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その最期、お手伝い致します。  作者: みぎきき
3/3

はじまり3


母は私を抱きしめた。


「どうしたの?」なんて言わなくともその状況を理解するのは容易かった。

私は声を抑え泣いている母を抱きしめながら、俯く男を見た。


胸元の階級章を見るにこの男はおそらく騎士団長だろう。

男は顔を上げこちらを見て、私は目を伏せた。



(私が子どもだったら良かったのにな)



母は所々言葉を詰まらせながら子供の私にもわかりやすいように父に起きたことを話してくれた。



簡潔に言うと父はやはり死んだ。

父に来た今回の依頼はいつもと変わらないモンスター討伐だった。


騎士団長も参加するほどの相手だが、父が参加すれば問題なく討伐できるもので実際、あまり被害を出さずに討伐を完了した。

しかし、そこに突如ドラゴンが現れたらしい。


ドラゴン。天空の覇者と呼ばれるそれは、子供の私でも知っている、前世でも有名な伝説上の生き物。

この世界では、確かに存在しているが、滅多に姿を見せないため、その生態はほとんど分からないらしい。


それが父の前に現れた。


騎士団もかなりの死傷者を出したらしいが、父の貢献により全滅は避けられたらしい。

父は、ドラゴンの炎により焼かれてしまい遺品は、私達が刺繍した布だけ。

しかし、母の加護が発動したであろうその布切れは、血で固まり、あの時の面影は残っていなかった。


騎士団長は、地面に頭が付きそうなほど頭を下げ、ひたすら私達に謝罪をしていた。

その間母はひたすら泣いていたが、私はただ俯いていただけだった。


父のことは愛していた。


子供になりきれない私を受け入れて愛してくれていたから。

それでも、父の死はまるで他人ごとのように思えてしまう。


(まるで映画を見ているみたい)



私は最低な人間だ。


__________________



騎士団長が帰った後も母は泣いていた。


そして、私は話しかけることもできずその場から逃げ出した。

作りすぎた料理を片付け、食べられない分は他の人にお裾分けを行った。

父親が死んだのに不謹慎だと思われるかもしれないが、今あの家にいるのは辛かったのだ。


家に帰ると母が顔を上げて私を見た。


「…おかえりなさい」

「うん」

「ご飯食べましょうか」

「…うん」


ご飯を食べ終わり、部屋に戻ろうとすると母に呼び止められて今日は一緒に寝ることになった。


母が私を優しく抱きしめるが、私はどうしたらいいのか分からず、すぐに目を閉じた。

すると、決心したような呟きが落とされる。



「ごめんね。お母さんちゃんと頑張るからね」




その言葉に私は、泣きたくなった。



__________________



「おはよう。ラルム」


朝起きると昨日のことが嘘のように母はいつもと変わらなかった。

悲しむ母を見ることが無くなったことは、嬉しいはずなのに辛くなるのは何故だろうか。



「おはよう。お母さん」



それからは、淡々と時間が流れた。


家の隣には父の墓石が立ち、騎士団長が仕事の合間を縫って時々訪ねにくるようになった。

そして母は、針子として多くの仕事を請け負う事となり、仕事に専念できるように家事は私がやっている。


「いつもありがとう。ラルム」


食事をしていた母がスプーンを置き、私を見る。

父が死んでから母は随分やつれた。

それでも私といる時はあの頃と何も変わらないように接して、夜になると一人で泣いているのを私は知っている。

私はそれを知っていて知らないふりをしている。

だから感謝されることなど何もないのに。


「いきなりどうしたの?」

「ラルムがいてくれて本当に良かったって思ってね」

「私も…私もお母さんの子供でよかったって思ってるよ」


私がそう言うと母はいつものように優しく微笑んだ。


__________________



父の墓石に花を添えているとクルトがやってきた。


「ラルム‼︎」

「どうしたのクルト」


顔色が明らかにおかしい。


「ばあちゃんが…ばあちゃんが動かないんだ」

「え?」

「朝起きたら、ばあちゃんいなくてベッドに行ったら、まだ寝てて、声かけても、揺さぶっても起きなくて‼︎…」

「っ…オジーさんの所に行こう」


私は母に事情を話し、クルトの手を握り、オジーさんの所へと向かった。


オジーさんは元は街で働いていたの医者だ。

歳をとり余生は静かな所で暮らしたいと言う事で医者がいなかったこの小さな村に移住したらしい。


オジーさんを連れて、クルトの家に行くと早速診察が始まった。

その姿をクルトと手を繋ぎながら後ろから見守っていると、母がやって来た。


「お母さん…」「…おばさん」


私達を見ると母は私とクルトを抱きしめた。

その隙間からオジーさんが聴診器ようなものを耳から外し、おばあさんの目に光を当てるのが見えた。

ありがとうございました。

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