序章 第2話 折って生まれたもの
翌日またガイアはギルドに居た、ステラに何か秘密があるのか気になり、フランシスの街に滞在することにしたのだ。
そして手頃な依頼を探していた。
滞在するにしても、暇を弄ぶ気は無かった、それは彼の戦い方は経費がかかる場合があるのだ。
「あまりいい依頼がないなぁ……」
ガイアが呟いた、よほどフランシスは強い魔物が少ないのか、街の人の悩みが無いのかいい報酬が提示された依頼がないのだ。
「そうね
ほとんど私が討伐したからね」
ステラが甲冑姿で隣に来ていた。
「はっ?
お前姫じゃないのかよっ!
ってかドレスじゃねぇ……」
ガイアがそう驚いていた。
「えっそうだけど
昨日はあなたにようがあったから
正装で来たのよ
それに屋敷にいるだけじゃ暇じゃない?」
ステラが微笑んで言う。
(このねぇちゃん
暇つぶしで魔物狩るのかよ……)
ガイアは汗を流しながら思っていた。
「でも他の地域から
魔物が来たりするから
そのうち高い報酬の依頼が出てくるわよ」
ステラがそう言いながらガイアをじろじろと見る。
「ねぇ……」
ステラが何か聞こうとして、ねぇ、から言うとガイアはステラに素早く反応した。
「これから買い物にいかない?」
ステラがガイアを誘った。
「はぁ?」
ガイアはため息混じりに言う。
「いいから来なさい
剣も持たないでどうするのよ」
ステラはそう言いながらガイアの手を引っ張って、街の鍛冶屋に連れて行こうとギルドを出る。
暫く歩いてステラが話しかけて来た。
「そう言えば
あの折れた剣はどうしたの?」
ステラは見た目だけでも剣を持ってるように見せればいいのにと思い、聞いて来たのだ。
「あれは昨日のうちに
鍛冶屋に渡して来たんだ
鉄屑かも知れないが
溶かせばまた何かを作れるからな」
ガイアはそう答えた。
ステラはそれを聞いて、いい人だと感じた時に鍛冶屋に着いた。
「こんにちは」
ステラは明るい笑顔で鍛冶屋の主人に挨拶をした。
「これはこれはステラ様
ご注文の品出来ていますよ」
鍛冶屋の主人はそう言い、見事な鞘に収められた一本の剣を奥から持って来て、カウンターに置いた。
ステラが使うにはやや大きい気がする剣で、柄から見ても名品にしか見えない剣である。
「ガイア様
こちらの剣を宜しかったら
お受け取り下さい
条件は何もありませんので」
ステラがそう言ったが、ガイアはサラリと言う。
「嘘つけ……
どうせ後で騎士になれとか
言うんじゃねーの?」
それは見るからに逸品と言える剣をタダでと言われれば、誰もが思うだろうことである。
「そんなことは言いませんよ
セプテント家の名に誓っても構いませんわ」
ステラが自信を持って言う。
「なるほど……」
ガイアはその剣を手に取り、鞘から抜き剣をよく見てから言った。
「この剣は……
折っていいのか?」
「…………」
ステラと鍛冶屋の主人は無言で固まってしまう。
「やっぱり
返して下さい
すみません後でこの剣を
私の屋敷に届けて下さい」
(やっぱり……
もうちょっと考えましょう)
ステラはそう思い鍛冶屋の主人に言った。
「かしこまりましたステラ様」
鍛冶屋の主人がそう言い、ガイアから剣を受け取った。
「わるいな俺の戦い方が
あぁだからな」
ガイアは笑いながら言い、安物の剣を探し始める。
「戦い方って?
あの……」
ステラはガイアが先史の野獣を倒した時を思い出して言った。
「じゃぁっ
あれはわざと剣を折ったの?」
ステラは慌てて聞いた。
「あぁ……
普通には勝てない気がしたからな
だからあの剣には逝ってもらって……
その魂で切り裂いたんだ」
ガイアはそう話しながら剣を探している。
「だから
あんま高い剣は持ち歩かないんだ……
いい剣だとそれを作ったやつの
努力って言うのかな
なんて言うか
壊しちまうんじゃないかって」
ガイアがそう言うと鍛冶屋の主人が話し始めた。
「折っちまえばいいじゃねぇか
剣なんてもんは
斬って貫くもんだ……
それが出来なかったんだ
魂でもそれが出来たなら
喜んでんじゃねぇか?」
「おじさん……」
ステラは今まで聞いたことの無い、鍛冶屋の主人の話し方に驚いて言った。
「まぁ……
好きなの持っていきな」
鍛冶屋の主人が言った。
「わりぃ
じゃぁこれ貰っていくな」
ガイアはそう言い、代金のコインを鍛冶屋の主人に投げ渡した。
「これなら
適当に……これも持ってけ」
鍛冶屋の主人は代金の金貨に、もう一本安物の剣を投げ渡してくれた。
「サンキューッ!」
ガイアはそれをキャッチして鍛冶屋をでていった。
「はやく行きなされ
彼をもっと知りたいのでしょう?
ステラ様」
鍛冶屋の主人はステラにいつもの口調で言ってくれた。
「おじさんありがとう!
あとこれからは
普通に話して下さいねっ」
ステラはそう言って元気に鍛冶屋から出て行った、ステラは街の人々がステラを敬って話しているのを知っていたが、それを窮屈に感じていたのだ。
プライドが高いという自覚も無いステラだが、もうちょっと普通にしたい、そう考えていたのだ。
ガイアはギルドに向かって歩いていたが、後ろからステラに背中を叩かれる。
「ちょっと
待っててくれてもいいじゃん」
「ハハッわりぃ
とりあえず俺はギルドに行って
依頼を待つがお前はどうする?」
ガイアが言うと、ステラが何かを考えながら話しかけて来てくれた。
「ねぇ
非公開の依頼見てみる?」
「非公開?」
ガイアが聞いた。
「えぇ……
無理じゃない?って言う依頼だけど
高額過ぎたり
高額に見えたりして
命知らずが挑んじゃうのよ
あなたなら
こなせるんじゃないかな」
ステラがそう言ってくれた。
「へぇ……
面白そうじゃないか
見せてくれないか?」
ガイアはニッと笑いそう言った頃にギルドに再び着いた。
ステラがガイアをギルドの奥に案内して、ギルドの管理人の女性に何かを話している。
「なぁ……
なんでここのギルドの管理人は
メイドしか居ないんだ?」
ガイアが聞いた。
「お父様の趣味です
ガイア様も同じ趣味ですか?」
ステラが一瞬だけ目に殺気をのせて言ったのにガイアは気付いた。
「いや嫌いじゃないが
趣味ではないな」
ガイアは自然を装いそう言うと、ステラが勝手に話はじめた。
「それは良かったです
お父様と一緒でしたら
私は二度とお会いしません
小さい時は良かったのですが
今でもお父様が私に買ってくる
服がメイド服だと言うことに
悍ましさを感じていますわ……」
ステラが今までに見せたことが無い殺気を、放っている。
(やべぇ……
目が座ってる……)
ガイアは無意識に一歩後退りをしていた。
「とりあえず
こちらがストックしている
依頼です……」
ステラが言う。
「ストック……?」
ガイアが呟いて依頼を見ていくが……。
「この依頼……
手頃じゃ無いか?
タイガーウルフで
二万セルって……」
ガイアはそう思ったが、ステラがサラリと言う。
「それ……
訳あり案件よ……」
「訳あり?」
ガイアが呟く。
「訳あり……
まぁやって見る?
私は一人でやる気はしないけど
やるなら手伝ってあげるわよ」
ステラが顔を曇らせて言う
「俺一人でやる……山分けは無いぜ」
ガイアは強気で言った。
タイガーウルフ、獰猛過ぎる魔物で通常の狼の十倍ほどの大きさがあり、二、三匹で二万セルなら至って妥当である。
翌日、ガイアとステラは街から半日離れた大平原にいた……。
「訳ありって……
こう言うことかよっ‼︎‼︎」
目の前に凄まじく巨大なタイガーウルフがいた、通常の十倍はある、普通のタイガーウルフが普通の狼の十倍それの十倍あるのだ、そして三頭も居た……。
「えぇ……
そう言うことよ
頑張ってね」
ステラが最後にハートをつけて言ったのを明らかに感じ、ガイアは心のそこから、腹の底から思った。
(こいつ……
手伝う気ねぇ……)
「一人でやるって
カッコよく言ったのはガイアよ
頑張ってね」
ステラは再びハートをつけて言った。
ガイアは安物の剣を抜いて叫んだ。
「上等だゴラァ!」
そしてガイアは巨大タイガーウルフと戦い始める。
ステラは離れた場所で、ジャッカリと言う鹿の様な生き物を見つけて何かを呟く。
「ウィテラ……」
すると何かが飛び、ジャッカリの角だけを見事に切り落とし、切り落とされたジャッカリは驚いて逃げていく。
「うんっ!
これを15個で三万セル
美味しい美味しい
ごめんね角貰っちゃうね」
ステラはほくほく顔で角を拾う。
「サウザンドアロー・ファイアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‼︎」
離れた場所でガイアが奮闘している声が聞こえて来るが、巨大タイガーウルフは怯まずガイアを襲っている。
「割にあわねぇぇぇえぇえぇっ‼︎」
ガイアの叫んでいる声が聞こえてくる、ガイアは考えていた。
(こいつ一頭で
20万セルはくだらねぇっ‼︎
それが三頭で60万セルっ‼︎‼︎
それを2万セルだとっ
何分の1だゴラァ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎
ってそんなことより……
三頭いる事が問題だ
剣が2本しかねぇっ‼︎
一本で2頭やんねぇと……
俺が食われるっ‼︎)
ガイアは素早い身のこなしで、タイガーウルフの攻撃を躱し、一頭のタイガーウルフの真下を走り込み本気で安物の剣を、タイガーウルフの左後ろ足に向け振り抜く。
ガイアの予想通り、その足の肉は斬り裂くが、骨は砕けずガイアの剣が砕けた。
(1……)
ガイアが心でカウントし始める。
(2……)
ガイアは一秒一秒を数えていた、二秒経った頃には足を斬り裂かれて暴れたタイガーウルフを躱して、ガイアは折れた剣を、タイガーウルフの腹部に向けていた。
(3……)
三秒後には光の剣が現れ、タイガーウルフの腹部を貫いていた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ‼︎‼︎」
そのままガイアはタイガーウルフを、真っ二つに斬り裂く様に剣を振り抜き、切り裂かれたタイガーウルフは断末魔の叫びの様な凄まじい声で吠え絶命し、そのタイガーウルフの血飛沫をガイアは浴びるが、そのまま素早く走りもう一頭に斬りかかろうとした。
(6……)
一撃で倒そうと首を狙い飛びかかった。
(7……っ‼︎‼︎)
光の剣が僅か7秒で消えてしまった、2頭目のタイガーウルフはすぐに反応し、大きく口をあけガイアを飲み込もうとした。
「ウインドブレイドッ‼︎‼︎」
ガイアはとっさに魔法を唱え、そのタイガーウルフの右目を風の刃で切り裂いた。
タイガーウルフは思わず口を閉じ、暴れガイアは吹き飛ばされるが、最初に倒したタイガーウルフに叩きつけられるも、その毛皮で大打撃を受けずにすみ、すぐに走り始めた。
(7秒か……
使い込んで無い分仕方ないか……)
ガイアは不可能を感じ始めた、だがやると言ったからには、やり切らなければと考えていた。
それはステラが声の正体だと感じていたから、ステラのそばに、それでいて自分の距離で居ようと考えていた。
「たく……
冗談じゃねぇぞ……
旅の訳なんて聞いた奴は
何してんだ……」
ガイアはタイガーウルフの攻撃を躱しながら、ステラが行った方を見て目を奪われた。
ステラは鹿の様な生き物を楽しそうに追いかけている、その姿が美しかったが……。
魔法を放って角を切り落とし、集めている姿を見て我にかえりタイガーウルフに食われる寸前で躱した。
「あっぶねぇ‼︎‼︎
あいつ他の依頼してやがるっ‼︎‼︎
…………⁉︎⁉︎」
だがガイアはステラを見て気付いた。
(見つけたぜぇ
ぶっ倒す方法を……)
ガイアは心で呟き、素早く二本目の剣を抜き、無傷のタイガーウルフの右前足に斬りかかり、一瞬で剣を砕いた。
そしてそのタイガーウルフが、よろめいた時に合わせて飛びかかり、その発動した光の剣を渾身の力を振り絞り、首を切り落とし光の剣は消えてしまう。
右目を失ったタイガーウルフが、着地したガイアに間髪入れずに襲いかかったが、ガイアは素早く躱して唱える。
「ファイア……」
そのタイガーウルフの顔面に、炎の魔法を放ち、攻撃をしたが火力の弱いその魔法では歯が立たない。
そしてガイアは逃げるようにステラの居る方に走り出した。
「よしよし
これであっと3本
この依頼ってあのタイガーウルフが居て
ずっと出来なかったのよね
街を預かるセプテント家として
人々の依頼はちゃんとしないとね」
ステラはご機嫌で袋にジャッカリの角を入れている時に、地響きを感じて振り返ると、目の前には、すぐそばには、タイガーウルフに追われているガイアが迫って来ていた。
「ちょっ……
いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎‼︎」
ステラには解っていた、そのタイガーウルフが怒り狂い凄まじい殺意と憎しみに染まった目をしていると……。
そしてステラも逃げ出した。
「テメェ待ちやがれっ‼︎‼︎」
ガイアが叫ぶ。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎‼︎」
ステラが叫び加速し始める。
ガイアは予想していなかった、最初は手伝うと言ったステラが逃げるとは、本気で思ってもいなかった。
(やべぇ……
これじゃファイアで挑発した……
意味がねぇっ‼︎‼︎)
ガイアは全力でステラを追いかけた、文字通り命をかけて追いかけた。
「ねぇあなたは
なんで旅に出たの?」
あの声がガイアの頭に響いて来た。
「全力で走るためじゃねぇっ‼︎‼︎」
ガイアが思わず叫ぶ。
「ねぇあなたは
なんで旅に出たの?」
またガイアの頭に響いて来た。
「クッソが
このままじゃ巻き込んじまう」
ガイアはステラの予想外の行動に、ステラまで巻き込んで、二人とも食われてしまうことを連想した。
「ねぇあなたは
なんで旅に出たの?」
三度目に頭に響いた時、ガイアは全力で走ったまま全力で叫んだ。
「ステラをっ!
お前を守るためだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎‼︎」
その声は叫びながら疾走するステラに届いた、そして戸惑ったのかステラが転倒してしまう。
すぐそばまでタイガーウルフは迫っている、だがガイアは諦めていなかった。
「借りるぞっ‼︎‼︎」
ガイアはそう叫び、素早く倒れているステラの持っている剣を抜き、タイガーウルフに向かって走り、そのまま正面から飛びかかり剣を振った、その剣は強靭なタイガーウルフの牙に弾かれながらも、美しく砕け散った……。
「わたしの……」
ステラがその光景を見て呟く。
キラキラと美しく、その破片が日の光に照らされ輝き、永遠の一秒に思わせる様にステラの瞳に映っていた。
「剣を……」
ステラは呟き改めて運命を感じていた、それは最初に先史の野獣を、ガイアが倒した時に感じていたのだ、その剣の力では無く、その力の波動の様な気配の様なものに懐かしさを感じていたのだ。
「徒花を……咲かせよ……」
ガイアはそのままタイガーウルフの首にしがみ付き呟く様に言うが、その声はステラの頭に鮮明だが静かに響いた。
折れたステラの細身の剣から美しい光の剣が現れ、それをタイガーウルフの首に突き刺し、ステラが愛用し続けたその剣の魂は輝きを増し、ステラを守る様に凄まじい勢いで伸び、貫通した。
タイガーウルフはそのままステラを飲み込もうとし、口を大きく開け突進していたが、その輝く剣が大地まで伸び突き刺さり……。
そのタイガーウルフはその光の剣に止められ絶命した。
「守ったぜ……お前を……」
ガイアは倒したタイガーウルフの頭の上に立ち、ステラを優しい顔で見て言った。
その姿を見てステラはそっと立ち上がり、ガイアに静かに微笑んで応えた。
「ねぇ?
借りるって言ったよね?」
ステラが聞いた。
二人は帰り道を歩いていた。
「あぁ
だからお前の依頼手伝ってやったし
荷物を持ってやってるだろ?」
ガイアは反省の色を見せずに言った。
「まけてあげるけど
100万セル払える?」
ステラは楽しそうに言った。
「100万セル…………」
ガイアは呟く。
「あの剣は大切な剣なの
100万セルじゃ安いくらいよ……」
ステラが考えながら言っているが、ガイアは無言で歩き続けている。
「まぁいいわ……
助けてくれてありがとう
いつか……
返してね……」
ステラはなぜか恥ずかしそうに言った。
二人は街に着いてステラは屋敷に帰っていくが、その別れ際に見せたステラの頬が僅かに、ピンク色に染まっていたが、ガイアはそれに気付かなかった。
ガイアはギルドに向かい報酬を受け取った時に気付いた。
「そう言えば
ステラの集めたこの角の報酬……
まっいっか明日渡すか……」
ガイアはそう呟きステラの依頼の報酬を受け取ったのと同時に、管理人が声をかけて来た。
「お手紙ですかね?
これも入ってましたよ」
ギルドの管理人さんがそう言いながら、手紙を渡して来た。
「うん?」
ガイアはそれを受け取り読んでみる。
(絶対に割にあわないから
これも足しにしていいからねっ!)
そう書かれていた。
「なんかわりぃな……」
ガイアはそう呟いた。
ガイアとステラが戦ったタイガーウルフの死体を、赤いラインがある黒いコートを着た者が見ていた。
「何があった……」
その者はそう言い、空に飛び以前青い流星が流れた方に飛んで行った。