番外編. カイとエステラのなんでもない話
錬金術協会時代の二人。
錬金術協会は、大陸のみならず世界各地に点在している錬金術師たちの拠点である。それと同時に、管轄下にいる錬金術師たちを統率し、彼らが禁忌を犯さないよう監視するという役目も担っている。
入会する年齢に上限も下限もないが、錬金術師ならば必ず一度は所属することが求められるのがこの錬金術協会であった。
そんな錬金術協会のうちの一つ、ノースライド支部にて。
夜色の髪を一つに括った少女が協会長と向かい合って座っていた。出された紅茶には見向きもせずに、カップから立ち上る湯気はどこまでも寂しげだ。
「――お断りします」
協会長の部屋に呼び出されたエステラ・アランデルは、そう言って再三に渡る申し出を今日もバッサリと切り捨てた。しかし協会長はいつも以上に必死に食い下がってくる。
「しかしだ、エステラ君。君ほどの逸材は大陸中を探してもそういないんだ。そんな才能を埋もれさせるわけにはいかない。君なら最年少で宮廷錬金術師たちを統べる総帥にだってなれるだろう。どうだね、ここは……」
「一切興味がありませんので。これで失礼します」
紅茶には手をつけず、エステラは淡々と立ち上がった。だが協会長が「待ってくれ!」と叫んだことで渋々振り返って続きを待つ。
「まだ何か?」
「よく考えてくれ、エステラ君。ギゼラ様を喜ばせたくはないか? 君が大成したらギゼラ様もさぞ喜ぶだろうし、将来楽させてあげられるんじゃないかね?」
ギゼラ。その名前を協会長が知っていたことは少し意外だったが、まあ腐っても協会長なのだ。路地迷宮とはいえ王都の錬金術師くらいは全員把握していてもおかしくない。
「ご心配なく。お城に行かなくても師匠を養っていけるくらいの甲斐性はありますよ」
「エステラ君……」
「もう一度言います。私は宮廷錬金術師になんてなりません。……これ以上、ルーちゃんを悲しませたくはないので」
そう言って立ち去るエステラを、今度は協会長も引き止めなかった。引き止められるだけの理由も、言葉も、ハッタリも、今の協会長は持ち合わせてなどいなかったので。
だが、その時。
ドンッッ、と腹の底から突き上げるかのような大きな衝撃が走った。エステラは扉に手をかけたままその場に思わず膝をつく。
「だ、大丈夫かね、エステラ君!?」
「はい。でも今のは一体……」
よろりと立ち上がって協会長を振り返るが、答えが返ってくる前に廊下から誰かが走ってくる慌ただしい足音が聞こえてきた。このままではぶつかってしまうのでエステラは扉から数歩下がる。
直後、「失礼します!」という言葉と同時に扉が乱暴に開け放たれた。
「ご報告します! 裏庭で爆発発生! 協会員二名が巻き込まれました!」
「なんだと!? 原因は!」
「まだ調査中ですが、もしかしたら巻き込まれた協会員のうち、どちらかによるものではないかとのことです」
エステラと協会長は揃って眉間に皺を寄せた。……巻き込まれた協会員。
「その巻き込まれた二人というのは?」
「は、マーキュリー・ネイサーと……カイ・クレヴィオです」
カイの名前が出てきたことでエステラは大きく目を見開いた。まさかあいつが巻き込まれるなんて。
協会長は腕を組んだ。よりにもよって貴族の令息たちが巻き込まれるとは。これは早急に原因を突き止めなければならないだろう。
「わかった。すぐに向かう。エステラ君、君はもう戻って大丈夫だ」
「いえ。同行させてください」
珍しい申し出に協会長は目を瞠った。面倒ごとが嫌いな彼女が自分から動くだなんて滅多にあることではない。
とはいえ優秀な錬金術師であるエステラの助力は素直にありがたいので、協会長は「わかった」と頷いた。そうして報告にやってきた協会員と三人、連れ立って現場である裏庭へと向かう。
そこで見たものは、その大部分が焼き尽くされたかのような有様になっている裏庭だった。あまりに凄惨な光景に協会長は絶句する。これは、ひどい。
「巻き込まれた二人はどこにいる?」
「医務室です。たまたま通りかかっただけと思われるネイサーは軽傷ですが、クレヴィオのほうはかなりの重傷で……あ、危ないですよ、アランデルさん!」
勝手に裏庭へと足を踏み入れたエステラに協会員が慌てて声をかける。しかしエステラはそれを無視してうろうろとその辺を歩き回った。止めようとした協会員は、エステラが平気な顔をしているのを見て諦めたらしい。まあ、彼女の実力はこの協会にいる全員が知っているのだ。様子を見守っていた協会長も、エステラなら問題ないだろうと判断して彼女の好きにさせることにした。
そこへ、別の協会員が報告のために駆け足で近づいてくる。
「協会長、今回の事故に関してなのですが……」
「何かわかったのか?」
「はい。恐らくですが、カイ・クレヴィオによるものではないかと」
うろうろと彷徨っていたエステラの足がぴたりと止まる。しかし大人たちはそれに気づかず会話を続けた。
「先ほど裏庭を調査した協会員からの報告によると、現場に残されていた錬金文字から綴り間違いを発見したとのことで。それが原因で大規模な爆発が起きたと思われます」
「綴り間違いだと? まさか。カイ君ほどの術者がそんなミスをするとは思えないがね」
「はい。ですが彼は今年協会入りしたばかりの新人でもあります。それにこの規模の事故です。強大な力を誇る彼が発端だと考えれば説明がつきます」
ううむ、と協会長は考え込んだ。あのカイがこんな爆発を起こすとは俄に信じられないが、この場に居合わせていたもう一人の実力を考えてもカイが起こした事故だと言われたほうが納得できてしまう。
それにいくら彼が天才だと言ってもまだ経験の浅い十五歳だ。新人であるという事実にも変わりはない。
「…………」
ずっと聞き耳を立てていたエステラは視線を地面へと落とした。かと思いきや、錬金文字の綴り間違いとやらを探すために急にその場で這いつくばる。エステラが這いつくばっていることにも気づかぬまま、大人たちの話し合いはさらに続く。
「それで、カイ君の容体は? 重傷だと聞いているが」
「それが……両目を負傷したようで。もしかしたら両目ともに失明するかもしれません」
這いつくばってカサカサ裏庭を移動していたエステラは動きを止めた。……両目ともに、失明。
眉間に皺を寄せる。いくら気の合わないバディとはいえ、怪我を負ったカイに無関心でいられるほどエステラは冷血漢ではなかった。そして何より。
『その巻き込まれた二人というのは?』
『は、マーキュリー・ネイサーと……カイ・クレヴィオです』
――マーキュリー・ネイサー。エステラの口元に嘲笑に近い感情が滲んで、そして消えた。
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見えるのは闇ばかりだった。それでも朝が来たことをなんとなく察せるのはなかなか不思議な感覚である。
カイは気怠げに起き上がった。何気なく目を擦ろうとして、そこに巻かれている分厚い包帯の感触に口元を歪ませる。
「…………」
裏庭での爆発事故に巻き込まれたのは三日前。この三日間は絶対安静の面会謝絶となっていたが、錬金術協会に所属していることを表す白い上着のおかげでこの程度で済んだとも言える。白衣に近いデザインのそれは、服飾系の錬金術師たちによって考案され編み出された特殊な防護服でもあるのだ。
錬金術師は特殊なエネルギーを使って錬成を行う。錬成に必要なものは『対価』であり、対価になると認められるものであれば、それが物質だろうと概念だろうと問題なかった。しかし錬成は危険な作業でもあり、細心の注意を払わないと爆発が起きたり、対価が足りなくて自らの肉体を失うこともある。
そういう時に備えての防護服がこの制服だった。着ていれば無敵というわけでもないが、少なくとも命くらいは守られる。今回のように。
それにしても、カイは溜め息をつく。面会謝絶であっても、あの事故に関連した噂話は否が応でもカイの耳にも入ってきていた。
自分の他に巻き込まれたのは一人だけ。ネイサー子爵家の息子だ。カイは忌々しげに舌打ちをする。いくら社交界から距離を置いているとはいえ、実家であるクレヴィオ家と折り合いの悪い貴族の名前くらいは把握している。そしてネイサー家もその一つだったはずだ。だが、それだけの理由でマーキュリー・ネイサーが今回の件を引き起こしたと断定することはできない。
それでも、協会内ではカイが犯人ではないかという意見が大多数を占めているようだった。いくら他人に興味がないと言っても、自分の評判を傷つけられたままにすることはできない。特に今回に関しては完全に潔白の身だ。読書していただけでどうやって爆発を起こせるというのだろう。
しかし、絶対安静である以上は自力で調査するなど不可能に近かった。そもそも目が見えないのだ。今の自分の無力さにカイは再度舌打ちをする。
と、そこへ。
「い、いけませんアランデルさん! この部屋の患者さんはまだ面会謝絶で……!」
「急用なんです。通してください」
聞き慣れた少女の声が扉越しに聞こえてきたかと思いきや、制止の声を振り切った誰かがバタンと無遠慮に閉ざされていた扉を開く。
「あれ、思ったより元気そう。で、誰にやられたの?」
「……はあ?」
あまりにもデタラメな登場と物言いに、カイはどこから突っ込めばいいのか分からなかった。これだけ目に分厚く包帯が巻かれている相手に元気そうとかいう神経も理解できなかったし、なにより。
「ねえ、聞こえてる? 誰にやられたのって訊いてるんだけど」
誰にやられたの。
まるでカイが犯人ではないと当たり前みたいに確信している声。協会中の人間がカイを疑っているようなこの状況下で、どうしてこいつはこんなにもブレないのだろうか。カイは掠れた声で呟いた。
「どうして、そんな……」
「どうしてって……あ、ごめん。そういや目を怪我してたんだっけ。そっちはどんな感じ?」
巻かれた包帯に今更ながら気づいたらしい。これだけ分かりやすく負傷しているのに全然気に留めていなかったようだ。カイは答えた。
「痛みはない。でも、多分もうこの目は使い物にならないよ」
「そ。じゃあせっかくだし実験台になってくれない?」
「はあ?」
またもとんでもない発言をするエステラにカイは心底呆れた声を出した。前々から思っていたが、こいつ本当におかしくないか?
「なに想像してんの。別に人体実験するわけじゃないよ。あ、いや、近いかもしれないけど」
「どっちさ」
「あー、もう。とにかく、限りなく人体に近い義肢を造るのが私の究極の目標なの。今回は特別にタダでやってあげるから、あんたの義眼を造らせて。で、使用感を聞かせて」
一方的でありながら、カイにとっては願ってもない申し出でもあった。人体実験に近いとか余計なことを言うので若干不安ではあるが、折り合いが悪くとも彼女の実力を疑ったことは一度もない。結局大して悩むこともなくカイは頷いていた。
「わかった。むしろ手間をかけさせてごめん」
「単なる研究の一環だから気にしなくていいよ。で、誰にやられたの?」
三度目となるその問いかけに、今度はカイも真面目に答える。
「一緒に巻き込まれたっていうマーキュリー・ネイサーが怪しい気がする。実家がらみでさ、ネイサー家とは仲が悪いんだよ。まあ確証があるわけじゃないけどね」
「わかった。ざっと見た感じあんたより雑魚が仕掛けた罠っぽいし、もうちょっと調べてみるよ」
「ありがたいけど……どうして僕が犯人じゃないって思ったわけ?」
それが一番の謎だった。協会長ですら信じているらしい今回の件。なのに同じ現場を見たであろうエステラは別の結論に達しているのだ。
エステラはこともなげに答えた。それはもう、サラリと。
「あんたがあんな不自然な綴り間違いをするわけがないからね。変だと思って解読してみて正解だった」
曰く、錬金文字の綴り間違いが原因で起きた今回の大爆発。だが、爆発が起きる術式と、使用後に文字列が並び変わる術式。いわゆる二重の術式が組まれているのを発見したのだと。
しかし、二重の術式というのはよほど注意深く観察しないと誰も気づかないで終わってしまうものだ。その痕跡を見つけ出すなんて執念でしかない。エステラが嗤った。
「まあ、ネイサー家には私怨があるからね。別に恩を感じる必要はないよ」
「私怨?」
かつて、酔っ払ってエステラとルクレーシャがいた孤児院に放火した泥酔貴族。多額の賠償金を払っただけで今もなに不自由なく暮らしているその人物こそ、ネイサー家の長男である。マーキュリーはその弟だ。が、その事実をカイが知るのはまだ先の話である。
「……こっちの話。とにかく貴族間の確執はそっちで決着つけてね。じゃ、私はあんたの義眼を造るから。お大事に」
さっさと踵を返すエステラの気配に、カイは「待って!」と引き留めていた。エステラの靴音が止まって、こちらを振り返る気配。見えなくてもそのくらいは感じ取れる。
「なに?」
「いや、その……あ、ありがとう」
彼女にその言葉を告げるのは思っていたよりも気恥しかったが、それでも感謝できない人間だと思われるよりはマシだ。そう思って目が隠れているのをいいことに、勇気を振り絞って素直になってみたらば。
「どういたしまして」
なんにも見えていないのに、なぜかエステラがふわりと笑ったのが分かってしまった。その気配にカイは思わず息を呑む。
考えてみれば、今までずっといがみ合ってばかりで、彼女の笑顔など一度も見たことがなかった。なのに、その彼女がカイの前で笑っている。
……目が隠れていて助かったと思った直後であるが、今この時ばかりはエステラの表情が見られなくて悔しかった。彼女は一体どんな顔で笑っているのだろうか。
「とりあえず二日後にまた来るね。その時は義眼の試作品も持ってくるから、協力よろしく」
「あ、ああ」
じゃあ、と今度こそ病室から出ていくエステラ。靴音が遠ざかり、扉が閉まる音がしてから、カイはぼふっと枕に顔を埋めた。
「〜〜〜〜っ」
行き場のない気持ちを持て余し、カイは無言でバタバタ暴れた。
嬉しいとか、悔しいとか、敵わないとか、いろんな感情がないまぜになって、自分でも自分の気持ちがよくわからない。
そう、感情だ。今まで周りから希薄だと言われ続けてきたそれが、エステラが絡んだ時だけ爆発すると気づいてしまった。カイはうつ伏せになったまま枕をぎゅっと握りしめる。
そういえば初めて出会った時からそうだった。基本的には敵意とか対抗心ばかりを向けていたが、そもそもそんな感情を抱いた相手はエステラが初めてなのだ。負のものであっても感情は感情なのだから。
そして今、さらに別の感情が芽生えた。それこそ自分でも名前のつけられない謎の感情だったけれど、不思議と嫌な感じはしなかった。……どこか温かくて、嬉しくて、幸せになってしまうような気持ち。
包帯の上から自分の目を押さえる。この目はきっともうだめだ。でも、エステラがここに新しい『目』を取り付けてくれるらしかった。この世界を、カイがもう一度その瞳に写せるように。
そうしたら、今度こそエステラの笑顔を見てみたいと思った。彼女がどんな顔で笑うのかカイはまだ知らない。でもまだ協会一年目なのだ。これから何度だって彼女と行動する機会がある。なにせ協会を出るその時まで、自分たちはバディなのだから。
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「そういえばさ、ギゼラ様ってどんな人だったの?」
カイに問われたエステラは、きょと、と目を瞬かせた。
「どうしたの急に。あーでも、カイは一度も師匠に会ったことなかったんだっけ」
「うん。でも確か、僕と同じ薬学系の錬金術師だったんだよね? だから僕も名前だけは知っていたというか」
路地迷宮の最下層にて、カイは今日も仕事を定時で切り上げてエステラのところにお邪魔している。
出会った頃から変わらない、印象的な夜色の髪。エステラのそれをカイが一房手に取れば、彼女は「んー」と思案げな顔をしつつ宙を見つめた。何気に髪に触れられることが苦手なエステラがこうして触れることを許すのは、後にも先にもカイとルクレーシャ、あとはせいぜいゼノだけである。
「師匠が薬学系だったのは確かだけど、あんたと違って毒薬に特化してたんだよね。だから卸先は専ら闇市場で、その都合でずっと路地迷宮住まいだったの」
「あー、なるほどね。そういうことか」
「うん。あ、師匠の毒薬調合図鑑いる? 私よりカイのが使い道ありそうじゃない?」
エステラとて調合はできなくもないが、あくまで専門は機械工学なのだ。毒薬図鑑があっても手に余るというのが正直なところである。
エステラの提案にカイは即座に「もらうよ」と頷いた。毒薬を手掛ける機会はあまりないものの、やはり専門なので興味がある。それにエステラの師匠が遺したものなのだ。受け継げると言うのならカイとしても結構嬉しい。
そんなことを話していたら、ゼノが作業場へとやってきた。どうも料理中だったらしくエプロンをつけている。
「主人、そろそろもう一体くらい人形を作りませんか?」
「なに、藪から棒に。あっ、ま、まさか可愛いお嫁さんが欲しいとかそういう」
「いえ、純粋にコノ家が広すぎるんです。ワタシ一人ではなかなか管理しきれまセン。労働力の追加を要請シます」
「……あんたのその情緒のなさは誰に似たの?」
げんなりするエステラだったが、明らかにそれは製作者に似たのだろうとカイは思った。普段はゼノのほうがしっかり者に見えるが、結局はエステラの人格が色濃く反映されているのである。
「お?」
「え?」
ずっと片手間に錬成していたエステラだったが、よそ見をしていたせいで手元が狂った。
瞬間、室内がカッと眩い光に包まれる。壊れた時計を修理していただけなのに、その単純な演算が一瞬にして複雑怪奇な演算へと様変わりしてしまう。
結果。単なる壁掛け時計だったものが、どういうわけか時限爆弾へと進化してしまっていた。三人は沈黙する。こういうことがあるから錬金術とは奥が深いのだ。いや、今はそれどころではない。
「主人、今スグ解体してください」
「うい」
なにやらチクタクと針が進む時限爆弾に、エステラは若干慌てながら解体を始めた。しかし。
「ん? あ、これダメだわ。ごめん二人とも」
「ハイ?」
三、二、一……。針はあっという間にゼロになり、無情にも爆発した。爆風は真新しい作業場のみならず、ギラつく豪邸を丸ごと飲み込んで一瞬にして灰塵と帰す。ダメだと悟った瞬間に展開した防護壁がなかったら、またぞろ宿なしになるところであった。
「……やー、危なかった。とりあえず仕事道具は守られた。カイ、怪我してない? 大丈夫?」
「僕は平気。でもこれモーガンに怒られそうじゃない?」
モーガンの力作である豪邸の大部分が吹き飛んだのだ。この作業場と、隣接している寝室は無事だったので、当面の生活には困らない。だが、確かにモーガンに知られたら厄介かもしれない。いや、それ以上に。
「気をつけてクダさい、主人。次やったら錬金術協会に通報されるかもしれまセンよ」
「うぐ、き、気をつけます……」
ただでさえ協会からの「戻ってこい!」攻撃はモーガン以上にしつこいのだ。
パラパラと降ってくる塵を払い除けながら、エステラは一人溜め息をついたのだった。




