第54話 狸、陰謀の臭いを嗅ぎ取る
この作品で初めて星を頂きました!それも5つ!
涙で前が見えましぇん!!!感謝感激雨あられ・・・表現が古臭いのはジジィの証拠ですがそこはスルーしてくだされ
では本編をお楽しみください
「僕のどこがいいんだか・・・ふん、可愛い奴め」
カオルン少年が悪戯っぽく笑いながら僕を仰ぎ見る。
「おっちゃん以外に可愛い顔なんか見せるもんか・・・恋ニョーボーって奴だぞ(ボソッ)」
心臓に悪いから、そういう事は言わないでいてくれないかな?まったくオマセさんなんだから。
「正妻は私で御座います事をお忘れにならないようにお気を付け下さいませ。
この狸小路 葛葉の目が黒い内は旦那さまに悪い虫は付けさせませんので!」
だからその威圧は今必要な事なのかい?生まれたばかりの悪神よりも生身の癖して威圧が強いって普通どう考えてもおかしいでしょ?それに気に入らない事があったらすぐ冥府魔道に突き進むとかとんでもない事しか言わないんだから、もう少し言葉を選ぶようにしようね、葛葉嬢。
ほら、今の威圧の余波で外を走ってた車がガードレールに突っ込んじゃったでしょうが。霊障と勘違いされて稲荷神社かなんかに通報されたの何回あると思ってるの?
流石に僕も二人には慣れてきたとはいえ、嫁にするとは未だかつて言って無い事を忘れないで!
「どのみち、店が跳ねたら四方山クンの陳情に時間を取られる事になるんだから、みんな隙見て食事するようにしてくださいな」
四方山クンは、人の迷惑なんて端から頭に入っていなさそうだったから喰いっぱぐれないようにしないとね。
でもそんな日に限って常連客達は長っ尻で、閉店できたのは定時から2時間過ぎた10時を回っての事だった。途中でつまんだサンドイッチもとっくの昔に消化してすきっ腹を抱えて事に及ぶなんて、ぞっとするよね。
因みに四方山クンは、夕方の開店以来ずっと隅っこでコーヒー1杯で粘っていた。僕らの仕事ぶりを監視しているのか、葛葉嬢の威圧で行動不能に陥っているのか・・・未だに葛葉嬢のお尻を撫でては威圧をぶちかまされるバカが後を絶たないから、とばっちりを受けた可能性が否定できんからなぁ。
店の片づけをしながら四方山クンに声を掛ける。
「四方山クン、随分長くお待たせしたけど準備は大丈夫かい?」
「だっ、だいじょ・・・ぶ・・・デス・・・」
おや?何かおかしいぞ?
目がうつろで、声はかすれて小さいし顔面蒼白で身体が硬直してる・・・まさか羽根の持ち主から遠隔操作でもされているとか?しまった!
僕は慌てて女の子二人に合図を送り、自らはいざと言う時に盾になって彼女たちを守ろうと、四方山クンの視界から葛葉嬢とカオルン少年の姿を見えなくするべく身を乗り出した。戦闘能力が無いなりの肉の壁作戦ってところだ。
後方支援の僕がいなくなっても、攻撃精度が落ちてコスパが悪くなるとはいえ攻め潰す事は可能だ。でももし二人の身に何かあったら攻撃力が半減して取り逃がすとかデメリットしか思い浮かばないじゃないか。
肩口で妖しく赤く輝く白い筈の羽根に気を取られながら僕が四方山クンに近づくと不意に彼の緊張が解けた。もしかしてこの羽根は霊的な爆弾みたいなものだったのか?
もうかわす事も逃げ出す事も出来ない距離だ。腹を決めて行こう。
不意に四方山クンが涙を流し出した、コイツ人間爆弾にされていた事に気付いていたのか?
「田貫さん、女の人がいるなんて聞いてませんよぉぉぉ」
・・・人がせっかくシリアス路線で頑張っているのにこの緩みっぷりって何だ?・・・コイツも僕同様対女性コミュ障をこじらしていた事をすっかり忘れていたよ・・・
じゃあこの羽根が持つ意味は何なんだ?単なる位置把握だけなのか、それとも盗聴機能でも仕込まれているのか、もしかしてこうして相手している僕の能力の解析でもしているのか・・・取りあえずこいつを落ち着かせなけりゃ始まらんな。
「僕も女の子と一緒に仕事をする羽目になるとは思っていなかったよ」
そう言いながら、紙ナプキンに走り書きをして四方山クンに見せる。
『盗聴されている可能性がある 筆談で』
驚いた様子でカクカクと頷く四方山クン。
『おんなのこがいるなんてきいてませんでしたから!』
態々繰り返さなくてもいいだろうよ。普通だったら後片付けを済ませて店からはとっくに上がってる時間なんだぞ?
『ウチのチームの名前は知っているのかい?』
『チームシリウスですよね』
『それは元々は海外からのコードネームなんだ
日本の除霊業界での正式名称は“狐塚葛葉とその一党”なんだよ
それとも葛葉なんて名前の男が知り合いにいるかい?』
目を丸くして固まる四方山クンに、昔からこうだったよなぁなどと昔を思い出し年寄り臭くなる僕。
『一ノ瀬さんも二宮さんも三島さんもそんなことはいってませんでした
るなちゃんだけでもたいへんなのにほかのおんななんてとてもじゃないです』
るなちゃんとは誰ぞな?まぁ今は関係ないから話を進めて。
『事情の説明はできるのかい?』
頷く四方山クンの顔が強張る。
「すいませんけど、狐塚さんとカオルン少年は離れて貰えませんか?彼は僕と同じで対女性コミュ障なんですよ」
心配してくれているのは解るけど、その濃厚な殺気は四方山クンの心臓を止めかねないから自重してくれないかな?葛葉嬢。
不承不承引き下がってくれた葛葉嬢に礼を言うと、パッと花が開いたような笑顔になるから文句も言い辛くなるんだよなぁ。基本が善意の人だけにコントロールが難しいんだ。これがウーちゃんだったら鼻であしらって有耶無耶に誤魔化した後で煽てたら収まっちゃうんだけど。
それから、説明下手の四方山クンのやたら長いけど分かりづらい話を要約するとこうだ。
ここひと月ほど前からMSMの周りで不思議な事が頻発している。
まずその発端と思われるのが行きつけの店“冥土茶屋 晴瑠晴良”が食中毒騒ぎで閉店廃業した事。いつから霊障で食中毒が起きるようになったのやら・・・
それから差出人不明で大きな壺が送り付けられてきた事。これがツタ見たいな物を編んで作った籃胎漆器みたいな代物で見事な工芸品ではあったものの、どこの誰から送り付けられた物か解らなかった事から不気味になって倉庫に仕舞っていた筈なのに翌日には事務所の玄関先に飾られていたらしい。それも誰が出したのかが判明しなかったとか。
次にるなちゃん親子とやらにいきなり復縁を元の亭主が迫ってきたとかで、この重度の対女性コミュ障患者の四方山クンが引き取って同居を始めたとか・・・これは霊障じゃないだろう。
更に仕事中に、メンバーが突然失踪する事件が頻発しているんだそうな。尤も失踪したメンバーは、数日後に必ずこのS市で発見されているそうなんだけど、その数日間の記憶が飛んでいるらしい。それも込みで四方山クンは、僕を探すためにこの街に来たがらなかったのかも知れないね。
仕上げは“新銀河開発”なんぞと言う胡散臭い会社からの資本提携を持ち掛けられてそれを断ったら続けざまに事故が起こっているらしい。ハードディスククラッシュやら電波障害による連絡網の崩壊やら不意の停電やら・・・それもMSMだけだとかおかしいわな。
「狐塚さん、明日一番で北へ行ってきても構いませんか?」
不服そうに頷く葛葉嬢とカオルン少年に僕は恭しく頭を下げた。
引き続き星やコメントをお待ちしていますのでよろしくお願い致します