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第一章 第4話 さそりの尾





「さて……

今日はいい依頼はぁ……

いつもどおりぃ……


ねぇな」


ガイアとアルナイルは手頃な依頼を探していたがいつも通りまったく見当たらない。


 あれ以来アル・スハイルが近づいて来た形跡は全く無い、ガイアは普通に安い剣を常に二本腰に装備し、ステラとアルナイルの剣は背中に背負っている。


 星鉄塊で出来ているおかげで全く重くは無い、だがまだ試し切りもしていないのだ。


「ガイアこっち

はやく来なさいよ」


 ステラがお決まりの奥の部屋でよんでいる、ガイアがその部屋に入ると、新しい依頼が何点か張り出されて、速攻で他の冒険者がそれを取って行く。


 既にガイアは、訳あり案件専門になりつつあったが当の本人はまだ気付いていない。




 ガイアがそうして悩んでいる頃……。



 フランシスの街から、馬で3日ほど西に行った場所にセプテント家の領内の境界線を守る、砦があった、その砦から馬で半日ほど北に行った場所に小さな村がある、そこは冒険者が10名ほどいつも居て、冒険者とセプテントの兵が50名ほどで村を守っている、小さな村だが、その村の近くで騒ぎが起きていた。



「なんてかてぇんだこいつ……」


 腕が立ちそうな斧を持ち重装備の冒険者が、巨大なサソリと戦っていた、他にも魔導士とレンジャーが居るが全く歯が立たなかった。


「魔法が効かない

違うっ!気を付けろっ‼︎」

魔導士が叫び、斧を持った冒険者がさそりの尾に串刺しにされてしまう、毒ではなく心臓を貫かれ、声をあげる前にその冒険者は死んでしまった。

 そして暫くしてレンジャーだけが村に逃げ帰って来て、すぐに早馬がフランシスに向かったが、数時間後に伝書鳩がフランシスに飛ばされた。



 翌日の昼ごろ、ガイアは巨大なネズミを討伐して、街に帰ってきた。


「たっく……

最近でけぇの多くねぇか……」


ガイアが言った。


「そうよね……

あのタイガーウルフもおっきかったけど

ブルースライム

そしてネズミまで……


とりあえず王都でも大型モンスター用の

兵器開発も始まったみたいだし

何かがおかしいわね」


ステラが考えながら話している。


「と言うことは

この地域だけじゃないんですね……」

アルナイルも考えだした。



(アル・スハイルの仕業じゃないわね

アル・スハイルは

星海の魔物を呼ぶことは出来ても


この星の魔物を巨大化させるなんて

出来ないし……

そもそもネズミは魔物じゃないし……)



 そうアルナイルが悩んでいると街が慌ただしいことにガイアとステラは気付いた、兵達も集まり整列し始めている。


「あなた達どうしたのですか⁈」


 ステラが慌てて兵達に聞いた。


「隊長っ‼︎」


「隊長っ!」


兵達もステラを呼ぶが動揺している、ステラの部下達のようだ。


「静まれっ!

整列し状況を報告せよっ‼︎」


ステラがすぐに隊長として叫ぶと、すぐに兵達が整列し静かになった。


「やるねぇお姫様……」


ガイアが呟いた。


一人の衛兵が大きな声でステラに報告をした。



「セプテント領内!

クラスト村付近に

強力な魔物が現れ冒険者二名が行方不明


街の衛兵が対応しましたが

討伐ならず


クラスト村が襲われ

村人は西部砦に避難した模様です


クラスト村の衛兵隊にも被害があり

討伐隊として

ステラ様に出撃命令が出ております」



「あ……あいつ……

よくうちの近くにいるやつだ」


ガイアがその報告をした兵に気付いた、ステラの護衛なのだろうか、私服姿でガイアの家の周りをうろついていた者が何人かいた。



「ガイア?その人は私の護衛よ

兵士の姿をだと

気楽に街を歩けないじゃない


だから私服で見てもらってるのよ

気付いても絡まないであげてね」


ステラが教えてくれた。



「あぁ解ったよ


と言うか

いつもの事故物件じゃねぇの?

ステラ

報酬はどんくらい出るんだ?」


ガイアが聞いた。



「ガイアさん

行ってくれるんですか⁈」


 衛兵の一人がガイアに聞いて来た、衛兵達はガイアが先史の野獣を倒したのを目の前で見ている、その腕に期待している者が既に何名も居るのがその様子で解る。


「もちろん来てくれるわよね?

私に命令が来たんだから」


ステラが言う。


「タダ働き……」

ガイアがそこまで言った時、ステラのサーベルがガイアの首に当てられた。


「来てくれるよね?」


ステラがハートをつけて言っているようだが、そういう言い方では無いのは確かだった。


「ガイア様

お願いします敵は巨大なサソリで

通常の刃物が通らないのです


是非ガイア様のお力をお貸し下さい」


衛兵の一人がそう魔物のことを教えてくれた。


「ッ!」


ガイアはその情報に反応した。


「ステラ

行ってやるから剣をしまってくれ」


ガイアは静かに言った。


「えっほんとに?」

ステラが嬉しそうな反応をした。


「あぁ……

こいつの試し切りに

ちょうどいいじゃねぇか」


ガイアはそう言いながら、二人が贈ってくれた双刀を握った。


(サソリ……)

アルナイルはサソリと聞いて少し心配になっていた、もちろんこの星にもサソリはいるが、心配しはし始めていた。



「ありがとうガイア……



すぐに馬を三頭用意して下さい

あと私の甲冑も準備をして下さい

そしてガイアの邸宅前で待機


甲冑は行軍中に馬車で着替えます


支度が出来次第すぐに出立します」


 ステラはそう指示を出して、急いで三人の家に帰って支度を始めた。


 支度と言っても、アルナイルとお風呂に急いで入り体を洗っているくらいである、これから3日か4日はお風呂に入れない可能性があるからだ。


 ガイアは適当に待ちぼうけしている、必要な食料や物資は、部隊が既に用意しているとステラが教えてくれたからだ。


「ガイア

お風呂出たよ早く入ってねっ」

ステラがガイアを呼んだ。


「はいはい」

ガイアがそう返事をして交代で入る。


 ガイアは旅をして来たので別に深くは気にしてはいなかったが、二人と暮らし始めてお風呂に入る習慣もちゃんとついてきたが、どちらかと言うと、ステラとアルナイルに入れさせられ続けてついた習慣である。


 ガイアは頭と体を洗い、湯船に浸かって少しゆっくりしていた、魔法の力で掛け流しのこのお風呂も気に入って来ていることに初めて気づいた。


「旅かぁ……

旅に出てもここに帰って来たいな」


ガイアは柄にもなくそんなことを呟いた。


「ガイアさん

着替え置いときますね」


アルナイルが脱衣場から声をかけてくれた。


「ありがとな」


ガイアは優しくそう応えた。



「ガイアさん

もし……今回の魔物……

無理だと思ったら

すぐに逃げて下さいね」


アルナイルがそう脱衣場から言ってくれた。



「あん?

だいたい今まで逃げたくて

逃げれるような魔物いたかよ


まったく訳あり案件なら

逃げれるかも知れねぇけど

最近事故ってばっかりじゃねぇか


あのネズ公も

足速すぎんだよまったく……


だから気にすんなよ


慣れて来たからさ」


ガイアがそう言いアルナイルはそれを聞いて、心配しながらも小さく微笑み脱衣場から離れた。


 ガイアがお風呂から出て、着替え終わって剣を身につける、普通の剣を二本腰に装備して双刀を背負う。


 そして待っててくれた、ステラとアルナイルと家を出てステラの部隊と合流して出発した。



 最初に西部砦に向かい、細かい情報を集める、それから討伐する予定らしい。


「ステラ一つ提案なんだが

ギルドの依頼さ……


もう少し詳細を

細かく書いてもらうのって

出来ないのか?」


ガイアが今まで言いたかった事を言った。


「そうなんだけどね……」


王都のギルド委員会に

話をつけないといけないんだけど

首を縦に振ってくれないのよ」


ステラが困ったように言う。


「でも今回みたいに

被害が出てからじゃ

遅いんじゃないか?」


ガイアが言う。


「今回は依頼でもなんでもないわ

ギルドとは関係ない仕事なの

だから今回のことを

引っ張っても多分聞いてくれないわよ」


ステラは何度か委員会に話したことがあるように言う。


「なるほどね……」


ガイアはそのギルド委員会をどうすればいいのか、考えながら馬を歩かせていた。



 そして4日が経ち西部砦に着いた、4日の間夜になるとアルナイルは星を眺め続けていた、何かを探すように。



 ステラが砦の指揮官から状況を聞いて戻って来た。


「ガイア行くわよ」


 ステラが自然に言った、ステラが聞いた話だとどう考えても魔物かさそりがただ巨大化しただけに思えたのだ。



「おぅとっとと終わらせようぜ……

って何も教えてくれねぇのかよっ!」


ガイアはそう言いながら着いて行った。


 暫くしてガイアとステラ達は、クラスト村に着いた、村人の避難が終わってるので誰もいないのは当たり前である。


「居ないわね……

森にいるのかしら」


ステラがそう言い少し離れた森を見たが、それと同時にガイアが叫んだ。


「サウンドアロー!サクスム‼︎‼︎」


 ガイアが魔法を放ち無数の岩の矢が森に正面から放った。


「ちょっといきなりですか⁈」


 アルナイルが驚くが、ガイアの魔法で炙り出されたのか、離れた場所で木々が倒れ何かが突進してくるのが解る。

 アルナイルは意識を集中し何かを探り始める。



(そらより降り注ぐ

慈しむ光よ

我らに仇なすものを伝えよ……)


 アルナイルはそう心で唱え、光と一体になったようにさまざまなものを一瞬で見る。


(大丈夫

サルガスは居ない……

と言うかお兄ちゃん

魔法の飛距離すごっい!)


 アルナイルはやっと少し安心したのと、そのガイアの放った魔法の飛距離に気付いたとき、家と同じくらいの大きさの巨大サソリが、森の木々を薙ぎ倒して現れたのが見えた。



「出たぞっ!

隊列を組めっ!」


衛兵達がそう言い、ステラを守る様に隊列を組み始めるが……。



「なんだ……

普通じゃねぇか……」


 ガイアがそう言い安物の剣を抜いて前に出る。


「ふつう……」

衛兵達が驚くがステラが言った。



「ガイアは訳あり案件専門なのよ

あの程度ならガイアにとって

普通よね?」


 ガイアはステラが言ったことに、深く納得して小さな笑みを浮かべて言い返す。


「あぁ……

お前も十分

訳あり案件だしな……」


 ガイアは様々なことを込めて言っていたが、ステラは素敵な微笑みを見せて言った。


「なんのことかしら……

私にはまったく解らないわ」



(なんなの

この二人……

と言うかステラさんの護衛は

ガイアがどんな目にあってるのか

知ってるわよね


知らないのは馬鹿な冒険者達くらいで

ステラさんの部下は

みんなステラさんに声かけないよね……


これって一種の……)


アルナイルは勝手な妄想をし思考をめぐらし、勝手なアルナイルの答えを出した。



(生け贄じゃないっ‼︎‼︎


ステラさんに衛兵達が

ガイアさんを

ハダルお兄ちゃんをっ

捧げてるのかしらっ‼︎‼︎‼︎)


 アルナイルが勝手に妄想を広げてる間に、ガイアは戦い続けている。


(えっ

それじゃいつかステラさんに

お兄ちゃん……


たべられちゃうの?

そんなっ!

それはダメ‼︎


お兄ちゃんは私が

たべるのよっ!


…………


いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎


わたしなんてこと考えてるの‼︎


いやぁぁぁぁいやぁぁぁぁぁぁぁいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎)


 アルナイルは顔を真っ赤にし、怪しくクネクネしている。


「ァ……アルナイル大丈夫?」


ステラが困惑してそう言った時、剣が折れた音が響いてアルナイルは我にかえった。


 そしてガイアの剣から光の剣が現れ、その剣を振りサソリの左のハサミを切り裂いた。


「なんだよ……

これでやれちまうのか

ありがとな」


 ガイアはそう言って光の剣を消し、折れた剣に礼を言って手放した。


 アル・スハイルの夢からそれで斬れてしまう相手に、少し残念そうな表情を見せたが、気を取り直してステラが贈ってくれた紫の剣を抜いて斬りかかった。


 ガイアの剣は巨大サソリの足を斬り落とした。


 それは剣を折らず斬り落とした、ガイアは始めて信頼出来る剣を手にしたと感じていた。

 巨大サソリは、斬り落とされていない右の爪を使って、薙ぎ払おうとしがガイアはアルナイルの剣を抜いて受け止めた、アルナイルの剣は折れることなく輝きを増している。


「アルナイルあなた

なんて想いを込めたの?」


ステラがアルナイルに聞いた。


「ガイアさんを

護りたい

大切な人だから

ずっと護りたいって……」


アルナイルはそう想いを込めていた。


「そう……

私はガイアと


一緒にいたい


一緒に戦いたいって」


ステラは剣に込めたの想いを静かに言った。


 フランシスの衛兵達は彼が旅人であることを残念に思えていた。


 ガイアはその想いに気付いていない、だが感じてはいた。



(負ける気がしねぇ‼︎)


「炎よ鉄を鍛えよ‼︎」


 ガイアはアルナイルの剣に炎を乗せた、その炎はいつもの炎より赤くその剣を熱した、その熱はサソリのハサミを赤く熱し始めた。


 サソリはハサミをたまらずに退いたが、すぐにその巨大な尾の毒針を、ガイアに突き刺そうと凄まじい速さで振って来た、ガイアは躱していくが、それを見ていたステラは違和感を覚えた。


(おかしくない?

普通のサソリなら尾の攻撃が中心のはず

なんでハサミからいったの?)


ステラはそう考えながら見守っていた。



 ガイアは岩の柱を生み出しその上からサソリの尾に目掛けて素早く飛び、紫の剣で斬り落とした。


「凄い……速い……」


 ステラがガイアの動きに目を奪われていた。


「ステラさん

今のガイアさんは

私達の想いと一緒に戦っています


ステラさんは風の魔法も得意でしたよね

ステラさんの剣には

想いと一緒にその力も宿ってるのです


ですから風の力も使えるのです


さっそく星鉄塊の武器を

使いこなして天才ですね!」


 アルナイルが元気に説明してくれた、アルナイルは解っていた、星鉄塊の武器を使い方も知らない人間が使いこなすには、普通は70年近くはかかる、つまり星鉄塊の武器を人間は全ての力を使いこなせないのだ。



 巨大サソリはガイアの動きに翻弄され暴れているが、ガイアは残るサソリのハサミを紫の剣で斬り落とした。


 すると本能だろうか、サソリは逃げ出そうとしたが、ガイアは既にサソリの頭目掛けて双刀を同時に振り下ろす体勢になっていた。


 ガイアは小さな笑みを浮かべ力強く振り下ろした……。


 そのサソリから紫の血が吹き出し、力尽きて倒れた、ガイアは剣の刃を見るが刃こぼれ一つしていなかった。


「余裕でしたね」


アルナイルがそう言った。


「二人ともありがとな

こんな剣初めてだぜ

大切にすっからなっ!」


ガイアは明るく二人に言った。


「えぇ

本当に大切にして

ずっと持ち歩いてね」


ステラがずっと一緒に居たいと言う気持ちを込めて優しく言っていた。



 衛兵達もガイアの勝利に喜んでいたが、そのサソリが隠れていた森の奥深くで笑っている者がいた。



「アルナイル……

ここに居たのか……」



 そのサソリはサルガスの放ったものであった、そしてサルガスは凄まじい速さで移動し始めた、ただ一人アルナイルに狙いを絞って。


 アルナイルは砦に向かう途中で、その異様な殺気に気付いた、クラスト村の真ん中辺りに来たあたりで、アルナイルは振り返り森の方を見た時、まだ何も見えないがガイアが言った。


「ステラ……

兵を連れて砦に戻ってくれ

ちっと寄り道して行くわ」


「えっ

どうしたの?」


ステラが聞いた。


「いいから行けって」


ガイアはそう言い、馬をクラスト村の方に走らせた。



(なんだこいつ

やべぇのが来てやがる……


ステラにはいま兵がついてやがる


ステラとアルナイルを守れても

兵達は……)


ガイアはステラが部下を失った時、どんな顔をするのか考え巻き込まない様に自分だけで動いていた。

 そう考えていた時、凄まじい速さで何か長いものがガイアを襲って来た。


 ガイアはそれを体を捻り躱して馬から飛び降り、その襲って来たものを目で追うと、人影が目に入り、素早く剣を抜いてその人影に斬りかかる。

 ステラの剣が輝きガイアを加速させ、斬りかかろうとした瞬間、凄まじく重い一撃が腹部を襲った、そして飛ばされてしまうが大地に叩きつけられずに、なんとか着地して立ち上がる、口を切ったのか僅かに血を流している。



「死なないか……」


 その者が言う。


「なんだテメェはっ‼︎‼︎」


ガイアが顔を歪ませ、腹部を押さえながら叫ぶ様に言った。


「威勢がいいな

だが相手の力に気づかないのは

愚かとしか言いようが無い……


私は

さそりの尾の一星

サルガス……」


サルガスはそう言うが、一切ガイアを見ようとしない、ただアルナイルの居る方を見ている、同じ星海人のアルナイルだけを警戒していたのだ。


「テメェの相手は俺だっ‼︎」


 ガイアはサルガスの態度に苛立ち、再び襲いかかるが、何かがガイアの頭上から振り下ろされた、ガイアはその瞬間サルガスが右腕に鞭を持っているのが僅かに見えたが、躱せずに強烈な一撃を受け大地に叩きつけられ気を失ってしまう。



「来たか……」



 サルガスがそう呟いた、サルガスの瞳には輝く光を放つアルナイルが居た、それは人には見えない程度に力を解き放って、ガイアに気付かれないようにしていたのだ。



「お前が逃げても仕方ないな

お前は攻撃よりも守ることを好むからな

いや……失礼……

手段が無いと言うべきだな


それよりも……

こいつはなんだ?

星鉄塊の剣を持つようだが

お前の連れか?」



サルガスがアルナイルに聞いたが、アルナイルは何かを声に出さずに口ずさんでいる。


「……………

……………

…………………」


アルナイルはサルガスに応えず口ずさみ、そして優しく囁いた。


「愛しい人よ

その命の光よ……

我が光とともにあれ……」


 その囁きとともに、ガイアが握るアルナイルが贈って銀色の剣が光輝き、その輝きは腕を包み優しくガイアの全身を包み込んで行く。


 そしてガイアがゆっくりと立ち上がり、鋭い瞳でサルガスに飛びかかる。


「人間……か……」


 サルガスはそう呟き目に映らない程の速さで右手で鞭を振り、ガイアを叩きつけようとしたが、ガイアはその鞭を躱し、一気に距離を詰めようとした。


「っ!」


 サルガスはガイアから距離を取ろうとしたが、ガイアは食いついて来た、素早く動き続けるサルガスの耳に優しい声が僅かに聞こえた。



「………

……………

風よ私の目となり

風よ私の足となり

………

…………


空をかけ大地をかけ

海をかける旅人よ……」


 サルガスの目に、風を纏い髪を靡かせ美しく詠唱し続けるステラの姿が目に映った、アルナイルだけでなくステラまで戻り、ステラの部下である衛兵達も戻り、硬くステラとアルナイルを守ろうと盾と槍を構え、一部の部隊は弓を構えている。



「クズどもがっ‼︎‼︎」



 サルガスが叫び左手にも鞭を出し、ステラ達に向けて素早く振った時ステラが叫んだ。


「風よ!

我らに救いを!

そして導けっ‼︎‼︎」


 その瞬間凄まじい風がサルガスの鞭の勢いを弱め、衛兵部隊のシールドの壁を崩すが死者を出すには至らなかった。


「テメェ…

余裕こいてんじゃねぇ‼︎‼︎」


 ガイアが完全に間合いに入りそう殺意を込めて叫び、力強く紫の剣を振り下ろした。


「くっ!」


 サルガスが僅かな声を漏らし、左手の鞭を手放すと、その鞭は消え代わりに赤い短剣を握り、ガイアの剣を受け止めたがその勢いは止められず森の方に飛ばされた、ガイアは追撃をしようと追うが、サルガスは鞭を森に向かって振り、その鞭が太い枝に巻き付いた瞬間一瞬で短くなり森に姿を消した。


 ガイアはそれを追おうとしたがステラが叫で呼び止める。


「ガイア待ちなさいっ‼︎‼︎」


 ガイアはそれを聞いて森に入らずに立ち止まった、相手は鞭を使うが森に入った、ステラはサルガスが逃げたのかその方が有利なのか解らなかった、ステラは冷静に判断していたのだ。


「たっく

ステラが言うなら

しかたねぇな……」


 ガイアはそう言いステラ達のもとに戻って行った。


「ありがとう

相手がなにか考えてたら

嫌だから……ごめんね」


ステラが微笑んで言った。


「あぁいいぜ

アルナイルも追わない方がいいって

そう思うんだろ?」


ガイアが聞いた。


「うんっ!」


アルナイルは明るく見せて返事をした。


(サルガス

いったいどこに居たのよ……

星の力を使わなかったから

探せなかったのかしら……)


 明るい返事をしたアルナイルは、内心焦りながらもそう考えていた……。



 ガイア達はそのまま砦に戻って行ったが、やはり森ではサルガスが様子を伺っていた。



「チッ来なかったか……」



 サルガスは口惜しそうにそう呟いていた。

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