第二章 第4話 ステラと紫の誓いの星
ガイア達はクールンを出てからも馬車を飛ばし続けていた、ステラが馬の疲労を気にし続けてくれていたので、馬を交換する心配なくガイアは飛ばし続けていた。
そしてレチクル川に差し掛かる手前でガイアは前方に、あの亡霊が出た橋がみえて来た時にかなりの数の人が橋に居るのが見えた。
「なんだあれは……」
ガイアがぼやく様に言い、馬車のペースを落とし始めた。
「どうしたの?」
ステラが聞いた。
「あれ見てみろよ
あの橋…なんかあったのか?」
ガイアが言った。
馬車から皆んなが顔を出して橋の方を見る。
「軍隊じゃないし……
普通の人達が集まってるわね」
ステラが言う。
「いい匂いもするっ‼︎‼︎」
エリスが鼻をクンクンしながら言う。
確かに甘そうな匂いや、肉を焼く様な匂いまでしてきていた。
エリスはこの旅の重要性を解ってはいない、この前、紫の誓いの星が現れシーリスのことを話した時も、エリスは気にしていなかった。
エルナトはその周りの空気を無視しているエリスに聞かれていた。
「どうしたの?」
「ごめんね皆んな怖い顔してるよね
アル・スハイル様が
危ないかも知れなくて皆んな心配なのよ」
エルナトはそうエリスに言っていた。
「じゃっあっそぼっ」
エリスはそう言い、ぬいぐるみを撫で撫でし始める。
「エリスは心配じゃないの?」
エルナトが困った顔で聞いた。
「だってアル・スハイル様は
絶対にまけないもん」
エリスは笑顔で言った、エルナトはそれを聞いて微笑んで優しく聞いた。
「そうね
私達のアル・スハイル様が
負けるはずないよね
でもなんで安心してられるの?」
「だってアル・スハイルしゃまは
エリスのせんせぇだし
エリスの街の英雄だもん」
エリスは心配する事ないと言う様に、明るく言っていた、それのやりとりをガイアとザウラクは聞いて、小さく笑っていた。
ガイアがステラに言った言葉は、エリスがアル・スハイルを信じている、それを聞いていたから言えた言葉でもあった。
「アル・スハイル様が帰ってきたら
戦いのお話を
いっぱい聞かせてもらおっと」
エリスはそんな状況でも楽しみが一つ増えた様に言い、遊び始めていた。
ガイア達の馬車がレチクル川に差し掛かり、馬車を止めてガイアが近くの人に聞いた。
「先を急いでんだけど
この橋でなんかあったのか?」
ガイアに聞かれた若い男が言った。
「あぁこの橋を
雨が降り始めた時に渡り始めて
真ん中辺りで雨が止むと
愛してる人と結ばれるって」
それを聞いた時、ステラの耳がピクッと反応した。
「そんな噂がたって
どうやらホントみたいでさ
人が集まって来たんだよ」
その若い男はそこで商売してるようで、色々な飲み物やつまみ見たいな者を持っていた。
ガイアはそれを聞いて思い出した、この橋でガイアが戦った亡霊のことを、そして汗を流してステラを見た。
「エリスちゃんあれ食べたい?」
ステラがエリスに優しいお姉さんの様に、以前には無かった新しいお店を指差して言っている。
「食べたぁぁいっ!」
エリスが元気に言う。
「じゃっ食べてから行こっか
ガイア馬車をそっちに寄せてくれない?」
ステラが言った。
「おっおい……」
ガイアが戸惑いながら言う。
エルナトとザウラクも、えっ?と言う顔をし戸惑っている。
「ス…ステラ様……
急ぎの旅では?」
エルナトが聞いた、ガイアが聞いても一蹴されてしまいそうな気がしたのだ。
「お姉ちゃんの心配は
しなくていいのよねガイア?」
ステラが聞いた。
「いや……」
ガイアが半分迷いながら言った、ステラは強気であり、ハッキリと言えば昼間でも流れ星を見かねない。
「アルナイルは
必ず…」
ガイアとエルナト、そしてザウラクはステラの言葉からほのかな重圧を感じていた。
「約束を……
守ってくれるのよね?」
ガイアはそのステラの言葉に重圧を感じ、一つの言葉しか選べなかった。
「あぁ…それは間違いないな……」
「じゃっ!
少しくらいなら
寄り道してもいいよねっ!」
ステラは嬉しそうにそう言い、エリスと馬車から降りてその店に入って行った。
「まぁ相変わらず
俺には選択肢はねぇな」
ガイアは言い小さく笑った、この旅もここまで休まずに来たのだ、そしてステラも元気がなかった気がしたので、少しくらい休んでも良いかと思い馬車を止めて店に入って行った。
「でよ……
雨っていつ降るんだ……」
ガイアがこの地域でいつの間にか名物になった、チーズケーキを食べながら言った。
「雨ね……」
この昼下がり空には雲ひとつない空が広がり、太陽が輝き雨雲が縁遠く思える空が広がり、その青空を見ながらステラが細い目で呟いた。
「天気ですか……」
エルナトがジュースを飲み快晴の青空を見ながら呟く。
「ザウラクは天気とか変えられる?」
ステラが聞いた。
「アル・ムーリフさま……
さすがに無理です」
ザウラクは自然に言いゼリーを食べている。
「うーん……
晴れを雨に…
変換すれば良いのかな……」
ステラがとんでも無いことを言った、天気を変換するなんて誰も発想しなかった。
「またぬか…ステラよ……」
ステラの口を使い紫の星がいきなり言って来た。
「……」
エルナトとザウラクはポカンとした、ステラの顔からしてステラの意識はそのままだが、紫の誓いの星が言っているのだ。
「器用なことするな
ステラの星って……
なんで姿を現さないんだよ」
ガイアが聞いた。
「ここは人目が多かろう……
妾が紫の星で現れれば
人が集まってしまう
この星では
救いの星とも呼ばれておるからな」
紫の誓いの星がステラの口を使って言った。
「なるほど……
解りやすい説明で助かる」
ガイアはこの状況で人が集まれば、身動きが出来なくなる気がした。
「それは解ったけど
なんで天気を変換させてくれないの?」
ステラが聞いた。
「ステラよ
妾との誓いはどうした?
妾の力はそちの誓いが力の源じゃ
アル・スハイルは
そちとの誓いの為に
剣を振り続けておる
よもや忘れてはおるまい?」
紫の誓いの星がステラの口を使って言う。
「忘れてません
だから旅に出てるんじゃない」
ステラは自然に言う。
「ならば何故時間を無駄にする」
紫の誓いの星が言い、更に少し重い口調で続けた。
「アル・ムーリフならば
天気を変えることなど容易かっただろう
だが今のそちはどうじゃ……」
そう紫の誓いの星は言ったが、ステラは鼻で笑い呟きだした。
「我…誓いの星が一星ステラ……」
いきなり詠唱し始めたのだ。
紫の誓いの星は自らの意思とは反し、その輝きを放ち始めた。
(なっ!
これは…そんなはずはっ……)
紫の誓いの星はステラに強制的に力を使われている気がし、思わず驚きの声を心であげた。
「わぁっ!
キレイキレイッ!」
エリスが喜んで触ろうとするがエルナトが慌てて止めた、星の力を使う時はその使用者が意識していれば、他者が触れても良いがもし意識してない場合に他者が触れれば、場合によってはその力に巻き込まれて仕舞う場合がある、それは触れる側が星の力を使えば防御出来るが、エリスは完全に無防備であった。
「待ってエリスッ
ステラ様はいま星に
全ての意思を向けてるのっ!
今はダメッ!」
エルナトがそう言い、店の中は騒然となっていた、店の中の他の客は紫の誓いの星を見て信じられずに居たが、その美しさを見て「星神様だ……」と呟く者もいた。
「我が想いを汲み
重き雨雲よ…生まれるが良い……」
ステラはそう言い席を立ち、店の外に歩いて行く。
空にはみるみるうちに雨雲に覆われて行く。
(これは……
アル・ムーリフと同じ想いっ‼︎‼︎
今はステラとして生きているはず
何故これ程までに強い誓いの力が……)
紫の誓いの星は最近のステラを見て疑っていたのだ、だがステラはまさにアル・ムーリフの時と同等に、いや無理に星の力を使っている時点で超えているのでは?と紫の誓いの星は感じていた。
「美しき空よ
僅かいっときで良い
静かに泣くが良い」
ステラが静かに言うとシトシトと雨が降り始めた、ガイア達も店から出てその光景を見て何故か切なさを感じた。
紫の誓いの星はあまりのことに、一瞬だけ強い輝きを放ち人々の目を眩まし、ステラの前にアル・ムーリフの姿で現れると言った。
「妾の力を無理に引き出すとは……
そちは誠にステラなのか?」
紫の誓いの星は聞いた、その様子を見て人々はただ呆然と見るしかなかった。
「そうよ…でも……
あなたも忘れてないかしら……」
ステラは俯いて言う。
「なにをじゃ?」
紫の誓いの星が聞いた。
「わたしは
アル・ムーリフでもあるのよ……」
ステラが言い紫の誓いの星は静かに聞いている。
「500年前……
わたしはハダルとこの星に降りたわ
でも…ずっと離れ離れだった……」
ステラは雨に濡れながら話している、ステラの髪から一滴一滴雨が滴り落ちている。
「やっと会えたけど
恋人らしいことってあまり無いの……
甘えさせてくれてる
そんな気はするんだけど」
ガイアはそれを静かに聞いていた。
「この星で色々あって
ゆっくり出来てるのも
この3ヶ月くらいしかなくて
あの人があぁだから
それでも少しでいいから
そんな時間が欲しいの……」
ステラがそう言いエルナトが、心配そうに困った様にガイアを見る。
紫の誓いの星はステラが記憶を取り戻しただけでは無いと気付いた、ステラがあるべき姿に戻った時に紫の誓いの星は、アル・ムーリフの記憶をそのままステラに返していたが、人格も取り戻していたのだ。
「あなたが
わたしのお姉ちゃんとの誓いを
守って欲しいって
そう思うのは当然だと思う
だけど私の人としての時間って……
限られてるのよっ!
星神みたいに長く無いのっ‼︎‼︎
若くキレイに居られる時間って
一瞬でしかないのよっ‼︎‼︎
そんな大切な時間の中で
ほんのちょっとくらい……
好きにさせてよ……
誓いは忘れてないしっ!
お姉ちゃんのことも大切だしっ!
全部わかってるからっ‼︎‼︎
好きにさせてよっ‼︎‼︎」
ステラは紛れもなくアル・ムーリフの全てを取り戻していた、それでいて人の命が星海人と違い、非常に短いことも理解していたのだ。
ステラは人としての時間も大切にしたいと思い、ガイアに強く当たり続けるのも、最初は育ち的なものがあったが、その命の短さがゆえに一秒でも早く気付いて欲しいと言うことが重なり、より強くあたっていたのだ。
今となっては、ガイアにいつも強くあたるのはステラらしいと言えよう、だが今のステラはアル・ムーリフそのものだった。
「妾としたことが
気付かなかったとはな……」
紫の誓いの星が静かに微笑んで言った。
「…………」
ステラは俯いたまま何も言わずにいた。
「この様な成長もあるとはな……」
紫の誓いの星がそう言いステラは、不思議そうに顔をあげて紫の誓いの星を見た。
「妾はゆっくりと
良い名を待つとしよう……」
紫の誓いの星はゆっくりと消え、静かに聞こえないように呟いていた。
(いま妾の力を引き出したのは
誓いではなかった……
そういった術もあるとはな……
これからが楽しみじゃな)
ガイアが馬車を出しステラを乗せ、ガイア達は橋を渡り始めた、ガイア達が橋の真ん中まで来た時に雨は止んだ、それはステラが操作した訳ではなく自然と止んだが、ステラは盛り上がる気にはなれなかった。
自分の想いを紫の誓いの星にぶつけたのだが、本当にそれで良いのか解らなく不安になっていたのだ。
(なんで…私……
あんなこと言っちゃったんだろ
紫の誓いの星が言うのも大切だし
星との信頼も……)
ステラがそう思い落ち込んでいる時に、もう少しで橋を渡り切るところで不意に紫の誓いの星が言った。
(何を落ち込んでおる
以前にアル・スハイルのことで悩んでいた
まさにあの時の顔をしておるな……)
(ごめん…言い過ぎたよ……)
ステラが紫の誓いの星に言ったが、紫の誓いの星は静かに言う。
(詫びなど良い
顔をあげよ……
そちはあやつらに
会いたかったのだろう?)
ステラは静かに顔をあげると、そこにはかつてこの橋であった亡霊が、幽霊として立っていた。
以前の様な凶々しさは無く、怖さはまったく感じなかったがステラは思った。
(天国に行ってなかったんだ……)
だがその幽霊の姿は誰かを呪っている訳でも無く、祟っている訳でも無く美人な幽霊で、橋の上にいる人の幸せを願っているのが紫の誓いの星の力で感じることが出来た。
そして馬車ですれ違う時にその幽霊は振り返り、ガイア達の馬車に向かってお辞儀をしてくれステラの頭に声が聞こえた。
(ありがとうございます
お幸せになって下さいね
応援してますっ!)
ステラはその幽霊がガイア達を覚えてくれていたのに気付き、馬車の外に顔を出し幽霊を見つめると、その幽霊は微笑んでスッと消えていった。
ステラはそれを見て紫の誓いの星が微笑んでいる様な気がし、想いを分かり合えたのを感じていた。
「ステラ様
幽霊を見つめて
どうされたんですか?」
ザウラクは命を操る星を持つせいか幽霊の存在に気付いていた、その言葉を聞いてエリスはビクッとしエルナトも驚いていた。
「なんでも無いわっ!旅を急ぎましょっ」
ステラは明るく言った、とても幽霊を見ていたとは思えない様に、切なさを隠し明るく爽やかに言っていた。




