はじまり2
投稿が遅くなりましたが、よろしくお願いします。
あれから早1ヶ月が経ち、父は仕事へ行った。
どうやら最近モンスターの動きが活発になっているらしく、その討伐らしい。
「お父さん大丈夫かな?」
私が窓から外を眺めていると母は私の隣に腰を下ろす。
「大丈夫よ。だってお父さんとっても強いもの」
「そうなの?」
「えぇ。騎士団を辞める時もかなり引き止められたし、傭兵になった今では依頼のほとんどは騎士団からよ」
騎士団に入るのはかなり難しいという。その中でもお父さんは入団し、団長まで上り詰めた。
きっと沢山のことを乗り越え努力して大変だった筈なのに私のせいで辞めてしまった。
「…後悔してないかな」
「え?」
「だってわた「それは違うわ。ラルム」
お母さんは私を優しく抱きしめた。
「お父さんね、騎士団に入ったのは昔自分を助けてくれた騎士様に憧れたからなんだって。でもそれはたまたま助けてくれた人が騎士様だったから」
「…………」
「つまりね、お父さんはその人みたいに"人助けをしたい"のであって、騎士団に入ったのはそのための手段…えっと、夢を叶えるための方法?って言ったらわかるかな」
「…うん」
「だからラルムの所為じゃない。…あとね実はお父さん騎士団に戻って欲しいって言われているけど断ってるの」
「…どうして?」
「お父さん曰く『知ってるか?子供の成長は驚くほど早い。この前までこんなに小さかったのにもう走り回れるほど大きくなったんだよ。騎士団に入っていたらその過程は見れなかった。だから今は戻らない』だって」
「ふふふっ、それお父さんのものまね?」
「そう、結構似ているでしょ?」
「うーん、どうだろう?」
「えー」
「「ふふふ」」
罪悪感が完全に消えたわけでは無い。でも心が少しだけ軽くなった気がした。
「あ、それと」
「?」
「お父さんが無事に帰って来る理由」
「なに?」
「ラルムが刺繍したじゃない」
「え…、したけど…お母さんみたいに綺麗に出来なかったし、守りの加護も私はできないから意味ないよ」
私は父の上着のポケットに母と一緒に刺繍をしたが、前世の不器用が今世にも引き継がれており、出来きが悪かった。
(一応花を刺繍したつもりだけど、はっきり言ってギリギリ花に見えるレベルだったんだよね。それでもお父さんは喜んでくれて…なんか申し訳ない)
「もう、またそんなこと言って。あのねいつも言っているけど、大切なのは心を込めてあげること。人の思いは、奇跡だって起こすのよ」
「でも…」
「あら、王国騎士団直属の針子が言うのに間違ってるって言いたいの?」
「…ありがとう、お母さん」
「わかれば良し」
そう言って母は優しく私の頭を撫でた。
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「なぁ。レオさんって元騎士団長だったんだろ?」
「うん。そうだよ」
この子は私と同い年のクルト。
両親は商人で移動が多いため、祖母の家に預けられているらしい。
この村に住んでいる子供は私とクルトだけだから遊ぶ時はいつも一緒だ。
「すげーじゃん‼︎カッコいいなー」
「クルトも騎士団に憧れてるの?」
「当たり前じゃん‼︎騎士団はみんなすごく強いんだ‼︎おれは冒険者になるのが夢だから強い人には憧れる‼︎」
「冒険者?商人にはならないの?」
冒険者。ギルドに属し、依頼をこなす人達。
依頼内容は、素材採取からモンスターの討伐や護衛などとにかく幅広い。いわゆる何でも屋。
また、冒険者は誰でもなれるため、孤児から有名な冒険者になった人もいる。さらに厄災から世界を守ったと言われる英雄ザンドやそのパーティーも冒険者だ。
(確かに夢はあるけど、上位の冒険者になれるのはごく一部だし、死んでしまう人も多いから冒険者になりたいなんて言ったらご両親に反対されそうだなクルト。)
「ならないね。俺商人むいてないし、何が楽しいのかもわかんない。そんなことよりさ、ラルムにお願いがあるんだ」
「なに?」
「レオさんに剣の稽古をしてもらいたくてさ…」
「お父さんに私から頼んでってこと?」
「うん…」
「それは自分から頼んだ方ががいいよ」
「言ったよ。でもさ、俺にはまだ早いって言われた」
クルトはまだ8歳だ。
背も私より少しだけ低いため、トレーニングを始めるには幼いと思う。
「強くなりたいのは分かるけど剣って結構重いよ?クルトは剣振れるの?」
「うっ…できると思う。…たぶん」
「うーん」
「頼むよ‼︎この通り‼︎」
クルトは頭を深く下げた。
自分より幼い子にこんな事をされるとこちらが悪いことをしているように思えてくる。
「分かったよ。頼むだけだよ?あんまり期待しないでね」
「‼︎ありがとう‼︎ラルム‼︎」
そう言うとクルトは私に抱きつき喜んだ。
(本当に現金な子だな。…それがかわいいって思っちゃう私も私だけど)
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「できた」
「あら、本当にラルムは料理が上手ね」
「へへへ」
私は不器用ながら、料理が得意だった。
最初は、私に料理をさせるのを渋っていた母も今はお願いするとやらせてくれるようになった。そして、今回は父が帰ってくると言う事で料理を任されたのだ。
「お父さん喜ぶわね」
「そうだといいな。…でも作りすぎちゃったかな?」
私は机に並べた料理を見渡す。料理だけは、母と父に誇れる特技だったため、気合を入れて作りすぎた。
「ふふふ。大丈夫よ。お父さんはきっとお腹を空かせて帰ってくるし、私もラルムが作った料理大好きだもの」
そう言って微笑む母はとても美しかった。
(性格よし、外見よしってうちのお母さん。聖女だった?…)
コンコンコン。
ドアを叩く音が聞こえた。
「お客さんかな?」
「そうね。ちょっと出てくるわ」
私は母が来客対応をしている間に片付けをした。しかし、母はなかなか戻って来ない。
心配になり、母の所へ行くと扉の向こう側には目つきが鋭く、険しい顔をした男の人が立っていた。
(あの服装は、騎士団?なんで?)
「お母さん…」
私が呼ぶと母は振り返りこちらを見た。
「…ラルムっ」
泣いている母の手には血に濡れた布が握られていた。
投稿頻度は低いですが、読んでいただきありがとうございます。