第46話 兎、チンピラどもを殴り倒す
珍しく大日本調伏同盟残党からの目線でお送りします
「・・・エントリーナンバー6番、稀代の詐欺師、死亡により敗退を確認しました。暫く休憩に入ります」
おじさまの力ない宣言で血腥い休憩が突然訪れ、あたしたち大日本調伏同盟の残党も控室で溜息を吐いた。
次はあたしたちなのに、目の前で首が飛んでくのを見せつけられてみんな動揺が隠せないみたいね。
一番の戦力だって当てにしていたおじさまは色んな駆け引きの結果、審判に引き抜かれてフォーメーションもへったくれも無い状態にされちゃったし、前にやってた奴らにしたって15分間何もしなかった5番はともかく、ぎりぎりまで頑張ってもダメだったお隣さんや全力を尽くして秒殺された4番、それに6番みたいにあれだけの人数を揃えてあれだけ大掛かりに仕掛けて行っても首が飛んで終わりだとかもうあたしにはどうやっていいか解んないわ。
今ここに残されているのは猫田部長を除く10人だけ。今だけの霊能者集団は孤立してるな。
手元にあるのは同盟が興ったあの寺に寺宝として祀ってあった金剛杵のみ。おじさまは、いい品だって言ってたけど今まで扱えた人間がいなかった因縁のお宝ね。
おじさまに言わせると、力を蓄える容量が多すぎて力を放出できるほど溜められなかったのが原因だって事で合宿の間暇を見てはこまめに念を込めてくれていたんだけど、本人があたしたちと一緒にいられなくなっちゃったからどうするかずっと悩んでるのよ。
とにかく古株たちと最終確認をしなくちゃ。
「これが最後かもしれないんだからみんな集まって」
「ボクはですね、早くツマとスイートベービーたちの顔を見たいんで帰らせてもらいますね」
思わず、伊達の足を払い拳骨を鼻に叩きこむ。
「一番やっちゃいけないって解ってる事を一番やっちゃいけないタイミングで思いつくんじゃないよ、このくそバカ野郎!」
「宇佐木主任、そこまでにしてください。伊達さんが死んじゃいますよ」
「根津くん、そんな簡単に死ぬようなタマなら、あたしはここまで苦労をさせられることはなかったと思うのよね。アンタ、このボケの事を買いかぶり過ぎだわ」
「それはそうでしょうけど、今は一人でも戦力を落とす訳には行かないんですから自重してくれませんと」
井上くんの尤もな意見に、思わずボディーブローをぶちかます。
「そんな事は百も承知してるわよ!いまはどうやれば生き残れるかって事を考えてんじゃないの!」
「15分間鬼ごっこして逃げ回るとか」
「5番はどうなったか」
「戦闘回避を理由に負けました」
「じゃあ、時々攻撃して時間を稼ぐとか?」
「流石、伊達さん。大卒は考えが違いますね!」
・・・無言のまま伊達の頭に頭突きをかます。
「宇佐木主任、それでなくてもおかしい伊達さんの頭がこれ以上おかしくなったらどうするんですか」
「マイナスにマイナスを掛けりゃプラスになるでしょ?万々歳じゃん」
「主任、目が座ってますってば」
「何よ、次は井上、アンタが殴り倒されたいの?」
「いえ!自分は主任について行くだけです!」
「アンタたち、6番の最期は見てたよね」
古株たちは一様に黙り込んだ・・・一人を除いて。
「あー言うお経って新鮮だよね」
頭痛で頭が締め付けられるような感覚に襲われながら、あたしは“宇宙人”の襟首を絞り上げた。
「伊達、アンタには二つの選択肢があるわ。
一つはあたしにボロボロになるまでに叩きのめされてボロ雑巾のように死んでいく事。そしてもう一つは『猫』の手に掛かって死んだかどうかも解らないままあの世に向かう事。
どっちを選びたい?」
「ええーっ・・・どっちかっていうと無事にツマたちの元に帰りたいかな?」
ドンッと言う大きな音を立ててあたしの拳の下で砕け散る長机。
「もういい。どうせ死ぬんなら後顧の憂いなんてもんが無い方がいいわ。いますぐやってやる」
井上くんと根津くんがあたしに縋りついて抑え込む。
「主任!今は、今は堪えてください!終わった後、生きてたらみんなで袋叩きにしましょう!だから、だから今は我慢してください!」
大の男が泣くなよ、これじゃあたしが悪者じゃない。
「・・・ねぇ『猫』がさ、さっき6番の大将首を飛ばしたのはなぜだと思う?」
「胡散臭かったから?ですか主任」
「宇佐木主任、それじゃあ溜めて溜めて勢い余ってっとかですか?」
「飛ばしたかったから?」
ちっ、なんでこんな時ばかり宇宙人は勘が働くんだよ。
「伊達の考えが一番近いと思うわ。・・・実言うとあたし、あのシノヅカカズマって知ってんのよ」
「流石は宇佐木主任、お顔がお広い」
「バカ、そんなんじゃないわよ。あの男の本名は鰻 権蔵、同盟の札幌支部の支部長だった男よ。
落ち武者事件でうちの屋台骨が傾いた時に行方をくらましてたのよ。まさか、この街にやってくるなんて舐めた真似をしやがって・・・」
流石の伊達も黙り込んだか。
「・・・鰻って苗字いるんだ」
「ハァ、アンタの興味があったのはそっちかい。確か、鹿児島の方にある筈よ」
誰か、アイツに真面に物を考える頭を付けてくれないかしら・・・ハァ・・・
「それじゃあ、飛ばしたかったってのは?」
「あいつが同盟に連なる男だって解ってて、あたしたちに見せつけたくて首を飛ばしたんだと思うわ」
「何のために?ですか、主任」
「少しは自分でも考えなさいよ。・・・次はお前たちがこうなるんだぞって事よ」
「「ヒィッ!!」」
「ほんとにそうかは解らないじゃないですか。きっとアイツはどこまで首が飛ぶか確かめたかったんだと思いますよ?」
アンタの頭なら中が空っぽだからロケット並みに飛んでくんじゃないの?ねぇ、伊達くん?
「充分シリアルキラーだわね」
「宇佐木主任、戦う前になんで態々向こうの目的を俺らに教えてくれたんです?」
根津くんたら、そんなに泣きそうな顔するんじゃないわよ。
「手加減はあり得ないという事を肝に銘じて貰いたかったからよ。あたしたちが生き残るか、アイツが生き延びるか。そのどちらかしかないのよ、みんな腹を決めなさい。若い子たちには黙っててもいいわ。とにかく生き延びてやるわ、みんなもね。
宇宙人、いや伊達くん。アンタに同盟の宝のこの金剛杵を預けるわ。使い方は解ってるわよね。
ウーちゃん様から伝授された手を使うわよ。
みんな、またここで顔を合わしましょ。欠ける事無くね」