第58話 狸、西からの刺客と巡り合う
小さいけど大物来襲です
「・・・タダじゃ動かないよ・・・」
とは言え、除霊に直接絡まない交渉事で金をせしめるのは良心が痛むのが本音だったりするんだよ。ただ、一連の事件で糸を引いてるかもしれない新銀河開発が相手だという事で、手付金の10万で手を打つことにした。
助けてもくれないとっても御利益を感じさせてくれ無い神様の有り難いお言葉を聞き流しながら処刑場へと向かうMSMの面々に混じって移動していると、目的地と思われる部屋から噂の主と思われる人物の声が聞こえてきた。
『さっさとせんと間に合わなくなるんとちゃいますか?こないな事、下っ端のあんさんたちに言うたかて詮ない事やて知ってますんや。けど、もうそないぎょうさんは時間残ってないんやさかい急いでほしいんですぅ。早いとこ降参してくれんとえらい事なりまっせ?なぁ』
あれっ?どっかで聞いた事がある気がするぞ?
「お待たせいたしました。君たち、部署に戻っていいよ。それから四方山クン、受付を頼む」
応接室に入って早々に一ノ瀬クンが若手に指示を出して相手の正面に座る。僕は大柄な三島氏の後ろに隠れて隅っこから様子を窺う事にする。予備知識なしで敵の交渉人とやり合うなんてとても無理だから。それも女性らしい。無茶もいい所だよ。
前の人影の隙間から伺うと・・・霊能者だった。紫で落ち着きのある明るさの太めの紐が首の周りを彩っている。カオルン少年よりも一段下ぐらいで、ちゃんとした道具さえあれば単独なら丁級と渡り合える強さがあるぞ。実力はともかく能力としたら、今の除霊業界だったらエース格になれる事間違いなしだよ。
「社長さん、あたしは無理を押し付けようってつもりじゃないんですぅ。
今のままじゃあの壺に全てを圧し潰される事が目に見えてるんでこうして勧告に来てるんですから」
関西のアクセントがきつい喋り方で押しの強さも中々なもんだな。
「そうは言ってもどこの誰か解らん奴に壺を置かれて、その挙句に圧し潰されるから新銀河開発の傘下に下れとは脈絡が無さ過ぎでしょう」
うん、まだ一ノ瀬クンの論理は破綻してないな。
「そない言うたかて・すんません。そうは言われましても、御社の状況を劇的に改善できる方策はもう見つけられているんですか?」
公式の場では訛りを出さないように気にしてるのか。並みの中学生じゃないな。
「弊社としても状況の改善を図るべく、然るべき措置を講じようとしている所です」
「本当になさってるんですか?今のままだと『落ち武者』『猫』に続く悪神の誕生が止められないんですよ?」
「そういう御社はアレをどうするおつもりなんでしょうか?」
「『落ち武者』『猫』を葬った実績を持つある人物とあたしが、いやわたくしが個人的にコネクションが御座いますのでそちらに依頼をして事態の収拾をする所存です」
・・・もしかしてそれ僕?でもそんな依頼、MSM以外からは何も貰っていないよ?って言うか大風呂敷拡げてるコイツ誰?
「奇遇ですね、弊社も独自のルートで似たような人物と連絡が取れているんですよ」
「まさか、16強からの依頼を悉く撥ね付けているって話を関係者から入手していますが?」
やはり、除霊業者だったのか。新銀河開発に雇われついでに交渉までしているとか?
「同じ人物かは知りませんよ?ただ、我々と個人的な友諠でつながった人物で銀河開発には隔意を持っているとだけお教えしましょう」
僕が後ろにいるせいか一ノ瀬クンに余裕が感じられるね。
「(事前に貰った資料ではそんな事書いてなかったわよ?)ではどうあってもここを立ち退かないと仰る訳ですね?」
一ノ瀬クンから合図が来る、愈々出番か。
「立ち退くどころか巨悪に立ち向かう所存ですよ。
丁度、弊社の依頼を受けた人物がここに来ていますから顔合わせをしましょうか?
“番頭”さん、こちらに来ていただきますか。
紹介しましょう、これがうちの最終兵器チームシリウスの番頭さんです。そしてこちらがあの新銀河開発から弊社からの技術供与やら利益供与やらの交渉を受け持ってこられている宇佐木 チカさんです」
こりゃまたホントにまさかのちんちくりん登場かよ。
「お、おじさま!」
「いやぁお久しぶり、元気にしてたようだね。相変わらずの凄腕交渉人振りじゃないか、MSMの連中は君の事をバケモノ扱いしていたからね」
「バケモノだなんて!あたしは依頼を受けて交渉を進めているだけなんですよ?」
「じゃあ、新銀河開発のやっている事は知らないのかい?」
「天地神明に誓って大恩あるおじさまに嘘を吐く事は御座いません!あたしはロビーに在った壺から感じた禍々しいものからここの人たちを救いたいのと依頼を受けた新銀河開発とMSMの提携の促進を交渉していただけなんです!」
「おい、たぬ、いや番頭さん。アンタこのちび助と知り合いだったのかよ」
三島氏・・・アンタ虎の尾を踏んじまったね・・・この子は身長に異様なくらいのコンプレックスを持ってるんだよ。それから童顔なのも気にしてたな。
「ちび助って誰の事やねん!あたしはこう見えても29なのよ!
酒飲みに行けば補導に引っ掛かって外に追い出されるは、路銀が尽きたから稼ごうと思って風俗に行けば捕まるから来ないでくれって10万渡されるは、寄り付いてくるのは変態ロリコン野郎どもばっかでそれもあたしの歳を聞いたら泣きわめきながら逃げていくは・・・あたしの幸せはどこにあるんよ!」
やらずぼったくりで10万貰えるんだったらそれはそれで良い実入りだと思うんだけどね。
「もしかしてさっきの話の知り合いって僕の事だったのかな?」
「当たり前です。あたしの知ってる限り、おじさま程霊関係に伝手を持ってる方はいませんからね。ウーちゃんさまを舌先三寸で扱き使い、お諏訪様や八幡様を顎で使い、あの悪神『クトゥルフの猫』を素手で移動させ、“同盟”を再起不能にした『シリウスの落ち武者』を抹殺し、霊力の鑑定から霊の所在の特定まで裸眼で行い、猫又を使役するだなんて常人ではありえません!」
「・・・猫又が見えてたのか?」
「あの時はウーちゃんさまの加護が効いていた頃ですのでそれはもうばっちりと。大きな2本のしっぽを持った黒猫が相手して欲しそうに擦り寄っていたじゃないですか。当の本人から後であたしたちみんな挨拶して貰ったんですよ」
「おい、たぬ「ウォホン!」・・・番頭さんよ、お前コイツとグルなんじゃないだろうな?」
僕は思わず五木を半眼で睨む。
「今の文脈でどこに僕が新銀河開発と繋がるような話があるんだ。
一ノ瀬社長が僕をシリウスに探しに行けって言ったのは、僕が去年の年末に『クトゥルフの猫』の討伐で審判をしていたのを見ていたからなんだろう?あの時勝ち残った“大日本調伏同盟”の中心メンバーだったのがこの宇佐木 チカさんだったってだけだよ」
「そうは問屋が卸すもんか!そいつは俺たちから会社を巻き上げた後お前に祓わせるつもりだったんだろうが。
一度悪神とかってぇのをやっつけた事があるんなら自分でできる筈じゃないのか!それで狎れあって無いとは言わさんぞ!」
「僕が一ノ瀬社長の顔を立ててここに残っている事を忘れているのか?僕はこのまま帰っても何の痛痒も感じないんだがね」
ここで無駄な話なんてしてないでさっさと外に出ないと凄い事が始まりかねないんだがね。
僕としては新銀河開発の交渉人としてやってきているちんちくりんをどうにか丸め込んで話の落としどころを探ろうと思っているところなんだが、五木の野郎が僕を第三極の当事者に仕立て上げて話を混乱させようとしているから纏まるものも纏まる筈が無いじゃないか。
五木の思う事も解らない訳じゃない、要は話を拗れさせて銀河開発の魔の手に墜ちるのを遅らせたいって事だろう。確かに、あの壺を考えなけりゃそんなに悪手でもないさ。それでも、この肩にくっつけられた羽根から常時吸い上げられていく霊力が何を意味するかとか考えると、モタモタなんかしてられないんだよ!
最悪の場合は、ちんちくりんの言う通り禍々しいものがここに降臨してしまうかもしれないんだ。
内心の焦りが見透かされちまったのかちんちくりんから新銀河開発への協力を打診される。
「あいにくだけど宇佐木さん、銀河開発には恨みこそあっても恩義は無いんだ。その話は聞かなかった事にするよ」
そんな事より早くここから避難したんだけどね!
いつの間にやらこれを投稿し始めて4ヶ月が過ぎました
どうにかエンドマークを付けられるように書いて行きたいですけど反応が解らないから展開を模索中
星は無理でもブックマークだけでももらえたら嬉しいなぁ