最終章 第4話 姉妹と銀の翼
「エルナトッ!」
サルガスが叫び、エルナトを襲おうとしたカノープスに向かい鞭を振った。
カノープスはサルガス、レグルス、エルナトの三人を速さで凌駕し追い詰めていた、最初にサルガスの元にレグルスが加わり、その後にエルナトが来たが三人は守るのに精一杯であった。
(こいつ……
星の力を使うことなんて
一切考えてない……
純粋に星の加護を全て
身体能力に注いでいるのかっ‼︎‼︎)
サルガスは戦い続けながらそれに気付いた、なぜそう気付いたのかと言えば、単純にカノープスの星の輝きが増せば速さも力も増していたのだ、単純過ぎるシンプル過ぎるが、その速さと力はアル・スハイルですら苦戦する程の力であった。
「ハァハァ…
サルガス…まだいけるか……」
レグルスが聞いた、レグルスの白く金色のラインの入った鎧もぼろぼろになり、カノープスと同じくアル・スハイルの手星として仕えた三人ですら追い込まれていた。
同じ手星で三人は確かに星海人として実力はあるが、大星と呼ばれた者とそうでない者の差が決定的に出ていた。
「あぁ…
だがカノープスに狙われた奴が
一人も生き残れないってのが……
良く解ったな……」
サルガスが言った。
逃げ切れる気がしない、サルガスとレグルスはそう考えていた、生き延びることは最初から考えていなかったが、二人にとって今は話が違う。
二人はエルナトを逃がそうと考えていた、このままでは全滅は免れない、せめて二人が想いを寄せていたエルナトだけでも逃がそうと考え始めていた。
凄まじい速さでカノープスがレグルスに斬りかかる、レグルスはその一撃目の斬撃を剣で受け止め、カノープスに蹴りを入れようとしたが空振りし背後からカノープスが蹴り飛ばし、追撃を入れようとするが、レグルスの星が輝きガイアを襲ったあの分身がカノープスを襲った。
だがカノープスは素早くその分身を斬り裂き、レグルスを襲うがレグルスは必死に体勢を立て直し、カノープスがトドメを誘うとした斬撃をレグルスは弾いた。
「エルナト…
アル・スハイル様の元に行け
これ以上は無理だ
お前だけでも逃げろっ‼︎‼︎」
サルガスがエルナトに伝え、再びレグルスを助けるためにカノープスに襲いかかった。
「サルガス様っ‼︎」
エルナトはサルガスとレグルスの想いを感じ始めた、サルガスだけでなくレグルスもエルナトに想いを寄せていたのも気付いていた、だがこんな形ではっきりと目の当たりにして逃げる訳にいかなかった。
「我っ貫く星の一星っ!
エルナトッ!
我が想いに応えよっ」
エルナトが叫びエルナトの星が輝いた瞬間、一瞬でエルナトの持つ槍が弾かれた、エルナトが願う間もなくカノープスが襲いかかったのだ。
「遅すぎる……」
カノープスがそう呟き、エルナトの首を狙い切り落とそうとした時、エルナトは一瞬で姿を消した。
「なっ‼︎」
カノープスはエルナトを追えなかった。
「イタタタ……」
エルナトの声が地面の下から聞こえた、エルナトは姿を消したのでは無い、いきなり現れた穴に落ちたのだ、しかも何かに引き込まれる様に高速で……。
その為エルナトは体を強く打ち声を上げたが、その衝撃は普通の人間なら全身骨折する様な衝撃で、エルナトが星海人だから耐えられたのだ。
「お前も遅すぎるな」
ガイアの声が楽しそうに聞こえた。
「ガイアさん……」
エルナトが呟く。
すると大地から砂が溢れ出しガイアが現れた。
「誰だお前は……」
カノープスがガイアを睨みながら言った。
「ただの人間さ
とろすぎるお前に名乗る気は
サラサラ無いただの人間さ……」
ガイアが小さな笑みを浮かべながら言った。
それを聞いたカノープスは一瞬で、瞬きすると間も無い程速くガイアを切り裂いた。
「誰が遅いのか言ってみろ」
カノープスが言ったが、背後からガイアの声が聞こえた。
「お前だよ……」
カノープスが振り返った瞬間、そこには数百人のガイアがいた。
「なっ‼︎」
カノープスが驚いた瞬間一斉にすべてのガイアが襲いかかった。
カノープスは凄まじい速さで無数のガイアを切り裂いていく。
「この程度の数でっ!
俺を押し切れると思ったのかっ‼︎」
カノープスが叫ぶが、幾ら切り裂いても無数のガイアの数が減らない、むしろ増えていた。
「お前さ遅すぎるんだよ」
離れた場所にいたガイアが言う。
カノープスは気付いた、大地からガイアが次々と現れてくる、切り裂いたガイアは全て土屑になり無限に現れてくる。
「大地ってのは
何処までも続くんだぜ
もっと広い範囲で
生み出してやろうか?」
ガイアは笑いながら言い、右手を力強く振ると半径100メートル以内から次々とガイアが現れカノープスに襲いかかった。
それは既にカノープスの処理速度を超えていた……。
エルナトはガイアから星の力を強烈に感じていた、ハダルの星の力がガイアから溢れ出していたのだ。
「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ‼︎」
カノープスが叫び一直線に、そう話していたガイアに向かって突進してきた、その速さもはや加速と言う言葉が不要な程の速さであり、サルガスもレグルスもエルナトもカノープスの姿を見れなかったが、次の瞬間カノープスの姿はガイアに顔面を殴り飛ばされていた。
「だからおせぇんだよ……」
ガイアは殴り飛ばされていくカノープスを睨みながら、静かに言った。
「このちから…ハダル……」
カノープスはガイアの力に気付き呟いた、そしてアルタイルとその昔話した事を思い出した。
「愚かだな……
ハダルとは無能過ぎて話にならんな」
カノープスが星海でアル・スハイルに痛めつけられている、ハダルを見て言った。
「ハダルね……
きっとアル・スハイルは
ハダルがあんたより強いって
解ってるよ
だから星海でしか
ハダルと戦わないんだよ」
アルタイルが言ったその言葉をカノープスは鮮明に思い出した。
それはハダルが大星の力を持つ事を意味し、カノープスは認めなかった、アルタイルに劣るのは納得出来るが、ハダルに劣るのは認めたく無かったのだ、だがその言葉が今現実になろうとしていた。
「俺は……
大星カノープス
貴様などには負けんっ‼︎」
カノープスが力強く言い、星を輝かせ一瞬でガイアを剣で切り裂こうとしたが、そのカノープスの剣をガイアは白銀で止めたとき、カノープスの剣が折れた、その速さに剣が耐えられなかったのだ、そして再びカノープスをガイアは鋼の拳で殴り飛ばした。
ガイアは無数に生み出したガイアを消し去り、カノープスに言った。
「解った解った
これで集中できんだろ……
かかって来いよ
てめぇがおせぇのを
教えてやっからよ」
ガイアはカノープスが速さに全てをかけているのに気付いていた、そしてその自信を打ち砕く気でいた。
そしてその瞬間にカノープスは既にガイアに殴りかかっていたが、ガイアは躱した。
「見えてんだよ
遅すぎっから……」
ガイアが言った。
そのカノープスの姿はレグルスにもサルガスにも、エルナトも全く見え無かった。
そしてガイアがカノープスを殴り蹴り飛ばし、やっとサルガス達はカノープスの姿を見た。
「見えてるのか…あれが……」
サルガスは呟いた、サルガスはガイアと一度戦い敗れているが、今のガイアはその比では無かった。
ガイアはカノープスが大地を蹴り走り、踏み込みの力の入れ具合が、手にとる様に解っていた、全て大地がガイアに教えてくれるように、カノープスの動きを予測し全て躱していたのだ。
ガイアは大地に愛された、その恩恵だけで戦っていた。
「てめぇ
アル・スハイルを
狙ったのか?」
ガイアがカノープスをあしらいながら聞いた。
「黙れっ‼︎」
カノープスが叫びながらガイアに襲いかかった。
「まぁいい……
俺はてめぇにようがあるんじゃねぇ
すっこんでな……」
ガイアはそう言い凄まじい勢いでカノープスを全力で殴り飛ばし、一撃で気絶させ吹っ飛ばした。
「星を手にするってのは
てめぇだけで
戦ってるんじゃねぇんだぜ……
さて……」
ガイアはそう言い吹っ飛ばした方を見ていた、吹っ飛ばされたカノープスは倒れ砂煙をあげていた。
「出て来いよ
サラス…てめぇ……
なに考えてんだ」
ガイアが言った。
「ガイア殿
簡単なことですぞ
この星を
在るべき姿に返す
それだけですぞ……」
サラス・セプテントは微笑みながらそう言い姿を現した。
「在るべき姿?
人を滅ぼして
精霊の星にするってやつか?」
ガイアが聞いた。
「そうじゃ
この星は星海人に
オルビスと呼ばれておる……
じゃがこの星こそが
セプテントリオなのじゃ」
サラスが言いエルナトが戸惑いはじめる……。
「私達の故郷って言われる
幻の大星……」
エルナトが呟きサラスが話を続ける。
「我が子らよ
思わぬか?
精霊達は星から出ぬ
じゃが…
人は星を殺し星海をも喰らう…」
サラス・セプテントはエルナト達に伝えるように言った、その言葉はエルナト達星海人には理解出来る話であった、サラスは話続ける。
「この星の人類も
滅ぶべきじゃ…星海のためにな……」
(たしかに……
アル・スハイル様なら
考えそうなことだ
だが…こいつは……
アル・スハイル様じゃないっ‼︎)
サルガスはそう思いサラスを睨みつけた。
「あんたねっ!
アル・スハイル様は
この星の星神様に
なられるのよっ!
その星で勝手なことはさせないわっ!」
エルナトが叫び星を輝かせ漆黒の槍を飛ばし、サラスに突き付けるように止めた。
「なるほど……
アル・スハイル様の
星神様としての美しいお姿……
拝見して見たいと
そう思わないかサルガス」
レグルスが剣をサラスに向けて言った。
「そうだな……」
サルガスはそう言い星を輝かせたが、ガイアが言った。
「お前らじゃ話になんねぇよ
あのアルタイルが
ボコボコにされたんだ……
お前らは
大切な主人のとこにいけよ」
「大星アルタイルがっ!」
レグルスが驚いたがエルナトが言う。
「じゃっガイアよろしくっ!」
エルナトはサラリと軽いノリでそう言い空に舞い上がり、サルガス、レグルスと続いた。
「あの小僧だけで大丈夫なのか……
アルタイルが負けたって……」
サルガスが言ったがエルナトは笑顔で言った。
「ガイアはハダルだから
大丈夫……
ハダルの星は
地上戦最強の星だって
アルタイル様が言ってましたし
私達が居たら邪魔になると思うし……」
「じゃあ
あいつに絡む時は星海にかぎるな」
レグルスが言う。
「逃すとでも……」
サラスが言い手を星海にいるアル・スハイルの元に向かうエルナト達に向けた。
「余裕だなぁ……」
サラスの背後からガイアの声が聞こえた瞬間、サラスは殴り飛ばされ、その殴り飛ばされた方に岩の壁が現れサラスは叩きつけられた。
「あぁ……
その方がいいな……」
サルガスはレグルスの言葉にガイアの動きを見てそう答えた。
「ガイア殿
私はステラの父ですぞ
ステラの事を慕っておるなら
この様な事をして
良いはずが無いと思うのですが……」
サラスは何事もなかった様に言いながら立ち、服についたほこりを払っている。
「いいんだよ
クソ親父が……
俺が何回ぶっ叩かれて
星見て意識飛ばされてると思ってんだ
娘の教育は親の責任だろ?
こっちもステラのこと
マジで愛してっからさ
やり返せねぇぶん
てめぇが責任取れってんだよっ‼︎」
ガイアは色んな意味を込めて言った。
そもそもここに来た事とは全く別の事を叫び、サラスの言葉にしっかりと回答し襲いかっていた。
サラスはただ感じた、ガイアの目が本気であり、ステラの普段の行動からすれば想像出来、ガイアの怒りは当然だと思ったが、サラスの目的からすれば関係のない事であり、冷静にガイアを杖で叩きのめそうとした。
だがサラスが杖を振ろうとした時、足の真下に異変を感じ素早く背後に飛んで避けた瞬間、ダイヤの棘が凄まじい速さで突き出した。
そしてガイアが殴りかかり、サラスはそれを避け、その避けた動きを利用して回転しガイアの胴を杖で薙ぎ払った、だがガイアの体は砂を撒き散らしながらもそのままサラスを襲った、サラスはそれを躱せずに右胸に打撃を受けるが耐え、ガイアの腹部を力強く蹴りガイアは気付いた、サラスの体がよわい老人の身体で無く、鍛え抜かれた肉体に変化していたことに、サラスが一回りも大きくなった気がした。
(なんじゃこの星の力は……
星海にこの様な星が
新たに生まれていたのか……)
サラスが戸惑いを覚えていた。
ハダルの星それは45億年ほど前に生まれたまだ若い星で、それはベガがその星に叩き落とされ、アルタイルがベガのエストックを抜き間もなくし、アルナイルの光の星が突如現れハダルの星を隠すように飲み込み、ハダルの星の輝きを星海からは見えなくしてしまったのだ。
サラスはアルナイルの星の強い輝きに惑わされ、ハダルの星を見ることは出来なかったのだ。
「オラァァァァァァァァァッ‼︎」
ガイアが叫びサラスを襲う、その右手には紫月を持ちサラスに斬りかかりサラスが躱し、杖でガイアを突こうとしたが、左手に持った白銀が受け止め、凄まじい速さで岩に変えた蹴りをサラスに放ちその胴を捕らえ、吹っ飛ばす。
その一撃でサラスは内臓を潰された様な感覚を味わい、血を吐きながら飛ばされ白目をむいているが、その時サラスの背後に美しいアクアマリンの様な輝く星が現れ、サラスが笑った。
ミアプラの星が現れ命の星と呼ばれた力が、サラスを一瞬で癒しサラスは体勢を立て直し着地した。
「やっと星の力を使ったか……」
ガイアが言った。
「よもや我が古き星を使わされるとは
思いもよりませんでしたな……」
サラスが言った。
「お前……
本当にステラの親父なのか?
てめぇは星海人だろ
ステラは人間だよな……」
ガイアが聞いた。
「ほう…
そこに疑問を持たれるとは
中々面白いですな……
それを聞いてガイア殿は
今の様にステラを慕えますかな?」
「……」
サラスが言いガイアは顔をしかめた、ガイアの様子を見てサラスは微笑みながら、話し始めた。
「アル・ムーリフの体を……
見られましたかな?」
その時アル・スハイルの星とアル・ムーリフの星が遥か彼方の星海で、力強く輝きを放っていた。
そのだいぶ前の星海では……。
「姉上っ!」
ステラがアル・スハイルに叫ぶ様に声をかけ、やっとステラとアルタイルはアル・スハイルに声が届く場所まで来ていた。
「ふっ……」
アル・スハイルは喜ぶ気持ちを抑え込み、シリウス目掛けて放った光線を操り、何としてでもシリウスを足止めしようとしていたが、ジリジリと近づいてくるシリウスを止めることが出来ずにいた。
ステラとアルタイルがアル・スハイルに高速で近づいてくるのを感じ、アル・スハイルは叫んだ。
「もはやシリウスを
この距離で止める手段は
一つしかないっ‼︎
外星として
あやつは凶星となりおったっ‼︎」
アル・スハイルがそう叫んだ時、シリウスはステラがアル・ムーリフと気付いて微笑み、止まり恨みを込めて何かを呟き始めていた。
「………
………………」
その言葉は言葉というよりザワザワとした響きだけが響く、不気味な物であり悍ましい闇がシリウスの周りに溢れ出した、その闇は地上の人々に絶望を思わせていた、アルナイルを信仰する、アークスの村人達は空の異変を見て膝をつき祈り始め、クンガの人々はアル・スハイルに祈りを捧げ始めていた。
「あれは……
アルナイルッ頼むっ!
僅かで良いっ!
時間を作ってくれいっ‼︎‼︎」
アル・スハイルが叫んだ、そして地上からの祈りをアル・スハイルはその身に感じていた。
(その祈り……
余が叶えて見せよう……)
アル・スハイルは人々の祈りをそれを真紅の誓いの星に注いだ、アル・スハイルは数十億年ぶりに人々の想いを背負った気がしていた。
アトリアロフの人々は、星海に害を及ぼしても居ない星にも攻撃をしているアル・スハイルの行いを知り、アル・スハイルを英雄と呼ぶ者が減っていたのだ。
「はいっ!」
アルナイルはアル・スハイルと同じ危機的なものを感じていたが、アル・スハイルの言葉に何か手があると信じ、返事をして唱え始めた。
アルナイルもアル・スハイルと同じ様に、アルナイルへ祈る人々の想いに応えようと再び力を解き放ち始める。
「我っ輝きの一星
アルナイル……
我が愛しき者たちを
包み込み全てに
光り輝く道を示さん」
アルナイルは最初に簡単な詠唱をして急いで、シリウスの方に向かい、離れた場所に光の障壁を作ってから強く念じた。
(我が全てをとし
この時を
この未来を守らん……)
アルナイルはそれを声には出さなかった、既にステラとガイアの、いやアル・ムーリフとハダルの関係は確定的なものになり、自分が近くにいるべきでは無いと解っていた。
アルナイルはそれを知りながらも、アル・スハイルを助けなければならないと、ここに一足先に来ていたのだ。
アルナイルの気持ちのこもった詠唱を、アルナイルの星が聞き入れ、力強く光り輝きアルナイルの背中から美しい銀色の翼が現れ、そしてアル・タイルが一番最初にその翼に気付いて呟くように言った。
「ベガ……」
(ベガ……あんたじゃないのは解ってるよ……
でも……あんたが戦うって言うなら……
私も……
手を貸そうじゃないか……)
アルタイルはベガと交わした、シリウスと戦わない不戦の約束を守り続けていたのだ、だがアルナイルが放ったベガの銀色に輝く翼を見て、溢れる様な懐かしく愛おしい気持ちに満たされはじめていた。
それは紛れもない大星ベガの銀色の翼であった、それを見たアル・スハイルも気付いていた、かつてアル・スハイルが斬り裂き大地の星ハダルに叩き落とした、大星ベガの翼であることを忘れる筈が無かった。
「アルナイル
そちはベガの……」
アル・スハイルがそう聞こうとした時、アルナイルが遮る様に言った。
「余計なことは
考えないで下さい
時間は有りませんよ……」
アルナイルの言葉にアル・スハイルは背中を押され、アル・スハイルはステラに心で問いかけた。
(ステラよ裁きの力を使う
余に合わせられるか?)
(姉上
妾に出来ぬとでも?)
ステラはアル・スハイルを安心させる様に、そう言葉を選んで言った。
それと同じくらい、いやそれ以上だろうか、かつてこの星を救った紫の星を信じる、アル・スハイルとアルナイルへ祈る人々を遥かに超える、多くの人々の凄まじい想いが、ステラに注がれ重くのしかかっていたが、ステラはそれに応えようと、その瞳には何事も譲らないその様な意思を宿していた。
アル・スハイルはそれを聞きその瞳を見て、昔のように再び星を使い意思疎通が出来るのを確認し、再び溢れる喜びを抑え込み、ステラが近くに来るのを待った、そしてステラは急いでアル・スハイルの隣に来て小さくアル・スハイルに微笑み左手にを差し出し、アル・スハイルはそっとその手を握り優しくステラに微笑み、二人はシリウスを睨み二人同時に唱え始めた。
「我らが誓いの元に
我が星よ……
大星の輝きを希望の光に変えよ
全てを生み出し光の波よ……
憎悪と絶望を打ち払う力となれ……」
二人の詠唱は息継ぎのタイミングも全て完全に揃い、言葉の強弱も完璧にシンクロし、二人の背後の星が寄り添うように近づき、静かに回転し始めた。
その様子を見たアルタイルが二人の背後に周り、背中の銀色の翼を広げ、そして翼を巨大にしシリウスの方に作り出した障壁に向けて包み込む様に両翼の翼を重ねた。
そのアルナイルの輝きは地上の人々にまで届き、遥か天空を多くの人々が目にしていた、そしてその先に広がる漆黒の闇に怯える人々に希望を与え始めた。
だがその時、凶星シリウスは巨大な漆黒の闇の稲妻をアルナイルが守る二人に目掛けて放った。
「我らの道に
悲しみを運ぶ者を裁かん」
アル・スハイルとステラは迫り来るシリウスの稲妻を感じながらも、瞳を瞑り一糸乱れず唱え続けている。
アルナイルの美しい銀色の翼が、その稲妻を受け止めその力を弱め弾いたが、その弾かれた稲妻はオルビス目掛けて落ちていってしまう。
「なんて力なの……
憎しみが凄くて全て消し去れない……
みんなが……」
アルナイルはオルビスの人々を想って言うが、アル・スハイルとステラの二人を守りそのオルビスに向かって行く稲妻を見ている事しか出来ずにいた、シリウスの余りにも強力な火力に力を分ける事が出来なかったのだ。
「我らの道に
悲しみの涙を運ぶ者を裁かん」
二人はアルナイルの声にも戸惑う事なく集中している、それは二人とも大星ベガの力を見せつけているアルナイルの全てを信じていた。
「我らの未来を
汚し破壊せし者を裁かん」
二人の詠唱は続いている、二人が唱え織りなす動きは過去に一度この詠唱を唱えた時と違い、光り輝くものがあった、それは人々の祈りを乗せ二つの誓いの星もそれに応えようとしている様な輝きであった。
それを見たシリウスは更に憎しみを膨らませ、同じ稲妻を無数に放ち始めた、それをアルナイルが弾じくが、その漆黒の稲妻は意思を持つ様に、全てオルビスに向かって行く、アル・スハイルが守ろうとする物を付け狙っている、そうとしか思えなかった。
だがその憎悪の稲妻を、漆黒の槍が力強く貫きその槍は消え去った。
エルナトが成層圏に達しその稲妻を迎撃してくれたのだ、それだけでは無いユーファを含めるセプテント家の精霊達も成層圏に集まり始めていた、ステラの指示でレチクル国内にいる精霊術を取り行おうとしていた者または執り行い、動物達を操ろうとしていた精霊達を取り押さえ駆けつけてきたのだ、そして一部取り逃がした精霊にも追っ手も放っていた。
「まさか貴女に
手を貸すことになるとは……」
ユーファがエルナトに言った。
「ほんとに
この星の精霊って……」
エルナトが偉そうに言うユーファにそう言いながら、次々と向かって来る憎悪の稲妻に向け、漆黒の槍を放ち始める、だが中には一本の槍で抑えきれない稲妻もあり、それらを精霊達が更に魔法を使い迎撃してくれていた。
「我らは
我らの主人ステラ様が心置きなく
戦える様に尽くすまでの事っ!
皆よ災いの稲妻を薙ぎ払えっ‼︎」
ユーファが叫び精霊達が連携し始め次々と漆黒の稲妻を打ち落として行く。
(大丈夫…
みんなが来てくれた……
ユーファ……
私を選んでくれて本当に
ありがとう)
ステラはそう心で呟き、更に想いを乗せ唱え、アル・スハイルもそれに合わせ唱えると、二人の誓いの星の回転が更に速くなり赤と紫の色が混じり合って行く。
「我らの苦しみは人と共にあり
我らの涙は人と共にあり
我らの喜びと願いは
人が生みしものなり
我ら尊き道を示す者なり
我らに与えよ
我らに救いの為に
凶星を打ち砕く裁きの力を与えよっ!
我らは誓いの双星なり」
二人は詠唱を終えるのと同時に、手をまったくシンクロした動きで、アル・スハイルは左手を左に広げ、ステラは右手を右に広げるとその二つの星が回転して出来た円を広がり、二人が手を前に出した時アルナイルが二人を解放するかの様に翼を広げた。
「凶星よっ!
無に返るが良いっ‼︎」
アル・スハイルとステラが叫び、二人が作り出した円からとてつもない光線が放たれた、だがかつてあのメビウスの星に放った裁きの力とは違い、時折銀色の輝きも放っていた。赤と紫そして銀の輝きが混ざり合ったその光線は、シリウスの放った漆黒の稲妻を飲み込み、一気にシリウスを飲み込もうとしたが、シリウスは両手を前に出し叫んだ。
「貴様に光など無いっ!
滅ぶのは貴様だっ!
アル・スハイルッ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」
シリウスのその声は凄まじい憎しみが込められ、その憎しみはアル・スハイルに届いた。
(愚かな……)
アル・スハイルが心で呟き、シリウスの姿にかつての自分を重ね合わせていた。
憎んでいた憎んでいた。
星海を喰らう星の生き物を心から憎み。
全てを根絶やしに……。
全てを滅ぼし
星海人だけの世界を作る……。
アル・スハイルはその先に、星海人の平穏と安寧があるとそう信じていた。
そしてシリウスが全てを込め、今までに無い巨大な稲妻を放った。
そしてアル・スハイルとステラが放った光線を受け止めた、あのメビウスの星を滅ぼした二人の光線を受け止め押し返し始めた。
「そんな…
みんなの想いも載せてるのに……
なんで……」
ステラが呟いた。
アル・スハイルは解っていた、それは今までアル・スハイルが奪って来たものが奪いに来たと言う事に気付いていた、オルビスの人々の想いはオルビスだけのことで、全ての星海からすればほんの一部にしか過ぎない、そう物語っているようであった。
(かつての余が奪った命が……
命を奪いに……)
アル・スハイルがその重さをその肌で感じ、そして思い起こしていた。
(余は…
信じた…だが……
その先には何も無かった)
アル・スハイルの顔に一筋の汗が流れていた、表情を変えずに悲しい目をしているのにステラは気付き、力を放ちながらもアル・スハイルにダークマターをその繋いでいる手から送りはじめた。
「憎しみと破壊では
安寧は訪れぬのじゃっ‼︎
シリウスッ
まだ解らぬかっ!
余が奪いし
命の憎しみを集めてでも貴様はっ!
余が憎いのかっ‼︎‼︎」
アル・スハイルがそう叫びステラと繋ぐ手を離そうとしたが、ステラは力いっぱい握りしめて離そうとしなかった。
(お姉ちゃんだけで
背負わないで
私も悪いんだから……)
ステラの言葉がアル・スハイルの頭に響いた。
(アル・ムーリフ……)
アル・スハイルが心で呟いた時、アルナイルが二人の繋ぐ手の上にそっと手を置いた、そしてステラが伝えたいが、まだ人の体で上手く伝えられない記憶をアルナイルが手伝う様に、二人の間に光の球を生み出しその記憶を映し出した。
そこにはアル・スハイルが楽しむ様に殺戮を繰り返し、それを妹として止められなかったアル・ムーリフの姿が映し出されていた。
(これは……)
そこにはアル・スハイルの知らなかった、アル・ムーリフの姿が映し出されていた。
シリウスの稲妻が二人の光線を押し返し、距離が縮まっている、このままでは押し切られてしまうかも知れない、だが二人はアル・ムーリフが離れてしまった500年を埋めるかの様に、ステラが伝えようとしている。
「私もお姉ちゃんを
止められなかった……
だけどハダルなら
止められるかもって
最初は思ったの……
お姉ちゃんは
ハダルと戦うのは星海だけで
絶対に地上に降りなかったから……
ハダルの所に
お姉ちゃんに反発してる
星海人を送ったのもわたし……
全部……
お姉ちゃんを止めたかったから……
それでもダメだった
お姉ちゃんは
その人達の話も聞いてくれなかった
わたしがお姉ちゃんに
言えば良かったって……
そう気付いたのは
ハダルと話して行くうちに
そう思えたて来たの……
気付いたら私……
ハダルを好きになってた……
ごめんね……」
ステラはその想いを、アル・ムーリフが語れなかった事を話していた、アル・ムーリフが感じていたその重さを初めて打ち明けた、最後に本当の事を伝えるように言っていた、アル・スハイルはそれを聞いて言った。
「そちは…
何をしておる……」
「え……」
ステラはアル・スハイルの言葉に驚いた、アル・スハイルの口調が呆れたような口調だったのだ。
「そちは…
余から離れてでも
ハダルを追ったのじゃ……
余とそちの誓いを
違えるようにな……
そうまでして
なぜ旅に出たのじゃっ‼︎‼︎
新たな人生と言う旅に
なぜ旅立ったのじゃっ‼︎‼︎」
アル・スハイルは、気力を振り絞るように言った、それはオルビスの星に降り、人として生まれ変わった妹に言っていた。
ステラはそれを聞いて、アル・ムーリフとして自信を持って言った。
「愛する人を
追いかけるためよっ!
それ以外に理由なんて
何もないわっ‼︎‼︎」
アル・スハイルはそれを聞いて微笑んだ時、アルナイルの頭に言葉が響いていた、その言葉をアルナイルは不思議に思いながらもアル・スハイルを信じた。
「ならばっ!
諦めるでないっ‼︎‼︎
そなたの旅はまだ終わらぬっ!
終わらせなどしないっ‼︎
余がそなたの住む星をっ!
守って見せるっ‼︎
あやつとそこで生きるが良いっ‼︎
アルナイルッやれっ‼︎‼︎」
アル・スハイルがそう叫び、アルナイルはアル・スハイルに手を向け、一瞬でアル・スハイルを光の力で包み、アル・スハイルを転移させてしまう。
「滅びるが良い
シリウスッ‼︎‼︎‼︎」
アル・スハイルはシリウスの斜め上前方に転移し、凄まじい気迫を放ち叫び声を上げアル・ムーリフから送られたサーベルで、シリウスを狙い襲いかかった。
アル・スハイルはステラの話を聞いて意を決していた、何が何でも止めると、何を犠牲にしてでも守り抜くと。
そしてシリウスが此方にだけ集中している事にも、その遠距離を見る瞳が捉えていた。
「なんだとっ‼︎‼︎」
シリウスは声を上げるが対応出来なかった、アル・スハイルとステラが放った光線に気を取られすぎていたのだ。
アル・スハイルのサーベルは美しく、速く正確にシリウスの、両腕を切り落とし、素早くサーベルを逆手に持ち替え、振り払うようにシリウスの首を斬り落とした。
そしてその場で立ちゆっくりと振り返る、まるで何かを覚悟した様に、その姿をアル・ムーリフの力を得たステラにはゆっくりと見えていた。
アル・スハイルの目の前にはシリウスが倒れ、シリウスの稲妻を一瞬で押し切ったアル・スハイルとステラが放った光線が、既に躱せない距離に来ていたが……。
アル・スハイルは優しく微笑んで言った。
「アル・ムーリフ……
幸せに……」
それはアル・スハイルが初めて言った、可愛らしくその若い姿に見合う言葉だった。
その言葉、その微笑みはステラだけに届いた、ステラの頭にそのアル・ムーリフ姿が見えていた。
「お姉ちゃんっ‼︎‼︎」
ステラが驚いて叫ぶが、ステラからはもうどうしようもない、助けることなど出来るはずが無かった……。




