第47話 鼬、家族の情報を世界に公開する
「みんな、またここで顔を合わしましょ。欠ける事無くね」
僕が同盟の控室でただならない騒音が起きたからと連絡を受けて同盟の控室に行くと、最高幹部会議(笑)が丁度終わったらしくちんちくりんたちが疲れた顔で出て来る所だった。部屋の中を覗くと長机が真っ二つになっていた。随分と荒れたみたいだな。
まぁ、いつも扱っていた怨霊と違って目の前で殺されてんだから、死ってもんの衝撃みたいなモンが凄かったのかも知れないって事は解らん事も無いよ。
公平な審判をしなきゃならない身としては、慰めの言葉一つでも躊躇しなきゃならないのがたまんないね。
元より同盟は存続の危機どころか滅亡の間際にあるんだからな。その上、教会の副会長の息子ってのが紛れ込んでいるから余裕なんてものはかけらも無いって事は判ってるんだよね。誰かって?僕に負けた虚弱体質の坊ちゃんの事だよ。
「お待たせしました、これより競技会を再開いたします。エントリーナンバー7番“大日本調伏同盟”こちらに」
心持ち青ざめた表情の10人が横一列に揃う・・・例外が一人いるな、ぶれないな伊達め。
「では準備に掛かってくださ《ちょっと待て。なんでそいつらの準備を待たなきゃならないんだ?》もちろん時間稼ぎをさせない為ですが?《・・・あの詐欺野郎たちとは違うだろ、こいつらは》進行上の異議であれば僕に言ってくれませんと」
5番6番とあからさまな時間稼ぎをした事を引き合いに出して、チンピラどものアシストをさり気なくする。でもこれ以上は難しいか。
ごねる『猫』を宥めながら予定通りの場所に護摩壇を築くのを待って合図を出す。
ブザーが鳴り響き、フィールドに緊張が走る。正念場だぞ、くそ野郎ども。
『猫』の南に陣取って般若心経を唱えながら金剛杵を掲げる伊達・・・まだ早いだろうがこのバカタレ!
伊達に釣られてその両脇で冬なのに汗をブルブル掻きながら九字を切る井上と真っ赤な顔をして法螺を吹く根津からの決死の霊力が迸る・・・練り方が甘すぎる・・・これが『落ち武者』が相手だったらもう死んでるレベルなんだぞ?早く護摩壇に火を灯せ!
『猫』を取り囲んで南から見たら、5ヶ所の星形に配置された護摩壇からようやく炎が上がり始める。・・・まだ3分しか経っていないのか?
『猫』はと言うと、フライングで始まった伊達の般若心経と井上根津から叩きつけられる霊力の奔流に手を出しあぐねているように見える。今のところはだけどな。
高々たった1週間滝行したぐらいでそんなにスタミナが増える筈がないじゃないか。特に脱走癖でみんなに迷惑かけていた伊達なんてあと5分持つかどうかだ。
護摩壇に火が入ったところで設営をしていた5人が法螺を吹き始め、『猫』の北の護摩壇ではちんちくりんが護摩木を焚きながら伊達に合わせて般若心経を唱え始める。
仕事にあぶれていたキムが時計回りに護摩壇を回って供物を捧げ護摩木を投じて九字を切っていく。
そうすると護摩壇の中心で周囲を窺っていた『猫』に変化が生じだした。『猫』を中心にその周りが、陽炎の様に揺らめきだしたのだ。
苦しげに胸を掻きむしる『猫』。
用心しろ!苦し紛れになんか仕掛けて来る筈だ!ここを乗り越えられなけりゃお前たちに明日はねぇぞ!
『猫』がカッと目を見開き、目の前をちょろちょろ動き回るキムに向かって腕を振りぬく。体力のないキムが、そのタイミングで運悪く足が縺れた事が原因で躓いて蹲ってしまった。
そこで伊達とちんちくりんが声を合わせて「「喝っ!!」」と叫ぶと『猫』とキムの間にある空気がさざ波でも寄せてきたかのように揺らぎ、『猫』が弾き飛んだ。
「伊達くん、嫁に自慢する時が来たわよ!」
「マナミィ、ジュリアァ、アンジェェ、愛してるよ~!」
普通術を起動させるパワーワードってのは依り代に下ってくれた神の名前とか術そのものの名前とか何だけどさ・・・多分、最愛の嫁と子供の名前なんだろうけど・・・世界中に中継が行ってるトコでそれをやるか?嫁に自慢するんじゃなくて嫁を自慢したいのか?その上、うちの眷属と名前がかぶってるんですけ怒!嫁がマナミなら子供は純日本人だろうが!
とにかく、気合の入った伊達の投げた金剛杵が『猫』の額に突き刺さる。
・・・あれは投げる道具じゃない様な気がするんだが・・・
「みんな、オラに力を貸してくれ~!!」
・・・誰がドラ〇ンボールネタを世界に配信しろと言ったか・・・
と、とにかく!5基の護摩壇に付いていた者たちが法螺を止め護摩木を投じながら経文を読み上げ始める。
その代わりに命拾いをしたキムが、法螺を拾い上げて一生懸命ながらヘロヘロな音を奏でる。例えヘタッピでも、世界中に嫁と子供の名前を教えたがるアホよりずっとましだ。
『猫』の額の金剛杵が金色に輝き出し、『クトゥルフの猫』が絶叫を上げる。そして眩しさに何も見えなくなる程の光が10分程も続いた後、光が収まってみるとそこには炭と化した金剛杵が転がっているだけだった。
寺宝は、用法用量をちゃんと守って使用しませんと取り返しのつかない事になるって言ういい見本になっちまったよね。
「アンジェ、アイツはどこに行った?」
《タナカの事?》
「猫田三郎の事だよ」
《なんだ『クトゥルフの猫』の事か。
消えちゃったみたいね》
うむ、僕の見える範囲にも見当たらないな。
「ウーちゃん、アイツはどうなりました?」
【どのアイツや。シノヅカカズマなら永遠に首と体がオサラバして地獄へ直行。教会のキムなら一生懸命十字架握って祈りの最中。タマちゃんなら例の臭いのに言い寄られて難儀してるわね。あっ今殴り倒したわ。
これでいい?】
どうでもいい情報ばかり・・・あの山賊野郎、ぶっ殺してやる・・・
【旦那さん、今のアンタの目の方が一番人殺しそうやで?
冗談にならんさかい、気ぃ落ち着けてや。
わかっとりますがな、『猫』の行方やろ?綺麗さっぱり消滅しとるで、後腐れナシや。これでワテも温泉に行けるがな】
本当だろうな・・・信じられないものを信じるのはどうにも解せん。
「14分53秒。『クトゥルフの猫』消滅によりエントリーナンバー7番、後の無い挑戦者、勝利調伏しました。
尚、勝者“大日本調伏同盟”は末端組織の崩壊が修復不可能な域に達しているとの事で、16強への復帰する事無く解散するとの事です。各構成員に施されていた稲荷神からの加護は、年内を以って解除される事になっていますので各団体とも無理な勧誘は避けて頂きたいと思います。では閉会します」
お諏訪様、八幡様、色々無茶をお願いして申し訳ございませんでした。うーちゃん、年なんだから足元気を付けなよ。
アンジェ、仕方ないから帰ろうか、シリウスへ。
これにて『クトゥルフの猫』編は終了です 後日談?思いつかないからパスで(><)