第二章 第11話 夢なのか過去なのか
アル・スハイルが眠りにつくその少し前のこと。
「ステラッ!
ステラッ‼︎‼︎‼︎」
クンガ村のアル・スハイルの祠でガイアが必死になってステラを起こそうと呼んでいた。
あの似ても似つかない、アル・スハイルの石像の足元にあった窪みに、ガイアが持っていたアル・ムーリフのペンダントが嵌め込まれ、美しく赤く輝き、少しすると紫に輝き、交互に美しい輝きを放っている。
「ご安心ください
ステラ様は眠っているだけで
命に関わることはありません」
ザウラクがステラの魂を見て言う。
「じゃぁなんでっ!
紫の星までいねぇんだよっ‼︎‼︎」
ガイアが叫ぶように言った。
ガイアはステラから、紫の星の気配もまったく感じることが出来なかった。
星が人から離れる、それは死を意味する事だとガイアは知っていた、星海人であった時にアル・スハイルの勢力と争ったハダル一派の中に、戦いに敗れその様に命を落とした仲間を沢山見て来たからだ、
「紫の星……
てめぇ…ステラを……
アル・ムーリフをっ!
見捨てたんじゃねぇよなっ‼︎‼︎‼︎」
ガイアは星が離れ死を迎える意味を叫んだ、ガイアは疑った紫の星がステラを裏切る筈がない、だが目の前の現実からそう受け止めるしか無かった。
「ステラッ!
おぃっ!
目を覚ませよステラっ!」
ガイアは叫び続けたが、ステラは目を開けずに静かに眠り続けていた、そしてまだメーガルに向かってなかったシルフィが、精霊が使う気付け薬を慌てて持って来てくれ、急いでステラの口に注ぐが効果が無かった。
「シルフィッ!
サラスはなんでこの像を残したっ⁉︎⁉︎」
ガイアが叫ぶように聞いた、その瞳からは怒りが溢れ出している、シルフィはサラスがこの像を残した訳なんて知らなかった、それはシルフィは確かにサラスに仕えていた、だがシルフィがサラスに仕える前からこの像はあり、それを知る筈が無かった。
「わ…わたしは……
サラス様がっ……」
シルフィが思わずそう言った時、ガイアは凄まじい勢いでシルフィに殴りかかった、ステラが危険な状態にある、ガイアはそうとしか思えず、その原因がサラスが残した石像であり、そのサラスに様をつけて呼んだのだ、ガイアの怒りはシルフィに向かって爆発した。
シルフィの風の力ではどうにもならない鋼の拳が、シルフィに向かって放たれた時、黄金の風が入り口からクンガ村の洞窟を奥に向かって吹き抜けた。
シルフィはガイアの威圧で動けずにいたが、鋼と鋼の音が響き渡りガイアは拳を受け止めた者を睨みつけて言った。
「テメェ……」
ガイアが睨みつけた者が言った。
「ガイアちん
相変わらずだねぇ……」
「アルタイルさん……」
エルナトが呟いた、エルナトは怒りに溢れたガイアにどうしようも無かった、止めようとはしたが勢いに圧倒されてしまったのだ。
「何しに来た……」
ガイアは拳を下して聞いた、シルフィは腰を抜かしてしまい、エルナトが駆け寄り手を貸しその場を離れた。
(いま……
アルナイルさんの感じが……
あの剣から……)
エルナトはそっと振り返ってそう思っていた。
「単細胞なガイアちんを
止めに来てあげたんだよ
これからは大星なんだから
いちいち怒らない
サラスは敵じゃないよ
アルナイルを助けてくれたし
今はアル・スハイルを支えてくれてる」
アルタイルが言った。
「あん……
あいつ生きてんのか……」
ガイアが言った。
「生きてるさ
ステラのために……」
アルタイルが言った。
「ったく
アルタイル……
アルナイルに言われて来たのか?」
ガイアが聞いた。
アルタイルはアルナイルに言われた訳ではない、むしろ今は話せない、あの光星の中にアルナイルがいて話せる訳が無かった、だがアルデバランと話して、ヴィーナスに会いに行こうとして飛び、セプテントリオの近くを通った時、ふとエストックの柄を握りたくなって触れた時、ガイアが問題を起こす気がして全速力で来てくれたのだ。
(はぁ……
ベガもそれくらい……
私のこと見て欲しかったな
そう言えばこの剣に……
まさか……)
アルタイルは疲れた様子を見せずにそう思い、何かに気付いた。
(アルナイル……
俺を止めるために
意思を乗せたか…すまねぇ……)
ガイアはアルタイルの持つエストックを見て冷静になっていた。
「アルタイル…その剣……
しばらく使うんじゃねぇ
いいな」
ガイアはアルタイルに言ったが、アルタイルはその言葉で気付いた、スピカの大大星の剣だと言うことに、そしてガイアがそれを隠そうとしている事に。
(ったく……
さっきマジで殴っちまった
気づかれてねぇと良いけどな……)
ガイアはスピカの剣を殴ってしまった事を気にしていた、ガイアはアルナイルを危険に晒したのだ。
ガイアはステラとアルナイルを心配し、ステラを抱き上げようとしたが、アルタイルがガイアを止めた。
「この石像の近くにいさせてあげなよ」
アルタイルが言った。
「なんでだよ……」
ガイアが聞いた。
「このアル・スハイルの像
昔のアル家にあった絵に似てるんだ……」
アルタイルは見たことがあった、この像の人を、それはアル・スハイルでは無い。
「マジかよ……」
ガイアが不思議そうな顔で言った。
「うん……」
アルタイルが静かに言った。
アルタイルの言葉にガイアは不思議な思いに駆られていた。
「見つけたわ……
やっぱりあの剣が
スピカの本体なのね……」
シーリスがセプテントリオの成層圏でそう呟いていた、だがすぐに行動を起こそうとせずに何かを考えている。
(へんね……
なんでアル・ムーリフと
紫の星の気配が消えたのかしら
それに……
セプテントリオは
本当に私達側なの?
お母様も確かな態度を見せるまで
セプテントリオには
手を出さない様にって言ってたけど……)
シーリスはそう悩みセプテントリオに降り、スピカの剣を奪うかどうか悩んでいた。
シーリスがメビウスの言葉に悩んでいることを、メビウスには手に取る様に解っていた。
(見つけてくれたのね
シーリスは本当に
おりこうさんねぇ……)
アルナイルはスピカの剣に意思を乗せたことを隠し、何気なく振る舞っていたが、メビウスは心で呟き静かに微笑んでいた。
「ここは……」
ステラが目覚め呟いた、そこはステラがいる筈の無い街だった。
そこは永遠に美しい夜空を仰ぎ見る街、アトリアロフだった。
(なんで…ここに……)
ステラは考える、まさか自分は死んでしまったのかと、そして星海人に転生し戻ってしまったのかと。
ステラはアトリアロフの街を歩き、鏡の様に窓ガラスに映し出された自分の姿を見て気付いた、転生した訳では無いと。
ステラはオルビスにハダルを追いかけて降りる前の姿、アル・ムーリフの姿をしていた。
だが街の人々はアル・ムーリフを見ても何故か感心を寄せることは無かった、大星アル・ムーリフ、アル家が治めるアトリアロフでアル・ムーリフを知らない者は居ない、それはアル・スハイルと二人で頻繁に街に出て遊んでいたからだ。
(うーん……
とりあえずうちに行ってみようかな)
ステラはそう思い、アル家に向かって行った、ステラは街の人々が恭しくしない自然な振る舞いに、違和感しか感じなかったが直ぐに思った。
(普通の子ってこんな感じなんだ……)
アトリアロフの街はステラがアル・ムーリフとしていた時より少し変わっていた、それは発展したのではない、どこか懐かしい街並みであった。
「そう言えば……
この先にカフェがあったな
あの日になくなっちゃったけど……」
ステラは呟く様に言い、少し歩いていると目を疑ったがすぐに微笑んで言った。
「そっか……
夢か過去なんだ……」
ステラの目の前にそのカフェがあったのだ。
「夢なのかな…過去なのかな……」
ステラはそう呟きながら涙を目にためながらそのカフェのテラス席に座り、アイスティーを頼んだ。
少ししてアイスティーが運ばれて来て、懐かしい味を感じていた。
何も変わって無いアル・ムーリフがまだ幼い時の味を、寂しそうに味わっていた。
ステラは手持ちのコインをそっと一枚取り出して、どうしようもない悲しさが溢れ出して来た。
その時二人の少女がその店にやって来て、近くの席に座った。
ステラが手にしていたのはカストルコイン、アル・カストルの顔が彫られた今は使われてないコインを見て、懐かしさと悲しみ、そして寂しさが溢れ出していた。
「お父様……」
ステラがアル・カストルを思うが屋敷に帰ろうとはしなかった、それは近くの席に座った二人の少女が昔のアル・スハイルとアル・ムーリフだった為で、ステラはこの世界が自分の世界では無いとそう感じていたからだ。
ステラはアル・ムーリフの姿のままそこにいるが、二人はステラに気付いてはいない、他愛のない話を二人は楽しんでいる。
この先に待ち構える未来を何も知らない二人は、楽しげに過ごしている。
ステラはその話を聞いて感じていた、この日があの日なんだと。
(このあと私は屋敷に帰って……
お姉ちゃんが……
買い物に行くんだったよね……)
ステラは静かに思い出していた。
(でも何かが……
違う…あの日と何かが……)
ステラは不思議な事に気づいた、アル・ムーリフとアル・スハイル、二人の服装は確かにあの時の服装で頼んだ物もそうだった気がする、あの時カフェにいた他の二人が居ないのだ。
「アルタイル
ようは済んだのか?」
急にガイアの声が聞こえ、ステラは振り返った、そこにはアルタイルが見たこともない精悍な男性と歩いて向かって来ていた、その男性はアルタイルが持っていた剣を腰に帯びていた。
(あれが……
ベガ…ハダルの前世……)
ステラはそう思いベガを見ていると、アルタイルが親しげにベガに飛びかかる、誰が見ても二人の関係は友人よりも上に見えるが、ベガは面倒臭い様な顔をしていた。
(昔からだったんだ……)
そのけったいな態度を取るベガを見てステラは微笑んでいた、その二人がこのカフェに今から来るのだと思い安心していた。
ベガとアルタイルもこの店にいたのを昔の二人を見たステラは思い出し、やっと違和感が和らいだ。
「さっさと行くぞ
いい金になる話なんだからな
他の奴に先を越されたくねぇだろ」
ベガはそうアルタイルにそう言い、銀色の翼を広げ飛び立とうとした時、ステラの頭に悍ましい未来が一瞬だが過った。
今までの穏やかな気持ちが全て打ち砕かれた、やっと違和感が消え安心した気持ちを打ち砕かれステラは顔色を悪くした。
(そう言えば
アトリアロフを救ったのは
アルタイルとベガの二人……)
ステラがそう思った時、遠い星で冷たく微笑んでいる女性が、頭に一瞬ではあるが浮かんだ。
(あれがメビウス……
こんな時から
私達は狙われていたの……)
ステラは冷たく微笑んでいるのが、メビウスだと直感で感じた。
そうしている間にベガとアルタイルは飛び立ってしまった。
(だめ……
追いかけないとっ!)
ステラは席を立ち二人を追い始めた、まだアル・ムーリフもアル・スハイルもまだ星を手にしていない、何よりもアル・スハイルが生き残るにはあの二人が居ないといけないのだ。
夢か過去ならば追わなくても良い筈だが、追わずには居られなかった。
ステラはアトリアロフを飛び立ち二人を追った。
(なんだろう
夢じゃ無い気がする……
それに…お姉ちゃんも……
来てる気がする……)
ステラはこの世界ではない、自分達の世界にいるアル・スハイルも、ここに居るような気がしていた。
ステラは全力でアトリアロフの為に、ベガとアルタイルを追っていた。
「あれは
アル・ムーリフ
ステラも来ていたのか……」
アル・スハイルは飛び立つアル・ムーリフに、ステラの姿を見て呟いていた。
「アルタイルとベガを
追っておるな
やはり今日はあの日と言うことか……」
アル・スハイルは今の状況を冷静に考え、ステラと行動を共にしたいが、迂闊にステラと合流するのを避けた、それはステラに紫の星がついていないからだった。
アル・ムーリフは赤ほどでは無いが、紫の誓いの星と出会う前は気の弱い少女であった、アル・スハイルを助けようとしたのも姉妹として、大切な姉を助けたくて僅かな勇気を振り絞ってくれていたのをアル・スハイルは解っていた。
星の性格が星海人に影響するのは、アル・スハイルも良く解っていた、もし今のステラが昔のアル・ムーリフのように気が弱くなってしまったら、自分以外にステラを引っ張れるのはガイアの前世の前世であるベガしか居ない……。
アル・スハイルはこの世界でしなければならないことが、自分にもステラにもある気がしていた。
夢なのか過去なのか幻なのか解らないこの世界で……。




