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狸なおじさんと霊的な事情  作者: BANG☆
不遜なる稲荷狐と麗しのゲロ娘編
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第4話 狸、狐に疑われる

「・・・あの店から出る時は・・・何も・・渡されませんでしたけど・・・」


 確かに“晴瑠晴良バルハラ”を出る時に、葛葉嬢の身の回りの物を渡された事は無かった。


 しかし、この場の空気が底冷えしていく事に僕は戦慄せざるを得なかった。


 あの娘(葛葉嬢)の心臓まで凍らせるような鋭い吊り目が僕をどう始末しようと見つめているかと思うと、心拍数がうなぎ上りに上昇していくのが判る。



 暫くの地獄のような沈黙の後、葛葉嬢がぼそりと呟いた。


「仕方御座いません。後で店に連絡を入れてみましょう」


 どうやら、僕は命拾いをしたようだ。


《それならば、私め“よの16番”が狐塚様所縁(ゆかり)の品をあの酒場より呼び寄せて進ぜましょうな》


 稲荷狐はそう言うと、こちらの了解も得ずにおもむろに九字を切ると低く唸り始める。


 しばらくすると僕の後ろで何やら音が聞こえてきた。

 

 そして葛葉嬢の絹を裂くような悲鳴と共に後ろからの衝撃を浴びて、僕は前へと飛び出して性悪狐ともつれる様に転がった。


 何が嬉しくて野良狐とキスをせにゃならんのか・・・


 暴れる無能狐を無理やり引き剥がし葛葉嬢の方へと振り返ると、丁度僕がいた辺りに黄色い財布と幾ばくかの万札を握りしめたまま白目をいてひっくり返った一人の男がいた。


「・・・五木クン?・・・何をビギャッ!」


 五木クンとおぼしき人物に声を掛けようとしたら、その向こうから何かが僕の顔に飛んできてもんどりうってひっくり返る羽目になった。


 何があったんだ?


 鼻血を垂らしながら起き上がると、僕の目の前には真っ赤な顔をして僕を睨みつける葛葉嬢がいた。そして僕の足元には、ハイヒールの片方が見るも無残な姿になって転がっている。


 何か怒らせる様な事はしていない筈・・・もしかして五木クン?


 僕は慌てて無罪を主張しようと葛葉嬢に声を掛けようとしたが、それはとても無理な事だった。


 怒りを蓄えて吊り上がった眼が、僕を委縮させ身動き一つさせてくれない。



 そして静かに彼女はこう告げた。


「見ましたね?」


「・・・何を・・・でしょうか・・・」


 かすれ震える僕の小さな声に葛葉嬢(夜叉)は底冷えする声で返してくる。


「私の裸をで御座います・・・行き遅れと言われながらも守り抜いてきたみさおを散らしたのかと聞いているので御座います」


 操って言うもんが裸を見られたぐらいで散る代物なのかどうかはよく知らないが、今が人生終焉の瀬戸際の瞬間だとは理解できている。


 抑々(そもそも)僕は、彼女の裸なんて全く見ていない。


 ただそれを主張しても頭に血の上っている葛葉嬢が納得してくれるかと言えば、現状NOだろう。


 僕はただ目に涙を浮かべ、鼻血混じりの鼻水を垂らしながら微かに顔を振って、無実を訴えるしかない。


 こんな時に稲荷狐(この役立たず)が僕の無実を教えてくれるのなら僕は全財産を浄財として神社に納めるだろう。


《それは本当ですな?それはよう御座いますな。

 狐塚様、この狸に貴女様の裸体を覗き見るなどと言う所業が出来よう筈が御座いませんな。

 この者は生来の小心者、先程よりの着替えの件に関しましても問われもせぬ内より背を向けるほどの気遣いをする律義さで生きてきたものに御座いますな。

 先程より狐塚様がお気になさっている事もしかりで御座いますな。

 私めが狐塚様の持ち物を呼び寄せた際、この者は目を閉じておりましてな。

 狐塚様が持ち物に付いてきたこの不審者に驚かれて殴り飛ばされた折、こやつは私めと折り重なって吹き飛ばされましてな、肝心なところは何一つ見てはおりますまいて》


「そう言えば私がお願いする間もなく持ち物を呼び寄せて頂いたのでしたね。

 私が着替えを終えるのも(・・・・・・・・・)待たず(・・・)に・・・」


 ほほう、そうなると、諸悪の根源はこいつ(くそ狐)じゃないか・・・


 すると、僕はこいつのマッチポンプで全財産を失う事になるのか・・・

 

 それでもしてしまった約束は果たさなければならないだろう、ここは神域だ。


 どんなクソな約束でも神の前で誓った物なら守らねば天罰が下るらしいからな。


 もう、世を捨てる決意をした身だから構わないとは言え、詫びながら死ぬのは忍びないからな。

 

 矛先が変わって葛葉嬢の威圧を一身で受ける稲荷狐(能無し)の横を通り抜けて表の賽銭箱の前に立ち、鈴を鳴らし財布ごと賽銭箱に放り込む。


 クレジットカードやらなんやら入っているから、全財産だと言って間違いないだろう。


「何をなさっているのでしょうか?」


「・・・全財産と引き換えに・・・稲荷神さまに・・・弁護をお願いしましたので、・・・約束通り・・・全財産を・・・献納させて・・・もらいました」


 稲荷狐(KY野郎)がばつが悪そうに顔をそむける中、僕は清々した気分でそのまま祠の外に出た。


 夜風がまだ寒いが歩いて帰りつくまでぐらいなら風邪をひく事も無いだろう、と言うかひかずに済めばいいなぁという程度の気分で家路に就く。


 もう一文無しだからあのアパートに居続ける事は出来ないだろう。


 持てる荷物だけを持ってこのまま路上生活者の仲間入りか。


 あ、道端に花が飾ってあるのは、先週交通事故で死人が出たトコだな、何やらふわっとした気配が感じられるな・・・浮遊霊とか地縛霊とかって奴なのかな?


 あそこの家からなんかどす黒い気配が1つ、2つ・・3つ・・・3つ!?あれは多分悪霊化してんじゃないか?3つともなると除霊するのも一苦労だろうな。



 あの娘、おっかなかったけど気立ては良さそうな感じだったな。


 操がどうとか言ってたから公家かなんかの血筋とかな・・・でもあの吊り上がった眼が・・・思い出すだけで震えがくるよ。


 陰陽師(仮)って言ってたけどさっきみたいな奴を除霊できるんだろうかな?


 ・・・まぁもう切れた縁だし気にする事は無いか。



 ・・・それにしてもこの女性不信が無かったら、僕にもあのくらいの年頃の娘を持てたのかな・・・もう、今更性格は変わらないしできる事も少ないし・・・このままこの世からフェードアウトするのが僕らしいか・・・わびしい人生だったなぁ・・・



 暗い夜空から雨がぽつぽつと落ち始めてきた・・・風邪ひいちまったら治るまでアパートに居座っても怒られないかな・・・無理かなぁ・・・


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