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狸なおじさんと霊的な事情  作者: BANG☆
居座る山賊と凱旋した狸おやじ編
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第48話 狸、ゴミと再会する

真夏に生ごみの話ですみません

 久方ぶりに訪れた喫茶シリウスは、正月休みを知らせるポスターを玄関に貼り付けて静まり返っていた。


 取る物も取りあえず西から帰ってきたのにこれは何だ?


「アンジェ・・・これはどういう事かな?」


《・・・てーきゅーび?》


 必死こいて帰って来てみれば、人っ子一人いやしねぇ・・・


 シリウスの周りは、全く復興が進んでいないから空襲の後にポツンと一軒家が立っている様にしか見えない。


 余計に寂しいわ、寒風が身に染みるわ。合鍵を持っている訳じゃないから中に入れる筈も無いし・・・どうしよう・・・もう金が無いし・・・これじゃ年越せないよ。


 仕方ない、稲荷社のほこらにでも泊まらせてもらおうか・・・葛葉嬢抜きでも泊めてくれるかな?でもあいつら(稲荷狐)には相当嫌われてるからな。


 とにかく最寄りの祠に向かって歩く事にしよう。


「アンジェ、あの山賊野郎が狐塚さんに言い寄ってたってホントなのか?」


《ウチの誇りに掛けて本当よ!ウチが信じられないの?眷属が主に嘘吐(うそつ)くなんて事ある訳無いじゃない!》


 疑われた事に腹を立ててアンジェがそっぽを向いてしまう。


 仕方が無いから黙ったまま、気まずい空気を換えきれずに坂を上って祠へと歩みを進める。



 全く、同盟(チンピラども)ちんちくりん(宇佐木女史)たちと憎まれ口を叩いていた方がよっぽどよかったよ・・・あいつらも年が明けて霊力が無くなったら、カタギの仕事に就けるといいんだがな。除霊屋の中に残っていたら、体よく肉壁にされてサッサと死んじまうに違いないからなぁ。


 年の瀬にこの世の薄情さを身に染みて感じながら神域に辿たどり着いてみると、何とも馴染みのある臭いが嗅覚を破壊する。


「・・・アンジェ、お前アレがここに住み着いている事を知っていたのか?」


《え?いや?あの、その・・・ターさん♡を迎えに行く時までは空き家だったんだけど》


 無駄な事とは思いながら、鼻をハンカチで覆いながら祠の扉を開放する・・・あか黒い物体がよだれを垂らしながら大の字で寝転がっている。


 付近には、ここを管理している筈の稲荷狐(能無し)の姿はない。あまりの臭さに避難したのか臭いにやられて山賊の手下になり下がったか・・・あの間抜けどもが逃げ切れる訳無いか。


「アンジェ、向かいの公園からバケツ一杯の水を汲んで来てくれないか?」


《天誅を下すならウチに任せてね♡ 首チョンするなら新技を披露してあげるから♡》


 アンジェが、人化して鼻歌を歌いながら祠の掃除用に置いてあるバケツをひっつかんで公園に走っていく。


 法治国家でそう簡単に殺人なんかできるもんか『クトゥルフの猫』じゃねぇんだからな。


「くじゅはしゃぁぁん・・・しょんなぁぁ・・・おれがそんなにいいなんてぇぇ・・・」


 この野郎、どんな夢を見てやがるんだ、気色悪い笑い方しやがって・・・いかん、殺意が止められん!!


 ようやくアンジェが運んできたバケツをひったくるように受け取ると、その中身を不気味な笑いを浮かべる汚物に向かってぶちまける。


 冷水を掛ける前より3割増しの臭いが祠の中に立ち込め思わず嘔吐(えず)くけど、どう鍛えているのか山賊野郎は目を覚ます気配がない。


 かくなる上は・・・僕はアンジェに目配せをする。「ニャー」と一声あげてアンジェが姿を消すけど、人化してるんなら言葉で返してくれてよかったのにな。


 ふと気配を感じて振り向くと、ウーちゃんが(神様の癖に)鬼の形相で白狐の上から僕を睨みつけている。


「あれ?温泉に行ってたんじゃなかったんですか?」


【オドレが祠を水浸しにした言うんを聞かされるまではな!】


 へっ?僕に怒ってるの?


【どないな了見でこないな不義理をしでかすんかいな、なぁ!

 事と次第によっちゃ生身で年を越させへんでぇ!】


 ・・・ウーちゃん、アンタここに何がいるか解って言ってんの?


【アンタとは何やねん、アンタとは!オドレは神を敬うっちゅうんを一から叩きこまなあかんようやな!】


 頭に血が上って聞く耳もたんパターンか・・・めんどくせぇ・・・


【めんどくさいっちゃどういう言い草やねん!叩き込む前にシバキ倒したろうか!】


 僕はその辺に転がっている棒を使って、ずぶ濡れになっても寝続ける汚物を指さす。


「これ、何だと思います?」


【・・・生ゴミ?・・・】


()()が僕に焚きつけていたタナカですよ、このゴミはね」


【・・・せの1026番・・・ワテを呼びつけたんはおのれやったな。己はここに来てどれくらいになる?】


 あのお諏訪様や八幡様さえも震え上がらせた怒気を正面からぶつけられて固まっているのは、まだ尻尾が二又にもなっていない下っ端の稲荷狐だ。確かいろは順でランクが決まってたから下から3番目の階級みたいだな。


《・・・さ、3年です・・・》


【在所はどこやったかのう】


《・・・戦場ヶ原・・・です・・・》


【ちゅう事は己を推挙したんはよの16番か。・・・まぁええ。アレへの処分は日を改めてがっつりしたる。

 せの1026番よ、ワテがなんでいかってんのか判るか?】


《・・・いえ、常に祠は掃き清めてますし供物も欠かした事はございません》


【じゃあ、これは何やねん】


 ウーちゃんが指さす方を見ると、冬の最中でもびしょ濡れになっても起きてこない異臭の塊とその周りに食い散らかされたかつて供え物であったと思われる生ゴミの山。


《こ、これは何かの間違いで・・・そう、そこの風采の上がらない男が私をおとしめようと仕掛けたものでございます!》


 アンジェはさ、眷属は主に嘘は吐かないって言ってたけどさ・・・嘘吐いてるじゃん。


【ほぅ、オドレはワテをだまくらかそう思うとったんか。

 ワテも舐められたもんやな】


 え?僕に来るの?このくそ単純な暴君の下で生きていく処世術なのかね、嘘を吐くのはさ。


「で、貴女を騙して僕に何かメリットがありますかね?」


【えっ?なんやその目は・・・騙そうとしてないんか・・・じゃあこれはどないしたんや・・・】


 ウーちゃんは、やましい事の無い僕のジト目にいささかビビりながらちゃっかり軌道修正をしているね。ひとつ、目を覚まさせてやるか。


「そこのひよっこ狐。ちょっと外に出て、風上の方で深呼吸してきなよ」


 いっちょ前にムッとしてやがるぜ。


《私は有象無象の指図に従うような教育は受けておりません!》


 有象無象ね、へそが茶を沸かすよ。


【ひよっこには違いあらへんやないか、ボケェ。ここは言う事聞いてちゃっちゃとやらんかい】


 それにしても神様までが鼻を摘ままないといられない臭いって、あの北欧の何とかいう缶詰とどっちがキツいんだろうね。

因縁深い宿敵登場でおっさんは年が越せるのか・・・この章は鼻を摘まみながら書きましたので短いです

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