第42話 狸、一般人から喧嘩売られる
《勝てば天国負ければ地獄。結構本気出してくるかな?》
などと軽くモノを言うどこぞの成り上がりには到底見せられない緊張感が、寒風吹きすさぶ小学校のグラウンドに満ち溢れている。
ここに召集されたのは今回の討伐に参加した除霊屋の代表たちだ。
虚勢を張って周りに喧嘩を売ってるのは新興宗教系の“紅蓮の鎗”で、デモンストレーションで御幣で周囲を祓い清めているのが神道系野良の“あすなろの会”か。神経質に上目遣いに周囲を警戒しているのは同盟のお隣さん“日輪道場”代表の大柄な禿坊主だな、今日はヅラを被ってないのか。
集まっているのは同盟を含む49の団体の代表100人ほどだな。僕は『猫』からの御指名で同盟と一緒に戦う事が出来なくなった。余程ウーちゃんの加護が強かったのかも知れない。実際ここに集まっている除霊屋の代表たちを僕の力を使ってみてみると半分ほどが生首、つまり霊能ゼロの連中が平然と参加していた。まぁ代表がそのグループの中のエースだとは限らないけど、期間限定でウーちゃんの加護を受けているちんちくりんが飛びぬけての上級者になっている事からあのまま討伐になっていたら総討ち死にも有り得たかも知れない。
今回集まって貰っているのは悪神討伐が霊能競技会になった事の伝達と改めてのクジ引きでの出番調整をするからだ。
トーナメントでの優勝者が『猫』と対峙するという形に討伐実施委員会はしたかったみたいだけど、当の『猫』未公認だった事から白紙になってクジで決まった順に戦っていく事になっている。戦いに来たくせに真っ直ぐ当たれるチャンスが欲しくないかのような事を言う連中から詳細を決めた僕にバッシングの嵐が来たけど伊達にブラック企業で社畜をやっていた訳じゃない、そのくらいでへこむようなメンタルじゃとっくの昔に死んでただろうから屁でも無いよ。
「僕は『クトゥルフの猫』からの依頼で公平な審判をするように言いつけられましたから悪しからず」
「今年2個目の悪神に何を貰った!大体貴様は何者なんだ!」
あぁ外野がうるさい。
「僕の事をご存じない方がほとんどなのは解ってますよ。御足労ですが八幡様、顕現頂けますか?」
どうせこうなると分かってたから八幡様に話を通しておいてよかったよ。
どこからともなく鳩の大群がグラウンドに集まりすぐに散っていくと壮年姿の八幡様が姿を現した。鳩は八幡様の使いだからな・・・流石に神道系の連中は気付いたか・・・霊力が無い奴には何にも見えてない筈だけどね。
【ここに集まった者が“くとぅるふの猫”を討伐せんと集うた猛者なのか?
・・・これ、兄者本当にこの者共なのか?】
兄貴とか兄者とか止めて欲しいんですけど!貴方、神様なんだからね!
「それぞれの一党よりの代表ではございますが、それぞれの第一人者が集まっているとは限りませんので。
闘いに備えて事務手続きの為に下働きの者を寄こした所もあるでしょうし、代表の者に力が無くとも部下に力ある者を揃えている所もある事でしょうし、心構えはそれぞれという事で了承して頂けたら」
「何独り言言ってるんだよ。お前、俺たちを舐めてんのか!」
「・・・今の発言をしたのは・・・“誓いの魔弾”ですか。貴方、今、自分に霊能が無い事を大っぴらにしたんですよ。・・・八幡様からの情報によりますと、ここに来てる貴方たち3人に霊能者はいないようですね。
無駄死にしないように退場を・・・と言いたい所ですけど、『クトゥルフの猫』と“大日本調伏同盟”の間で交わされた元々の約定によって逃亡には死を与えるとなっています。退場は逃亡と見做されかねないので、あなたたちはその場を動かないようにしていてください。いいですね。出て行って死んだからって損害賠償請求はできませんからね」
誓いの魔弾の面々は、霊能が無いなんちゃって除霊屋の自覚があったらしくて真っ青な顔してその場に座り込んでいた。自分の能力をひけらかしてもいい事無いので八幡様の力にしちゃったけど構わないよね?
それはそうと誓いの魔弾よ、詐欺師には詐欺師らしい最期を迎えさせてあげるつもりだから生き残れたら覚えていろよ。
【兄者も気苦労が多いのう・・・これでは禿げて・・・もう手遅れであったか。悪気が有って言うた事では御座らぬので赦して下さらんか?】
人間相手に赦すとか大袈裟な言葉を使わないで下さいよ。許しますよ、頭髪に関しては諦めていますから。それと兄者は止めて、兄貴も!おまけで言わせてもらうなら、見た目が変わると口調まで変わるのは・・・あの見た目で小物感出されても困るか・・・
「アレが本物の八幡様ならあいつは何者なんだ?」
“穢れ無き世界”は霊能者を寄こしているみたいだな。でもそうだよな、僕って何者なんだろうね。
「こちらにいらっしゃるのが八幡様だとお判りの方はいらっしゃりますか・・・ほとんどの方はお判りのようですね。お判りにならない方がいらっしゃるのは当たり前ですから気になさらないでくださいね。お仲間に霊能者がいらっしゃったら競技に参加は可能ですから」
逆に言わせて貰えば半分は嘘吐きが紛れ込んでるって事だね。教会のキムみたいに部下に霊能者がいたら参加はできるんだから気にしてないのに・・・もしもみんながエースだとしたら半分は誓いの魔弾の仲間だって事になるんだけどね。・・・もしかしてだからトーナメントにしたかった?トーナメントだったら『猫』に届かなくてもバレなくていいとか・・・厳正なクジ引きで『猫』にバンバン当ててやる。
「さて、僕がどんな奴か朧気ながら予想が付いた方は答え合わせが楽しみですね。
僕が『猫』から依頼されたのは『公平な審判』、これには公正な運営も含まれていると言うか期待されていると思われますから、これから厳正なクジ引きをしたいと思います」
嫌そうな顔してるのは霊能無しと僕が判定した奴らばかりだからな。
「そう言えば競技会で勝ち残ったらって言うか、15分間『猫』から生き残れたら御褒美が有ります。
1年間、メジャーを名乗れます。要するにどんなに弱小でも16強を名乗れます。これは“世界救世教会”のキム会長の了解を得ました。そして、負ければ悪ければその場で死にますし、良くても1年間メジャーであることを名乗れません。地上波は中継していなくてもネットで中継していますから世界中の人間が知っていると思ってください。もちろん、今も中継している輩がリアルタイムで情報を垂れ流していますから言い逃れはできないですよ。守れなければ誓いの魔弾と同じ境遇になること疑い無しです。
御宣託がご専門の八幡神社を始め、今回協力して頂いている稲荷神社と諏訪神社でも結果が発表される事になってますからご不満がおありの方はそちらの方にでも文句を言ってください。
同盟と『猫』との果し合いが決まった後、無断で『猫』の討伐資格を最初に決めたのが16強の教会のキム会長だそうですから決定だと思いますが?」
情報駄々洩れで密室の会議じゃない以上、下手な発言は命取りになりかねないと判断したのか大した反論も無くクジ引きが始まった。
霊能者じゃない連中の顔色が悪いけど、ちゃんとした霊能があって『猫』の力に15分抗いきれるのなら晴れてメジャーになれるんだから頑張れよ。
『猫』との密約で濫りに殺さないって要項と専守防衛を旨として反撃はともかく自分から攻撃はしないって要項を取り決めてたけど言わなくてもいいよね。
競技会開始まであと30分。