第41話 狸、猫を丸め込む
相手が男だと強気で出られるオッサンであった・・・
「とにかく『猫』と話をさせて欲しい」
いい加減にしないと日本が終わっちまうだろうが!
何やかやと外国語で罵り続けるキムを無視して、なぜかそこに居続けているソウル大卒整形不美人のイとちんちくりんに交渉を任せて全権委任を取り付ける。
何しろ僕以外は『猫』との交渉のテーブルに辿り着けないし、そうなったらここにいる人間は全て『クトゥルフの猫』の餌食になる事が決定しているからね。ソウル大卒整形不美人に権限があるかないかはよく知らないが日本語話せる教会の人間が他にいないので良しとしよう。もしもの時は【【【あぁ?】】】が待ってるだろうから大丈夫だろ、生きてたらね。
急いで駅前の『猫』の根城へと向かう・・・残り30分少々・・・説得出来りゃいいけどねぇ。
「いますか、猫田さん」
おどろおどろしい廃墟と化した交番の前に立ち声を掛けると、入り口だった引き戸が砕け散り『猫』が姿を現す。
もう、猫田とクトゥルフの猫は一体化しているな。葛葉嬢ほどじゃないけど中々な威圧感だね。
《命乞いなら間に合ってるよ、狸小路の旦那》
『僕の名前は、田貫 光司だ』と大声で主張したいところだけど今はそんな事は言ってられない。ここは交渉あるのみだ。
「冗談がきついね、君は。逃げ道なんて端から潰しているんだろ?
大方、この街に来れなかった同盟の連中も逃げたとかって見做して喰っちまったんじゃないのかい?」
ちんちくりんから地方にいる同盟の構成員の所在が悉く解らなくなっていると聞いていたから、最悪のシナリオとして『猫』のエサになったのかもと思っている。ただ、その割には霊力と言うか魔力と言うかアイツの持つチカラって奴が思ったほど大きくなっていない。同盟には縁故採用が多かったみたいだからそんなにおいしいエサじゃなかったせいかも知れないが。
《さて、それは御想像に任せるよ。
それじゃあ何しに来たんだい?喰われるために世話話をしに来たんなら大歓迎だけどね》
「八幡様の御宣託に従ってきただけさ」
《『シリウスの落ち武者』を退治した君が改めてオレと交渉をするって奴か。
ちょこっと古い神だからって上から言いやがって気に入らないんだよな、あいつら》
大負けに負けて1週間前に神に昇格したばっかのお前と2千年は経っていようかって言う八幡様が、同じ土俵に立ってくれるとか思ってるわけ?舐めてるねぇ、ゆとり世代め。
「でも顔を立てないといけないんじゃないのかい?ご近所さまとしてもさ」
《そうは言ってもね、ウザったらしい雑魚の霊能者に遠巻きに囲まれてなんか姑息な手を使ってくる連中に狙われて見なよ。いい加減暴発でもして見せようかなんて思っちゃうぜ?》
それが心配だから教会を抑え込んだんだって。
「君に勝とうなんて思ったらこの国の霊能者が総掛かりにでもならないと無理だって除霊業者が気付いて騙し討ちしようとしたんだからその気持ちも分かるんだけどさ、だからこその八幡様の御宣託じゃないかな?
で、僕の提案があるんだけど一応耳に入れてくれないかな?」
《勝とうなんて思ったらこの国の霊能者が総掛かりにでもならないと無理か・・・そりゃそうだな、チームシリウスは旦那以外はこっちに来てないんだし・・・後の雑魚じゃオレを騙し討ちにでもしない限り勝ち目が無いのは当たり前だしな。
わかった、旦那の提案って奴を聞こうじゃないか》
「聞く耳がある神様で助かったよ。世の中、問答無用に齧り付く邪神様が横行してるから心配してたんだよ。
僕からの提案ってのは簡単に言えば今度の決闘を競技会に変更できないかって事なんだ」
《競技会?やっぱり命乞いじゃないのか?旦那は逃げないって思ってたのにさ残念だったよ》
「何を冗談を言ってるんだい、聞く気満々の癖に」
《ハハハッ、役者は旦那の方が一枚上だね。で、どうしたいのさ》
「一番勝ち目があるのは総掛かりで一気にってのが定石なんだけど、街の真ん中で一般人も見てる中でやれば除霊屋の非力さとセコさがバレるだけだからって16強でもしたくないそうだ。
その代わりに団体ごとに15分の時間を区切って君に挑戦していくって趣向なんだ」
《ほう、あの狡賢い連中が今更ながらセコさがバレたくないっか》
「どっかで見てたかもしれないけど、教会の会長が逃げようとしてるトコを見つけて直談判でもう僕の考えは納得させてある。
お稲荷様からお諏訪様八幡様まで根回しも済んでるんだけどね、どうかな?」
《ただ団栗の背比べを叩き潰していくだけじゃあな・・・一度に潰した方が簡単だな》
「そう簡単に潰さないでくれよ。もちろん勝った時の報酬も考えてあるんだけど聞きたくはないのかい?」
《それなりのもんを用意してないんだったら、話はこれで打ち切りにするからね》
「主導権はそっちにあるから仕方がないね。
君が全ての除霊屋から勝ち残れたら・・・神様なんてどうだい?」
《もうオレは神だよ》
そう殺気立ちなさんなって。
「菅公や新皇、讃岐院と同格になれるとしたらどうかな?」
《・・・なんだそれ?》
意外と物を知らない奴だな。
「菅原道真公に平将門公、それから讃岐に流された崇徳天皇の事だよ。
日本の三大怨霊ぐらい知ってるだろ、後輩なんだから」
《天満宮に神田明神と白峰神社か。随分強烈な祟り神だな》
「それと同格になれるチャンスだよ」
崇徳天皇って九尾の狐に振り回されてた人の一人だったりするんだけど・・・今は関係ないか。
《負ければどうなる?》
「最悪だったら討伐されて退治、と言うより除霊屋側の勝利条件を言っておかないと相手の本気度が解らないんじゃないかな?」
《最悪ってなんだよ。15分生き残ってたら勝ちってだけなんだろ?》
「最悪はもしもの話だから可能性として有るってだけだよ。
まぁ勝利条件としては15分間耐え抜く、あるいは『クトゥルフの猫』を討伐成功させる。『クトゥルフの猫』の戦意を失わせる。
君にとっての敗北条件は討伐される事と戦意を失わせられる事だけだ」
《じゃあ100パーオレの勝ちは決まってるじゃないか。それで除霊屋の勝利報酬って何だ?》
「勝利報酬は君に対して大衆の面前で力を示した事に対する名声と16強入り。負けたら例えどれだけ除霊の実績があっても16強から落ちて同盟と同列になっちまうってとこだな」
《勝てば天国負ければ地獄。結構本気出してくるかな?》
乗ってきたな?これで除霊競技会に何とか舵を切れたかな?
後、細かいトコを色々と詰めてどうにか日本滅亡の危機を迂回する事が出来た。『猫』様々だよ。
なんだかんだと公開処刑を先延ばしにできた、とはいえ競技会開催まであと1時間。
恵まれないおじさんに合いの手を・・・愛の手(星)じゃっつうに