表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/14

中学一年生の時の冒険 その9

 来たるべき決闘の日は来た。

 決闘の日までの一週間、俺はひたすら的あての練習をした。

 その日々は辛かった。

 何せ好きでもない魔法の特訓を放課後、日が沈むまでやるのだからきつい。

 しかし、ユーナ姫の目があるから手を抜けない。

 早朝にもやろうとユーナ姫は言っていたが、それは勘弁してもらった。

 朝練とか絶対にだるい。

 野球部とかがやっているのを見てよくやるなと思っていた。

 むしろ少し馬鹿にしていたところもある。

 あんなに頑張っても優勝出来るわけでもないのに損していると思っていた。

 もっと良いのがあるだろうにと。

 まぁ、それで何か俺は持っていたわけではないが。

 ユーナ姫には付き合ってもらって、何とか形にはなったと思う。

 ユーナ姫のせいで決闘することになったが、よくここまで俺を指導したものだ。

 流石、王族。

 責任感は人一倍らしい。

 だから、人から慕われるのだろう。

 ユーナ姫の右腕というのが、最初は面倒だと思ってたけど、今は誇らしくもある。

 取り柄のない俺には、ユーナ姫の右腕であることが、アイデンティティになっているところがある。

 家の窓から空を見上げる。

 まっさらなキャンバスのような青空は、これから起こることを楽しみにしているようだった。

 少し憂鬱な気持ちが和らぐ。

 青空というのは不思議だ。

 見かけると少し気持ちを晴れやかにする。

 目の前にあることに、前向きに取り組もうと思える。

 今日の決闘もやろうという気持ちになった。

 朝食を手早く済ました俺は、いつもより早くに家を出た。

 ユーナ姫に集合をかけられているからだ。

 家を出るとまだ人通りは少なかった。

 まだ、みんな家で朝の準備に取り掛かっているのだろう。

 俺は少し急いで学校へと向かった。

 鳥の囀りを聴くと朝だなと実感する。

 鳥の囀りなんて1日中聴くのに、朝聴くと明け方を思わせる。

 不思議だなと考えながら、街を抜けて学校に着いた。

 校門はもうすでに開いていた。

 朝練の声が聴こえる。

 これも朝の風物詩だ。

 ご苦労だなと思いつつ、集合場所の第3校庭に向かった。

 途中、誰ともすれ違わなかった。

 まだ、朝練の人以外、来てないのだろう。

 第1校庭の横を通ると、校庭では何かのスポーツをしていた。

 あれは確か王都で人気があるというスポーツだ。

 どんな競技かは知らない。

 元の世界でもスポーツなんてほとんど見てなかった。

 関心が持てないのだ。

 クラスの友人がサッカーとか野球の世界大会の話をしているのを、聴き流していた。

 つまらない生き方しているなとは思う。

 改善しようとは思わないが。

 第3校庭に着いたが、まだ、ユーナ姫は来てなかった。

 もうすでに来ているものと思っていたから意外に思えた。

 校庭の隅っこの巨木の陰に座り待つことにした。

 大きな木の下で、ぼーっとした。

 朝の長閑さを身に感じる。

 雲の流れを見ていたら時間の流れを忘れそうになる。

 何だかこれから決闘する現実感がなかった。

 このまま午後になって、夕方になって、夜になって、そして、寝る。

 そんな何気ない1日になりそうな気がした。

 気がしただけであった。

 ユーナ姫が来た。

 悠然と。


「待った?」

「いえ、今来たとこです。」


 ユーナ姫の余裕のある態度に訝しく思った。

 まるで俺が負けることはないと確信しているかのように。

 何か秘策でもあるのかなと思った。


「余裕ですね。姫様。」


 皮肉っぽいこと言ってしまったかなと思った。

 しかし、ユーナ姫はどこ吹く風といった面持ちであった。

 この前の作戦会議でも、基礎練習しっかりやれと言われ、勝機があるような感じだった。

 ロバートに弱点あるのかな。

 単純に弱いのかな。


「決闘は昼よ。場所は魔法教習所の訓練施設でやるわ。あそこなら調度、的あてに使えるのがあるから。」

「ああ、あのやたらと施設の設備のいい。」


 魔法教習所は魔法を初歩から鍛えるための施設である。

 あそこでまず、魔法のいろはを教わるそうだ。

 俺は授業で行ったことがある。

 綺麗に整備され、施設の備品はどれも新品かと思うような物である。

 実際にこの国の魔法関連の新装備は、すぐにここに導入されるらしい。

 中にはユーナ姫もまだ触れたことのない物もある。

 この王国のエリートの訓練施設だから、とにかく備品は最新の一級品が置かれるのだろう。

 ユーナ姫のための決闘するには、適している場所と言える。

 そこでやるとなるとロバートも意気揚々だろう。

 王国の代表的な場所で自分の実力を発揮するのだから。

 あのいけ好かない顔が、得意になっているのが浮かぶ。

 何かあの人間は想像しやすいやつだなと思う。


「そこでやるとなると緊張しますね。」

「大丈夫よ、健太なら。まぁ、ちょっと観客もいるけど。」

「いやそれは」


 想定内だけど、観客ありはきつい。

 特訓はしたけど勝てる自信はない。

 負けたら恥を晒すことになる。

 それだけは嫌だ。

 逃げ出そうか。

 いや、ユーナ姫にこんなにも期待されてたら、逃げられない。

 何より観客のいる中で逃げ出したら、明日からいや午後には王国中の笑いものだ。

 ユーナ姫にも恥をかかしてしまう。

 それは男として出来ない。

 やるしかないか。

 そう思ったけど、逃げ出したい衝動は残る。

 気持ちを抑える良い方法はないか。

 ユーナ姫を前にそんなことを考えていると、ユーナ姫が両手で、俺の二つの手を合わせさせるように握り、こう言った。


「貴方には面倒をかけてしまいましたが、貴方ならきっと良い結果を出してくれると信じてます。私の言うことに間違いはありません。信じて。」


 そう言われると大丈夫な気がしてきた。

 我ながら単純だなと思う。

 美人のお姫様に言われてその気になるんだから。


「死力を尽くします。」


 意気込みを取り敢えず言ってみた。

 何か言わなくてはと思い、言ったのが、これだった。

 死に物狂いでやるしかない。 

 もう後には引けない。

 見ててくださいユーナ姫、良いとこ見せますよ。


「さて、日々の特訓の成果見せてもらいます。」

「でも、ここに的なんてないですよ。」


 第3校庭は広いだけで何も無い。

 普段はマラソンとかやる場所だ。

 的になりそうなものはない。

 整備の行き届いたまっさらな地面が広がる。

 雑草一本生えてない。

 素晴らしい校庭である。


「それなら大丈夫、私の魔法で今、出すから。」


 そう言って、ユーナ姫は紋章を光らせて、土を木の板に変えた。

 

「これは王家の紋章で、出来る魔法。物体変化。固形物を別の何かに変える魔法よ。」


 何か漫画で似たようなの読んだことあるなと思いつつ感心した。

 紐も作り、それを木に吊るした。


「さぁ、特訓の成果を見せてちょうだい。」


 にこやかにおれにそう言うと的の横に立った。


「危ないですよ。」


 万が一放った魔法を外してユーナ姫に当たったら大惨事だ。

 しかし、ユーナ姫はどこ吹く風。

 余裕のある顔で俺が魔法を放つのを待っていた。


「ほら早く。」

「わかりました。」


 外さないように慎重に狙いを定めた。

 小鳥が頭上を飛んでいく。

 少しの静寂の後、俺は腕に力を込めた。


「光の矢!」


 そう言うと鈍い光の矢の形状したものが、真っ直ぐ伸ばした腕の俺の指先から出た。

 俺の指先から放たれた矢は真っ直ぐ的に突き刺さった。


「ほら、大丈夫でしょ?練習してた時もほとんど外さなかったでしょ?」

「そういえばそうですね。」

「光の矢は直進するから、指先が的の方向いてたら外さないわ。」


 確かに今思えば指先の向きが逸れなければ、的に当ててたな。

 魔法は自分の力の範囲なら操るのは容易いのか。

 しかし、俺はユーナ姫に諫言した。


「ですが、指先の向きを誤ったら大変なので、もう、的の横には立たないでください。」

「貴方なら大丈夫だと思うけど、忠告は聴いて置くわ。」


 すんなり聞き入れてくれて助かる。

 ユーナ姫は人の話はよく聴く。

 その点は将来、優れた治世者になるのではないかと思う。

 家臣の言葉に耳を傾ける事ができる権力者は、優秀だと歴史の先生が言っていた。

 ユーナ姫は的から離れて、こちらに来た。


「これなら勝てそうね。」

「実力出せれば。」


 自信はない。

 謙虚そうには言ってみた。


「さて、会場へ行きましょう。今頃、準備は終わってると思うから。」


 そう言うとユーナ姫は身を翻し、魔法教習所のある学校の東へと歩き出した。

 俺も後から付いていく。

 魔法教習所に行ったら、いよいよだと思うと緊張する。

 嫌だなと思いつつも、一つ頑張ろうとも思っていた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ