第一章 第10話 想い出
アルナイルが出した光の剣は輝きが収まると、その手にはアルタイルが持っているエストックと全く同じエストックを握っていた。
「それが貴女の……」
メビウスは初めてスピカの武器を目にした、スピカは今までセプテントリオにも、メビウスにもその武器を見せた事はなかったのだ。
「私に剣を…
使わせないで下さい……」
それは、優しいアルナイルの言葉だった、争いを好まず出来れば話し合いでまとめたい、その気持ちを込めた言葉であった。
ガイア達はアルナイルとメビウスのやり取りを知らずに旅を続けている、ザウラクが加わり賑やかになり、楽しげに旅を続けていた。
だが紫の誓いの星は、青空の向こうを見つめ異変に気付いていた。
(メビウスとスピカ……
あの争いに我らは関与出来ぬな
セプテントリオが
どう振る舞うのか解らぬいまは
何も出来ぬ……)
紫の誓いの星は冷静にその心配をステラに悟られない様に、そう考えていた。
もしセプテントリオがスピカに手を貸すならメビウスも思い止まるかも知れない、逆にスピカと敵対するなら、スピカがアルナイルが窮地に立たされてしまう、紫の誓いの星はセプテントリオに悟られない様にそっとしていた。
(お姉ちゃん
メビウスと女王様が戦ってるよっ!
私達はどうすればいいの……)
赤い誓いの星が紫の誓いの星に聞いた。
(仮にもメビウスは
私達の母星である……
母君は私達を許してはいまい……)
紫の誓いの星が言った、それは紫の誓いの星が時間を止める力の秘密でもあった、紫の誓いの星は考えふと気付いた。
(そう言うことか……
大星アルタイルは
セプテントリオの子の星にあたる
ハダルは自らの子……)
紫の誓いの星は、スピカが描いていた計画に気付いて小さく微笑んだ。
(肝心なガイアが
あぁでは中々進まぬと言うことか)
少し呆れた様なそれでいて困ったような、それでいて様々な疑問が生まれたような顔をしている紫の誓いの星に赤い誓いの星が言った。
(お姉ちゃんどうしたの?)
(見守らねばならぬのでな
あの運命を左右する戦いと……
このくだらぬやりとりをな……)
紫の誓いの星が視線を送る先には、あぁだこうだ言い合い、ステラに殴られるガイアを見てため息を吐きながらこう思っていた。
(そうであったな
ハダルにアル・ムーリフを合わせたのは
アルナイル…そちであったな……
今までの演技は今となれば
見事としか言いようがないのぉ……)
「いってぇっ!
マジで殴らなくてもいいじゃねぇかっ‼︎」
ガイアが叫ぶ。
「いいのよあんたはっ!
もっと私のことを大切にしなさいよっ!」
ガイアがまた何か言ったのだろうか、相変わらずの光景が森の中を走る馬車で繰り返されている。
そうしてる時に、地響きが聞こえて来てガイアは馬車から飛び降り、大地に立ち力強い生き物が向かって来ることに気付いた。
「なに……」
ステラが呟きエルナトが馬車を止めた。
「チッ……」
ガイアが舌打ちし、馬車に向かって走って来た、その瞬間木々が薙ぎ倒され、ビックタイガーウルフが馬車に襲い掛かった。
ガイアは間に合いビックタイガーウルフの顔を殴り飛ばした。
「なんで……
動物が巨大化してるの……」
ステラが驚いて呟いた。
アル・スハイルの言葉通り、周辺国は精霊術を使うのをやめ、アル・スハイルとステラが、二人がかりで星海からこの星全体の巨大化した動物達の誤った進化を、誓いの星を使い正常に戻したのだ、だが間違いなくビックタイガーウルフが襲って来たのだ。
ステラが驚いているうちに、もう一匹のビックタイガーウルフが現れ、ステラに襲い掛かったが、そのビックタイガーウルフもガイアが殴り飛ばした。
「おらよっ
これでも大切にされてねぇってのかよっ!」
ガイアは以前と同じようにステラを守ろうとしている。
「エルナトッ!
馬車を走らせろっ‼︎‼︎」
ガイアが叫びエルナトが馬車を走らせる。
「置いていっていいのですか⁉︎」
ザウラクが驚くように聞いた。
「だいじょぉぶっ!
ガイアお兄ちゃん強いからっ!」
エリスが元気に言う。
「そうじゃなくて……」
ザウラクは追いつけるのかを聞いていたが、ステラは考えていた。
(なんで…動物達が……
これじゃ…セプテント領は……
お…とうさん……)
ステラは気付いた、サラス・セプテントが城壁作りに力を入れていたこと、そして大量に買い集めた武器の最終的な行き先もあの後に出て来た書物に書かれていた。
その行き先はセプテント領の隣にある他の領主の領地にも振り分けられていた、ステラはその書物を読み、街の守りを固めるように指示が書かれていたのも見て、それに必要な武器をステラが領主になった挨拶としてその指示も合わせて送っていた。
サラス・セプテントが自らの領地以外も守ろうとしていたのかと、ステラはそう考え始めた。
最初は違う物を送ろうと考えていたが、紫の星が悩んでいたステラにそうするように囁いたので、ステラはその通りに武器を送ったのだが、そのおかげで心配はあるけど行動出来ると言う状況であった。
(あの時お父さんは
こうなることを知っていたの?
なんで……
いやきっと重なっただけよ
でも……)
ステラはふと思い出した。
その昔、ステラがまだ幼く物心ついた頃のこと……。
「ステラ様
夕食のお時間です
サラス様がお待ちですよ」
ユーファが勉強しているステラを部屋まで呼びに来たのだ。
「はぁいっ!
今日のご飯は何かなっ!」
元気にステラが返事をして本に栞を挟んで閉じ、ユーファに駆け寄って飛びついて甘えた。
ユーファもそんなステラをメイドではあるが可愛がる様に、手を繋いで連れて行くが、食堂を通り過ぎてステラが聞いた。
「あれ?
ご飯じゃないの?」
「今夜はサラス様が
庭で食べようと言われまして
お庭の方に支度しております」
ユーファも庭でと言うことに少し不思議に思ってるような、そんな仕草を見せて言うが、外が好きなステラは目を輝かせて喜びの声をあげる。
「やたぁ!」
可愛らしくそう大きな声をあげ廊下を走り玄関に向かった。
「あっ
ステラさまっ
走ってはいけませんっ!」
ユーファが慌てて追いかける。
ステラは玄関から元気に飛び出すと、美しく満天の星空の下に、大きなテーブルに白いテーブルクロスがかけられ、幾つものランプが優しく辺りを照らしロマンチックに演出されていて、サラスが優しく穏やか顔で夜空を見上げながら待っていた。
「パパッ!」
小さなステラは元気に言いサラスに飛びついた。
「ステラよ
間に合ったようだね
さぁ席に着きなさい」
サラスはそう優しく言い、ステラを自らの手で椅子に座らせ、席に着き穏やかに横に控えるシルフィに頷くと、シルフィが銀色の鈴を鳴らした。
するとメイド達が料理を運び、美しくテーブルに乗せられて行く。
「さぁいただくとしようか」
「はいっ!……」
ステラが元気に言うが急にはっとした様にしょぼんとした、その後ろでユーファが困った顔をしていた。
「良い良いっ!
今宵はマナーなど気にしなくて良いっ」
サラスがそう言い、ユーファが微笑んでお辞儀をする、ユーファはステラの教育係であり、テーブルマナーをステラに教えていたのだ。
そして穏やかに家族の時間が流れて行くが、サラスが不意に言った。
「そろそろじゃな
ステラよ空を見なさい」
サラスが優しくステラに言った。
ステラは口の周りを少し汚していたが、可愛く不思議な顔をして夜空を見上げた。
ステラは月が好きなので月を見上げるが、サラスが言った。
「あっちじゃ
あの星を見なさい」
サラスはそう言い、紫の誓いの星の方を指差した、ステラは不思議そうにその星を見るとその星に親しみを覚えた、その時、ステラの視界にスッと美しい線が見えた。
「えっ……」
ステラは驚いて声を漏らした時、沢山の流れ星が現れては消え、美しく美しく夜空を飾り出した。
「きれい……」
ステラは星空を見て思わず呟いた。
サラスは優しい父親の顔でステラを見てからまた夜空を見上げ、親子で美しい天体ショーを見ていた。
サラスはこの流星群が来る事を知っていたのだ、それはまるで未来を見たかの様にそのタイミングも正解に知っていた。
「次はあの辺に沢山来るぞぉ」
サラスも楽しそうにそう言い、アルタイルの星がある方を指差した。
ステラがその方を見ると、不思議と幾つもの流れ星がその方向に流れた。
「すっごぉぉぉぉぉいっ!
なんでっ⁉︎
なんでわかったの⁉︎⁉︎」
幼いステラははしゃぎだし、その後もサラスが言う方向を見て、楽しく美しい夜空を見続けていた。
「なんでなんでわかるのぉぉ?」
ステラが可愛く元気にまた聞くと、サラスは穏やかな笑顔を見せて言った。
「ただのカンじゃ」
「カンってなぁに?」
ステラが不思議そうに聞いて、サラスはあまりにも素朴過ぎる質問に一瞬戸惑ったが、言った。
「カンはカンじゃよ」
サラスは適当にその場を誤魔化したが、美しく楽しい家族の時間が止まることは無かった。
ステラは走る馬車の中で、幼い時のことを思い出したが、サラスのその星を見る力に予知的なものを感じ、悲しくなり始めていた。
「ぜんぶ……
知っていたのかな……」
ステラはそう呟いた。
「えっ…
なにをですか?」
エルナトが聞いた。
「………」
ステラは答えない、余りにもそうであったら悲し過ぎるそう思えてならなかった、ステラがサラスと共に過ごした日々は、嫌なことも沢山あったが、ふと思い出せば美しい時が数多くあった。
その後も数多くの天体ショーをサラスと共に見た、北の国まで行き夜空を彩る光のカーテン、オーロラを見に行った事もあった、明るい時もガラスを黒く焦がして日食を見たこともあった。
そのどの想い出も、楽しく美しいものであった。
サラスも星海人であるが、人として過ごすことを選んでいたのかも知れない、ステラはそう思えてならなくなっていた。
ステラが俯いていると、エルナトが前方に砂が溢れ人の形になったのに気づいた、ガイアがビックタイガーウルフをあしらい先回りしたのだ。
ガイアは飛び馬車に乗り込むと、俯くステラを心配して言葉をかける。
「大丈夫か……」
「うん……」
ステラが小さな声で言う。
「フランシスか?」
ガイアが巨大化した動物のことを考え、ステラが大切にしている、フランシスの街のことを聞いた。
「ううん…ありがとう……
フランシスも他の街も大丈夫
守りも固めてるから心配はないわ……」
ステラがそう言いガイアが優しく言った。
「サラスのことなら
俺たちで調べちまえばいいんだよ」
ガイアはステラの気持ちを手に取る様に言った、荒い言葉だがステラが今求めてることを鷲掴みする様に、ガイアは言った。
ステラはそれを聞いて優しい顔でガイアを見る。
セプテントリオの杖を探すことと、サラスを調べることは繋がっているが、明確に言えば異なることだった、最終的に繋がるだけである。
「なんで旅に出たんだよ」
ガイアから聞いた。
その言葉を聞いてステラはガイアに手を引っ張られた気がした。
「知りたかったんじゃねぇの?
サラスが持っていた杖を探して
サラスがあの力を手にした時
何を思ったのか……」
ガイアが言い、ステラは悲しそうな顔をした。
本当は良い人だったかも知れない。
本当は優しい人だったかも知れない。
この星を滅ぼす様なことを考える様な人じゃなかったかも知れない。
それが疑問であり、疑問であるから救われている一面もあった。
もし本当に悪い人で、野心的で、手段を選ばない様な人であったら、ステラの胸にある美しい想い出が全て幻になってしまう。
ステラはそれを恐れていた。
「お前がもし帰るんだったら
俺は引き留めはしない……」
ガイアが言った。
「え……」
ステラが不安の声を漏らした、その時エリスは馬車の背後を見て遠くに何かを見て、元気に手を振っているが、ガイアは構わず話し続ける。
「俺はアイツがあの力を手にした時
どんな気分だったのか知りてぇんだ
この俺を……
あそこまで叩きのめした杖
どんなもんか知りたいだけさ……」
地上戦で自信があるガイアを打ちのめした杖、そのガイアだからこそ知りたいと思ったことであった。
「お前が来なくても
俺は探すぜ
見つけたらお前にくれてやるから
屋敷でゆっくりしてていいんだぜ」
言い方は荒いが、ガイアは優しい顔で言っている、サラスを倒したのはガイアでありその責任の様な気持ちもガイアは感じていた。
(ねぇあなたは
なんで旅に出たの?)
ステラの頭に自分の声であの言葉が響いた。
ステラは涙を流しそうになったが、それを脱ぐって言った。
「私のことよ
帰れる訳ないじゃないっ!」
ガイアはそれを聞いて微笑み手を差し出し、ステラはそっとその手を握り、ガイアは言った。
「じゃっ決まりだなっ!」
ガイアはそう言い馬車の後ろを指差して言った。
「うんでよ…
ちょっとアイツら
戻してやってくんねぇか?」
ガイアはエリスが手を振ってる相手のことを、ステラに頼んだ。
ステラは、えっと思いながら馬車の後ろを見ると、ビックタイガーウルフがガイア達の馬車を追って来ていた、怖いもの知らずのエリスは大きな狼さんと思って手を振っている。
「わりぃ
アイツら家族見たいだからさ
なんかやる気になれなくてさ」
ガイアか頭を掻きながら優しくも困った顔で言った。
ステラが紫の星を出して見ると確かに子供の様に、小さめのビックタイガーウルフが、更に後方から追いかけて来ている。
(家族……)
ステラはそれを見てそう思い微笑み、スッと手を彼らに向けると、紫の誓いの星が飛び立ち彼らの頭上で輝き、その光に包まれたビックタイガーウルフ達は元の大きさに戻っていく。
「ちっちゃくなってく!」
その様子を見てエリスが指差して元気に言い、彼らはガイア達の馬車を追うのをやめ歩き始めた。
「また追いかけっこしようねっ
ばいばぁぁぁぁぁぁぁいっ!」
エリスはエリスで楽しんでいたようだが、ステラが変換し元に戻っていく動物達の姿を見ていたザウラクは眉をしかめる。
(アル・ムーリフ
そちに残したのは記憶だけではない……
必要とあれば……)
紫の誓いの星がステラを見ながらそう言い、星海でアルナイルの輝きに目を向け、真剣な顔で見つめ始めていた。




