第一章 第1話 二人のステラ
「すみません
ガイアはまだ寝てるの?」
ステラがガイアの泊まる宿に来て宿の主人に聞いている。
「まだ
起きておりませんよ
ステラ様」
宿の主人がステラに普通に言った、あれから二週間ほど経ち、雨の日意外毎日では無いがほぼ毎日ステラがおこしに来ているので、宿の主人も慣れてきていた。
「解りました」
ステラは静かに言い、ガイアの部屋のある3階に向かった。
「他の客もいるから
静かにしてくれよっ
あと朝食はどうする?
食べて行くのかい?」
宿の主人が笑いながらステラに聞いた。
「同じものでいいわ」
ステラはそう言い階段を上がって行った。
「ガイア
入るわよっ‼︎」
ステラがガイアの部屋のドアノブに手を掛けるが鍵が掛かっていた。
「あら?
珍しいわね
鍵をかけるなんて
まぁいいわ」
ステラはドアノブに手をかけたまま言った。
「ロッククラッシュ……」
するとドアノブから何かが割れる音がし、ドアが空いた、ステラはドアの鍵を魔法で破壊したのだ。
ステラは部屋に入りドアを閉めドアノブを持ったまま呟く。
「レパラーレ」
するとドアノブの中からカチッと音がして、ステラは鍵が直っているか確かめると、ちゃんと直っていてステラは納得したように言う。
「流石わたしね完璧じゃない」
「何が完璧なんだ
普通なら
鍵開けの魔法を使うんじゃねぇの?
いま壊したよな?
そして直したよな?
それのどこがどう完璧なんだ……」
ガイアが起きていたようだ。
「いいのよ
わたしはあの魔法が苦手なのよ
それに直してるから何も問題はないわよ」
ステラが偉そうに言う。
「おまえ……」
ここ数日ガイアは、ステラの変わったところをちょくちょく見ていた。
「はやく支度してよ
朝ごはん食べてから
ギルドに行くんでしょ?」
ステラがそう言い、ガイアの剣を手に取って受け取ってくれるのを待っている、ガイアはコートのような上着を羽織り、剣を受け取り二人は部屋をでた。
二人とも僅か二週間ほど前に出会ったような気はしなかった、二人は宿の食堂にいき一緒に朝食を食べ始める。
「ねぇ……
もうだいぶお金は貯まったんじゃない?」
ステラが聞いた。
「あん?
何でだよお前ほしいのか?」
ガイアが聞いた。
「ちがうわよ
ガイアはお金が貯まったら
旅に出ちゃうんでしょ?」
ステラが聞いて来た。
「旅に出て欲しくないのか?」
ガイアはパンをかじりながら聞いた。
「いや……そのぉ……」
ステラがもじもじしながら、小さな声で言った。
その頃フランシスの入り口に、水色のラインが入った白いローブを着た少女がいた、背は低めで綺麗な水色の瞳をしてとても印象的な少女であった。
(この街ね
あの星海の魔物が落ちた所から
一番近いのは……
でも街に被害は無かったみたい
だれが倒したのかしら……)
その少女はそう考えながら、街に入って行った。
「ほんとうに
何も無かった見たいね
街も賑やかだし
あれは何かしら……」
その少女は肉の串焼きをしている、屋台のようなものを見つける、そしてその少し離れたところに同じようなお店から、甘い匂いがして来たので、そっちに目が行く。
「うーん……
またあとにしよっと」
その少女は少し考えてからそう言い、街のギルドを探し始めた。
(やっぱり
この姿になると
背も低くなっちゃうし
いろいろ子供っぽくなっちゃうなぁ
でも……
人っぽくしてないと
騒がれちゃうからね)
その少女はそう考えながら暫くあるきギルドに着いた。
「さぁて今日は
普通にいい感じの依頼あるかなぁ」
ガイアがそう言いながら、同じタイミングでその少女も着いていた。
「……ッ‼︎」
その少女はガイアの声を聞いて、驚いた顔をして辺りを見回す。
「いい依頼は早く無くなっちゃうんだから
もっと早く起きたら?」
ステラが言った。
「はいはい……
つか何かあったら
訳あり回して来るんだろ?」
ガイアはあれから既に3回も訳あり案件をこなしている、3回とも巨大な何かを相手にしている。
(ハダルの声
でも違う人……
でも……
ハダルなのかな?)
その少女はそう思いながらガイアを見る。
ガイアとステラはギルドに入って行き、その少女もついて行き入っていく。
「やっぱりねぇな
またでけぇの相手にするのか……
勘弁してくれよなぁ」
「はい奥へどうぞぉ~」
ガイアが愚痴り、ステラが笑顔でガイアを奥に連れて行く。
「あの人の声……」
少女はステラの声も聞いたことがあるようだった。
そして暫くしてガイアとステラが奥の部屋から出て来た、珍しく二人の顔からは気合いが溢れていた。
「おいっ……
あれは訳ありでもなんでもないよな?」
ガイアが聞いた。
「あれで訳ありだったら
わたしでも……
その時は……
衛兵部隊を動員するわ……」
ステラが暗い顔で言う。
「だよなっ!
そうだよなっ‼︎
国で対処してくれよなっ‼︎‼︎」
ガイアがギルドの出口で叫んで出て行った。
「わけあり……?」
少女は首を傾げ、コソコソとガイア達をつける様にギルドを出て行った。
ガイアとステラはまず鍛冶屋に行った、少女は近くにあったクレープ屋さんで、バナナスとハチミツのクレープを買って、食べながら鍛冶屋から二人が出て来るのを待った。
二人が出て来た時、ガイアは安そうな剣を二本背中に背負い、腰にも二本安そうな剣を持っていた。
そして次に魔法道具屋に二人は入って行って、少女は魔法道具屋の横にあるお店でチョロと言う菓子パンを買って、食べながら待っていた。
やはり二人は真剣な顔で店から出てきて、街の外に出て行った。
少女は距離を取り隠れながらついて行く、街から出て森に入ると、ガイアとステラは依頼の話をしながら歩いていた。
「あいつら
仲間を呼ぶからな……
呼ばれる前に片付けないと
マジで逝くな……」
ガイアが言う。
「えぇ
わたしは仲間を呼ばれたら
急いで帰って
衛兵を集めるわね……」
ステラが既に訳あり案件な気がしたのだろうか、静かにそう言った。
「俺は逃げるぜ……」
ガイアが真剣な顔で言う。
「ガイアは時間を稼いでよ
わたしが街まで帰って
すぐに衛兵を集められると思うの?」
ステラも真剣な顔で言う。
「じゃあ……」
ガイアが言った。
「そうね……」
ステラが言う。
「いったん帰ろう」
「一度帰りましょう」
二人は同時に言って、くるりと振り返って街へ向かった。
少女はびっくりして慌てて隠れた。
ガイアとステラは少女に気付かず、少女が隠れた場所を依頼の紙を見ながら通り過ぎていく。
(なに?
なんの依頼なのよ
物騒ね……
ちょっとのぞいちゃお)
その少女はそう言い何かを唱え始めた。
「全ての星海を
織りなすもの達よ
命を育むソラの雲よ
命を育むソラの風よ
我が恩恵に応え
我に手をおかしください
我輝く者の一星
アルナイル……」
その少女はアルナイルと言うらしい。
「ソラにありし自由な存在よ
彼らの瞳に写りし光を我に届けよ」
アルナイルが静かにそう言うと、空から突風が吹くが、不思議と大気を揺らさず人には見えない霧がガイアとステラを包んだ、そしてその霧から反射するように、二人が見ている紙を目の前に映し出した。
「ふむふむ
でその場所は……
おぉぉぉぉぉぉ……」
その少女は目を輝かせていた……。
翌日、一度街に帰ったガイアとステラが、半日以上かけてその依頼の場所に来てから暫く経っていた。
「こ…これは……
無理じゃねぇの?」
ガイアが顔をひくつかせ走りながらながら呟く。
「訳あり……って言うのこれ……?」
ステラが人生終わったような、暗い顔で走りながら言う。
心地よい風が走る二人を包む、それとは裏腹に背後には絶望が広がる。
少し前のこと……。
「この洞窟の中にいる
スライムを討伐すればいいんだよな……」
ガイアが言った。
「えぇ……
内容からして
ブルースライム
対象を飲み込んで
窒息死させて溶かして食べる
普通のスライム……
モンスターの特性も
そのまま書かれてるけど
報酬は高めの3万セル……
報酬が怪しいわね……」
ステラが言った。
「やっぱり怪しいよな
美味しいと思ったのは
気のせいかも知れないな……」
ガイアが慎重に言い、洞窟に近づいた時、洞窟の奥から水が吹き出して来るのが見えた、その水は吹き出しているのにも関わらず、全く水の涼しげさを感じさせ無かった……。
「あれは水じゃねぇ!
逃げろっ‼︎‼︎」
ガイアが叫び草原に向かい走り出し、ステラも走り出した。
それはブルースライムだった、完全な変異種で超巨大化したのか、成長したのかは解らないが洞窟に住んでいると言うより、詰まっていると言う程の大きさであった。
洞窟から噴き出したスライムは二人を逃さないように、周りを囲むように広がっていく、体は酸性ではないのか、触れた草が溶かされていくことは無いようだ。
なぜ、あの少女が目を輝かせたかと言うと、ブルースライムは星海人のお菓子の材料に良く使われるのだ、よほど甘い物が好きなのか目をキラキラさせていた。
「こ…これは……
無理じゃねぇの?」
だがガイアはそれどころでは無い、ガイアが顔をひくつかせ走りながらながら呟く。
「訳あり……って言うのこれ……?」
ステラが人生終わったような、暗い顔で走りながら言う。
「やつのコアは何処だっ‼︎」
時々走りながらガイアが振り向いて、スライムのコアを探している、スライムはコアを持っていてスライム状の体はそれに従っているのだ、それを破壊すれば簡単に倒すことが出来る、だが相当量のスライムの体が出てきたはずだが、まだコアが出て来た様子は無い。
そしてステラも探しているが、ついに二人の逃げ場がスライムの体で閉ざされてしまった、巨大な円形に広がったスライムの体が、二人との距離を縮めていく。
「終わったわ
わたしの人生……
結婚もできずに
幸せも知らないで
こんなところで……」
ステラが涙を流してひざまづいてしまう。
そんな姿を見たガイアは剣を抜いて、まだ洞窟から流れ出すように出てくるスライムを見ていた、ブルースライムの体は透明で、美しい清流を流れる川のように、その体を通して見通せていた。
「どうするのかな?」
離れた森の中からアルナイルが二人の様子を見ていた、そのアルナイルの前には光の文字で既に詠唱が書かれていた。
「ステラ
諦めるな……」
ガイアが言った。
「だってだって……」
ステラが絶望感溢れさせ呟く、既にスライムは足元まで近づいて来ていた。
「剣よ……
一度しか輝けぬそなたよ
我はそなたの至高の輝きをもって
救われると信じる……
我ら二人そなたを信じる
徒花をさかせよっ‼︎‼︎」
ガイアはそう唱え、自らの手に大地の魔力を込めその剣を全力で叩いた、ガイアの拳は岩の様に硬質化し、その剣を叩き折った。
(そのちから……
ハダルの力っ‼︎‼︎)
アルナイルはガイアがハダルの大地の力を使ったのに驚いた。
「お前は俺について来た……
だから……」
ハダルは無意識にそう言っていた。
そして折れた剣から光の剣が現れ、凄まじい勢いで伸び、スライムが吹き出して来る洞窟目掛けブルースライムを貫いて行く。
既に足元から膝までブルースライムが達している。
「大地よ……
わが剣を砕けっ‼︎」
ガイアが叫ぶと、岩の槍が素早く伸びガイアの持っている他の剣を砕いて破壊した。
「ガイア……」
ステラはそう呟いて、その現れた岩の槍に向けて自らの剣を力強く振り叩き折った。
「わたしの剣もっ‼︎」
ステラが叫びガイアが応えた。
「皆よ徒花を咲かせよっ‼︎‼︎」
ガイアの声と同時に全ての折れた剣が光輝き、その光がガイアの剣に吸い込まれる様に注いでいく。
そして更に勢いを増し、ガイアの持つ光の剣は伸び洞窟に到達しても、勢いが衰えることなく貫き伸びていった。
「ハダルッ!
ハダルなのねっ‼︎‼︎」
アルナイルはガイアがハダルの生まれ変わりだと気づいて叫び魔法を詠唱し始める、用意していた詠唱では不足な気がしたのだ。
(あの女の子誰なのかしら……
そんなことより
今は急がないと)
アルナイルが想いを込めて詠唱を始めた。
「ソラが生まれし時より
初めて温もりを与えし
光の星アルナイルよ……
あなたを守星とし
あなたを名のるわたくし
アルナイルが願います
その力により時を操り
慈愛に満ちた時を
それを奪いし者を
あなたの慈悲にてその者をソラに……」
既に、ブルースライムは二人の胸の辺りまで達していてステラは怖くて、ガイアの横から涙を流し抱きついていた。
ガイアは何処までも光の剣を操り、貫こうとしていたが、悔しくて叫んだ。
「くっそがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎」
その叫びと同時に光の剣の輝きが弱くなり、次第に消えてしまった。
ガイアは剣の限界に気づいていた、使いこなされてない剣の魂は、持っても10秒程で大切に長い間使われ続けた剣とは訳が違う。
それに気付いたステラはささやいた。
「ありがとう……
あなたは頑張ってくれた
諦めないで……
わたしを守ろうとしてくれたね」
ステラは絶望を受け入れ、ガイアを抱きしめその気持ちを込めてその唇にキスをした……。
ガイアは目を見開きそして心で呟いた。
(すまねぇ……)
そう呟いてからステラを抱きしめ、キスに応えた時には二人は全身をスライムに包まれてしまっていた。
「我輝く者の一星っ!
アルナイルッ‼︎‼︎」
アルナイルが叫び手を二人に向けた。
その瞬間、アルナイルの手から凄まじい光が放たれ、ステラとガイアを溶かそうとし始めたブルースライムを直撃した。
その光は透明な体をしたブルースライムの全身に一瞬で行き渡り、洞窟内からも凄まじい光が溢れ出し、そして一瞬でブルースライムは消えてしまった。
巨大ブルースライムはソラの星海人の街の近くに飛ばされ、すぐに星海人に見つかり一瞬で討伐され解体されて行った。
二人は瞳をつぶりキスをし続けていたので、スライムが居なくなったことを、息が出来ることで気付いて、目を開いた。
(あれ……
わたし助かったの……)
ステラがそう思った時、自分達の姿に気づいた上に誰かが二人を見ている視線にも気付いた。
アルナイルが十歩ほど離れた場所から、何してんの?と言う目線で見ていたのだ。
ステラは慌ててガイアから離れたが、アルナイルがじとぉ……と見ている、そしてガイアは疲れ果てたのか気絶しているのか、ステラに倒れ込んで抱きついたようにしている。
「ちょっとあなた……
その人とどう言う関係なの?」
アルナイルが聞いた。
「え……」
ステラは驚いた、まるでガイアの恋人の様な言い方をしたのだ、ステラもガイアもスライムに包まれていたので、全身ヌルヌルしてしまっている。
「そう言うあなたは誰なのよ」
ステラが状況が状況で恥ずかしそうに言った。
「わたしはアルナイルって言うの
ちょっと頼みがあるんだけど
偉そうにして
妾って言ってくれない?」
アルナイルが言った、ステラは不思議に思うが、悪い気がしなくて言って見ることにした。
「妾になんのようじゃ」
「…………」
アルナイルの時が止まった、強すぎる衝撃を受けた、気絶しそうになったが踏みとどまった。
「いえ……
なんでもないです……
それより早く帰りませんか?
体も洗った方がいいと思いますよ」
アルナイルが困ったことを隠して言う。
(絶対に
アル・ムーリフよね……
アル・スハイルに見つかったら
大変なことになるわ……
今アル・ムーリフがいないから
星を攻撃しないけど……
アル・ムーリフを拐って記憶を戻されたりしたら……)
アルナイルはそう考えていた。
「そうね……
あなたひょっとして助けてくれたの?」
ステラがアルナイルに優しく聞いた。
「はいっ!
お二人が危なそうだったんでっ‼︎」
アルナイルが慌てて言う。
星海ではアル・ムーリフは星の力も強く、彼女と同等な星は姉のアル・スハイルと他に数えるほどしか居ない、アルナイルは他に力のある星を持つ者がアル・ムーリフを狙ってもおかしくないとも考えていた。
三人は森に入り街へと帰って行く、ステラは森に置いておいた荷物を手に持ち、アルナイルもガイアに肩を貸して二人で歩いて行くと川があった。
「ちょっと水浴びしていいかな?
着替えもあるし」
ステラがそう言った、スライムのヌルヌルがベトベトして来たのだ。
そしてステラは服を脱いで水浴びをして洗い流して行く。
「う~ん気持ちいい……」
暫くステラが水浴びを楽しみ、川から出て身体を拭いて着替え、汚れた服も簡単に洗い初めていると何かが近づいて来た。
いきなり水柱が立ち、ステラを飲み込もうとした。
「これは……
星海人の力っ‼︎」
ガイアを見ていたアルナイルが気付いて川に向かった。
「ステラさん!
大丈夫ですかっ‼︎‼︎」
慌ててアルナイルが叫んで川を見ると、信じられない光景が広がっていた。
「アル・ムーリフッ‼︎
記憶を失っていないのかっ‼︎」
ステラを襲った星海人が叫んでいる。
「記憶……
あぁ妾は眠ってるだけじゃ
何か悪いかの?」
ステラが星海人の胸ぐら掴み、締め上げている。
「星を持たぬ雑魚が
妾に何用で来たのじゃ?
言うが良い……」
「…………」
ステラに締め上げられた星海人は苦しくて何も言えずいる。
「ステラ・アル・ムーリフ……?」
アルナイルが呟く。
「アルナイルよ
先程はご苦労であった
よいなその呼び名……」
ステラに眠るアル・ムーリフの記憶が戻ったのか、ステラの口調は完璧にアル・ムーリフの口調になっていたが、彼女はそう言った。
「アルナイル様っ!
どうかお助けをっ‼︎‼︎」
ステラ・アル・ムーリフに締め上げられている星海人が助けを求めた、アルナイルの優しい性格は星海で唄われるほどで、とても有名であった。
「アルナイル
どうするのじゃ?
そちは妾を先程たすけてくれたのぉ
今なら聞いてやってもよいぞ……」
ステラ・アル・ムーリフが怪しい笑みを浮かべて言う。
アルナイルは考えた、助けた後この星海人がアル・スハイルに伝えはしないか、伝えられてはすぐにアル・スハイルは来るだろう、そうなればアルナイルは逃げるしか無くなってしまう……。
アルナイルが判断しきれずにいるとアル・ムーリフが言った。
「そちの悩みは正しい
悩まずに決められることでは無い
だが時間切れじゃ……」
ステラ・アル・ムーリフはそう言い、その星海人を川に叩きつけ、素早くその者の額に人差し指を突き刺して言った。
「命は取らぬ
ただ忘れよ……
そして立ち去れっ‼︎」
ステラ・アル・ムーリフがそう叫ぶように言うと、その星海人は虚に立ち上がり空を飛び星海に帰って行った。
「安心せい
記憶を消してやっただけじゃ
アルナイルよ
妾は生まれ変わってようやく
ハダルに出会えたのじゃ……
この妾の記憶は邪魔になるゆえ
ステラとして過ごすために
眠っているのじゃ……」
ステラ・アル・ムーリフが話している、何かをアルナイルに言いたそうであった。
「そうですか……」
アルナイルは気付いた、生まれ変わったと言う言葉で、アル・ムーリフとハダルが既に死んで魂はオルビスの星に抱かれ、生まれ変わったことに気づいた。
それが何を意味するかアルナイルには解らなかった、だがアル・ムーリフはアルナイルがハダルを愛してることを知っていたのだ。
「アルナイルよ
妾に遠慮はいらぬ
ハダルを愛しておったのだろ?」
ステラ・アル・ムーリフが言った時、アルナイルの瞳から涙が溢れ出してアル・ムーリフから顔を背けた。
アルナイルはこのままガイアとステラが結ばれれば、再び二人が死んだ後に生まれ変わり星海人として戻った時、アル・スハイルも横暴なことは出来ないと考え、二人を見守ろうとしていたのだ。
「それならば
妾と争うがよい……」
ステラ・アル・ムーリフが言った。
アルナイルは、えっと言う顔をしてアル・ムーリフを見た。
「どちらをハダルが選ぶか
それも見ものではないか……
そう思わぬか?」
「アル・ムーリフさん……」
ステラ・アル・ムーリフは僅かではあるが、アルナイルに後ろめたく感じていた、星海人同士として一度、アル・ムーリフは一人でハダルとアルナイルと戦ったことがあるのだ、その時はアル・ムーリフが勝ったが痛み分けの様な結果と、二人の愛を知ったのだ。
そんな二人をアルナイルの考えていることで、引き裂く様に奪う気にはなれなかったのだ……。
「これは妾と
そちの勝負じゃ……
どうじゃ乗らぬか?」
ステラ・アル・ムーリフが誇り高く、自信を持って言っている。
「負けても知りませんよっ‼︎」
アルナイルが力強く言った。
「よかろう……」
ステラ・アル・ムーリフが微笑みながら言った時、ガサガサとやぶが揺れ声がした。
「ステラ大丈夫か?」
ガイアが起きて川にやって来た。
「ガイアッ!
大丈夫だった?」
アル・ムーリフの記憶は眠ったのか、ステラが慌てて言った。
「あぁ……
大丈夫だけど
この子は?」
ガイアがアルナイルのことを聞いた。
「この子が助けてくれたのよ」
ステラが笑顔で言った。
「はじめまして
アルナイルと言います
良かったら今度から
私も依頼に誘って下さい」
アルナイルは可愛らしく言った。
「あぁいいぜ
助けてくれてありがとうな」
ガイアがそう応えて、それに対してステラはなぜか悪い気はしなかった、アル・ムーリフの記憶がそう思わせたのか……。
それは解らないがアル・ムーリフもステラであり、ステラもアル・ムーリフである。
アルナイルはそう感じていた。