佐藤健太と言います。13歳です。」


 とりあえず、言われた通り名乗った。そういえばこの人、女の子のこと姫様と呼んでたな。ということはこの国で偉い人なのか。話を聞いてみよう。


「日本って知ってますか?」


 二人は顔を見合わせた。全く知らないようだ。まさかと思ったが、ここは異世界なのかと思った。


「聞いたことありませんね。何か事情がありそうですね。とりあえず、教会に入りましょう。」


 教会に入った俺とお姫様と男は、神父と思われる人から部屋を借りた。テーブルを挟んで俺一人とお姫様、男に分かれて木の椅子に座った。年季が入っているテーブルと椅子だった。そこで俺は自分のこと、自分の世界のことを話した。

 男は胡散臭い顔をしていたが、お姫様の方は真面目な顔をしていた。


「では、あなたは別の世界からやって来たということになりますね。」

「そう考えるのが自然だと思う。」


 お姫様は俺の話すことを信じてくれてるようで安心した。右も左も分からない場所に来て、自分の言うことを聴いてくれる人がいるのは嬉しいものだ。


「そうすると、行くあてがないということですか。」

「姫様、本気にするのですか?」


 男の方は俺が嘘をついていると思っているようだ。まぁ、無理もないだろう。俺だって自分の住む世界で、異世界から来ましたと言われても、何を言っているんだこの人は、頭おかしいんじゃないかと思うだろう。でも、このお姫様は俺の言うことを信じてくれてる。


「この顔つきとこの服装は、我が王国はおろかどこの国を探しても見つからないでしょう。」


 こんな顔は歩いてないってか。


「確かに服装はどうとでもなるが、この顔つきは我々の世界のどの民族にも当てはまらない。異世界は本当にあるのか。」


 やっと得心を得たようだった。


「何より嘘をついているようには見えないわ。私の眼力が間違ったことある?」

「いえ、では如何しましょう。言葉は通じるようですが、行くあてのないものを王国内に放すわけにはいけません。」

「それなら考えがある。」


 そう言うとお姫様は部屋を出ていった。

 二人になると男は話始めた。


「姫様は本当にお優しい。何者かも何が出来るかもわからないものに優しくなさるとは。お前惚れるなよ。」


 よくわからないが、惚れるなんて全くそのつもりもないのにそう言われると腹ただしいなと思った。それだけ大事に思ってはいるということだろうか。

 しばらく、男のお姫様話を聴いてると、お姫様が神父と一緒に入って来た。


「佐藤健太、君の住む場所は決まった。」


 急な話に頭が追いつかない。


「佐藤健太くん。君はこの教会で保護することになったんだ。」


 トントン拍子に話が進み、理由分からないといった心持ちだ。おせっかいもちゃんと時間かけてやってくれないとついて行けなくなる。

 お姫様がコホンと一つ咳して言った。


「異世界から来た君をこのまま放り出したら、この国では野垂れ死にするだろう。それは王の娘として看過出来ない。そこでここで会ったのも、神様からの縁。この教会で下働きとして食べていけるようにする。神父様に頼んだら受け入れるとのことだ。」

「姫様の頼みなら。何より神に仕える身として、一人で異世界に放り出された者を見て見ぬ振りはできません。」

 

 それはありがたいことであった。帰る方法も分からないし、この世界で過ごすためには助かる。


「ありがとうございます。何から何まで本当に助かります。」

「うむ、しっかり働くように。神父様、後はよろしく。」


 こうして俺は下働きとして教会に置いてもらうことになった。

 俺の仕事はまず朝から教会内の清掃をして、食事の後片付け、庭の手入れをしてから、時々市場へ買い出しに行く。

 早朝から働くのはしんどいが、3食寝床付き、そして給金も出る。働きがいのある職場だ。


「健太、市場でお菓子を買ってきてくれ、お客様が明日いらっしゃる。」

「はい。」

「それと教会職員のつまみになるものも。」


 今日は時折ある買い出しに教会から出ると王都の東地区にある商業エリアの常設市場に向かった。ここはこの王国随一の品揃えだ。

 今までに何度か行ったことがある。最初、神父に連れられて来た時はテレビで見た巨大市場よりも広いように思えた。今では馴染みの店もある。

 今日、行く店もそうだ。教会に客が来る時に出すお菓子は、必ずそこの砂糖菓子ときまっている。上質な砂糖を使い美しく仕上げたそのお菓子は大変好評である。早く行かないと売り切れてしまう。

 だいぶ、この街、この国、この世界の生活に慣れてきたのを感じる。人々はみんな気さくで優しい。時たま嫌なヤツに出くわすことがあるが、それはお約束のようなもの。深刻に考える必要はない。

 この世界に住み始めてわかったことがある。それはこの世界には魔法があることだ。しかし、それは誰にでも出来ることではない。まず、腕に紋章があることが、必要だ。紋章のデザインは花など人それぞれである。

 紋章を持つものは、紋章人と呼ばれ、人々から一目置かれる。そして、この国の重要ポストには、この紋章人を就ける。そのための教育機関もある。彼ら紋章人は生まれながら、この国を引っ張っていく立場になることが、運命付けられているのだ。支配者になるというよりは責任を負わされると考えた方がいいだろう。本人の意思は関係ない身分制と言える。

 俺は絶対に紋章人にはなりたくないと思った。裕福な身分とはなるが、自分の生き方が決められるのは気分が悪い。自分がどう生きていくかは自分で決めたい。そう思う。物理的には裕福でも、心は貧しいのではないか、そう穿った見方をしてしまう。

 まぁ、でも俺は別の世界から来た人間だし、そもそも紋章人になる確率は低いのだ。だから、俺は安心し切っていた。教会の下働きとしてのんびりと過している。帰れるか不安にもなるが、今、お姫様が配下に調べさせている。それを待つしかない。中々、有益な情報は見つかってないようだが。今日の夕食は何かなと考えながら、砂糖菓子を買いに歩いていた。

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