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狸なおじさんと霊的な事情  作者: BANG☆
閑話 その6
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閑話 悪魔来たりて弓を引く

もちろん再投稿です


本編で飛ばしたちんちくりんの新銀河開発討伐戦を無理やり形にしてみました


イメージはできてたんですよイメージは・・・ハードボイルドっぽく仕上げたかったんですけどね


 オレとした事が、あのちび助を舐めて失敗しちまったぜ・・・


 被疑者護送の覆面パトの中でその男はそう呟いていた。


 男が思い返すのは最初に面接に来た時の事だった。どうサバを読んだら年が倍になるのか知らんが29だと主張するちび助。ガキに興味はなかったが好みの爆乳が気に入って採用を決めたものの社長室に連れ込んで胸を揉みしだこうとしたらなぜか天井を向いて床に寝そべっていた事。


 その時に異常な事に気付いていない鈍感さがこの男の今に繋がっている。


 ハルピュイアで混乱させて更に徹底的に搾り取ろうと女に弱いアイツらにちび助をぶつけ、スパイとして入り込ませた男達に煽らせた。にもかかわらず一向に落ちる様子が無いMSMに業を煮やして今度は昔飼っていた女をガキ込みでさらおうとしたらちび助が横やり入れてきてどこに行ったか見当もつかないとかどれだけ手際が悪いのか。


 遂にはスパイ達が揃ってMSMを追い出されてちび助だけが窓口にされ、ウスノロたちとの攻防は長期戦の様相を呈してきた。


 仕方なくヤクザを投入して揺さぶりを掛けてみたが逆に団結が固くなったのは男にとって更なる誤算だった。


 ハルピュイアを持ち込む時に利用したヤクザとその対抗勢力を競わせてMSMに脅しを掛けた時点で、ちび助に変化があった事を男は気付いていないどころか思いもしなかった。


 それにしてもウスノロと侮りバカにしている相手から恵んでもらえないと生きていけない自分に気が付いていない事が、この男にとっては不運だったのか知らずに幸せだったのか。


 MSMへの要求が、全部よこせから共同開発へ更には情報提供それも有償の物へとなっていった事をちび助は報告をしなかった。一応はしているのだが内容の変化を熟読しないと把握できない様な報告書でやっていったのだった。尤もMSMの側からしても一見血も涙もない様な文面に救いが含まれていると言うより大幅な譲歩がされている事に気付ける者がいなかったのはちび助の苛烈な事で知られる霊能業界で他社を出し抜いていた話術でどこに潜むか判らないスパイの目を欺いていたからに違いない。ただその事が守っていたMSMに伝わらなかった事はどうだか、なんせMSMからは悪魔の化身のような扱いをされていたのだから。


 ちび助が決定的に男とその父親に不信感を抱いたのはそれから間もなくハルピュイアの孵化に伴う騒動が起きた時だった。


 ハルピュイアの騒動で混乱しているMSM社内で元社員たちに情報を盗ませようとした事が発覚したのが発端だった。まさか猫又に現場を押さえられて全員が捕まるとは夢にも思わなかっただろうし常識的にはあり得ない事だった。なんせ持ち込んだハルピュイアにすら懐疑的だったのに猫又となるとおとぎ話のキャラクター位にしか思えなかったからだ。所詮は科学の名の上に胡坐をかいて現実を見なかったプライドの塊のような男の失態であり認める事の出来無い事実だった。


 それまでも不信感を持っていたちび助が全権を任せられていたと思っていた案件に横やりを入れ続けられていた上でのとどめの出来事として反旗を翻す決断をしたのは、当然の帰結だったのかも知れない。元から雇い主に従順であったかは別としてだが。


 そしてちび助は自らの居場所を求めてある提言と出会う、雇い主たちを葬り去れと。


 ちび助はその足で雇い主でありながら自分を裏切った男たちの元に出向き、スパイ達の失敗とハルピュイアの孵化を報告した。稚拙な小細工の失敗と次なる成功への布石をだ。


 そしてその時から悪党どもの悪夢は始まった。




 黄色く染めた円の中に点を二つ並べて目と見立て微笑む口元を下に書き加えた著作権に堂々と引っ掛かるシンボルマークを掲げて『開かれたヤクザ』を標榜する恵比寿会のこの街の事務所にその小娘は姿を現した。


 新銀河開発の事務所やらMSMやらで見かけたネゴシエーターの女だ。新銀河立ち上げから参加した恵比寿会にとっては同じ新参者同士という事で顔馴染みでもある。


 新参者として雇い主に肚の据わったところを見せつけようとハルピュイアの卵の設置を請け負って認められた恵比寿会からすると、未だに結果を出せない小娘は嘲笑の的だった。


 だがこの時、小娘から告げられた一言でその優位性は崩壊する。


 小娘が事も無げに告げた言葉は


「お互い先がありませんね」だった。


 この言葉に激昂して数少ない語彙を駆使して反論(正直恫喝でしかないが)を繰り広げる恵比寿会に小娘は動じる事も無く一言で切り捨てる。


「卵、ダメでしたよ」


「そんな事ぁあってたまるか!オレたちゃ奴らの指示通りにきっちり仕事をしたんだ!

 ダメだったら指示が悪いに決まってるだろうが!」


 気色ばむ脳筋ども(恵比寿会)を鼻で笑いながら小娘はこう続ける。


依頼主(新銀河開発)が悪いって道理が通じるとでも思ってるんですか?あっち(新銀河開発)にしてみりゃ新参者のこいつら(恵比寿会)は前から付き合いのある先生(麦踏会)みたいにきっちり仕事をしてくれない口だけ名人だって吹聴する事は間違いないでしょうね。

 当然今まで仕事を独占してきた麦踏会があんたたちを庇う訳無いわよね。減った仕事を取り戻す大チャンスだもの。シャカリキになって追い落としに来るでしょうね」


 自分がその立場だったら絶対にするであろう行動を小娘に指摘されて改めて自分の立場の危うさを自覚する無法者ども(恵比寿会)


 そして小娘はさらに追い打ちを掛ける。


「今度の失敗で後が無くなりかねない依頼主(新銀河開発)にしたって依頼料を値切るチャンスよね、あたしの取り分もケチろうって魂胆なんだから。

 あたしは見切りを付けてこの町出て行くつもりだけど、アンタたちは全国組織だもんね。収入(シノギ)が減れば上部に納める上納金が減る、上納金が減れば上部から叱責が来る。下手すると抹殺かもね。逃げ場が無いってのも大変だわ」


 たった一度の失敗でも制裁を加えられるのが裏社会、その加減をするのは上部の機嫌次第。それこそ口頭での注意(プラス鉄拳制裁)、配置転換から指詰め、切腹、処刑に至るまでの恐怖のロシアンルーレットが待っている。


 そして負の思考誘導でテンパるヤクザたちの耳に小娘の囁きが届く。


 やられる前にやってしまえ、新銀河開発も麦踏会も油断している今なら叩き放題だと。




 かつて全国的に抗争を繰り広げていた反社会団体恵比寿会と麦踏会が警察からの締め付けも有ってその戦いの矛を収めてから数年が経つも、手打ちをしたのは上部だけであり末端は直系傍系を問わず日夜争っていた。それこそ1円でも多く上部に上納する為にシノギを削っていたのだ。表立って争える訳も無く見えない所でひっそりとだ。


 今回の失敗で新銀河開発は立ち行かなくなるだろう。となると今有る金をせしめてさっさと上納してしまえば上部の覚えはよくなるに違いない。


 その幼児並みの考えが小娘の思考誘導によるものだとは思いもせずに、男たちは依頼主の元を訪れて残り少ない金銭(そのほとんどが借金であるが)を強奪し詰めていた麦踏会の人間を殺傷する。


 逃げのびた男たちの手引きで街にいる全ての麦踏会のヤクザ者が恵比寿会の事務所を急襲して居残り組を血祭りにあげる。この時に留め置かれていた小娘がケガを負う事になるのだがそれはついでと言うものだろう。


 こうして突発的に発生した新銀河開発襲撃を発端とする恵比寿会と麦踏会の抗争は両組織のトップの逮捕と新銀河開発の幹部の拘束と言う形で終息を迎えた。


 綺麗さっぱりヤクザ者の一掃と言う結果をS市にもたらしてくれた。実は小娘の就職活動の副産物だとは誰も気付かないだろうが。


 その策謀の腕を以ってちび助いや小娘は念願の職を得る事となった。


 そして警察の捜査線にも掛からずに小娘は今日もいる、合法ロリ、口先の悪魔などと呼ばれながら。


 敵からも味方からも悪魔と称された女、名を宇佐木 チカと言う。

イメージとしては黒澤明と三船敏郎の『用心棒』だったんですけどね・・・あっハードボイルドにしたかったら『血の収穫』になるのか



これが限界でした

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