第45話 猫、本性を現す
自分の文章力では最高レベルの血生臭い展開が有ります
この程度かと鼻で笑われそうですがもしかして気分が悪くなる方がいらっしゃったらごめんなさい
《ウチはウーちゃんに呼ばれてきたのよ。あの家にタナカが来たのよ》
あんの山賊野郎っっっ・・・あれ?なんで僕が怒らなきゃならないのかな?
それより今は『猫』が大事。・・・あんのヤロウゥゥゥ!!!
いやいや、冷静にならねば。
「それでは、エントリナンバー6番“シノヅカカズマとその仲間たち”こちらに」
本当に厳正なクジなんだろうな、続けざまに葛葉嬢のバッタもんが来るか?ウチのチーム名って海外じゃ“チームシリウス”で通ってるけど業界じゃ“狐塚葛葉とその一党”で通ってるんだぞ?
シノヅカカズマと言う男は、尊大な態度で周囲を睥睨する嫌味な中年男だった。恰幅はいいが身長は170前後ってトコか。整髪料でべったりと固めた髪は、白髪1本無いとこから精々染めるのに一生懸命なんだろうよ。着ている物から判断すると修験者なのか?
随分と大勢の取り巻きを連れているが、霊能者は本人だけか。
「随分と大勢で・・・城攻めでもなさるので?」
「はははっとんでもない。番頭さんは中々ジョークがお好きらしい。
私が聊か頼りないもので仲間たちが大挙して手伝ってくれる事になったものでね、それに人数の制限も無かったでしょ?」
確かに人数の制限はしていない・・・ちゃんと決めないとグレーゾーン目掛けてこんな奴らが大手を振って飛び込んでくる事になる。でももう止められないからこのまま行くしかないか。
「最終確認しますが棄権されますか?」
「ここで悪神を止める事に命を懸けると誓ってきましたからな。ご配慮だけは有り難く」
(本人は)爽やかな(つもりの)笑みを浮かべてお互いに心にもない言葉を交わすと、シノヅカが部下を引き連れて配置に付く。数えてみたら手下が108人・・・ダルメシアンの大群より多いじゃないか。
シノヅカが猫から北に離れた場所に椅子に座って陣取り、その周りに3人ずつ4ヶ所に警護する形で女たちが矛、長剣、槍を手に仁王立ちているが東西南北ではなくそれぞれ30度ずつずれているからアナログ時計で言うなら1、4、7、10時の位置に立っている、東洋式の方角で言うなら丑、辰、未、戌だな。あれじゃ鬼門も裏鬼門も関係ないだろう。鬼門は艮すなわち丑寅、裏鬼門は坤すなわち未申だからな。
その女たちから更に10メートルほど離れてシノヅカと女たちの延長線上に、袈裟を掛け僧衣を纏ったテカテカと青光りのする頭の男たちが4人ずつ4ヶ所に腕組みをしながら立ってる。
それとは別に『猫』の周りでは等間隔に10ヶ所で護摩壇の設営が行われている。1ヶ所に8人ずつ付いてるけどあの手順は無いだろう。でもさっきの事があるから、護摩壇が出来終わるまでは開始を待ってあげよう。
設営が終わるのを待ってブザーを鳴らして試合を始めようか。15分間どうやって誤魔化すのか見届けてやる。
火打石を使っての火おこしで全ての護摩壇に火が入るまで10分。別にライターを使ってもいいのに時間稼ぎと演出過多もいい所だろう。ただ、あからさまな遅延ではないからさっきみたいに一発失格とはいかないな。中々に巧妙だ。チームシルクより数段手慣れた詐欺師なんだろう。
火が起こると護摩壇に付いていた連中が蓮華経を唱和し始める。うろ覚えなのか所々あやしいが文句は付けられないだろう。何もしないよりはましなんだろうから。
そして女たちが、聖歌隊みたいな歌い方で法華経を唱えだす。ソプラノは中々脳天に突き刺さるぞ?
更に女たちの外側で腕組みしていた男たちが、般若心経をバリトンで歌い出した。これは歌い出したとしか言えない念仏とは異次元の代物だな。
要は、仏教らしくなく意味も無くただお経を唱えて『猫』に対して攻撃をしたって言うアリバイ作りなんだな。配置をずらしているのも意味あるものとして『猫』に目を付けられないための物。護摩壇が10ヶ所なのも鬼門や裏鬼門を抑える八方とか玄武青龍朱雀白虎に呼応する四方にしないで『猫』を刺激しない為の作戦なんだ。その証拠に北と南の護摩壇は他の奴より2周りは小さいぞ。
お経を唱えている連中だって普通に坊さんがやる様な事を知らない奴を集めたんだろう。何しろ『仲間たちが大挙して手伝ってくれてる』んだから上級者だとは限らない訳だ。
108人てのも曲者だよな。煩悩とか地獄の数とか108ってのは仏教じゃ大事な数字だけど、シノヅカの奴自分まで入れて109人で乗り込んで来てたんだ。ぱっと見はちゃんと攻めてるように見せて無能力で不信神者のお経なんて『猫』にとっちゃ攻撃してないのと一緒だからな。ただ煙たいだけで手を出すほどあいつはバトルジャンキーじゃないし性格まで計算しぬいてやがるな・・・これは合格させにゃ仕方ないか。
とんだ詐欺師の片棒を担がされることになって落ち込み気味の僕に対して、アンジェが2本のしっぽを絡ませながら囁いた。
《ターさん♡、アイツを吹き飛ばして場外退場にしたげようか?》
「審判が率先して悪事を働いてどうする、却下だ却下」
こいつは心の隙をクリティカルに突いてきやがる、眷属とはいえ用心しないと。・・・こいつの事を意識しだすと芋づる式に葛葉嬢の心配までし始めちまうよ。目の前の事に集中しないと。
《じゃあアレに手を出させたげようか》
「約定で縛ってあるから勝手に攻撃はしないんだよ」
《抜け道はいくらであるわよ?》
だから、余計な事はすんなって言ってるじゃねぇか!
アンジェの頭に拳骨をかまして(僕の手のダメージの方が絶対に大きい)文句を言おうとした時、突然法螺の音が鳴り響いて心臓が止まるかと思ったよ。
パッとシノヅカの方を見ると立ち上がって法螺を吹く姿が目に入った。
時間にしてあと5秒、終了直前にチョン掛けで心証を良くしようって魂胆か。よくオリンピックとかの柔道とかで警告やら注意が出そうな時にかっこだけ攻めて誤魔化すアレだ。どこまでも姑息で隙が無い詐欺師振りに石でも投げたくなるよ。
そして終了間際に法螺から口を離すと『猫』をキッと睨んで力ある言葉を叩きつけた。
「喝っ!!」
そしてタイムアップのブザーが鳴る寸前にシノヅカのにやけた笑いのこびり付いた顔が宙に舞った。
首を失った中年男の体から噴水のように赤い液体が吹きあがり、やがて後ろ向きに倒れて行った。
そして静寂に包まれた会場に終了のブザーが鳴り響いた。
《最後の最後にやっとちゃんとした攻撃を仕掛けられたからね。専守防衛の正当防衛だよな》
含み笑いを堪え切れない様子で『猫』が嘯く。
「・・・エントリーナンバー6番、稀代の詐欺師、死亡により敗退を確認しました。暫く休憩に入ります」
死体を取り囲む女たちの悲鳴や片付けに入ったスタッフの怒声が渦巻くフィールドに背を向けて僕は用意されたテントにぽつんと置かれたパイプ椅子に向かった。
次はどうなる、いや、どうする・・・