004.大賢者の依頼
「はあ……」
決闘のあと、野次馬達が落ち着くまで時間がかかってしまった。
「まじでジョーを瞬殺しちまった!」
「しかも見たか?あの魔法の速さ!一瞬!一撃!」
「そうそう、しかもスミスのイキりクソ野郎なんか、あんなせこい真似までしてこのざまだ。いい気味だぜ」
「全くだ!しばらくはこのネタでからかってやろうぜ!」
「あの猫耳嬢ちゃんの話は大げさでもなかったな!」
「俺、アレクさんのファンになっちまいそうだ!」
「でしょー!言った通り!しかもアレク様は手加減してたからね!」
やたら盛り上がってると思ったら、案の定その中心には顔見知りの扇動者がいた。
「ルビー、お前はこっちに来い」
「あっ、ちょ、引っ張らないで下さいアレク様~!」
決闘の騒ぎで混乱が落ち着くまでの時間を使ってルビーには言って聞かせ、ギルド職員に騒動の謝罪をして回る。
その後、別室に通された俺たちは、ルビーを保護した経緯について報告をしたのだった。
「私、アレク様についていきます!良いでしょう?」
ルビーをギルドに預けて故郷に送還してもらうつもりだったのだが、話によると彼女の集落はすでに無くなっているとのことだった。
「嫌というわけではないが、ついてこられると魔法がだな……」
「魔法が使えなくてもアレク様は強いし大丈夫ですよ!それに、無理に戦わなくても二人で静かに暮らせば良くないですか?」
「いきなり言われてもなあ……」
「失礼します。」
ドアがノックされ、二人の女性が部屋に入ってきた。一人はギルド職員だ。
「こちらグランドケイブ攻略の報酬です」
「ありがとう」
そこそこの報酬を頂いた。
何でもグランドケイブは先日から魔獣の強さが格段に増し、以前の適正レベルを大幅に超えて手に負えなくなっていたらしい。
緊急クエストの募集をかけるところだったそうだ。十中八九、原因はあの研究者だろう。
「こちらこそ、ありがとうございました。それから、アレクさんへの依頼を希望されている方をお連れしました。」
もう一人は、ジャスミンだった。
「少しお話、いいかしら?アレクに依頼をしたいんだけれど、先に確認。これからどうするつもり?」
「アレク様はこれから私と二人、ひっそりと暮らすんです!」
「貴女の希望はわかったけれど、今はアレクに聞いているの」
ぴしゃりと言い切ったジャスミン。むっとしたルビーを無視し、俺は答えた。
「魔王討伐にでも挑戦しようかと思ってたんだが、ルビーを放っておくわけにもいかないし。かといって連れて行くと俺は魔法が使えなくなる。だから正直悩んでる。で、それが何だ?」
今はダンジョンを一人で攻略したおかげで気が大きくなっているのか、誰にも負ける気はしない。だが、一人で魔王とその軍勢を倒せるものかもわからない。俺自身の万が一を考えればルビーを留守番に、というわけにもいかないだろう。戻らないかもしれない俺の帰りを待たせるのも悪い。
「ということは、アレクがパーティで魔法が使えるようになればいいのね?」
願ってもない話だ。が。
「そんなことできるのか?」
「それが今回の依頼ってわけ。依頼主は何と、古の勇者のパーティメンバーだった大賢者・メメント!」
大賢者メメント。かつて邪神を封印したという勇者パーティの一人だったか。確か生命魔法の使い手で、数千年の時を生きているという。
「依頼主なんか誰でもいい。俺が知りたいのはパーティで魔法を使う方法だ」
「詳しい話は依頼を請けてから。請けるならメメントのいる村まで来てもらうけど。どうする?」
「ルビーは?」
「アレク様についていく!」
「まあ、別に連れて来ても大丈夫よ」
「……わかった。行こう」
ジャスミンが少し残念そうなのが気になったが、次の目的地が決まった。賢者の村、メメント・モリ。
あれから一週間。街から遠く離れた村を俺たち三人は目指していた。
「死を忘れるなかれ、か」
メメント・モリなんて、生命魔法で生きながらえている賢者がつけた名前にしては皮肉めいている。会う前から大賢者様は相当なひねくれ者だと想像がつく。
「見えてきましたよ、アレク様!」
ようやくたどり着いた村はのどかな雰囲気の田舎といった印象だ。
ゆたかな自然と、おそらく大賢者の施した結界に囲まれている。
「素敵な景色ね」
「そうだな」
「お兄ちゃんたち、どこからきたの?」
村に張られた結界はかなり強力だ。ただ、魔獣除けにしてはちょっと強力すぎる気もする。
そんなことを考えながら村の入り口にさしかかると、女の子が話しかけてきた。
10歳くらいだと思うが健康そうな子だ。
飢えとは無縁なのだろうか?着ている服の仕立ても上々だ。
街からはかなり遠かったし貧しい村なのかと思ったが、杞憂だったようだ。
これも生命魔法の恩恵なのかもしれない。
「街から来た。大賢者様からの依頼でな。お嬢さん、メメントの家はわかるかい?」
「一番奥の立派な家だよ」
「そうか、ありがとう」
「どういたしまして。ところで、お兄ちゃんはどっちのお姉ちゃんと付き合ってるの?」
「あたしだよ!」「私です!」
左右から同じ冗談が聞こえた。ここに来るまでにだいぶ仲良くなれたようで一安心だ。
「お前たち……子供相手だからって適当なことを言うな。お嬢さん、俺はどちらとも付き合ってないぞ。」
「あはっははは!……お兄ちゃん、罪なオトコだね!じゃああたし行くねー!頑張ってねー!」
笑いながら走り去っていった。あんな歳の子にもあの冗談が通じるとは、やっぱり女性のことはわからないな。
「俺たちも行くぞ」
「「……はい」」
二人とも、さっきまでの元気はどうしたんだろう。