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003.決闘と決別

「アレク様、あれ何だろ?」


 報告のために街のギルドへ戻ってきたアレクとルビーの二人は、一角にできていた人だかりを見ていた。


「アレクアレクって、そんなにアレクが好きかよ!?」

「ええ。お慕い申し上げております」


 何とかかき分けて近づいていくとそんな会話が聞こえてきた。


「え、俺?」

「アレク様、お知り合いですか?」

「あっ……」


 金髪の美しい女性と目が合った。

 喧嘩していたのは元パーティメンバーのジョー・ダイエンとジャスミン・アクアハートだ。


「ア、アレク!? どうしてここへ?」

「どうしてって、報告だけど……」

「……もしかして、今の聞いてた?」

「はあ、まあ……」


 ジャスミンは顔を真っ赤にして震えていた。

 啖呵を切っているようだったから、多分パーティを抜けるダシに俺の名前を使ったのだろう。

 その場にいない人間を使うのは悪くないと思う。ただ、たまたま当人が居合わせてしまっただけで。

 気まずいのはわかる。俺も気まずい。

 考えた末、この状況を乗り切る俺の模範解答はこうだ。


「今のは聞かなかったことにするよ」

「……ちょっと来て」


 ジャスミンに腕をつかまれ、ギルドから強引に連れ出されてしまう。

 うーん、失敗だったか。それとも、作り笑いがぎこちなかっただろうか?

 後ろの方で聞こえるルビーの声も人だかりに埋もれてしまい、俺は一人、ジャスミンにぐんぐん引きずられてしまった。


「それで、誰なの?」


 ギルドの外に出て建物の周囲をぐるりと大通りの反対側まで引きずられていく。人気のない路地に行きつくと、ジャスミンが振り返って尋ねた。


「へ?」

「だから! あの女の子は誰なの? パーティからあっさり抜けたと思ったら、いきなりあんなかわいい子を連れて戻ってくるなんて! しかも、あんな……間の悪いタイミングで……」


 怒ったかと思いきやどんどん勢いがなくなっていく。

 女性というのはわからないな?


「彼女、ルビーはグランドケイブで保護したんだよ。俺が戻ってきたのは、ギルドにその報告と彼女を故郷に帰してあげる手続きにきただけだ」

「本当なの? じゃあアレクとあの子とは何の関係もないのね?」


 すがるようなジャスミンの問いかけに、俺は戸惑いながら頷いた。いったい何の確認なんだろうか。


「そう……そうよね。ごめんなさい。それじゃあギルドに戻って報告しましょう」

「ジャスミン、ケンカしてたみたいだけど戻って大丈夫か?」

「パーティはもう抜けたから、関係ないわ」


 何の未練も興味もありませんと言わんばかりの発言。俺は少し気まずいのだが。

 とはいえ、ここにいても仕方ないのでギルド内へ戻ることになった。


「そうなの! アレク様すごかったんだよ!」


 ギルド内の人だかりがなぜか大きくなっている。

 どうやらさっきまでと少し雰囲気が違うようだ。

 中心ではルビーがしたり顔で人の、というか俺の噂話をしていた。


「アレクってこの間勇者ジョーのパーティを追い出された奴だろ?そんなにすごいなら何で追い出されたんだ?」

「魔法が使えないからだって聞いたことあるぜ」

「魔法はパーティでは前衛だから使わなかっただけ! 私を助けてくれたときは魔法使ったもん! すごい稲妻がピカって光って、バチって敵に当たったら一瞬で黒焦げ!かっこよかったなあ……」


 大げさな身振り手振りを交えて語るルビー。魔法が使えないのは本当なので嘘を広めないでほしいんだが。


「稲妻の魔法って……古の勇者と同じ魔法じゃねえか!」

「そんな奴に前衛させてるパーティってどうなの?」

「しかもそいつは今のグランドケイブを一人で攻略したんだろ?どう考えてもジョーより強いよな」


 やれやれ。ルビーのやつを早く黙らせないと。そう思っていたら、


「聞き捨てならんな。魔法も使えないアレク・サンドーラがこの炎の勇者、ジョー・ダイエンより強いだと?」


 ほら、始まってしまった。俺は頭を抱える。またしてもこの後の展開が想像できたからだ。





「なあジョー。本当にやるのか?」

「当たり前だ! さっさと構えろ!」


 困ったことに、俺はジョーと決闘するハメになってしまった。

 今はギルド内で決闘されてはたまらないと、職員から外へ追い出されたところだ。


「いいか、俺が勝ったら二度とこのジョー・ダイエン様の前に姿を見せるなよ」

「へいへい」

「頑張れー☆ジョー☆」


 ギルド前で野次馬に囲まれたこの状況、今更逃げようもない。一方的にジョーから条件を提示され、俺は呆れながら頭をかいた。ジョーは剣を振り回して野次馬達に向けて決めポーズをとっている。単に格好つけというだけのことだろうが、勝った気でいないだけマシか。いつの間にかメグも野次馬に加わって先頭からジョーを応援している。


「はあ。ジャスミン、ジャッジ頼む」


審判はジャスミンがすることになった。審判といっても、決闘に判定勝ちはない。開始と終了の合図と、勝者の名を読み上げるだけだ。ジャスミンは気だるげに試合開始のコールをする。


「では位置について。よーい。ファイト」


 バチッ!


「が……は……」

「はい。勝者、アレク・サンドーラ。ぱちぱちぱち~」


 雷魔法【中】雷撃。


 一瞬の閃光の直後にジョーは煙を吐いて倒れ、勝負は一瞬で決した。ジャスミンは当然の結果だとでもいう様に、特に驚きもせず気だるげな表情のまま軽く手を叩いている。後ろでは何が起きたのかわかっていない野次馬達の中でルビーだけが、ほらほら見た? と騒いでいるのが聞こえる。


「お、お兄いー!」


 戸惑う野次馬の先頭からメグの悲鳴も聞こえる。ぶりっ子を忘れてるぞ。

 それにしても、ジョーはあれを受けてまだ意識があるのか。もっと魔法の精度は上げていかなくてはならないが、はっきり言って今回は別に魔法を使う必要はなかった。面倒くさかっただけだ。

 グランドケイブを攻略してはっきりわかったが、おそらくジョーと俺との間にはすでに圧倒的な力の差があった。

 さて、流れで付き合わされた決闘も終わり、やっとギルドへの報告だ、と思ったら。


「おいおい、まぐれで魔法が成功してまぐれ勝ち、じゃあ困るんだよな。こっちにもメンツってもんがあるんだ」


 ギルドのドアが開き、俺から前衛の座を奪ったスミスが現れていちゃもんをつける。


「今度は魔法での攻撃なしで俺とやろうぜ。前衛としての能力には自信あるんだろ?」


 グランドケイブ攻略と、それにルビーのおかげで少し自信がついたところだ。


「受けてもいいが、俺が勝ったらお前たちはもう少し謙虚になってもらえるか?」

「ああ、いいぜ? じゃあ俺が勝ったらジャスミンちゃんは俺のものだ」


 今更断るのも一苦労だと思ったので先に条件を出して承諾したが、こいつは一体何を言ってるのだろう。負けるつもりはないが、俺には彼女に関してどうこう言う権利は一切ないのだが。そう言おうとすると、先にジャスミンの方から口を開いた。当然の権利だ。


「ええ。構いませんよ」


 ほら。ジャスミンだって迷惑して、ってあれ?


「だって、アレクが勝つでしょう?」


 多分すごく間の抜けた顔で彼女を見てたのだと思う。ジャスミンはくすりと笑ってそう言い切るのだった。


「舐めやがって。このアマ、後で覚えてろよ。ヒイヒイ言わせてやる」

「では、両者見合ってー」

「おい! 待て」


 ジャスミンからの合図の直前、スミスが大きな声でそれを制止した。


「どうしました?」


 止められて少し不機嫌そうなジャスミンが尋ねる。


「もしお前らがグルで開始のタイミングを教えてたら俺は不利じゃないか。ジョーの時もそうだったかもしれないなあ? もっと平等な合図にしろ」


 とんだ言いがかりだ。ジョーの動き出しを見てから魔法を使っても結果はなにも変わらなかっただろう。しかしそう言ったところでスミスは納得しそうにないし、それはジャスミンもわかっていたようだ。彼女は少し考えてから、懐から銅貨を一枚取り出して言った。


「ではこのコインを投げますので、それが地面に着いた時がスタートということにしましょう。」

「よーし。それなら平等だ。アレクもいいな?」

「ああ。構わない」

「それでは改めて。両者、見合って」


 キィン。


 ジャスミンの指に弾かれ、鈍色がくるくると宙に舞う。落ちるコインを誰もが見守っていた。しかし。


「オラァッ!」


 コインが落ちきるのを待たず、スミスが突っ込んできたのだ。長剣での突き。いい仕掛けだ。

 どうやらスミスは挑発だけでなく大地魔法も使えるらしい。地面から伸びた岩がコインを貫いていたのだ。これなら、確かに地面とコインは接している。

 それに、彼の蹴った足元もせり上がっており、突進のバネの足しにしているようだった。スミスの剣が俺に最短距離で迫ってくる。


「がぁっ……」


 懐に潜り、鳩尾に一撃。抜刀もせず相手の動きに柄だけを合わせてのカウンター。スミスは苦悶の表情を浮かべて崩れ落ちた。

 動きは悪くないが、このレベルではおそらくグランドケイブのザコ一体も相手にできないだろう。


「じゃ、これからはもう少し謙虚に生きてくれな」

「勝者、アレク」


 売られたケンカとはいえちょっとやりすぎたかもしれない。

 今度は妙に野次馬達が盛り上がってしまった。

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