第78話 人魚、決断する
微笑みの海神と憐れなる生贄編の最終篇が抜けとりました!
読み返して今日(2021.5.1)気が付きました
書いた筈の内容を必死で思い出し取りあえず掲載します
誠にお恥ずかしい限りです
「ディーテ、ここで海坊主を出せるかい?」
僕の腕に身を寄せた人魚が恥ずかし気に顔をほころばせる。
《某、我が君の御命令とあれば命も捨てる所存です。変化など造作も無い事》
えーと、某って侍とかの一人称だったように記憶していますが・・・女性が使う言葉じゃないような気が・・・
などと僕が戸惑っている内に、空が一気に暗くなり雷鳴が轟くと、人魚がいた筈の場所に黒い球体が姿を現していた。
仕事が早いなぁ・・・たった一人で日本中の海を駆け回っていた敏腕実働部隊は反応がいいよね。
稲荷狐に爪の垢でも飲ませてあげたいよ。もう関係無いけどね。
【なんや、海坊主どこに行ッとったんや!ワイに恥をかかすなて何度言うたら分かるんや、このボケ!】
コイツ、バカなのかお坊ちゃまなのか、今の流れでディーテが海坊主で尚且つ僕の方に付いてるって事が理解できないのかよ。
【兄貴ィ、オレの御先祖様、脳ミソ腐っちまってる模様っす】
八幡様、態々のご報告ありがとうございます。血が繋がっている貴方の見立てなら間違いは無い事でしょう。神様にも、アルツハイマーとかそう言うのがあるとは思っても見ませんでしたよ。長生きするのも善し悪しだよね。
【ところでその辺に可愛い人魚がおれへんかったか?おったらあれはワイのもんや!間違い無うワイのトコへお連れするんやど。
能無しのオドレにはそれくらいの事しか出来ひんやろさかい、しくじるなよ。出来ひんかったらオドレはひと月飯抜きや、解ったな!】
恵比寿様の配下に対する扱いってきたらまるっきり最低だな、言って見れば神界の中のブラック企業みたいなもんじゃないか。あの言い草は無いだろう。今日日の普通の会社だったら労基局に直訴が上がってそのまま全国放送でガンガン映像が流れてクレームでサーバーダウンするトコじゃなかったのかな?
「ディーテ、ありがとう。確認を改めて出来て丁度良かった。戻って構わないからね」
『確認』しましたよ。海坊主に対する恵比寿様の扱い方、他の神様の評価、ディーテの反応速度、ディーテの忠誠度、とかね。
再び球が弾けてディーテと姿を変えて僕の腕に縋って見せても、恵比寿様の暴言は収まらなかった。
【また逃げくさりよったかっ、海坊主っ!舐めくさりよってからに!温厚なワイに伝家の宝刀を抜かそう言うんやな!後で目にモノ見せたるさかい覚悟しときや!
ところであんさん、いい加減徳を積む準備は終わったかいな、ん?
何をそんな妙な顔をしとんねん。気は心、魚心あらばナンチャラって奴やがな。ほれ、みなまで言わすな。ほれほれ。
あぁもう、じらすんは可愛いおなごの特権やで、お前さんみたいな死にかけの翻車魚みたいなんがやってもちっともええ事あらへんがな。
あぁもう、煮え切れん男やな!
おのれが抱いとるんはおのれには荷が過ぎとる言うとるんや!そんなんはワイの傍に侍っとるんが似合うとるやろうが、当たり前やないかい!
分不相応な夢は捨てな不幸が深うなるで。悪い事は言わん、海の物は海へ、人魚はワイに献上せい言うとるんや!】
・・・よう喋るおっさんだな、おい。
本人の意思に反する事はする気が無いんですけどね、僕は。
「上げたり下げたり宥めたり賺したり情に訴えたかと思えば恫喝する。
見事な交渉術ですね、恵比寿様。
僕としては本人の自由でいいと思ってますから、特に僕からは言う事はありませんよ。
奴隷みたいな扱いに戻りたいのならばそれもよし、自由な世界に羽搏きたいのなら阻んだりはしませんしね」
『不幸が深うなる』に対抗してちょっと韻を踏んでみましたけど解るかな?
「ただ、僕が言いたい事は心の籠っていない言葉は僕の心には何も響かなかったって事です。
自分の欲を正当化しようと空虚な言葉を並べたてられてもただ五月蠅いだけですから」
【おのれは神を愚弄する愚か者や言うんやな!もうわかったわ!海坊主!『奴を潰せ』!】
最後のフレーズがパワーワードなんだろうな。関係の無い僕でさえゾワリと来たから。
ディーテは僕の腕を固く握りしめて眼を固く閉じ俯きながら、何かに抗おうとしている。
出来れば僕の腕が折れる前に決着付けてよね。痛くて泣きそうなのを必死で堪えてるんだからね。
僕にとっては永遠に等しい苦痛の中を漸く時間が流れ落ちて、腕を掴んでいたディーテの力が緩んだ。
ブランとぶら下がる肘から先・・・骨が折れとるっっっ!
激痛の中失神する僕をよそにディーテは恵比寿様に宣言をしたらしい。
本人は照れて教えてくれなかったけど、その場を見守っていた仲間たちや八幡様からは鼻水でみんなの顔がぐちゃぐちゃになるほどの感激的な展開でディーテは恵比寿様と決別して僕の元に、そして恵比寿様ははれて天下に轟く野良神へと没落してウーちゃんたちに引きずられながら出雲へと旅立ったそうな。
めでたしめでたし。
感動の場面を見損ねた僕は、なぜか嬉しそうに赤面しながら回復符を使う葛葉嬢によって骨折から復活、また葛葉嬢の呪縛から逃げられなくなるという日常へと戻っていく。
先日、SNS上に『人外ハーレム王』というのがトレンドで1位を取ったそうな・・・きっと僕の事ジャナイハズダ・・・
この話を挿入する事でこれから後の話数を1つ繰り下げていきます事をお許しください




