闇の帰り道
トボトボトボトボ
俺は歩く。
何時もの帰り道。
コンビニで買った弁当の白い袋がブラブラ揺れる。
は~
疲れた。
何でこんなに疲れているんだ?
ああ……そうか。
昨夜女の部屋で口論になった。
子供が出来たと女が言ったから……
俺は堕胎せと言ったのに。
あの女は産むと言い張って。
すがり付く女を足蹴にしたら。
テーブルの角に頭を打って。
女は死んだ。
慌てて裏山に女を埋めた。
そうか……
徹夜あけだから疲れているのか。
会社に電話して今日は休ませて貰おう。
会社?
思い出した。
一月前に首になったんだっけ。
サボってタバコを吸っていたら、嫌味な上司に見つかって、注意された。
五月蝿い男だった。
血塗れのトンカチ……
頭から血を流して倒れている男。
もう二度と口をきくことは無いだろう。
あれ?
街の中を歩いていたのに、いつの間にか夕方のあぜ道を歩いている。
あれ?
この道は田舎の帰り道。
何時もの帰り道。
何時も近道に田んぼのあぜ道を歩いていた。
田んぼの中にじーちゃんとばーちゃんの家があった。
古ぼけた家。
俺はあの家が嫌いだった。
両親が離婚して、俺は母方のじーちゃんとばーちゃんに預けられた。
両親は俺を嫌い、引き取るのを拒絶した。
じーちゃんもばーちゃんも俺が高校の時、みかん山に行く途中トラックが崖から落ちて死んだ。
勿論トラックのブレーキに細工したのは俺だ。
俺は学校を辞め家を売り、じーちゃんとばーちゃんの保険を持って街に出た。
街では俺の両親が再婚して、幸せに暮らしている。
俺は二人の家に火を着けた。
父も母も再婚相手も焼け死んだ。
田んぼの水面に俺の姿が映る。
コンビニの袋はいつの間にか赤ん坊になっていて、俺はへその緒を掴んで揺らしている。
俺の背には殺した女と両親と再婚相手がおぶさっていた。
俺の両足には、じーちゃんとばーちゃんがしがみついている。
空いている手には上司がしがみつき。
ああ……重い。
彼らの体重が重いのか?
それとも犯した罪が重いのか?
トボトボトボトボ
俺は歩く。
いつの間にか田んぼは消え。
ボンヤリと帰り道だけが闇の中に浮かんでいる。
俺は思い出した。
この道は帰り道だ。
地獄に続く帰り道だ。
俺は地獄の亡者だった。
隙を見て地獄から逃げ出した。
そして、死産した赤ん坊の体に乗り移り。
俺は嗤う。
もう人間としての生を与えられる事は無いだろう。
道の先で待っているのは、獄卒の鬼達と怒りに燃える閻魔大王。
地獄への帰り道。俺は狂嗤する。
~ 完 ~
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2023/7/4 「小説家になろう」 どんC
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★俺
地獄から抜け出した亡者。
★女
俺の彼女。俺と同棲していた。
妊娠して年だから産みたいと言うが口論になり弾みで殺された。
★じーちゃんばーちゃん
母方の祖父母。俺にトラックのブレーキに細工されて崖から落ちる。
★離婚した両親
それぞれ離婚した後で再婚する。
再婚相手とともに放火され死亡。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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