第三章 第6話 ステラの瞳
「メビウス……
あなたは私のことを……」
アルナイルはそうメビウスに呟いた。
「本当にあなたは世話がやけるわ
わたしがあなたの意思を汲んで
一生懸命に考えたことも
聞く前にあんなことをして……
あなたが居なくなって
わたしだってどうしていいのか
解らなくなっちゃったじゃない
そのせいでもう私だって
簡単には退くに退けないのよ……」
メビウスはスピカが居なくなってからの出来事で、星海人と敵対し続けていた、全てサラスの策略でアル・スハイルとアル・ムーリフが育つ今の今まで、非常に長い時をかけメビウスを支持する星の生き物達を使い、星海人を攻撃し続けていた。
その為に急にスピカが現れたからと言って、戦いを辞める訳にはいかなかったのだ。
「メビウス……」
アルナイルはスピカとして申し訳なさそうに呟いていた。
「簡単な話じゃない
アルタイルさんが
シーリスにその剣を渡せば
アルナイルが諦めて
争いがなくなるんでしょ
渡しちゃえばいいじゃないですか」
ヴィーナスがサラリと言った。
ヴィーナスからすればそれが一番望ましい、煩わしいアルナイルが力を失い、アル・スハイルもメビウスと戦っても勝ち目が無くなってしまうからだ。
「悪いけど
それは出来ないかなぁ」
アルタイルは自然に断る。
「なんでよ?
アル・スハイルが今まで何して来たか
一番解ってるのはアルタイル
あなたじゃない……」
ヴィーナスが言った、それを聞くとステラは僅かに顔を曇らせるが、ステラの中で紫の誓いの星が言った。
(妾達のせいにして良い
そなたは未来を見ていれば良い)
紫の誓いの星はシーリスが変わり始めていることに気づき、シーリスの力を弱めていた時の束縛を解いていたのだ、今のシーリスはどう話せば自分にとってより良い結果が得られるか解って話しているのだ。
(未来を?)
ステラが聞いた。
(シーリスの力は未来を見て
好ましい未来を引き寄せる
じゃが妾と違い触れることは出来ぬ……
未来とは決まってないもの
そなたが卑屈になり
弱気になって仕舞えば
彼奴の望む未来が現れてしまう
そなたはそなたじゃ
自信を持つが良い……)
紫の誓いの星がそう教えてくれた。
(なんで……
あなたのお姉さんなんでしょ?
なんで私に教えてくれるの?)
ステラが聞いた。
(彼奴が変わり始めておる
それだけじゃ……)
紫の誓いの星がそう静かに優しく言った、それを聞いたステラは誓いの星の三姉妹に足りないものがある事に気付いた、それはアル・スハイルとアル・ムーリフが一番大切にしているものだとステラは気付いた。
「そう…解ったわ……」
ステラはそう静かに呟いた。
「ヴィーナス…待ちなさい……」
アル・ムーリフの口調でステラが言った。
「は?
なにわたしを呼び捨てにしてるのよ」
ヴィーナスが言った、流石にヴィーナスも怒りを見せ始める。
(なに?
ステラさんの雰囲気が変わった……)
離れて話を聞いていたエルナトはそう思い、エルナトとエリスがじっとステラを見る。
「姉上の文句は妾が許さぬ
だいたいハダルもヴィーナスも
姉上の悲しみも知らずに
好き勝手にしていたではないか
その様なそなた達を
妾が利用したことに
まだ気付かぬのか?」
「ステラ……」
アルタイルが耳を疑った、ハダル一派とアル・スハイルの対立は時に星海人同士の争いで多くの血を流した、その怒りや悲しみもまた大きい物であった。
「ふざけないでっ!
あなたなに様のつもり⁉︎⁉︎
貴方達姉妹のおかげで
沢山の星が死んで
星海人も大勢死んだのよっ!
その星海人が死んだのは
みんな貴方達を
止めようとしたからじゃないっ‼︎‼︎」
ヴィーナスがまともなことを言った、本来それはハダルの生まれ変わりであるガイアが言うべき言葉だった。
「だから
なんだと言うの?
妾があの様にしなければ
星海は全て……
姉上の物になっていたかも知れぬ
そうなって仕舞えば
姉上は二度と
優しい姉上に
戻れなかったかも知れない
そう考える事が出来ぬのか?」
アル・ムーリフは言った、力で全てを手に入れる事が出来てしまったら、それが正しいことになってしまう。
アル・ムーリフはそれを阻止する為に、ハダルの元にアル・スハイルに反対する者達を集めていたのだ。
「なっ……」
ヴィーナスもハダル一派を率いていた事もあり、それを聞いて気付かされ初めて言葉を失った。
(…………)
シーリスは静かに聞いていた、姉想いのアル・ムーリフの言葉を静かに聞いていた。
「星海は誰のものでもない
ヴィーナスよ
そちはそう思わぬか?
誰が支配するものでもない
妾はそう思うておる……」
ヴィーナスは言い返せなかった、星海人は国家と言うものを持たない、ポツンポツンとガスの塊を作り大地の様にし、資材を星々から集め街を作り過ごしている。
そこには領土の様な物はない、ただ街の領主の様な者がいて街の大地を支える力を放つコアを管理している位である。
アル・ムーリフはその営みがすきだった、街同士の争いは無い、アル・スハイルに反対したハダル一派も街を攻撃する様なことは無かった。
「だったらっ!
あなたがアル・スハイルを
止めれば良かったじゃないっ‼︎‼︎
それをなんで私達にっ‼︎」
ヴィーナスが立ち上がり強く言った。
ヴィーナスが大きな声を出してエルナトが周りを気にしたが、不思議と他の客達には全く聴こえていない様だった。
(この空気……)
エルナトが心で呟いた時、エルナトは気付いた、紫の誓いの星がステラの背後に立っていることに、だがガイアにもヴィーナスにもアルタイルにも見えていないようであった。
紫の誓いの星が他人を気にせずに話せる様に、ステラ達だけを違う世界に引き込んでいるようであった。
「妾の声は
姉上に届かなかったのでな
そなたらを姉上にけしかけたのじゃ
妾の誓いを達する為にな……」
ステラがアル・ムーリフとして話している。
「届かなかった?
あんたら星海一
仲がいいって言われてたけど
大したことないのね」
ヴィーナスが鼻で笑いながら言った。
「解らぬか?
近すぎる仲と言うのは
良いものであるが
時に不便なのじゃよ」
ステラが言いガイアも静かに聞いている。
「あまりに近すぎる相手には
無理を言っても
相手も許してくれると思うてしまう
だが時として許せぬ時もある
妾は許す許せるではないが
姉上が遠くにいかれてしまう
そんな気がしてならなかった
シーリスよ
そなたには心当たりがあろう?
親し過ぎる者が幾ら言っても
その声が
軽く取られてしまったことなどな」
ステラはシーリスに聞いた。
「ある……」
シーリスは静かに答えた、それは他ならぬスピカとメビウスのことを答えていた。
「だからじゃ
妾は妾の声を……
そなたらから姉上に
伝えてほしくてな」
ステラがそう言った言葉は、アルナイルもメビウスも聞いていた、なんでこんな星海になってしまったのか、それはほんの小さなことがきっかけだったと、まるで解っているかのように。
「なにそれ……
その為に私達は
仲間を失ったって言うのっ‼︎‼︎
ふざけんじゃないわよっ‼︎‼︎」
アル・ムーリフにヴィーナスが掴みかかろうとした、その手には怒りが溢れているのがアルタイルにもシーリスにも解ったが、その手をガイアが掴んだ。
「最後まで聞いてやれよヴィーナス
普通ならお前に言えないことを
話してくれてんだ
最後まで聞いてやってくれ」
ガイアもヴィーナスの怒りが邪な怒りでは無く、普通なら誰でも怒りを覚える話である為に頼むように言っていた。
アルタイルは何も言えなかった、ヴィーナスの怒りは当然であるが、アル・ムーリフがそうしたおかげで星海の中でアルデバランのように小さくもアル・スハイルに従わず、自らの力を誇示することが出来た勢力もいたのだ、それらの事を考えれば否定は出来ないのだ。
「妾は詫びるつもりは無い
結果として
ハダル一派は善戦し
多くの星が
生き長らえることが出来た
それは姉上を……」
ステラが強い意志でそう言いかけた時。
「じょ…冗談じゃ無いわっ!」
ヴィーナスが大きな声で叫び、ガイアを振り払いステラに迫った。
「あなたのせいでっ‼︎‼︎」
ヴィーナスはそう言いステラの頬を思いっきり引っ叩いた。
ステラはそれを躱そうとせずそのまま引っ叩かれ、アルタイルはステラを守ろうと立ち上がり、ヴィーナスはステラに掴みかかった。
「何人死んだと思ってるのっ‼︎‼︎
あなたが
あいつを止めなかったせいでっ‼︎‼︎」
ヴィーナスがステラに向かって叫び、アルタイルは責任を感じ、何かを言おうとした、それはアルタイルがアル・スハイルを一度メビウスの星で追い詰めたが、見逃した事を言われてる様な気もしていた。
その時にステラはヴィーナスを鋭く睨みつけて言った。
「その程度で
そちの気が済むなら幾らでも叩くが良い
だが一つ聞くが……
そちは何をしていた?」
静かだが瞳は鋭く冷たい悲しみを込めステラは言っていた。
「五月蝿いっ‼︎‼︎」
ヴィーナスは聞こうとせず、その手に再び気圧を乗せ本気でステラを叩こうとした。
ステラは素早くその手を掴み気圧の重圧を柔らかい風に変え、ヴィーナスを叩き返した。
パシッと高い音が響き、ヴィーナスがステラを殺す様な殺意を込めて睨んだ時、ステラは鋭く睨みヴィーナスの目の前に手のひらを向けていた。
ヴィーナスの鼻が触れそうな程にその手のひらは近く、ヴィーナスは思った。
(殺られる……)
「聞くが良い……」
ステラがアル・ムーリフとして言った。
「そちは星海人の為に何をした?
そちは気ままに好きに
過ごしていたのではないのか?
姉上が力を手にし
アトリアロフの為に戦っていた時
そちは何をしていた?
それだけ強大な力を
妾達より早く手にしておきながら
何をしていたっ‼︎‼︎
アルタイルが戦いベガが戦い
その間に何をしていた⁉︎⁉︎」
ステラが強く強く言っていたが、シーリスにはステラが紫の誓いの星を持つためだろうか、ステラの感情が伝わって来ていた。
(泣いてる……)
シーリスは心で呟いたその時、優しい性格のアル・ムーリフが姉であるアル・スハイルを庇おうとし、無理にでも姉を真似る様に冷徹に厳しく言っているのだ。
アル・ムーリフは詫びるべきことと知りながら、詫びてしまえばアル・スハイルの非を認めてしまう事も解っていた、そして自らが暴走した様なアル・スハイルと、もっと向き合えたはずだと解りつつも、全てを受け止めいたのだ。
「そなたは……
大星でありながら
我ら星海人の為に
何をしたと言うのだっ‼︎‼︎」
アル・ムーリフが叫ぶ様にヴィーナスに聞いた。
「…………」
ヴィーナスは何も言えなかった、その昔ステラが言っている時代にはハダルはまだベガであり生まれては居ない、アル・スハイルが勢力を増し星の生き物を討伐し始める以前の事を言われ、ヴィーナスは何も言えずにいた。
「妾はあの時から……」
ステラは裁きの力をメビウスに放った時、アル・スハイルがまだ力を持たない文明を、虐殺していた時を思い出しながら話ている。
「どうすれば良いのか考え続け
ハダルを知ったの……
そしてあなた達を頼った
それの何処が悪いと言うの?
あなたも戦ってくれてたら
お姉ちゃんだって
あんなこと
しなかったかも知れないじゃない
この戦いが
アルナイルのせいで起きたなんて
関係ないじゃないっ
星海にいるみんなが
見てくれなかったからっ
考えてくれなかったからっ
みんなバラバラで
自分達のことしか考えなかったからっ
お姉ちゃんが頑張ってたのっ!
それになんで気付かないの?
なんで気付いてくれないのよ‼︎‼︎‼︎」
ステラはアル・ムーリフの溢れる感情をそのまま出す様に言った。
アル・スハイルが多くの手星を持った時も、その数は広い星海のほんの一部の者達しか集まっていなかった。
アル・ムーリフが必死にアル・スハイルを庇うように訴えてるとシーリスは気付いた。
『母上……
本当に…この姉妹が……
私達の敵なのですか?』
シーリスはダークマターに意思を乗せてメビウスに聞こうとしたが、アルナイルの光星に阻まれてしまいメビウスに届かなかった。
メビウスはシーリスが何かを聞こうとしているのに気付いてはいたが、聞こうとはしなかった。
ヴィーナスは性格は悪いが馬鹿ではない、それを言われステラが言いたいことを理解してはいた。
ステラの手のひらの向こうで、ステラが泣いてる様な気がしていた。
「アルナイルだけではない……」
ステラが気をとりなおしたのか、アル・ムーリフの口調で話し始めた。
「姉上だけではない……」
静かに呟くように話している。
アルナイルの光星の中でアル・ムーリフの言葉を、アルナイルとメビウスも聞いていた。
「ヴィーナス…そちだけでもない……」
ステラの言いたい事がその場にいた皆んなに伝わっていた。
「メビウスだけでもない……」
「………」
メビウスも静かに聞いている。
「なぜ皆がバラバラなのじゃ
力の元に集まる必要はない……
皆が集まればそれが力なのだから
なぜそれが解らぬのだ……
大大星と戦わなくてもよい
話し合えるだけの力になると
なぜ気づかぬのだ……」
ステラがそう言った。
「話し合えるだけの力?」
アルタイルが言った。
「そうじゃ……
皆が集まれば
姉上はメビウスと戦う気は無いのじゃ
話し合えるだけの力を
集めようとしておるのじゃ」
「無理よ……
大大星の力を
お母様の力を甘くみてない?」
ステラが言いシーリスが言った。
「無理では無い
メビウスの力を封じればよい
さすれば対等に話せるのではないか?」
ステラはそう言いクンガ村の洞窟の中から、アルナイルの光星の方を見た。
「………」
その時、メビウスはステラと目と目があった様な気がした。
(アル・ムーリフ
手の内を明かすつもりで話したの?
この子の目……
そう言うことなのねスピカ……)




