第一章 第9話 大大星スピカ
(追いついた……)
アルナイルは飛んで行くメビウスの輪を、その目に捉えた。
(最後じゃないよね……)
アルナイルはそう心で呟き、強く強く光り輝いて加速し、メビウスの輪を追い越し星海人の姿でその前に止まり両手を広げ、遮ろうとした。
するとメビウスの輪はアルナイルの前で、ピタリと止まった。
「メビウス……
久しぶりですね
私のことを
覚えていてくれたのですね」
アルナイルが言った。
「お久しぶりですね
豊穣の星…星の女王スピカ……」
メビウスの輪は静かにアルナイルにそう言った。
「…………」
アルナイルは僅かに顔を曇らせていた。
一方アトリアロフでは。
「アル・スハイル
ちょっと書庫にいるから
用があったら呼んでね」
「アルタイルよ
この後に及んでも一人で調べるのか?
余も付き合わせぬか」
アル・スハイルがそう言い、アル家の書庫に向かうアルタイルについて行く。
「じゃぁ聞くけど
力を分ける星しってる?」
アルタイルが聞いた。
「力を分ける星とな……」
アル・スハイルが少し考えてから言う。
「余の星ならば
分けることが出来る
だがそれはアル・ムーリフの持つ
紫の誓いの星との間だけのことで
双子星の特性じゃ
他者に力を分けるのは
容易なことでは無い……」
「だよね……
もし力でなく
人格そのものも分けれるとしたら
一つしかないはず……
それは双子星の特性
力の共鳴や共有なんて代物じゃない……」
アルタイルは真剣な顔で言った、アルタイルの腰に身につけている、エストックが僅かに光ったことに気付かなかったが、アル・スハイルはそれに気付いていた。
「アル・スハイル様っ!」
アル・スハイルとアルタイルの背後から、サルガスの声が聞こえ、二人は足を止めるとサルガスが急いで二人の近くに来てひざまづいて言った。
「アル・スハイル様
お呼びでございますか?」
「うむ……
そちは急ぎ
メビウスの星の様子を見て参れ」
アル・スハイルが言った、アル・スハイルはメビウスを退けた後に赤い光を放ち、サルガスを呼び寄せていたのだ。
「星に降りる必要はない
見て参るだけで良い」
メビウスはアル・スハイルが最も敵視した星、それを知っているサルガスは聞いた。
「文明があったとしても
侵攻しなくて良いのですか?
かつてあれほど憎まれた星を……」
「憎むのはやめじゃっ!
このままでは
取り返しの付かぬことになり兼ねぬ
良いな例え牙剥く者がおっても
決して手を出すなっ!
今どうなっておるかを
余に知らせれば良いっ!
あとチャクラムを見ても手を出すなっ!
決して手に取るでないぞっ‼︎
はよう行けいっ!」
アル・スハイルはメビウスが牙を剥いて来たことに、ある種の危機を覚えていた。
仮にも真の大大星である、その力がどれだけ強大であるかアル・スハイルは解っていた、自らの命だけで済めば安いものである、だがメビウスは赤い星と紫の星と言った、守ろうとしている物全てを奪いに来ると感じていた。
アルタイルもあの時、シリウスが破れそうになった時に、メビウスが憎しみの力を与え、シリウスを凶星に変えたことに気付いていた。
「仰せのままにっ!」
サルガスはそう応え、メビウスに向かって行った。
(アル・スハイル様が
誠に変わられた……
あのお優しいアル・スハイル様に
戻られて下さるやも知れぬ)
サルガスはそう心から感じメビウスに向かって行った。
「サルガスだけでいいのかい?」
アルタイルが聞いた。
「あやつしかおらぬ……
余を慕い
余のために尽くしてくれる者
今はサルガスにしか頼めぬ……」
アル・スハイルはどんなに厳しく接しても、決して変わることなく尽くし続けてくれ、最も信頼の置ける手星としてサルガスを送ったのだ、実力からすれば裏切ったカノープスの方が遥かにある、アル・スハイルはカノープスを許し、カノープスは今、ミアプラの星に向かわせている。
遥か彼方にあるミアプラの星、あの星がカノープスに力を貸すことは無いことに確信を持てる、ミアプラの星を調べる必要もあるが、果てしなく遠く、最速を誇る移動手段を持つカノープスにしか命じられないことでもあった。
アルタイルはアル・スハイルがギリギリの選択をしているのに気付いた。
メビウスの星に向かったサルガスは、メビウスに襲われればひとたまりも無い、まず生きて帰れないだろう、だがもし、あのメビウスのチャクラムの力に気付いても、サルガスなら言いつけを必ず守るだろう。
カノープスなら襲われても逃げ切ることは出来るだろう、だがその力に気付けば何をするか解らない。
決して信頼出来ない者を送るわけにはいかなかったのだ。
(アル・スハイル……)
アルタイルはアル・スハイルが今までに無い苦境に立たされていると感じた。
アル・スハイルはいつもと変わらない表情で、書庫に向かうがその右手の親指で上唇を右から左に一度だけ撫でた。
(流石のあんたも不安なんだね……)
アル・スハイルが不安な時にする仕草を、アルタイルは見逃さなかった。
(大大星メビウスか
とんでもないのを敵に回したね……
でも本当に私の誤解だったよ……
シリウスが犯人だったなんて
私は知らなかった
それでもあんたは
私の気持ちを
受け止めようとしてくれた……
ありがとアル・スハイル……)
アルタイルがそう思っているうちに書庫に着き、アル・スハイルが書庫の鍵を開けた時にアルタイルが聞いた。
「覚悟はしてたの?」
「何をじゃ?」
アル・スハイルが聞いた。
「メビウスに裁きの力を使った時さ
大大星って解ってたはず
星自体を攻撃するってことは
戦争を仕掛けるより
罪深いことだって解ってたよね……」
アルタイルが静かに言っている。
アル・スハイルはドアノブに手をかけたまま静かに聞いている。
「その星で未来に生まれるはずの命……
その全てを奪う行為……
あんたのお父さんが
全ての星海人の街に呼びかけて
その街の実力者を集めて
星海で最も罪深い行いだと
定めたこと解るよね?」
「あぁ……」
アル・スハイルが暗い声で静かに応えた。
「やっと解ってくれたんだね……」
アルタイルが小さく微笑んで言った。
「オルビス……いや……
セプテントリオに降りて解った……
我らも元は星から生まれ
星海に旅立った……
星を攻めると言うことと
星自体を焼き払うのでは意味が違う
余も信じていた
いつしか分かり合える者達と
出会えるかも知れぬ
我らだけではこの星海を
欲深い星の生き物から全てを
守る事は出来ぬ
だが分かり合える者達と
共に歩めば出来ると……
余も最初はそう思ってはいた
だがいつしかそれを忘れてしまった
彼らは我らとは違い長くは生きられぬ
よって盟約を結んでも
千年もすれば争いが起きる……
それを繰り返し
余はあの時…諦めてしまったのじゃ……」
アル・スハイルのドアノブを掴む手に、涙が落ちた、その涙を見せないようにしているのが解るが、アルタイルにはしっかりと見えていた。
「諦めて無かったんじゃないの?」
アルタイルが言った。
アル・スハイルは目を見開いた、アルタイルに背を向けているが、アルタイルにはその様子が手に取るように解っていた。
「図星だね
あんたは試そうとしたんだ
力でねじ伏せる方法を……
手を取り合うように色々試した
でも長く続かなかった
だから心を鬼にして
星の生き物を全て滅ぼそうとした
間違ってると解っていても
それしか
思い付かなくなっていたんでしょ」
アルタイルにその時の気持ちを見透かされるように言われ、アル・スハイルは言葉を返せなかった。
「諦めないってのはいいけどさ……
少し休めば良かったんじゃないの?」
「……」
アル・スハイルは何も言わずに、書庫のドアノブに手をかけたままたたずんでいる。
「出来ない時は
何をしても出来ないんだよ
ジタバタしても
どんなことをしても
変わらないものは変わらないんだ
そんな時は何もしないで
ぼーっとしてる方がいいんだよ……」
アルタイル自身も待っていた時があるのだ、アル・スハイルが道をそれてしまった時、いくら訴えてもアル・スハイルの意思は硬く変わることが無かった、愛弟子が道を踏み外し罪を重ねて行く姿、だがけなげにアル・ムーリフは姉を見放すことなくそばに寄り添い続け、引き止めようとしていた。
アルタイルは一度アル・スハイルを叩きのめした、あの時以来アル・スハイルに直接的なことをせずに、待ち続けていたのだ。
「そうやってさ
待ち続けてれば出来る時がいつか……
来るんだよ
その時が来た時……」
そして自らのベガを想う気持ちを訴え、オルビスでアル・スハイルと戦った時、アル・スハイルがその昔愛用していた、命の力を使った時、破壊と戦いの力から命の力を再び使った時に、やっとこの時が来たと僅かに感じていたのだ。
「それを掴み取ればいい……
あんたなら逃さないよね?
休んでても
休んで無くても
その時をさ……」
アルタイルがそう言うと、アル・スハイルは瞑っていた目を見開き涙を拭い、再び強い意思を瞳に乗せて言った。
「あぁ逃さぬ……
何があっても逃しはせぬっ‼︎」
アル・スハイルはそう力強く言い、書庫の扉を開き、二人は中に入って行く、アルタイルはガイアから聞いた話を信じアル・スハイルの手を引く様に二人でアルナイルのことと、力を分ける星を調べ始めた。
星海、メビウスの星の手前ではアルナイルが曇らせた表情で、メビウスの輪に語りかけた。
「あなたが
なさろうとされていること
それがどの様な意味を持つのか
解っているのですか?」
「意味?
星海に憎しみを撒き散らした者を倒すこと
それ以外に何かあるのですか?」
メビウスの輪はそう応え、うっすらと残影の様な姿を見せた。
「憎しみを撒き散らした?
たしかにそうですね……
ですが討伐など私は望んではいません
むしろ淘汰されるべきは
私達古き大大星……
この世界に我らの古き秩序は
もう要らないのです」
アルナイルが静かにそう言ったが、気に食わない様な表情をメビウスは見せた。
「ではこうなる事を
あなたは望んでいたのか?
私が誓いの星に焼き尽くされた時
あなたはっ!
何をしていた……?
そなたは星海人に
よって消滅させられたではないか……
なぜ抵抗しなかった⁉︎
なぜ反撃しなかった‼︎‼︎‼︎
アル家によって
あなたは星を失った……
あなたは体を失い
なんとも思わないのか?」
メビウスは聞いた。
「それは私が望んだこと……
まだセプテントリオにいた
アル・カストルに
我が星を滅ぼすように導きました」
アルナイルは静かに言った、メビウスはそれを知らなかった様な表情を見せた。
「あなたは覚えていますか?
かつてこの星海に
命は我らの星にしかありませんでした
わたくしはそれを
寂しく思っていました
ですがたった一つだけ
この星海に
命を満たす方法が
たった一つだけありました」
「まさか……
超新星……」
メビウスはアルナイルがした事に気付いた、命溢れた豊穣の星スピカ、そのスピカ自身が自らを犠牲にし、その有り余る命の源をこの星海がまだ小さい時に隅々まで行き渡らせたのだ。
その恵みを多くの星が受け取り、思い思いの力で命を育み進化させて来たのだとメビウスは気付いた。
アルナイルは話し続ける。
「わたしはこの世界を
命溢れる世界にしたかったのです
その為にアル・カストルに
手を貸しました
それに嫉妬したサラスが
道を踏み外してしまったのは
私にも考えが及びませんでした……」
「スピカよ…
サラスの様な役立たずなど
どうでもいい……
そなたは何故……
アル・スハイルの側にいる
まさか赤い誓いの星と紫の誓いの星を
庇うのか……
あれ程の罪を犯した
アル・スハイル……
その父は
大大星を滅ぼした
アル・カストル……
いくら貴女が導いたとは言え
それは許されない大罪……
その一族に恨みを晴らそうと言う私に
待てと言われるのですかっ‼︎‼︎」
メビウスの口調は既に先程の丁寧さは感じられない、困惑しながらも怒りも抑えながら話しているのがアルナイルは気付いていた。
(役立たず……
やっぱりメビウスが
サラスを操ろうとしていたのね……
サラスの力なら
目的は達成出来たはず……
サラスは本当に敵だったの?)
アルナイルがそう考えた姿を見て、メビウスはアルナイルがメビウスを止めに来たのだと気付いてしまう。
「スピカ……
わたしはあなたを
偉大な星と尊敬していました
でも……これ以上は……」
「待ちなさいメビウス
わたしと貴女は不戦の盟約を
その昔結びました
私達が争えば……」
アルナイルがそう言いかけた時、メビウスの輪がアルナイルの頬をかすめ、静かに赤い血が流れた。
「黙りなさい
星の女王スピカよ……
あなたはこの私を救ってくれなかった
あなたは多くの星を救わなかった……
あの狂った赤と紫の星を持つ者を
裁かなかったっ‼︎‼︎」
メビウスは叫びながら戻って来たチャクラムを手に取り、アルナイルに襲い掛かった。
アルナイルはメビウスのチャクラムを光り輝く剣を右手に出し、それを受け止め、その瞳に悲しい色を見せるがそれを振り払う様な目でメビウスを見ていた。
その時ふとガイアは青空を見上げ、その視線の先にアルナイルの気配を感じていた。




