第一章 第6話 精霊達の力
「サルガス……
あ奴らに負けたのか?」
セプテント領内にある、サグドと言う山の頂にアル・スハイルが立ちサルガスに聞いた。
「いや負けた訳じゃ無い
あの野郎が来なかっただけだ」
サルガスは言った。
「ほう……
来なかったとな……」
アル・スハイルは振り返りサルガスに冷たい視線を送る。
「そちは侮ってなかったか?」
アル・スハイルが静かに聞いた、その声は冷たくそして殺意を漂わせた……。
「侮る?
人間ごときに全力でいってどうする?
チリものこ……」
サルガスがそう言いかけた時、凄まじい衝撃が腹部を襲い、サルガスは背後にあった大岩に叩きつけられ、その岩を砕き貫通しサルガスは飛ばされ大地に叩きつけられた。
「アル・……スハイルさ……ま……」
サルガスは、アル・スハイルの怒りに触れたことに気づいた。
「人間ごときに…だと……」
アル・スハイルが静かに言い、サルガスに歩み寄る、サルガスはアル・スハイルを恐れ立つことも出来ないでいた。
「なにを戯けたことを言うかっ‼︎‼︎
余は言ったはずじゃっ‼︎
我が妹は力を愛すると‼︎‼︎
なぜ我が妹の前で退いたのじゃっ‼︎‼︎
その人間ごときにっ
なぜ退いたのじゃ‼︎
貴様がその程度とは
微塵も思わなかったぞッ‼︎‼︎」
アル・スハイルの怒りに押され、サルガスはその言葉にステラがアル・ムーリフだと言うことにこの時点で気付かなかった。
アル・スハイルの怒りは凄まじく、ただ恐れ何も言えないサルガスに向け、首を目掛け右からサーベルを振ったが、サルガスはそれを条件反射だろうか、腕で防ごうとしたが、アル・スハイルのサーベルは左から振られていて、サルガスの首に振れ止められた。
「余に言うことはないのか?」
アル・スハイルが静かに言う。
サルガスは我に返ったように、そのサーベルを当てられたまま、膝をつき手をついて叫んだ。
「申し訳ありませんっ‼︎
次こそはっ‼︎
次こそはっ‼︎‼︎
あやつの魂もろとも
消し去って見せますっ‼︎‼︎
どうかこの私にっ‼︎‼︎
この私にその役目をくださいませっ‼︎‼︎」
「よかろう……」
アル・スハイルはそう静かに言い、サーベルの背でサルガスのあごをあげ、冷たい目でサルガスを見て言う。
「余とそちは長い付き合いゆえ
一つ言っておくが……
そちが果たせなかった時
余に仕えていたことを忘れ
何処にでも行くが良い
その顔を未来永劫
余に見せなければ忘れてやろう」
そしてアル・スハイルはサーベルを再びサルガスの首に当てて言う。
「余は二度も果たせず
戻ることを許さぬ……
果たせずに戻る時……
そちのこの首は無いと思うが良い
さぁ……行くが良い……」
アル・スハイルはそう言い、サーベルを消し振り返り月を見つめ始めた。
サルガスは何も言わず、その場を去りフランシスに向かった。
「必ず戻ります
アル・スハイル様……」
サルガスは凄まじい速さで走り、そう呟き森を駆け抜けて行った。
「サルガス
人間を甘く見るで無い……
あやつらが繁栄しつくし
星海に乗り出し
我らを滅ぼそうとした
あの時を知らぬ若いそちには
解らぬのかも知れぬな……」
アル・スハイルはサルガスの星の歳を考えそう呟いていた、それはアル・スハイルとアル・ムーリフが共に誓いあった、そのきっかけにあった。
「はぁ……
家って落ち着くもんだな……」
ガイアは戦いの疲れがまだ取れていない気がした、あの戦いから一週間が経つが、まだ魔法の反応が遅いのだ、今までは意識したタイミングで岩の壁を出せたが、僅かに遅れ決定打を逃し、ステラが代わりにトドメを刺すように数日依頼をこなしていたので、この日は休んでいた。
「ステラ達も買い物行ったし
一人ってのもやっぱいいもんだな……」
ガイアは久しぶりに一人で居たのだ、流れる雲を見つめ一人旅をしていた時を思い出し、庭で剣を脇に置いて寝転んでいた。
ガイアはあの夢の中でアル・スハイルに一方的にやられて以来、剣を必ず近くに置いている。
それでも今日ばかりは気を許し、完全マイペースに旅をした思い出を思い出していた。
疲れれば過ごしやすい場所で一日潰し、食料と地図を眺めて活動していた日々を最近騒がしいせいか懐かしく思っていた。
「あの声……最近聞かなくなったな……」
そしてガイアは旅に出た目的を考え始めた。
(ねえあなたは
なんで旅に出たの?)
その答えが未だに解らずにいたが、その声が聞こえなくなっていた。
「こんにちは
おやすみ中のところ
失礼します……」
そう考えてた時にガイアはそう声をかけられた。
「うん?
ユーファさんか……
ステラなら買い物に行ってるぜ」
ガイアは声のした方を見て言った、寝ていて逆光になり姿はよく見えなかった。
「えぇ……
だから来たのです」
ユーファはそう言った、ガイアはユーファが身につけているメイド服に、甲冑のように黒い鉄板と白い鉄板も使われているのに気付いた、そして一振りの細身の剣を手に持っているのに気付いた。
「なんだよ
俺とやり合うのか?」
ガイアがそう言いまた空を見た。
「えぇ……」
ユーファがそう言い、横になっているガイアに斬り掛かってきた、その刃には凄まじい剣気が込められていてガイアはとっさに双刀を持ち躱して素早く立ち上がった。
「なんだってんだいきなりっ‼︎‼︎」
ガイアが叫び、ユーファはその場に立ったまま言った。
「ガイア様が
ステラ様をお守り出来るのか
わたしは見なければなりません
ステラ様はセプテント家の
たった一人のご令嬢
そしてわたくしの大切な
愛弟子でもあります
ガイア様がしっかりと
ステラ様をお守り出来るのか
見させて頂きます……」
「なっ……なるほど……」
ガイアは最も過ぎる理由に、納得するしか無く小さく呟いた。
「まぁ解ったよかかってきな」
ガイアがそう言った時、ユーファは既にガイアの真後ろに居た。
そして凄まじい速さでガイアの頭目掛けて突きを放ってきた、それをガイアは躱すがユーファは剣を返しその刃はガイアを追って来る、突きの直後に横に振り抜こうとしてきたその剣を躱しきれず、ガイアは剣を抜かずに鞘に入ったままのアルナイルの剣で止めた。
(やっぱ……
こいつが一番やべぇ……)
ガイアはセプテント家に行った時、数多くのメイド達の一人一人が冒険者達を超える気がしていたが、このユーファは常にサラス・セプテントがガイアの剣の間合いに入った時に、割って入れる間合いに居たことに気付いていた。
ガイアはすぐに剣を弾き、双剣を抜きステラの剣をユーファに向けた。
(こいつの足はなんだ……
レンジャーって訳じゃねえが
あの動きをして
汗もかいてねぇ
息も乱していない……)
そうガイアが思った時、ユーファの剣はガイアの足元に見えた。
(速いっ!)
ガイアは後ろに飛んだが、ユーファの剣は地面を突き土を飛ばして来たが、一瞬でその土が乾燥し砂になりガイアの目を襲った、そしてユーファはそのまま突進し、ガイアの胸を貫こうとして来た。
ガイアは砂の目潰しを受けるが、その目を見開き、尋常では無い痛みに耐え剣を躱しユーファの足を払い転倒しそうになった、ユーファを横から抱き抱えた。
(えっ……
いまのを……躱された……)
ユーファは最初から寸止めするつもりだったが、初めて躱されてしまい驚いていた、それでいて抱き抱えてきたガイアの腕は優しく、ユーファを考えてくれているのが解った。
「ガ……ガイアさん?」
ユーファはガイアの優しさに少しだけポッとしてガイアを見た瞬間、ガイアは叫んだ。
「いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇよ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎
すっげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいてぇよっ‼︎‼︎‼︎‼︎」
ユーファは驚いて自分で立ち、逆にオロオロしだした。
ガイアが痛いのは当然である、土が一瞬で乾燥して無数の砂粒になり、それが両目に直撃したにも関わらず、目を見開いて躱し足を払い数秒経っているのだ。
だがそうでもしなければ確実にガイアは負けていただろう、ガイアはそれを見極めていたのだ。
「目が目がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
目がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎」
ガイアが叫び、倒れ込み両手で目を押さえ悶えている、すぐにユーファはガイアの頭を膝の上に乗せて押さえ目を指で開かせ、ふーっと息を吹きかけると、目の裏側からまるで水で洗われるように涙が溢れ、痛みが引いていき砂も全て洗い流されていった。
「ユーファ…さんって……」
ガイアは驚くが落ち着いて呼んだ、まだガイアの目は充血して真っ赤になっているが、ユーファは微笑んでガイアの瞳に息を吹きかけてくれていた。
その息は冷たくガイア瞳の奥まで優しく届き、痛みは消えていった。
「師匠……
お二人で何をしているのですか?」
冷たく冷徹な声がガイアの耳に入って来た、ユーファはそれを聞いてガイア目にふっと最後の一息を、より顔に口を近づけてかけてから吹きかける、ユーファの豊かな胸がガイアの頬にあててから、優しくガイアの頭を地面に下ろしてその場で立ち上がる。
(み…え……)
無論その場でユーファが立ったので、ガイアの視線からメイド服のスカートの中が見えそうになるが、何かの領域だろうか見ずにすんだ。
ガイアは察していた、それを見たらステラに殺されると、そして次の瞬間……。
「ステラ様お帰りなさいませ」
ユーファがそう言い、スカートを綺麗にあげ美しいメイドの礼をした、がガイアは目を瞑ったのだが、ステラの視界からはガイアが明らかに、スカートの中を見ているようにしか見えない。
(ガイア……)
ステラの殺意が放たれている。
(ガイアお兄ちゃん……)
アルナイルまでもが冷たい視線を送る。
そんな中でユーファは礼を終え、優しく微笑んで優しい声で言った。
「わたくしはガイア様が
ステラ様をしっかりお守り出来るか
見に来たのです
そうしたら
わたしの目潰しを受けても
しっかりと私を傷つけずに」
ユーファはそこまで言い、色っぽく言い始めた。
「や・さ・し・く
抱き抱えて下さいました……
ステラ様はそのように
守ってもらってお幸せですね」
「優しくですって……」
ステラが呟いた。
「抱き抱えて……」
アルナイルが手を拳にし強く強く握り締めながら呟く……。
「ステラ待てっ
あれはあぁするしか無かったっ!」
ガイアが起きてステラにそう言ったが、ガイアの目は痛みは引いているが、目潰しのせいで目が真っ赤だった。
(それを言ってはいけませんわ
だってそれじゃぁ……
まったくわかりませんもの)
ユーファはガイアの言葉足らずに微笑んでガイアから少し離れた時、凄まじい勢いでステラはガイアに斬りかかった。
「なにっ!
スカートの中を見るのが
そうするしか無かったですって‼︎‼︎
目を真っ赤にして」
ステラが叫び、剣を振り下ろそうとした時、ユーファがステラのサーベルを剣で受け止めた、ステラの性格ではガイアの言葉では襲いかかると解っていた。
「ステラ様?
相変わらず安い挑発に
乗って下さるのですね」
ユーファがそう言った時、ステラは気付いた、剣だけでステラは何度かユーファに勝てそうな時があったが、いつもムキにさせられ勝てなかったのだ。
「師匠っ!
それでも酷すぎますよっ‼︎‼︎」
ステラがそう叫んだ時、ユーファはステラを蹴り飛ばし、一瞬で間合いを詰めてステラに斬りかかるが、ステラは凄まじい気力で反応しギリギリで躱して着地し、ユーファに斬りかかりユーファは美しく躱して、ステラの足を払い体勢を崩したステラに襲いかかるが、ステラは意地を見せるように剣を振り、それを防いだ。
「ステラ様?
あまり激しい稽古ですと
わたしのスカートの中……
ガイア様に本当に見えてしまいますよ」
ユーファが微笑んで言った。
ステラはユーファのメイド服が、戦闘用ののメイド服でスカートが短いことに気づいていた。
「アルナイルッ!」
ステラがニッと笑って言った。
「はいっ!
大丈夫ですっ‼︎」
アルナイルはもがくガイアに抱きつき、ガイアの目を塞いでいた、ステラはアルナイルの目の塞ぎ方に汗をかきながら、ユーファと剣を交えている。
「なにが大丈夫なのかしら……」
ステラがユーファの剣を受け止め呟く。
「アルナイル様も面白い方ですね
ガイア様が本当に嫌なら
振り払ったりすると思うんですが……」
ユーファが剣に力を込めたまま考える様に言うが、ステラが自慢する様に言う。
「ガイアはね
とっても優しいの
無理矢理襲ったりしても
嫌がって逃げちゃう
可愛い人なのよ」
ステラがユーファに言った。
「ステラ様はもう
襲われたのですか?」
ユーファが聞いた。
「!」
ステラが顔を赤くしながらも、ふてくされる様な顔をした。
ガイアに逃げられ続けてるようだ。
そしてムキになって剣に余計な力が入った、それをユーファは見逃さずに受け流し、ステラは前につんのめってしまい、綺麗にステラの足を払った、そのまま転倒しそうになったステラを優しく抱き抱えた。
「ステラ様
もう少し話を聞いてから
剣を抜いて下さいね
その気の短さを
今のステラ様は補えるほど
お強くはありませんよ
それに先程のガイア様は
目を瞑っていましたよ」
ユーファはステラにそう言った。
「えっ……
見てなかったのですか?
でもっ!」
ステラが続けてユーファに酷いと言おうとした時、ユーファが言った。
「そこまでにしなさい
あんまり言ってると
わたしが本当に頂いてしまいますよ
ガイア様はそう言ったことは
サラス様と違って興味が無いみたいで
お誘いがいがありますから」
ユーファは微笑んでそう言いステラを離した。
「ちょっと待ってください!
師匠それじゃっ‼︎」
ステラはユーファが、個人的に興味を持ったものをとても欲しがる性格なのを知っていた、そしてユーファはそんなステラを見て微笑み、美しく礼をしセプテント家に帰って行った。
「ステラさん
ユーファさんって……
どんな人なんですか?」
アルナイルがステラに怒りながら聞いた、ステラはアルナイルの耳元で何かを言っている。
(っ!)
(っ!っ‼︎)
アルナイルが何かを聞くたびに驚いてるのをガイアは見ていた。
「なんだってんだ……」
ガイアが呟いてステラとアルナイルはガイアにキッと睨み、二人でガイアを掴み家に連れ込んで食堂に連れ込みガイアを座らせて二人で言った。
「ガイアッ旅に出るわよ‼︎‼︎」
ステラが言った。
「ガイアさん遠くに行きましょっ‼︎
ずっとずっと!
南に行きましょっ!」
アルナイルが言った。
「はぁ?
なんだおまえら……」
ガイアは訳わからないと言う顔でいたが、気にしていたことを聞いた。
「ステラ
あのユーファって……
人間じゃねぇだろ?」
「えっ……
なんでそれを……」
ステラが驚いた普通の男なら、ユーファの美しさに目を奪われ、それに惑わされ多くを見逃してしまう、だがそれに興味の無いガイアは自然と気付いていた。
「そっか……」
ステラは静かに言った、ガイアはその言い方を遠い昔に聞いたことがあったような気がした。
「気付いていたんだね
なら安心か……」
ステラがほっとしたように言い、ガイアは不思議な顔をしてステラを呼んだ。
「ステラ?」
「ううん……気にしないで
ユーファさんは
剣の精霊と風の精霊の間に生まれたのよ
だから二つの特性を持ってるのよ
不思議な組み合わせでしょ?」
ステラがそう説明してくれたが、ガイアは腑に落ちなかった、ただ納得したのは、そのユーファを師匠としたステラが、剣と風の魔法が得意なことだけだった。
「ちょっと待ってよ
じゃぁユーファさんは精霊なのか?
なんで人間の街に住んでんだよ
しかもメイドって
働いてるじゃねぇか……」
思ったことをそのままガイアは聞いた。
「500年前から
セプテント家に仕えてるのよ
でも歴代の当主に仕えてるけど
ユーファは人を一度も
愛したことが無いし
だから男性を受け入れたことも無いのよ
本当にセプテント家の守護精霊様ね
そんなユーファが
あなたに興味を持つなんてね……」
ステラはそう思ったことも話していた。
そう話している頃……。
「あれがフランシスか……」
サルガスがそれを遠くの空の上で見ながら、呟いていた。
「サルガス様
宜しいですね……」
赤い鎧を着た女性が言った。
「構わぬ……
我が星に住う野獣に襲わせよっ!
この星を持つ星海人は居ない
そしてこの星の人間は
星海に辿り着けぬ……」
サルガスはそう言った。
「つまり……」
その女性が言う。
「あぁ……
そうしたところで
星間戦争にはならない
アル・スハイル様も
いづれこの星を滅ぼすおつもりだ
先に街一つ滅ぼしても
構わぬだろう……」
サルガスが冷たく言った。
「わかりました
お任せください……」
そう女性の騎士が言い姿を消したと同時に、昼の青空に赤い流星が生まれ、流れていった。
その流星にユーファはセプテント家の入り口で気付いた。
「凶星……」
精霊であるユーファはその星の正体に気づいて、セプテント家に走り込んだ。
「サラス様奴らが来ます……
戦の支度を我らに
ご命じ下さい」
ユーファが当主の椅子に座るサラス・セプテントの前に、多くのメイドを引き連れひざまづいて願い出ていた。
サラス・セプテントは立ち上がり静かに頷いた、それにあわせてユーファ以外のメイド達は立ち上がり部屋を出た。
サラス・セプテントはその部屋から外に出て、真っ青な空を見上げていた。
「どの程度来るのか
解るか……」
サラス・セプテントがユーファに聞いた。
「解りません……
ですが
さほど多くないことも
考えられます」
ユーファが答える。
「ならば……
そうであることを
願おう……」
サラス・セプテントはそう呟いた。
それから三日後の夕方頃、星海からオルビスの星に向かい、凄まじい勢いで無数の赤い流星がサルガスの星から向かっていた。
「この分ならあと三日で
オルビスに着きますね……
ハダル一派の妨害もないのが
奇妙ね……」
赤い騎士の女性がそう呟いていた時、正面から無数の様々な色の矢が、赤い騎士の率いる魔物の群れに襲いかかった。
「これはっ‼︎
オルビスの力っ‼︎」
赤い騎士の女性が叫び、その光の矢の力に気付いた、風や水、岩や炎、植物の力までが強力な魔力で放たれていた。
(ばかな……
オルビスはまだ……
星間攻撃は出来ないはずっ‼︎)
「お前達っ!
回避行動を取りなさいっ‼︎
このエルナトの顔に
泥を塗るつもりですかっ‼︎
サルガス様の期待に
お応えするのですっ‼︎」
「第二射構えっ‼︎‼︎」
ユーファが戦闘用のメイド服に身を包んだ精霊達に、オルビスの成層圏で指示を出していた。
「星海人っ!
貴方達に私達の星を
傷つけるようなことは……
二度はさせませんっ‼︎‼︎
放てっ‼︎」
ユーファが叫び、一斉に遥か彼方にいるエルナトが率いる魔物達の群れに目掛けて魔法の矢が放たれる。
その矢は放たれた直後に、巨大な魔法陣が一瞬だけ現れそれを通り、光速を超えた様な速さになり魔物の一団を襲い貫いていく。
(なんて速さなの……
人間の魔力じゃないっ‼︎
星海人の力に近いけど違う……
まさか……
精霊の力⁈⁉︎)
「迂回せよっ‼︎
星々の影を通り進みなさいっ‼︎」
エルナトはそう指示を出し遠回りになるが、直線に進むことを諦めた。
(オルビスは
一度救われていると聞きます
人間はその間成長しなかった
でも精霊だけが
成長し続けていたとしたら……
オルビスは45億年も存在する星
精霊だけなら
星間攻撃が可能だとしたらっ⁉︎
サルガス様にお伝えしなければっ‼︎‼︎
この星は星間戦争になる
その可能性があるって
お伝えしなければっ‼︎)
エルナトはそう考え、引き連れてきた魔物の数に不安を覚えた、仮に星間戦争になるとしたら最低限数万の魔物が必要であるが、街一つを滅ぼすとして僅か1000体程しか引き連れて来なかった。
オルビスの星の大きさを考えればサルガスの星に生息している魔物の三分の一は必要である、
そう様々なことを悩んでいる間に、風の矢がエルナトの右肩をかすめた。
「クッ‼︎精霊如きが!
わたしの邪魔をするなっ‼︎‼︎」
エルナトが叫び槍を出し更に叫んだ。
「我っ!貫く星の一星
エルナトっ‼︎‼︎
我が道を阻む者を貫けぇぇぇぇぇ‼︎」
そしてエルナトが槍をオルビスの星に向けて全力で振った。
「第四射放てっ‼︎‼︎」
ユーファが指示を出した瞬間、凄まじい数の漆黒の槍が飛んで来るのがユーファには見えた。
「撃ち落とせっ‼︎‼︎」
ユーファがそう言った瞬間、精霊達が放った魔法の矢を操作し迎撃するが、全てを撃ち落とせ無かった、精霊の達は両手を星海に向けて魔力を放出しシールドを張ったが、数本の槍がシールドを突破し、何人かの精霊が自らの体で受け止め、大地への落下を防いだ。
「やっぱり
遠すぎますね……
サルガス様のお役に立つために
あまりかまっていられませんし……」
エルナトはそう呟き移動に専念し始めた。
「あれは星を持つ者ですね……
なにか来ます!
撤退しなさい‼︎‼︎」
ユーファはエルナトの攻撃でそう判断したが、すぐに何かを感じて叫び、精霊達を引き連れその場を離れた。
「サルガス……
ようやくその気になったか
だが余が最初から動かなくて
正解であった
この星は美し過ぎるのじゃ
空が青く
美しい海があり
そして空気も美味くて
大地が青々とし輝いている
なにかあると思ったが
精霊達の力か……
余を楽しませてくれそうじゃな……
エルナトもあの距離の攻撃を
出来るようになってくれたか
頼もしいのぉ……」
アル・スハイルがオルビスから放たれた星間攻撃を感じてやって来たのだ。
アル・スハイルはオルビスの星を見下ろし、怪しい微笑みを浮かべ何かを考えているようであった。