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005.大賢者メメント

 村の一番奥にある家まで進んできた。辺境の割にはそこそこ立派な家だ。


 玄関で掃除をしていた女性に通されて部屋で待っていると、ルビーが話しかけてきた。


「アレク様、大賢者ってどんな人でしょうね?」

「さあな。何千年も生きられるなら見た目は意外と若いままかもしれないな?ジャスミンは知ってるか?」

「私も直接会ったことはないの。同じ生命魔法の使い手ということで私を気にかけては下さっているみたいだけど」

「えっ!?ジャスミン生命魔法使いなの?」


 ルビーが驚く。正直、俺も驚いた。

 生命魔法は大賢者の魔法ということで有名だ。

 俺が世情に疎いこともあってあまり気にしたことはなかったが、もしかして大賢者の遠い親戚だったりするのだろうか。

 なぜジャスミンが大賢者の依頼を持ってくるのかと思ったが、そんな繋がりだったのか。


「そうよ。今回の依頼もそういうことが関係していると思うけど」

「生命魔法と水魔法が使えるのか?」

「水は全ての生命にとって命の源でしょう?だから水魔法も得意だし、水魔法使いということにしておいた方が何かと都合がいいしね」


 なるほど。

 確かに生命魔法使いだと知れたら確かに賢者だのなんだのと騒がれそうだ。

 俺の雷魔法ですら、いくらかギルドの噂話に貢献していたようだし。

 それにしても、生命魔法には俺の魔法が使えるようになる効果なんかあるのだろうか?

 今はまだわからない。おとなしく大賢者様に聞くとしよう。


「メメント様の準備が整いました」


 先ほど案内してくれた女性の声。戸がぎい、と音を立ててゆっくり開かれる。

 いよいよ大賢者メメントと対面だ。


「あ!キミはさっきの!」


 ルビーが驚きの声を上げた。


「ふふ、よく来たの。わしがメメント。次代の生命魔法を担う者、勇者の力を継ぎし者。それに猫魔族は個人的に好きじゃ。歓迎するぞ」


 その姿は幼い少女の……というかさっき村の入口で絡んできた子供だった。

 服は着替えたのだろう。巫女の装束のようなものを着て、身の丈よりも大きい杖をついている。


「わしの修行は厳しいぞ?」


 にっこりとそう告げた少女の含みのある笑みは、先ほどの屈託なく笑う子とは別人のようだった。


「初めましてメメント。俺はアレク」

「あたし、ルビーです。こんにちは」

「お会いできて光栄です、大賢者様。ジャスミン・アクアハートと申します。よろしくお願いします」

「初めまして、とは冷たいのう。先ほどは折角こちらから出向いたというのに」


 いたずらっぽく笑うメメント。予想した通り、真面目に相手をすると厄介そうな人だ。

 俺は無視して本題に入ることにした。


「さっそく質問だが、修行と言ったな。依頼の話じゃないのか?」

「ア、アレク!大賢者様になんて口のきき方を!」

「構わんよ。この姿ではお主らよりも年下じゃし、無理もなかろう。お主も大賢者様など肩肘を張らず、気軽にメメントと呼ぶがよい」

「メメント様がそう仰るなら……」

「メメント様、か……まあよかろう。して、アレク。そなたの質問に答えよう。依頼は君にしかできぬものじゃ。そして、修行はジャスミンがする。良いかの?」


 ジャスミンが同行したのは彼女自身の修行のためで、俺への依頼は別件ということか。


「そうか。早とちりして悪かった。では改めて依頼の話を聞かせてくれ」

「うむ。しかしそうは言ったが、実は依頼というのはこやつの修行に関わることなんじゃ」

「というと?」

「アレク。お主への依頼というのは、これから行うジャスミンの修行をサポートしてもらいたい、という話なんじゃ」

「具体的には何をすればいい?期間は?報酬は?」

「せっかちじゃのう。良いか、お主はこれから常にジャスミンとパーティを組んだ状態で日々を過ごしてもらう。期限はこの娘が生命魔法の奥義を習得するまで。3日で終わるかもしれんし、1年経っても終わらんかもしれん。それはジャスミン次第じゃ。報酬は聞いておらんか?お主の魔法をパーティでも使えるようにすることじゃ」


 それが報酬と来たか。楽な依頼だろうが期限がはっきりしないと乗り気がしない。

 下手をすれば何年もこの大賢者様の元に拘束されることになる。


「あのー。あたしも質問いい、ですか?」

「どうした、ルビー?」

「それって、なんでアレク様じゃないとダメなの?」

「ダメではないが修行の効率が段違いなんじゃ。ルビーはこやつのスキルを知っておるかの?」

「雷魔法は。他は知らない、です」


 ルビーは俺には滑らかなですます調で話すくせに、メメント相手にはぎこちない。

 子どもの外見に引っ張られているな。素直な奴だ。


「教えてやっても良いか?」

「別に構わんぞ。」


 俺は即座に同意する。特に隠すこともないし、この賢者の考えを少しでも聞き出したい。

 というかなぜこいつは俺のスキルまで知ってるんだ。


「パーティ強化【極大】。アレクがパーティにいるだけでメンバーは何倍も強化される。身体能力、魔力共にな。それに加えて連発でき、かつ必ず失敗する雷魔法。アレクが不発で消費した魔力を、強化したジャスミンに回復させる。これが今回の修行の基本じゃ」

「うへえ……じゃあ二人はずっと一緒ってことじゃん……」


 ルビーからかすかにため息とぼやきのようなものが聞こえた。

 自分がやるわけでもないのにうんざりしたような表情をしている。ずいぶん共感力が高いようだな。俺も見習うべきかもしれない。


「ん?メメント、それに関して聞きたいことがある」

「どうした?」

「魔法発動率に関して、昔はそんなものなかったらしいが何か知っているか?」

「そういわれてみれば昔はなかったのう。はて、いつからそんな話が出だしたのか……」

「不発時に失う魔力が邪神復活の供物になっている、という噂があるようだが」

「何じゃと?」


 この様子では何も知らないということらしい。

 大賢者と呼ばれるメメントですらこの調子だと、何らかの魔法による妨害の可能性もある。

 あるいはこの賢者、魔法以外はポンコツというだけかもしれないが。


「まあそんな顔をするな。それについてはわしの方で調べてみよう。質問は以上かな?」

「ああ、まあ。」


 表情に出てしまっていたようだ。


「それで、どうするんじゃ?引き受けてくれるかの?」

「うーん……」


 どうしようか。

 断ってもいい。ルビーだけ、この村に置いてもらえば。

 そうすれば俺は一人、再び自由の身だ。

 だが、ここまでの道のり、仲間とのんびり旅をするというのは意外と悪くなかった。

 ジョーのパーティでは自分の役割をこなすことに集中しすぎて、気付かないうちに張りつめていたのかもしれない。

 考えながら、ちらりと横の二人を見る。


「ここまでの移動も長かったので、しばらく村で休みませんか?修行の手伝いはそのついで、ということで。もしアレク様が嫌になったらその時に改めて相談する、というのはどうでしょう?」


 ルビーは俺にこう提案してくれた。ありがたいが、依頼主を目の前にしてする話でもない気はするが。


「お願い、アレク。協力して!」


 ジャスミンと目が合った。


「……わかった。依頼を請けよう」


 俺は意外と頼まれると断りづらい性格なのかもしれないな、と思った。

 だが、これを断れる男が世の中に何人いるだろうか?


「協力感謝する。もう宿の手配は出来ておるでな。先ほどの者に案内させよう」

「アレク、私からもお礼を言わせて。ありがとう」

「構わない。が、できるだけ早めにマスターしてくれると助かるな」

「うん!頑張るね!」


 ジャスミンは弾んだ声で答えた。ジョーのパーティで素っ気なかった頃とは大違いの、満面の笑みだ。

 それほど大賢者の修行が楽しみなのだろうか?


「あ、あの。ルビーは……」

「一緒に行ってよいぞ。安心せい」

「は、はい!ありがとう、ございます!」

「修行は明日からとしよう。今日はゆっくり休むと良い」

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