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狸なおじさんと霊的な事情  作者: BANG☆
漆黒の使いと無垢なる精霊編
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第61話 狐、狸を見失う

ヒロイン登場

凭流勅使神破屠狗(よるてじしんはずく)


 それは懐かしくもあり、僕にとっては異様な風景だった。


 目の前のハルピュイアと中学生もどき(ちんちくりん)以外は誰もいないフロア。視界の隅で踊り狂う浮遊霊もいなければ壁の落書きから顔を覗かせる生霊も出てこない。霊感は確かにまだそこにいる事を訴えているそんな奴らが一切見える事が無くなっているんだ。


 実に1年振りの普通の風景が、僕の目の前に広がっていた。目に力を籠めてもさっきあれほどはっきり見えていたちんちくりんの首の霊力の塊も見えなくなっている。


 という事は・・・僕は霊能を失ったんだ!これで僕がチームシリウスにいる意義が消滅したんだ。


 今の僕は、単に普通よりちょっと霊感の鋭いタダのおっさんだ。能力を失ってしまえば、葛葉嬢の暴力的な威圧に肝を冷やす必要もカオルン少年の暴力的なアプローチに耐える必要も無いって事だ。


 そうなったらアンジェが眷属で居る事も、今みたいに体を張って誰かを守る必要もなくなったって事か。ウーちゃんとの縁が切れるってこういう事だったんだ。


 とにかくここにはもう用は無いな。


「宇佐木さん、どうやらハルピュイアの孵化に係わった事で僕の霊能が枯渇したらしい。さっきまで周りで騒がしかった霊が何一つ目に入らなくなったんだ」


「そ、そんな!おじさまの霊能は、教会にいた“千里眼”に負けないというより唯一無二の素晴らしいものだったんですよ?それが失われたなんて・・・業界崩壊の前兆って言うか人類滅亡のカウントダウンが始まってしまったんですね・・・」


 何でそんな大袈裟な話になっていくんだ。業界なんて、僕が辿り着く10年前から存在してたじゃないか。それに人類滅亡の危機とか、どっからそんなものが湧いてくるんだよ。


「話が大きくなり過ぎじゃないのかい?僕一人がいなくなったところでチームシリウスはまだいるんだし、霊能者だって世間にはいっぱいいるじゃないか。

 どっから人類滅亡なんてシナリオが出てくるんだい?」


 ちんちくりんが盛大に溜息をきながら天を仰いだ。


「ウーちゃんさまから色々と話は伺ってますからわかってるんですよ。

 チームシリウスのかなめはおじさま。あなたがいないとあのチームはぶっ壊れます。あなた抜きで除霊をした時の話はあたしも噂で聞いてますけど、除霊と言うより破壊だったそうじゃないですか」

 

 ・・・あぁ、そんな話もあったな。僕が所用で参加できずに葛葉嬢だけが参加した除霊の現場は悲惨だったって話。


 いつも抑えてる僕がいなかったせいで、いつになく不機嫌で尚且つ除霊対象の把握が手間取って待てなくなった葛葉嬢は、式神と呪符で絨毯爆撃をやらかして、完全に霊が存在しない空間が出来上がったのはいいけど跡形もない更地がそこに残ってたとか・・・最強だけど最恐で最凶だよな葛葉嬢って。だからって僕が人身御供になる必然性は感じないんだけどね。


 それから、その件で葛葉嬢が謹慎になった後、カオルン少年が単独で参加した時は“世界救世教会”かどっかのバカと些細な事から口論、喧嘩となって建物は半壊、参加した他の霊能者は全員病院送りとなったものの除霊だけはカオルン少年一人の手でやり遂げたなんて事もあったな・・・それも本人はケガ一つしていなかったし。


 とは言え僕がいなくても、あの二人は仲がいいんだからぶっ壊れるとか無いんじゃないの?


「それに考えてもみてください。前世は玉藻の前、前前世は周の褒姒(ほうじ)、その前は殷の妲己だっきだったんですよ。

 今世が九尾の狐じゃないってどこに保証があるんですか?」


 ウーちゃんはそんな事までちんちくりんにばらしてるのか・・・それこそ守秘義務違反だろうに。


「そう言う決めつけが本人をかたくなにして、ひいては本物の九尾の狐にしちゃうと思うんだけどね」


 だから人身御供になりたくないんだってぇの。


「あたしは恐ろしい目に会う前に消えさせていただきますね」


「新銀河開発から金はせしめなくていいのかい?」


 ちんちくりんは似合わないウィンクをして微笑んだ。


「どうせ、この作戦は失敗したんです。あそこには、もうびた一文どころか100ウォンだって有りませんよ。あたしとしてはおじさまの顔が見たくてここまで来ただけでしたから・・・ちゃんと望みは叶いましたし。

 またどこかでお会いできたらいいですね。その時までに霊能が復活していてくれる事を祈ってますよ」


「そうか、それじゃ、又な。

 そうだ言い忘れていたがお前さんの霊能は年末と変わってないぞ。ウーちゃんが加護を消し忘れたんだろうな。

 元気で居ろよ」


 僕なりの爆弾発言に目を丸くして驚いていたちんちくりんだったが、元気に手を振って非常口から出て行った。


 それと入れ替わるように表の方からドスンドスンと地響きが近づいてきた。何事かとそちらを見てみると白の狩衣に朱の指貫、立烏帽子を頭に頂いた葛葉嬢が息を切らしながら入って来るところだった。解りやすく言ったら、神社の巫女さんが神主のかぶってる帽子を頭に付けているって感じの姿だな。


 左手に持っているのは式神の元となる人形ひとがた、右手に持っているのは呪符か。うーちゃんからの伝言を聞いて第一級戦闘装備で駆け付けたってトコか?それにしてもさっきの音は何だったんだ。それにここに届くには早すぎるだろう。


 中に入ってきた葛葉嬢は、きょろきょろと何かを探しているみたいだな。いつもだったら、鼻息ふんふん言わせながら一直線で突進してくるのに。


「旦那さま、どちらにいらっしゃるので御座いますか?貴方様の最愛なる正妻の葛葉で御座いますよ。もう怖い事は無いので御座いますよ?

 私が解らないので御座いましょうか・・・」


 えっ?マジで僕が見えてないの?別に自分の手が透けて見えてる訳でも無いし、物音を立ててない訳でも無い。


 葛葉嬢の後ろには普通サイズの黒猫が付いてきている。アレはアンジェか・・・()()()()()


 マジで霊能が無くなってるんだ・・・ギャーギャー鳴いているアンジェの声も聞こえない。ハルピュイアはと言えば・・・いなくなっている。代わりに1羽の鸚鵡オウムが小首をかしげながらこっちを見ているだけだ。もしかしてコレがハルピュイアの本体なのか?


 僕がここにいるにも拘らずフロア中を探し回る葛葉嬢たち、そして呆然と立ちすくんだままその様子を見守る僕。


 そう言えば葛葉嬢は、霊の気配は感じ取れるけど霊を視る事は出来ないんだった。


 どうやら、僕は死んでいたらしい。

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