第79話 狸、鼬と見つめ合う
ここから完全新作になります
流れとしては『閑話 鼬、台所に立つ』からの流れになっております
秋晴れの日差しが気持ちよく感じられる昼下がりの喫茶店、僕はとある男と差し向かいで座っていた。
そいつは椅子に座ったまま上体を左右に揺らしながら所在無げに窓の外を見つめている。窓の外には、ついこの間公演が終わったとある半島出身のアイドルスターグループのポスターが千切れかけてひらひらと揺れている。
曲がりなりにもそっちが依頼者なんだからこっちを向いて説明して欲しいんだけどね。
かれこれ30分ずーっとこの状態なんだけどさ、いい加減おじさんブチ切れるよ!呼び出しておいて放置とかさいい年こいてやるこっちゃねぇだろ?
「用事無いんなら帰るからね、伊達くん」
「えっ?どうしてですか?僕がこんなにお願いしてるのに帰るとかですね・・・」
呼び出した挙句に黙って座って横向いているような状態で誰がどうやって何をお願いできるというんだ!相変わらずなめとんのかおめぇは!
この脳みそのネジが全部メルトダウンしたような男は、かつて【クトゥルフの猫】討伐で共闘した【大日本調伏同盟】の構成員で唯一堂々と除霊業界のメジャーこと16強の中の一つ【世界救世教会】に転職した宇宙人こと伊達だ。こっちの忍耐が続きそうになかったからあまり係り合いになりたく無くてこっちからは避けてたんだけど向こうの方から押し掛けてきやがったんだ。
「大切で内密にして欲しい要件だからって呼び出されて、30分以上だんまりされた挙句にお願いを聞いてもらえないのかとか言われてもね、聞こえて来ないものをどう判断しろって言うのか説明して欲しいもんだよ」
「えーっ!面倒じゃないですかぁ。番頭さん相手の考え読めるですよね?ちゃちゃって読んじゃってくださいよぉ」
真面な人間の考えだったらそりゃあ推測ぐらいできますよ、いくらウーちゃんの加護がもう無くなってる僕でもね。けどね、明日の天気聞いたら昨日のあんパンの値段答える様なアンタの考えなんて誰だって読める訳無いでしょ?
「なんでそんな疲れる事しなきゃならないんですか?火急の用事でも無いようですから僕はこれで失礼させて頂きますよ」
僕は宇宙人の返事を待たずに席を立った。
そうこれでこの話はお終いだった筈だった・・・それなのに・・・
そこには僕のズボンの裾を掴んで縋り付く伊達の姿があった。アンタそんなキャラじゃないだろ?
「僕のマナミたんが帰ってこないんですよね!」
静まり返る喫茶店、刺さるように集まる冷たい視線、おいおいと泣き伏すスーツで身を固めた青年、立ち尽くす厨房での作業後でランニングシャツに汚れた前掛けを掛けただけのおっさん・・・どんな修羅場だ。
「蒸発か家出だったら警察の管轄だ。事件や事故に巻き込まれてるんならそれも警察の管轄だ。
どっちにしてもお門違いの除霊屋に相談するような話じゃないだろ?ノーベル賞を獲ってる人間がバンバン出てる大学を出てんだからそれくらいは解るだろ?」
こいつと同じ大学を出てる人間をもう一人知ってるがあっちもあっちで思い込みが激しくて制御不能になりやすいから要注意なんだよなぁ・・・そんなのしか行かないのかあの大学は?それに個人的には警察にはまあ含むところが多分にあるけどこの場は向こうのフィールドの話になるだろう。
「警察は家出だって言ってますですね。でも家出する理由が無いんですね。
それだったら神隠しとかになるじゃありませんか。だったら神様と飲み友達の番頭さんに頼むしか無いじゃないですか!」
家出を神隠しと一緒にするんじゃねぇ!誰が神様と飲み友達だ。あれは八幡様やお諏訪様がお神酒を持って僕の所にやってきて勝手に酒盛りをして愚痴を垂れ流して帰ってるだけなんだからな?・・・何でこいつが八幡様たちがお酒を持って通ってるって知ってるんだ?
「アレは八幡様やお諏訪様が浮世の憂さを晴らしに来てるだけです。第一僕は酒を嗜みませんからね。
と言うより、君のいる所だって神隠しとかなら調べてくれたんじゃないのか?」
曲がりなりにも除霊屋のトップにおわす16強の世界救世教会様にいるんだからな。
「それに関しては私の方から一言説明させてください」
いきなり後ろから声を掛けるんじゃねぇ!ぎょっとして振り向くとそこには見た事のある女性が立っていた。
「【教会】の・・イさん・じゃない・・・ですか。・・お久しぶり・・・ですね。
・・いきなり・・・後ろを・取るのは・・止めて・くれませんか、・・ナントカ・13・じゃないけど・・余計な・反応・・しちゃったら・・どうするんですか!」
前会った時から1年も経っていないのに随分やつれたなこの人。ちんちくりんとちゃんちゃんバラバラやってた時からするとかなりしおらしいイメージに変わったな・・・手首に包帯ってかなり危ないんじゃねぇのか?
取りあえず宇宙人に席を譲らせて世界救世教会の幹部イ女史を座らせて事情を聴く事にする。僕は、例によってコミュ障が発生して途切れ途切れにしか喋れないけどそこは我慢して欲しい。
一体何が始まったんだ?
ゴールデンウイークの間は毎日頑張ります




