第71話 狸、足抜けに挑む
いよいよ漆黒の使いと無垢なる精霊編もラストスパートです
おっさんに明日はあるのか
「旦那さま、これは匿わないといけない様な気がするので御座いますが・・・」
人道的には助けなきゃならんだろうし、ちんちくりんがこんな状態になったのも僕が出した条件が原因だし、とは言え、みんなを危険な方向へ誘導しているみたいな感じがとっても気持ち悪い。
【せや!ここはワテが一肌脱いで「まだいらしてたんですか。気付きませんですいませんね。
でもここでストリップをしても男は僕一人ですよ。おまけに見えませんし」そない虐めんかてええやないかぁ】
気配は感じられたけど見えない駄女神の事はほっといて、取りあえずの問題提起をしとこうか。
「同盟の裏番さんはつけられてなかったかな?」
「こんな体で何の証拠も残さないなんて考えられないよ・・・多分バレてる(ボソッ)」
これはヤバい。僕たちは霊が相手だったら無類の力があると思う。でも生身の人間が相手だとしたら・・・葛葉嬢の様子からしても得意だとはとても言えないよな。
「オレんトコの奴らを搔き集めようか?・・・少しは役に立つと思うんだ(ボソッ)」
「逆にあっちを呼び寄せる事になりそうだからそれは保留にしましょう」
カオルン少年がいた元暴走族の闇黒明星だった子たちは喫茶シリウスの常連でもあるし、それなりに荒事にも慣れているかも知れない。とは言え本職に対抗できる程とは思えないし、もしOBが向こうに居たら呼び込むだけだ。逆を言えば情報を引き出す伝手になるかも知れないけどね。
【だったら兄貴、ここはオレに任せてくれよ!】
・・・呼んでもいないのに勝手に湧いて出てくるのはGか神様ぐらいなもんなんだろうな。
加護が外れて一番縁遠い存在になったウーちゃんはともかく、八幡様までホイホイ湧いて出るようになるってここどこの神社だよ。店の外からはたくさんの鳥の気配が感じられる。八幡様の使いは夜目が効かない鳩だけどここは梟かなんか連れてきてるのかな?そうだ、ハルピュイアも八幡様に押し付ければ僕はフリーになれるかも・・・そんな死にそうな顔して僕を見るんじゃないよ、わかったわかった見捨てたりしないから、いつも一緒だよ。
【だぁかぁらぁ~兄貴ってばオレの事を無かった事にしないでくれよ!】
「とんでもありませんよ、ただ有り難い御宣託で片が付くような話じゃないんですけど何かお出来になるんですか?」
やる気で済む話だったら八幡様にお願いして大正解だとは思うけど、今度の相手は真っ当な神経が無い地回りだからね?
「あ・・・おじさま、どうかなさったんですか?」
えっ?ついさっき失血で死ぬ寸前までいったヤツが、点滴始めて15分で喋れるってどんだけのスタミナなんだよ!
「君を追いかけて来るであろうヤクザどもの撃退法をみんなで議論していただけですよ」
「それでしたら御心配には及びません。恵比寿会と麦踏会のこの街にいる末端組織は新銀河開発を潰すついでに壊滅させましたから。チンピラ見習いに至るまでこの街には存在していませんからご安心を」
【・・・兄貴ぃ・・・その辺りの構成員ってのは本当にこの街には残っていないですぜ。全員が留置所にいるかこの街を逃げ出してるか・・・
ゲッ!あいつの親玉から幹部までしょっ引かれてる!おめぇ、どうやってそんな事が出来たんだ!】
「これは八幡大菩薩様、それはおほめの言葉ですよね?」
【お、おぅ】
八幡様・・・いつの間にそんな小物になっちゃったんですか?僕に顎で使われるばかりかちんちくりんの威圧にまで負けるとか・・・ウーちゃんに勝てない訳が解ったような気がするよ。
「門外不出の秘術って言うか、伝家の宝刀って言うか、まぁそんな感じの物をちょこっと使っただけですから。どうやったかなんて聞かないでくださいね?乙女の秘密ってヤツですから」
武闘派中学生が何を言う。まぁ八幡様が確認してくれたんなら安心してもいいんだろう。
まぁこれでちんちくりんがどんな奴か葛葉嬢たちに伝わったんじゃないかな?葛葉嬢はフリーズして瞬きも忘れてるし、カオルン少年は賞賛の眼でちんちくりんを見てるし。
「流石『西に“同盟の裏番”あり』とまで言われて神戸の街でヤクザに喧嘩を売って回っていただけの事はあるな」
これは今僕が作った話です。実際はどうか知らないけどそういう雰囲気を醸し出してるからみんな納得してくれてるね。
「えっ?・・・その話ご存知だったんですか?いやぁ若気の至りってヤツでして・・・」
照れるちんちくりんに固まる僕。適当に言ったのに本当に有った武勇伝だったとは・・・地回り程度どうにでもなるって豪語するだけの事はあるな。
「今はただの怪我人だけどね。ついでだから今の内に話をしたい事があるんだけど狐塚さんも大上さんも宇佐木さんもいいかな?」
全員(ついでに八幡様も・・・って事はウーちゃんもか)が頷いてくれて僕は話を続ける。
「僕が偶然とはいえウーちゃんの加護から離れてしまった事はみんなが知っている通りだ。今の僕では霊の把握もできないし眷属だったアンジェとも繋がっていない、そう完全にみんなのお荷物になっている。そして霊能者にして腕っぷしも確かな現在フリーの宇佐木さんがここにいる。
そこでだ、チームシリウスに僕の代わりとして宇佐木さんを推挙したいんだがどうだろうか?」
「絶対反対で御座います!」
予想通り提案を瞬殺する葛葉嬢・・・僕に縋ったって寿命からしてキミが死ぬのより30年以上早くあの世に行くんだよ、僕は。3千年の夢から覚まさせてあげないと前に進めないだろうが。
「オレとしては純粋な戦力アップができるから入って貰っていいよ・・・でもおっちゃんの代わりはいないからな(ボソッ)」
後半は無視してカオルン少年は賛成っと。
「もし入れて頂けるのなら粉骨砕身頑張ります!」
霊が怖いって言う致命的な欠点があるちんちくりんだけどここは本人の意思を尊重してと。
なぁーごぉ
すまんアンジェ、人化して喋って貰えんとお前さんの言いたい事は何も解らんのだよ。
ハルピュイアは・・・生まれたばっかで事態の把握はできてないだろうからパスだな。
「狐塚さん以外の反対は無いようだから決定でいいかな【異議あり!】「私の意思が尊重されないのはなぜなんで御座いますか?」・・・部外者の異議は受け付けません。狐塚さんも多数決に異議を唱える意味が解りませんが?」
準構成員と言っていいウーちゃんが異議を唱えるも正式のメンバーじゃない事からサクッとぶった切って難敵葛葉嬢の説得フェーズに入る。
「私は・・・私は妻として旦那さまの側を離れたくはないので御座います!」
感情論かぁ・・・一番厄介なんだよなぁ・・・理性で反対してる訳じゃなくて気に喰わないってのが。特に主戦力が拗ねるとメンタルなもんがほぼ全てと言っていい除霊にはマイナスそれも無力化に近い大きな負荷がかかる。
「去年は僕を修行に出してくれたよね?」
「おかげ様で旦那さまのありがたみが痛いほどわかったので御座いました。あの一人寝のベッドの冷たい事、傍で息遣いも聞く事の出来ない侘しさ、薫ちゃんと二人だけのさびしい食事、そんな、そんな諸々の全てをまた味わえと仰るのでしたら私は冥府魔道へ赴くしか御座いません!」
・・・拗らしてやがる。夜な夜な夜這い同然に人の布団に潜り込んできてたのは誰だって言うんだよ。一日中真横でこんなおっさんの顔を覗き込んで溜息を吐かれても困るんだよ。食卓ってのは人が多い方が明るくなって楽しいのは自明の理じゃねぇか。そんなもんを一々引き合いに出されて悪神になるって脅しを掛けられ続けてるこっちの身にもなってみやがれ。
とは言え、これ以上ごねられたらちんちくりんが入る事にみそが付く・・・妥協するしかないか・・・
「解りました。役に立たない僕でよかったら残りましょう。
でも今までみたいに現場について行くとかそんな事は期待しないでくださいね。加護が外れてそう言う事が出来なくなっているんですから。本当にそれでもいいんだったら残ります」
こうしてチームシリウスの黒一点、絵面的にも一番外したい僕は残留が決定したのだった。
泣く子と狐にはどうしても勝てないおっさんで御座いました
閑話を2本挟んで新章に入ります 今回予想以上に長引いたので次は短期決戦に・・・なるといいなぁ
ご感想御座いましたら是非いただけたら幸いです