第44話 黒猫、ウザ絡みする
《今の連中は中々筋が良かったな。いい道具さえ揃えてたらオレも手加減が出来なかったよ》
《三流の分際でよくもまぁ上から物を言えるわね》
あれ?聞きなれた念話が聞こえてきた・・・あいつはここにはいない筈なのに・・・
《ターさん♡、ウチの事忘れちゃったの?最愛の眷属、アンジェちゃん参上!》
またややこしいのが豪いタイミングで出てきやがった。
「続きまして、エントリーナンバー3番“誓いの魔弾”こちらに」
無視して進行をするとアンジェが黒豹の姿で足元に寝転がり背中を擦り付けてくる。・・・その図体でウザ絡みするんじゃねぇ!
霊感ゼロの霊感詐欺師どもには普通サイズの黒いシャムネコが僕に絡んでいる様にしか見えない筈だけど随分と足取りが重いな。
「後が閊えています、サッサとしてください」
まぁ、公開処刑なんだから気は重いか。教会の時みたいに棄権するかとか聞いてやるもんか、これ幸いに棄権するに決まってるんだからな。
「あ、あのう・・・」
「もたもたしないで位置に付いてください。一人で進行してるんですから無駄な事は不要です」
「あのう、俺たち棄権を・・・」
「力ある者と相対するんですから危険なのは当たり前じゃありませんか。大の男がこの期に及んで泣いてどうするんです。・・・そこから動かないんだったら構いませんよ、ネコさん。始めましょう!」
誓いの魔弾は、その場で土下座をしながら失禁していた。臭うから脱糞もしているだろう。
「ぐぉめんなざい!ずびまぜん!ゆるじでぐだざい・・・じにだぐ・・・ないでず・・・ごうざんざぜでぐだざい・・・おねがいじまず」
足元でアンジェが鼻に皺を寄せながら威嚇している。余程臭いんだろう、かなりの強風が足元から誓いの魔弾の方へ吹いているから。
「エントリーナンバー3番、卑怯者の棄権を認めます。かなりの余罪がある事でしょうから警察に引き渡してください・・・誓いの魔弾、一つ思い出しちゃいました。『クトゥルフの猫』は元々警官だったんですよ。取り調べて貰いましょうか?」
恐怖に怯えて勢い良く首を振る誓いの魔弾に向かって人の面影が残る口元に笑みを浮かべながら近づく『クトゥルフの猫』。ある種、絵面としてはおいしいかも。
逃げ出せば『猫』に処刑をさせる口実にもなるんだけど、連中腰が抜けてるみたいでその場にはいつくばって動けない。もしかして悪い奴ほど運がいいんじゃないのか?僕に運が回ってこないのも納得だよ。
進行が出来ないのでぐずる『猫』を根城の元交番に押し戻し(なぜかこの時歓声が巻き起こる)、ウーちゃんにお願いした振りをしてアンジェに力を振るって貰ってゴミをフィールド外の警官がいる方へ排泄して次に進む。
これからは完全に運で順番が決まっている。
「それでは、エントリーナンバー4番“スーパーノヴァ”こちらに」
《ターさん♡、ウチをいなかった事にしようと思ってもウチは動かないからね》
お前を相手にしてる場合じゃないだろうが。
スーパーノヴァが前に進み出てブザーが鳴るとともに試合が始まったんだと思うんだけど・・・アンジェよ、お前はなんで僕の顔に張り付いてるんだよ。前が見えないじゃないか、とばっちりが来たら避けられないだろ?
《だって意味が無いでしょ?あんな奴ら》
アンジェが脇を開けて前を見せるとスーパーノヴァの全員がそこいら辺にのびていた。・・・秒殺かよ。
《骨が無さすぎる・・・霊力も無い癖に物理攻撃を仕掛けてくるとかこいつらドⅯか?》
日輪道場の善戦の後だけに無様さが際立ってるな・・・討伐される側に呆れられてどうする。
「エントリーナンバー4番、猪武者の敗北を確認しました。汚物の回収は迅速にお願いします。
続いてエントリー5番準備に入ってください」
僅かな時間に軽く軽食を口にしながら体をなおも擦り付けてくるアンジェを離そうと努力する、が、元からのステータスが違い過ぎるから徒労に終わってしまう。
「時間が無いんだよ。どうしたんだ?」
《久しぶりに会ったのにターさん♡ったら冷たい・・・》
ウザいっつうかウザすぎる。
「向こうは大丈夫なのか?狐塚さんとカオルン少年じゃねぇや大上くんの警護はどうしたんだ?」
《あっちは、アホ狐どもが化けて客の振りしながら守ってるわ。そんな事よりさぁ》
「準備が済んだようですね。それでは、エントリーナンバー5番“チームシルク”こちらに」
チームシルクの連中は僕が葛葉嬢の関係者だと分かって尚、にこやかに僕に向かって愛想を振りまく。中々なメンタルの持ち主と見たね。
リーダーはキツネザカ シズカ40代の化粧が分厚いおばさんだな。こっちに来ないで欲しい、できるだけ。生首さんだな。
後はオールバックの太った大男(生首)と若い男(以前の伊達並、要するに初級は大丈夫)の3人構成でチームシリウスの真似っこをしてる事は間違いない。リーダーは女性(葛葉嬢の圧勝)、太った男(身長は僕の大負け)、若い男(カオルン少年は女の子だけど見た目が男に見える)。実像が不明で情報がほとんど無い状態で掴める最大限の似せ方だと思う。後は実力さえあれば仕事は大丈夫だろう。
「今なら棄権できますが?」
意識を大男に向けて問いかけるとリーダーではなく大男が答える。
「とんでもない。せっかく沖縄から出てきたんだ。元は取らせてもらうよ」
こっちが実質的なリーダーって事か、胡散臭さが途端に鼻に衝くな。真似されるのはともかくモドキが他人を騙すのはどうだろうね。
「真面なら元が取れるかも知れませんね」
僕の返事に鼻で笑って返すと、大男が残りの二人に合図して開始を待つ。
ブザーが鳴って連中が始めた事は・・・護摩壇の設営だった・・・ 時間をたっぷり稼いでボロが出ないようにするつもりか。悪党はあくどい事にはどこまででも頭が回るみたいだな。
護摩壇が組みあがったのが13分過ぎ、それから火が付かないアピールを延々と繰り広げ、終了のブザーを迎える。
ニコニコと笑いながら戻ってくる3人をこちらも笑顔で出迎える。
「エントリーナンバー5番、やるやる詐欺師の敗退を決定しました。後が閊えていますからサッサと撤収してください」
「なんだとぉ!俺たちは最後まで残ったじゃないか!」
でかいのが上から唾飛ばしてくんじゃねぇよ。
「最初にこう言った筈です。公平に審判するとね」
「勝利条件は守ったじゃねぇか!」
「敗北条件に戦闘の回避があったのを忘れてませんか?」
「回避とかしてねぇだろうが!てめぇ表に出ろぉぉぉ・・ぉ・・・ぉ・・・・ぉ・・・・・」
大男は僕に手を出そうとした瞬間に、アンジェに風に吹き飛ばされて場外へと消えて行った。
「護摩壇の設営から攻撃の開始までの間に、遅延行為が無かったとは言わせません。時間切れを狙って15分残ったとは笑止千万。
グレーゾーンの判定も僕の裁量の範囲です。そうでないと審判を務める意味がありませんから。
更に最終的ではありますが彼は僕に手を上げた。審判に対する攻撃は即刻失格、以後追討戦に入ると前もって言ってますよね?残りの二人も逮捕してください。
罪状は、詐欺、暴行、私文書偽造。調べればもっと面白い事になる事でしょうね、取りあえずはそんなとこで」
引っ立てられるチームシルクの後姿を見ながら次の準備をしていると、アンジェが僕の両肩に前足を乗せ僕の顔を舐めまわしてきた。
柔らかいおろし金みたいで、結構ひりひりするんだけどね。
《ターさん♡、いい加減ウチの話を聞いて》
「今じゃないとダメなのかい?」
《ウチはウーちゃんに呼ばれてきたのよ。あの家にタナカが来たのよ》
なんてこったい・・・
因果応報を旨としております!