第57話 狸、助太刀をさせられる
結構流されやすいおっさんです
「銀河開発が攻めてきました!」
銀河開発は倒産して新銀河開発に社名は変わっているんじゃなかったかい?まぁ、要するに経営者が同じだから同じっちゃぁ同じだけど気にする奴は気にするからね。
槍か鉄砲担いだ足軽の集団がえっちらおっちら田んぼの畔を走ってるような牧歌的な殺人集団をなぜか連想して、僕は人知れず苦笑してしまった。なぜだろう、九重クンの口調だとそう言うイメージが湧いてしまうんだ。
「あちらさんは今どこにいるんだい?」
僕の問い掛けに四方山クンが苦虫をかみ殺した顔でボソッと呟く。
「部外者は気楽でいいよな。あのちび一人に、こっちは10人がかりでも太刀打ちできないのにさ・・・
受付を通って第2応接室に行ってる筈ですよ」
「君だって怨霊に取り殺されかけたりする事は今までなかっただろ?
これからは知らないけどね。
それに相手は一人だって?君たちへの刺客がたった一人だなんて信じられないよ」
「信じられなくても現実は現実だよ」
それはそうと、幹部が全員ここに来ていて一体誰がその『刺客』の応対をしたんだ?
「俺たちんトコにだって下っ端はいるんだよ」
不機嫌そうな三島氏の声が現状を物語っている。こりゃ陥落寸前だな。沈没前の船からはネズミが逃げるらしいけどMSMじゃどうなんだ?
「創立メンバーから4人が逃げてるんだ、察してくれると嬉しいねぇ」
悲壮な顔をして迎撃に出る二宮さんの横顔が暗い。そこは明るくしてあげないと。
「それじゃあ田貫くんも儂らと一緒に出陣するかい?」
そんな無理心中前の最後の晩餐を食べ損ねたみたいなオーラは勘弁してくれ、六藤。同い年なんだからさ。
「抑々の情報も持たずに迎撃するなんて不可能じゃないですか」
「それをやってるから防戦一方なんだよ、くそ!」
自棄を起こしても戦況は変わらんよ、五木。相手は新銀河開発なんだからこっちを研究して攻略に掛かってることは明白だし、妖怪も多分あっちの仕掛け・・・羽根が付いたって事はこっちの考えが駄々洩れの可能性すらあるね。情報戦で後れを取ったら挽回は難しいだろ、なぁアンジェ。
《『敵を知り己を知れば百戦危うからず』要するにターさん♡みたいに情報の重みを知らないと泣きを見るって事でしょ?》
やっぱりついてきてたか・・・アンジェ、この羽根の効果は解るかい?
《霊力が抜き取られてるみたいね、少しずつずーっと。それとどこにいてもバレてるみたいよ》
やっぱりそうか。霊力を蓄えて魔力を高めている訳か・・・それじゃあ出てくるのもそう遠くないな?
ドナドナをBGMに処刑場に向かう囚人のようなMSMの面々の最後尾について行きながら、すぐ前にいる身長は僕と同じぐらいだけど体重は僕の半分かもって位痩せこけた八木沼に声を掛けよう。
「おいヤギ、お前たちの相手ってどんな奴なんだ?」
「どんな奴って・・・どんな奴だっけ?」
記憶情報が細工されているのか?コイツは物覚えの良さには定評があったんだぞ?
「もう三日寝てないんだよ・・・もう何も考えられないのに・・・」
それが妖怪の力だって言うのか?・・・何者なんだそいつ。
こんな形で情報統制を仕掛けているとは・・・
「ヤギさんが寝不足なのは恋人を寝取られたからだよ、なぁ」
お調子者の七尾が八木沼に絡んできている。こいつは比較的元気なようだな。それにしても・・・
「寝取られるような相手でも付き合えてたのか!」
僕の言葉に泣き崩れる八木沼。悪い、つい言葉が出ちまった。
「あ~あ、ついに泣かしちまったかぁ。ヤギさん、思いつめるタイプだから首括っちゃうかもねぇ」
「七尾、いい加減にしねぇか!ヤギもしゃんとしろ、敵さんはもう向こうで手ぐすね引いて待ってるんだぞ!田貫も、いや番頭さんもそっとしてやってくれないか。正直言って俺たち全員があの子たちが側に居なくて耐えられなくなってるんだよ。
あぁ、それから俺たちの交渉相手は見た目で行ったら中学生ぐらいの奴だ。でも滅茶苦茶タフな奴であいつの相手をした後は仕事が何も出来なくなるんだよ」
「僕の知り合いにも一人そういう奴がいたけど、世の中にはそういう奴が他にもいるんだな・・・」
しっかり三島氏に怒られちまったじゃないか。それにしてもちんちくりんみたいな奴がいるのか・・・敵に回すと大変だよな、ああ言うのってさ。
【タマちゃんの旦那さん、ちょっと聞いてぇなぁ。タマちゃんたら今日はごっつぅ機嫌が悪いんよ】
出物腫物ところ選ばず・・そんな諺を思い出させてくれるウザ絡みがとっても得意な某女神様、降臨である。
「『あの日』とかじゃないんですか?」
以前そっちの方が重いとかで寝込んだ事あったのを覚えてますけど何か?今は関係ないでしょ?っつうかアンタどっから湧いたの?本当はゴキブリが眷属なんじゃないだろうね。
【湧くって虫みたいに言うな、ボケェ!ワテは祀ってあるトコならどっからでも顕現できるんじゃい!】
「急にどうしたんだよ、た・・番頭さん」
「この近くにお稲荷様祀ってあるトコあります?」
質問に質問で返してごめんな、十河クン。
「お稲荷さんなら社長室に赤い鳥居と白い狐の像付きで飾ってあるよ」
「そうなんだ、それなら信徒の為に一肌脱ぐのが筋じゃないかい?ウーちゃん」
そう言われてみんなに判るように顕現する駄女神。おや?いつもの勢いが無いな。ただ、顕現された方のMSMの10人はいきなりの不審人物登場に大パニックである。当然だよね。
「みんな、取込み中だけど紹介するね。社長室に飾ってある御利益のあまり無い神様、お稲荷様です」
【御利益の無いっちゃどういうこっちゃねん!己は言うに事欠いて神さんに文句言う気ぃか!】
「おい、た、いや番頭さん!これホンモノ?」
びっくりしながらも僕に念を押す一ノ瀬クン。僕が重々しく頷くとテンションマックスでウーちゃんを伏し拝む。正に藁をも掴む心境なんだろうな。
「どうか、どうかこの厄難からお救い下さい。このままじゃせっかく頑張って作った会社も家族も乗っ取られてバラバラにされちゃいます。もうボクたちには祈る事ぐらいしか残ってないんです!」
拝まれて、いつもなら胸を叩いて『ワテに任せんかい!』とか言ってノリノリに介入してくる筈のウーちゃんが困ったような顔で押し黙る。こんな顔、初めてみたぜ。
【救ってやりたいんはヤマヤマなんやけどなぁ・・・あっちはワテの加護持ちやねん。ワテとしては信徒同士の利権のかち合う物件で肩入れするんは行動規制に引っかかんのや。この件に関してワテが口を挟むんはできひんのや。堪忍な】
「だったら最初から出てくんな!上げて堕とされた一ノ瀬クンの身になって見ろ!もういい!今から社長室の鳥居も狐も粉砕して排除してやる!」
【そんな殺生な!ワテがあかんのは仕方あらへんやないの。代わりに旦那さんが交渉してくれたらええがな。そや、そうしたら丸う収まるで!】
何で除霊の下見に来て、元の同僚とは言え他所様の交渉の代行をせにゃならんのよ。
「番頭さん、お稲荷さんがああいってくれてるんだ。どうか助けると思ってボクらに力を貸してくれ!」
「・・・タダじゃ動かないよ・・・」
こうしてなし崩しにどういう訳かMSMと新銀河開発の折衝に僕が参加する羽目になったのだった。解せん・・・
だめっでも、くそっでも、ぼけっでも何かしら反応を頂けると書く張り合いになるんですけどいかがなもんでしょうね?