閑話 お狐様奮闘記
毎度お騒がせ致します 再投稿で御座います
古新聞古雑誌・・・いえ調子に乗りました
読んでる方は全力でスルーされても泣きませんから
「はぁ・・・こんなトコに一人で居なければならないとは旦那さまの意地悪!」
何度目かの溜息を吐きながら私、狸小路葛葉は荒れ果てた廃墟らしい廃墟の朽ち果てたドアノブを握り締めて恨み言を漏らします。別にドアノブが好きなのでは無いのです、ただ扉を開こうとドアノブを握ったら扉が勝手に倒れてしまっただけなのです。
今回はチームシリウスに依頼が殺到したもので、同時進行する為に旦那さまのバックアップ無しで単独行動をしなければならないという事で、私は一人寂しく廃墟に潜入しているのです。うん、随分霊気が籠っているようなのです。
いつも旦那さまに頼っている索敵も陰陽師らしく式神を使って・・・使って・・・つか・・・・もう早く動きなさい式神“旦那さまの右手”!この子は霊気や妖気で対象を見つけ出して目印としてそこに張り付くのが仕事なのです。私だっていつもいつも現場で採算度外視で全方位攻撃をやっている訳では無いのです。ちょっと準備に手間がかかるので普段はやっていないだけなんですから。
それに旦那さまが近くにいないと張り合いが無くて進捗がはかばかしく無いのは秘密なのです。でもここで私が一番の成果を残したとなったら御褒美としてアンナ事やコンナ事やソンナ事までしてくれるかも知れません。そしたらそしたらそしたら旦那さまとガバッとやってムギュッとやってアヒィとなっちゃうかも!あぁ、鼻血が出てきちゃいました・・・
・・・右手はあくまでもそこから動かないつもりなのですね。解りましたそのままこんがり焼きあげて差し上げますから覚悟を決めてくださいね。・・・なんて強情な子!これだけ言っているのにまだ動こうとしないなんて!
私は除霊符を取り出すと呪文を唱えて頑なな式神に叩きつけるのです。
因みに呪文は『よいなさなははずく』なのです。ついでに言っちゃえば武器を強化する金剛符に使うのは『よるてしいあはずく』ケガの回復に使う回復符のが『よるてじんしはずく』封印符は『だのものくぼはずく』だったりするのです。自家製の呪符ですけど普通に使う『急急如律令』はもちろん適応してます、そうじゃないと通販で他の陰陽師の方々へお売りするなんて事はできませんもの。自家製だからこその裏コマンドなのです。これはシリウスのみんなしか知らない内緒の話なのですよ。
旦那さまには適当な漢字を付けて覚えて貰ったのですが実は漢字には意味が無いのです。コマンドを逆から読むと・・・ねっ♡。ですから旦那さまが私の札を使ってくれる度、私は心の底から喜びに打ち震えているのです。
それはそうと式神“旦那さまの右手”、覚悟はできてるでしょうね。貴方が望む通り地獄に堕としてあげますわ。
ドゥゥゥム!
私の一撃を躱すなんてなかなかやるじゃない、でもこれで終わりなのですよ。えいっ!
こ、この私をコケにするつもりなのですか。一度や二度逃げられたぐらいで私に勝てたなどとは思わない事ですわよまだまだ私は負けてなどおりませんわ!
ハァ、ハァ・・・私とした事が我を忘れてついムキになってしまいました。
ふと気が付くと、周りは爆撃でも受けたのでは無いかと疑いたくなるほど穴だらけで、廃墟らしい廃墟から廃墟そのものにグレードアップされていました。因みに旦那さまの右手はいつの間にか私の懐に戻って来ていて皺一つ無い真っ新な状態なのでした・・・。
癪に障ろのでもう一度標的にしようと術を掛けて再起動してみますけど、フニャフニャとして真面に動こうとはしません。
確かに残留している霊の気配も無くなっているので最低限の仕事はできていたのだと思いたいのですが。
パラパラと埃が舞い落ちているので建物の崩壊の危険がありますから式神への報復を諦めて外へ出ますと、建物の持ち主で依頼主の方が心配そうにこちらを覗かれておりました。建て替えた方が安全だと思いますけどこれでいいのですか?
「あ、あの凄い音がしてましたけどダイジョブなんですか?」
「あ、はい。除霊は完璧に終了したので御座います。霊の強さとの兼ね合いで大分建物の方にダメージが・・・」
我を忘れて建物をスクラップにしたとは流石に正直には言えないのです。
「噂に聞いた“圧壊の魔王”様に手加減して頂けるとは思っていませんから。依頼を出した時からここは建て替えるつもりでしたから。
これで霊障の心配なく新築する事が出来ますよ、ありがとうございました!」
「いえいえ、私ももう少し修行して壁紙一枚汚さずに除霊が終われるように精進したいと思っておりますから。
なんとか御依頼の完遂をできてホッと致しました」
「でもこんなにお美しくて腰の低い方が“圧壊の魔王”様だなんて思ってもいませんでしたよ。
そろそろ日も暮れますし任務完了の祝杯を一緒に挙げに行きませんか?」
依頼主だからと下手に出てると下心丸出しのお誘いが・・・ここは我慢、我慢よ葛葉!
「態々のお誘い誠にありがたいので御座いますが・・・私、実は酒癖があまりよろしくないらしくて仲間たちからも禁酒を言い渡されておりますので悪しからず」
「こんな美人に迷惑を掛けられるのならそれは役得と言うもんですよ。
これからの契約の事もありますし『魚心あれば水心』なんて言葉もあるじゃありませんか。どうせ今日は他の方々も仕事が遅くなって帰りが遅くなるでしょうからじっくりと飲もうじゃありませんか!」
えっ?他のみんなの仕事ぶりを把握してる?・・・何を狙っているのかしら。飲んで暴れてあげましょうか、それともさっさと帰りましょうか。
私は、報酬を餌にちらつかせて誘う下種な依頼主にイラッとする気持ちを抑えて微笑みかける。
「金銭面に関しては“番頭”に一任しておりますので私の方では解りかねるので“番頭”同席でよろしければお誘いをお受けしも構わないので御座いますけども・・・」
悪い癖を出さないように必死になって猫を被る私に、金をちらつかせる依頼主が肩を抱いてくる。旦那さまでもまだやってくれないのに赤の他人からされたくは無いのです。
「お互い大人じゃないか、あんなちびの一人や二人君の側にいなくてもボクがキミを天国に送ってあげるから構わないさ。(こんな上玉放っておける訳無いじゃねぇかヒッヒッヒッ)今日は返さないからさ覚悟するんだね。
さぁどんな声で鳴いてくれるのか楽しみだよ子ネコちゃ、ヒッ!!」
腹の中まで覗かせてくれたヒトデナシに控えめな威圧をほんの少し、ええほんの少しですよ、お掛けして差し上げました。そうすると口から泡を吹き白目をむき出しにしてそれまで好き勝手に囀っていた依頼人が即効ひっくり返りました、もちろん汚いですけど失禁付きです。
別に追加料金が欲しい訳でもなんでもないし、旦那さまが前もって決めた料金さえ頂ければ私は満足なのです。
ただ、圧壊の魔王って二つ名は乙女には不釣り合いだと思うのです。何度か他所と合同で仕事をした時にちょっと威圧を飛ばして何人か病院送りにしただけなんですから。建物を潰した事は無いんですから!
後ろでドーンと大きい音がしたので振り向くと、さっきまで私が除霊をしていた建物が崩壊していたのでした。
・・・崩壊しただけで圧壊した訳では無いと思うのです・・・