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狸なおじさんと霊的な事情  作者: BANG☆
漆黒の使いと無垢なる精霊編
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第64話 狸、交渉する

「とにかく口裏を合わせてお金を頂きませんと僕たちは干上がっちゃいますから」


 外に連れ出す口上としては陳腐だけど僕たちも先立つものが欲しいんだよね。


「でも嘘を吐くのはどうなので御座いましょうか」


 ハァ、そうだった。このヒトは真っ正直が取り柄の腹芸が出来ない人だった・・・


 騙すぐらいなら騙されたい。一度信じた相手は死ぬまで裏切らない。そしてこっぴどく裏切られて悪神発動ってのが過去何度かやらかした流れだったりするんだよな。だから僕は手を出さないって言うより出せないんだ。


 とにかく交渉は()()()()()僕が担当、葛葉嬢は横で一ノ瀬くんたちを黙って見据えているという事で事後報告と追加料金の交渉に入る事にした。



「えーと、今回の件につきまして多大なご助力を頂いた訳で御座いますので、弊社と致しましたところ正規の契約金の他に報奨金と言う形で幾ばくかの上乗せをさせていただきたいと思っている次第でありますが、如何でしょうか」


 除霊屋との交渉に慣れていないらしい一ノ瀬くんの前向きな発言から事後報告会は始まった。海千山千の除霊屋相手にそんな事言ってたら一瞬で財産失くすから言葉には気を付けようね。


 それにしても葛葉嬢の虚脱状態が続いていて交渉のプラスになりそうにないな。相手を凍てつかせるような威圧感が今日はほとんど出ていないよ。


「たぬ、いや番頭さん。“圧壊の魔王”様のご機嫌はどうなんだい?」


 一ノ瀬くん、あんた、葛葉嬢が一番嫌がる二つ名をいきなり言うのは勘弁してくれよ。結構デリケートな奴なんだよ?これ。


「まぁ、ウチの狐塚は「私は狸小路 葛葉で御座います!!」・・・はいはい、狸小路さんでしたね。

 ウチのリーダーは自分が手を下すまでもなく僕が解決しちゃったもんでちょっとオカンムリなんですよ。なんせ、ワーカホリックで悪霊退治してるのが三度の飯より好きなヒトなもんでね」


 僕が見えて無い癖に、妙な自己主張だけは忘れないんだから困ったもんだよ。


 向こうを見るとみんな顔色が良くないなぁ。やっぱり葛葉嬢が本調子でないのがバレてるか・・・揃いも揃ってお人好しだから心配してくれてるんだろうな。


「それからすいませんが、一ノ瀬社長。ウチの狐塚は「私は狸小路 葛葉だと言っております!」はいはいそうでしたねすいません。ウチの姫君は「主婦で御座います!」はいはい言葉が足りなくてすいませんね。

えーと、何度もすいませんね、ウチの主砲たちは実のところさっきの二つ名が嫌いなんですよ。

 除霊業界じゃ、ウチの主砲二人の事を“圧壊の魔王”“蹂躙する拳王”だなんて呼んで恐れてるんですけど、二人ともまだまだ恋をしたり遊びに行ったりなんて事が当たり前に有っていい年頃じゃないですか。

 僕の“番頭”との釣り合いからも、本人たちの希望はこっちが“アウトレンジの()()”もう一人が“ソッコーの()()()”にしてくれって五月蠅いんですよ。出来たらそっちの呼び方でお願いします」


 なんでみんな黙り込むの。まるで無理な事を力ずくで押し通してるみたいに見えるじゃないですか。葛葉嬢だってカオルン少年だって探せばちゃんといい所があるんですからこれくらいの融通利かしてくれてもいいじゃないですか。


【その言葉は口に出したらあかんでぇ。ワテも庇いきれんようになるさかい気ぃつけぇや】


 ウーちゃん、いきなりオープンチャンネルでパーソナルな話はしないでくれない?一ノ瀬くん、椅子から飛び上がったじゃないですか。碌な事考えてなかったって事が丸解りなんですけどね。社長室に赤鳥居と狐の置物なんて置いてるからウーちゃんと縁づいちゃったんじゃないの?しつこいからね、このおばはん。


【おや、自力でワテを見る事も叶わんくせにいっちょ前にウーちゃんとは何やねん。一般人やからってワテは優しゅうは無いんやで。

 この稼業、舐められたらあかんのや!耳から手ェ突っ込まれて奥歯ガタガタ鳴らされとうなかったらワテの事お稲荷様と呼ばんかい】


 何がこの稼業だよ、駄々洩れもいいとこじゃない。その程度の危機管理能力しかないから眷属もうすらぼんやりしたのとか自分がやってる事を理解できないのとかばっかりになるんじゃない?


【さっきからグダグダ五月蠅いんやけど!ワテに文句があるんなら堂々と言わんかい!】


 別に隠れてこそこそしてるつもりはないんですけど?ただ霊能に免疫のない一般社会人に、恐喝まがいの絡みは無いんじゃないかって言ってるんですが?


【おぅ、それで手ェ打ったるか。ただし1週間やど倍にするんわ。ええな!】


 逃げやがったな。ここは古株らしくフォローでもせにゃならんか・・・1週間倍にするとか又あくどい事を思いついたんじゃないだろうな?


「その様子じゃウーちゃんの洗礼にあったみたいだね?」


 我ながら憐れんだような顔になってるだろうな。


「番頭さん、人が悪いな。いらっしゃるならいらっしゃるって教えてくれよ。びっくりしたよ、全く」


「社長室に赤鳥居を置いた時点でアウトだと思いますよ。多分あの神様の中ではこの建物ごと自分の神域に取り込んじゃってると思うし、言ってみれば『自分の庭で何しようとワテの勝手やあらへんか~』とか言って開き直るだけだから鳥居と狐の置物は撤去する方向で考えた方がいいと思いますよ」


【ちょっと旦那だんさん!何をそんなご無体な事を言いさらすんや?今までワテの御利益でええ思いさせたったやないの!】


「ほほう、失業してホームレスまで体験する羽目になるは、行く先々で悪神と遭遇するは、警察の世話にはなるは、あの臭いのを排除してくれないどころかウチのリーダーが付き纏られても何の手も打たないは・・・どれがご利益だって?」


 急に神々しい空気が普通の物と入れ替わった、どうやら逃げ出したみたいだな。


「・・・噂には聞いてたけど、たぬ、いや、番頭さん。本当に神様とやりあって勝つんだね・・・」


 一ノ瀬くんが僕の事を尊敬してるのか呆れてるのか判らないような表情で見ている。


「お陰でここ一年は波乱万丈で平和のありがたさを身に沁みて感じられるようになりましたよ」


 皮肉でもなんでもなくこれは僕の本音だったりするんだけど、横で聞いている葛葉嬢が泣き出しそうなんだよなぁ。別に葛葉嬢に引きずられて怖い目に会ってる訳でも無いんだけどねぇ・・・根が真面目だから何でもしょい込んじまうのがこの娘の悪いトコでいいトコでもあるんだよなぁ。

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