第一章 第13話 光星
(しまっ……)
アルナイルは二つの影を防げずに、そう思った、あまりにも強い光を放ち空間すらねじ曲げていた為に、とてもゆっくりに感じたがアルナイルにはその二つの影をどうする事も出来なかった。
アルナイルはそのままの姿勢で、影から放たれた斬撃を見たが、次の瞬間もう一つの影が、上から杖を振り下ろすように見え、その杖のような影が斬撃を防ぎアルナイルの前にまるで守ろうとする様に割り込んで来た。
アルナイルは信じられなかった、大大星同士の戦いに割って入る星など知らない、そんな勇猛な星に覚えがない、いや勇気があっても割って入れる力を持つ星など考えが及ばなかった。
「そのお顔……
ガイア殿でないのが
ご不満ですかな?」
穏やかな声でその者は言った。
「その声は
サラス…セプテント……」
アルナイルはやっと気付いた、ミアプラの星は命の星と呼ばれた星、そしてミアプラはサラスを愛していた、ミアプラが最愛の人を本物の命を与え生き返らせても不思議ではなかった。
アルナイルが呟いたあと、切り裂かれた右腕がみるみるうちに癒されていき、ぼろぼろになった体も癒えていく、ミアプラがアルナイルを回復させてくれていた。
アルナイルは光を消し、再びサラスを見るが、やはり間違いなくサラス・セプテントであった。
「サラス…
どの様な風のふきまわしなのですか?
あなたは
アル・スハイルを憎んでいた
わたしの同士ではなかったのですか?」
メビウスが姿を表しサラスに聞いた。
「なぜアル・カストルの子を
憎まなければ
ならぬのじゃ……?」
サラスが言った、その言葉でアルナイルは更に多くに気付いた、サラスは演じることにより、アル・スハイルとアル・ムーリフを守っていたのだ、メビウスの力を知るサラスは残酷なこともいとわず、二人が抵抗できるように育つまで、優しさを隠しメビウスに従うふりをして演じきっていたのだ。
「わしは役者にも慣れそうじゃな
偉大な大大星である
スピカもメビウスもセプテントリオも
わしの演技に気付かなかったとは
思いもよりませんでしたな」
サラス・セプテントは顎を触りながら満足気に言った。
(そうだったんだ……)
アルナイルは今までの疑問に納得しそう思っていた。
サラスは、騙されていたと知り怒り溢れ始めたメビウスに、ミアプラの杖を向けて言った。
「メビウスよ
諦めるが良い
今やアル・スハイルも
アル・ムーリフも
そなたの好きに出来ぬ程に成長しておる
星の女王スピカの想いを
聞いても良いと思わぬか?」
「サラス……」
アルナイルは呟き、サラスが巨星としての役目を果たそうとしている事を感じた、偉大な星、その意味を持ち、星海人に初めて手を貸したミアプラの意思でもあった。
アルナイルはミアプラの杖から申し訳なさそうな、想いを感じた。
(スピカ様…)
ミアプラはその気持ちを込めて呟いた。
ミアプラはかつてサラスを選び手を貸したのも、スピカのしようとした事に共感したからであった、星海を命で溢れさせる、それはセプテントリオから旅立った精霊達が美しく見えた。
そうしなければならない、そう解っていても踏み出せなかったスピカにとって、星海をより美しいものにしたいと思った気持ちが背中を押し、自らの星を犠牲にした行いであった。
「許せない……
セプテントリオは何をしていたのだっ‼︎
百億年もこのわたしを
騙していたと言うのかっ!
サラスッ‼︎‼︎」
メビウスが怒りを見せて叫び、嘲笑うようにサラスは言った。
「百億年……
一千年や一万年ならば
仕方ないと思うが
百億年も騙される方が
悪いのではないかな
わしもいつまで続くのか
しまいには楽しくなっておったのでな
ガイアと言う小僧に
負けてやったくらいじゃ」
(負けてやった……
違うっ!
あれは本気で……)
アルナイルはサラスが再びメビウスを騙そうとしているのに気付いた、だが疑問に思う表情も見せないアルナイルにサラスは僅かに口元だけに笑みを見せた、サラスはガイアの実力を認めていた、可愛い愛娘として育てたステラを託せるほどに、それをサラスは隠したのだ。
「おのれ……
このわたしを……」
メビウスはそう静かに言い、サラスに襲いかかった。
「いまじゃ……
アル・スハイルの元に行きなされ」
サラスがアルナイルに小声で言った。
サラスはメビウスの斬撃をミアプラの杖で弾き、そのまま凄まじい突きを放ち、メビウスの腹部に当たり突き飛ばす。
メビウスは飛ばされながらも、メビウスの輪を放ち呟き加速させ、サラスの腹部を狙うがアルナイルがそれを弾いた。
「貴方だけを残す訳にはいきませんっ‼︎」
アルナイルが強くサラスに言った、それはサラスから聞き出さなければならないことが山ほどあった、その中でもステラをどう思っているのか、それが一番気になっていた。
「お気遣いは無用……
今更我が娘に
合わす顔などありませんので……」
サラスはそう小さくも穏やかに微笑み前に出てメビウスの輪を杖で弾く。
「我が…娘……」
それを聞いてアルナイルは呟き、本当にサラスはステラを可愛がっていたことを知った。
サラスが最後にガイアとステラを相手にし戦ったことは、二人が支え合い、共に戦えるのかを見る為であったことを知った。
セプテントリオの杖を持つ者として、ガイア達と戦えば大大星セプテントリオはメビウス側である事を見せることになり、メビウスが強行してアル・スハイルとステラを攻撃しないようにさせる為だと知った。
サラスは多くを考えそう動いていたのだ、誰にも気付かれない様に自らの死まで組み込み、メビウスが一人でスピカと争うのでは無く、メビウスが絶対の勝利を求めセプテントリオと共に動くように演じきっていたのだ。
全てはアル・スハイルとアル・ムーリフが力を付けるための時間を稼ぐために……。
「ミアプラッ!」
アルナイルはサラスの意思が硬いことに気付き、ミアプラに聞こうとしたが、ミアプラは静かに朧げに姿を表し、静かに一度だけお辞儀をして姿を消してしまった。
ミアプラはサラスと長すぎる間、サラスから離れていたので、サラスから離れたく無い様であった。
それは愛する人に尽くそうとするミアプラが、大大星スピカであるアルナイルよりサラスの意思を尊重したと言うことであった。
「スピカッ!
それがあなたの選んだ道っ!
星海を支配しないと言うことは
生ける者全てに
自由を与えると言うことなのですっ‼︎‼︎
それは星々さえ
我らに従わぬということっ‼︎‼︎」
メビウスがアルナイルとミアプラの様子を見てそう叫び、サラスに襲いかかっている。
サラスは余裕を見せず、メビウスの攻撃を防ぎ、鋭い眼差しで杖を振り応戦している。
幾度もサラスは致命傷を負う、その一撃一撃は、アル・スハイル、アル・ムーリフ、アルタイルの誰が受けても即死する程の一撃であるが、ミアプラの溢れる命の力で持ち堪えている。
ミアプラも愛するサラスを支える為に、星を力強く輝かせミアプラの杖が光輝き、サラスに不死を思わせるほどに命の力を溢れさせサラスを回復させ続けている、サラスもミアプラの想いに応えるようにメビウスに打撃を与えるが、その度にメビウスは自らの時を戻し攻め立てていた。
「メビウス…
私達は静かに過ごしてきました
多くの星が生み出され
あまねく銀河が生み出され
その銀河の中にそれぞれ
私達の様な大大星が居て……
時折交流をとり
静かに過ごしてきました
この銀河は星海と呼ばれたのは
その大大星達に呼ばれてからのこと……
私達の星海は
もっとも静かに美しく
他の銀河の大大星も……
羨んでいましたね」
アルナイルは初めて大大星以外の者の前で、星海と呼ばれた由縁を話し始めた。
「それを……
血迷ったのですかスピカっ‼︎‼︎」
言われてはならないことなのだろうか、メビウスはアルナイルを黙らせようと、チャクラムを放った。
そのチャクラムは殺意に溢れ、アルナイルを狙っていたが、サラスがそれをその身に受けてアルナイルを庇った。
「女王…続きを……」
サラスが苦しそうに言った。
アルナイルはサラスの意思を汲み取り話し続ける。
「あなたはこのままでは
あなたの力を持ってしても
繰り返すことは出来なくなります
わたしは…
寂しいだけで
この星海に命を
溢れさせたのではありません
いつかこの星海を見る
私達大大星が三人揃っても
この星海を守れなくなる
そんな時が……
来てしまうかもしれないのです」
アルナイルは何かを伏せてはいるが、メビウスはそれを知っている様であった、だがミアプラはアルナイルの訴えたいことに気付いていた。
ミアプラの星はこの星海の一番端にあり、ダイアモンドクロスと言う星団を率いている、その先にはこの星海とは違う銀河が遠くに見えていた。
(解っていましたよ
スピカ様……
あなたが守ろうとしているものも……
あなたに頼まれた時から……)
ミアプラはそう思いながら、サラスを支え力強く戦える様にサラスに力を送っていた。
「ミアプラッ!
あなたが何故大大星と
呼ばれ無いのか
わからないのですかっ‼︎」
メビウスがそう言い、サラスの杖に集中し始めたのに気づいた。
「メビウス……
これはわしの女じゃ
そなたの声に耳は貸しませぬぞ」
サラスがメビウスに鼻で笑いながら言った、その言葉は明らかにメビウスを挑発している、何かの打撃を入れたいのか隙を作ろうとしている。
「黙れっ星海人如きがっ‼︎‼︎」
メビウスが叫び、メビウスの輪を手にし赤紫色に輝かせ分裂させ、大きな声で言った。
「全てに寄り添いし時の流れよっ‼︎」
「いけないっ‼︎」
アルナイルが叫び前に出ようとしたが、すかさずサラスがアルナイルの前に出て言った。
「お待ちを
我らだけではありませぬ……」
アルナイルはサラスが何を言いたいのか解らなかった、アルナイルはメビウスの詠唱を知っていてそれを止めようとしていたのだが、サラスに止められる。
「その美しき流れと……」
メビウスはそう言った時に、サラスが不敵な笑みを浮かべているのに気づいた。
(その顔…記憶からも
決してさしあげます)
メビウスは冷たく微笑み言い続ける。
「その全てを……」
そう続けた時に、サラスの瞳に赤い光が映ったのに気付いた。
メビウスは振り返った瞬間、アル・スハイルの赤い光線に胸を貫かれる。
「……」
アル・スハイルはまた簡単に当たったことに半分呆れそうになるが、それを踏みとどまり呟く。
「メビウスは
余がなにゆえ大星と呼ばれたか
知らぬのか……
まぁ……
この距離での命中は
初めてじゃな
その上に話まで見せて貰った……」
アル・スハイルは独り言の様に言ったが、赤い星を近くに寄せ、そっと触れていた、まるで赤い自らの星に話しかけているようであった。
(アル・スハイル……)
赤い星が、ふぇ?と言う顔でそう言った。
アル・スハイルはこの狙撃で初めて20日を超える距離、22日の距離を初めて命中させた事を、赤い誓いの星に言っていたのだ、そして口の動きだけで相手が何を言ってるのか読み解く、アル・スハイルには三人のやり取り全てが筒抜けであった。
「あんな遠くから……」
メビウスは口から血を流しながらもそう言った。
「解りましたかな?
もはや絶大なる
大大星の力と言えども
このわしも含め
アル・スハイル
アル・ムーリフと
そなたに噛み付ける者が
現れておる……
そのうちガイアもアルタイルも
我らに追いつくもの……」
サラスが現実を見せるように話そうとした、サラスもアルナイルの意を汲んでメビウスを、説得しようとしていた。
「みとめない……」
メビウスは呟き冷たく言った、それはアル家がアル・スハイルの元で成長し、星海最大の勢力を持とうとしていた、もはや以前の様に、アル・スハイルの呼びかけを無視するような星海人の街は、一部を残してほぼ無いと言える。
それをメビウスは許せなかった。
「その全てをも染め上げる
美しい輝く流れよ
激しき流れに変わりてっ!⁉︎⁉︎」
そして姿を消し時の流れに変わろうとした瞬間、アルナイルが光になりメビウスを抱きしめた。
「スピカッ!」
メビウスが声を上げたが、アルナイルは優しく言う。
「わたしがいることを
忘れないで下さい……」
メビウスを悲しい目で見てから静かに言った。
「あなたのおはなし
私がゆっくり聞いて差し上げます……」
「待てっ!
その目っ‼︎
やめよっ
その目の力を使うなっ‼︎」
メビウスは気付いて振り払おうと暴れはじめた、アルナイルの瞳が光を全て吸い尽くす様な、絶望に染まったような色をしていることに。
「女王っ‼︎」
サラスは止めようとしたが、アルナイルは強く光り輝きその光がメビウスを包み始める。
「繰り返すっ!
繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す‼︎‼︎」
メビウスは何度も叫ぶように言い、アルナイルの時を戻そうとしているが、強すぎる光がねじ曲げているのか、その絶望をたたえるようなブラックホールの様な瞳が吸い込んでいるのか解らないが、メビウスの力が全くアルナイルに効かなかった。
「アルナイル……
なにをしようと言うのだ……」
アル・スハイルは遥か遠くからその様子を伺っていたが、近づかない方がいい気がしていた。
「あの光は……」
アルタイルがやっとアル・スハイルの近くまで来て、呟いてから叫んだ。
「アル・スハイルッ‼︎
アルナイルは
光星になろうとしているんだ‼︎‼︎
止めないとっ!」
「光星……
あのハダルの星を包んでいる星かっ‼︎‼︎」
アル・スハイルは気付いた、あの不思議な実体の無い光り輝く星、ハダルの星を包み隠し、ハダルに敵対する者からハダルを守り続けている不思議な星、それでいてどの様な者も傷つけない優しい光だけの星であった。
アルタイルが力を振り絞り超加速を使い、アルナイルの元に急ぐが、アルナイルの輝きは増していき、メビウスを包み込もうとする。
「スピカッ‼︎‼︎
私を閉じ込めるつもりですかっ!
星を失ったあなたの力で
わたしを閉じ込められるとでもっ!
思っているんですかっ‼︎‼︎」
メビウスが叫びアルナイルに訴えているが、アルナイルは静かに言った。
「何時迄もとは言えません
でも…あの人達が……
大大星の支配する星海を……
この誤った星海の姿を……
美しく変えるまでの時間くらいは
作れると思います」
アルナイルはガイアとステラ、そしてアル・スハイル、アルタイルと知り合った星海人達を思いながら言った。
「スピカ様っ!」
サラスが無理にでもアルナイルを止めようと近づこうとしたが、アルナイルから光り輝く波が放たれサラスは近づけなかった。
サラスは杖に力を込め、その波を引き裂き強引にでもアルナイルを救おうとしたが、頭に声が染み込む様に聞こえてきた。
(サラス…
あなたはステラさんのために
生きて下さい……
アル・カストルが
あの様な最後を遂げたのも
わたしの声を聞いてくれたから
わたしを愛してくださったから
あの人の子を守ってあげて下さい……)
「スピカさ…ま……」
サラスはその声を聞きながらも、光の波に光の波に手を伸ばしアルナイルを救おうとしたが、凄まじい大波の様なそれでいて優しい光の波に押し流されてしまう。
その光の波は、アルナイルの元に向かおうとするアルタイル、アル・スハイルにもあっという間に届き二人を押し留めた。
「何と言う……
これがアルナイルの力か……」
アル・スハイルはその力に抵抗し突き進もうとするが、手も足も出ない凄まじい力をその身に受け、苦しそうに言った。
(みんな…ありがとう……)
サラスは優しいアルナイルの声を聞いた、それはアル・スハイルにもアルタイルにも聞こえ、ガイアとステラにも届いた。
ガイアは馬車を走らせながら空を見上げ呟いた。
「アルナイル……」
ステラも馬車から顔を出して空を見上げ、二人は空に昼間でありながらもう一つ太陽の様に輝く星を見つけ、何が起きたのか解らないが、その星がアルナイル自身だと気付き、驚きと戸惑いを隠すことは出来なかった。




