第28話 狸、チンピラを公開処刑する
「手厚い歓迎に涙が出そうなんですけどいい加減に開放してはもらえませんかね?」
「どうしようと儂たちの勝手だろうが」
悪役づいてますけどこの人一般人だからね。
でもそういう事ならこちらも裏技をば使わせて頂こうかね。
人出が多い所には霊が集まりやすい。例えば駅舎。
案の定、その天井辺りで浮遊霊がうろちょろしているのでその中から適当に見繕って凝視する。
するとその浮遊霊が僕に向かって突進してくる、それも周りの浮遊霊を巻き込んで。
なぜ突進してくるかはウーちゃんにも葛葉嬢にも聞いた事が無いからわからないけど、そうやって僕の所に辿り着いた霊はなぜか僕の周りの人間に憑りついて行く事になる。これもなぜかはわからない。それだけに普段は霊の方を見る事を避けているんだけどね。
そして、僕の周りを取り囲んでいるのは自分たちの優位を疑いもしない三流霊能者ども・・・どう見ても霊が見えているようには見えないんだけどね。
するとどうなるか・・・浮遊霊に憑りつかれて妙に動きが鈍くなった集団が出来上がるんだよ。
突如襲う肩こり腰痛偏頭痛歯痛その他諸々に思わず蹲る同盟諸氏を尻目に僕は悠々と外に出る、ええ堂々と出ますとも。
「ま、待ちやがれ!」
ちっ、かぶれは外側に離れて指揮を執っていたせいか、ピンピンしたままで僕の動きを妨げようと肩を掴む。うん、掴んだよね(笑)
「痛たたたっ!あんた僕の肩に何してくれんの!キスしただけでも傷害罪が確定するこのご時世で!交番は?お巡りさんは?弁護士は?あー痛い!カタガハズレソーダー!」
僕が大声で騒ぎ始めると、それまで見て見ぬふりをして遠巻きで様子を窺っていた周囲の連中が警察へ連絡をしてくれたみたいで警官が慌てて駆けつける。
うーむ、計算通り。
「何かありましたかー・・・なんだ又兄さんか・・・」
いつもこんなことやってんのかい、兄さんよ。ん?兄さん?
ヤバい!身内だと揉み消されちまう!
警官と襲撃者がグルだなんて想定外だよ。だって相手は業界15位だか16位だかとは言え、全国組織。いくら地元でもピンポイントで地方の駅前の公僕に身内がいるなんて、考えられないでしょ?
でも、『又』って言ってたよね・・・前にもここで何かやらかしてるのか?こいつらは。
取りあえずここは逃げる事にしよう。でも電車はまだ時間があるし免許を持たないから車で移動も無理・・・歩いて?余計なものが付いてくるのが目に見えるようだよ。
《おや、いつぞやの稲荷神さまの食客殿ではございませぬか。このような田舎町で巡り会えるとは奇遇でございまするな》
げっ、稲荷狐じゃねぇか。それも僕と面識がある?
名前を聞いた事があるのは“よの16”“むの774”ぐらいだからそのどちらかなのか。でもどっちにしろここは随分離れているんだけど何でいるんだ?
!!ウーちゃんの監視網か!『天網恢恢疎にして漏らさず』か・・・葛葉嬢が乗り込んでくるのはそんなに時間は掛からないだろうな・・・
《某公務中でございまするのでここで失礼させていただきまする》
僕を探しているんじゃないのか・・・呆気に取られて呆然と見送っていると稲荷狐が僕が振り切った同盟構成員の元へと向かい九字を切り出した。おい、せっかく動きを止めたのになんて事を。
一斉に昇天していく浮遊霊たち、そして息を吹き返すチンピラども。
《ああ、善行とはなんと気持ちの良い事でございまする事か》
狐のくせして額の汗を拭うみたいな所作をするんじゃねぇよ!
何はともあれ僕は一目散で交番の中に飛び込んだ。あら?ここなんか・・・いや今は余計な事は考えるまい、まずは目の前のチンピラをどうにかしなくちゃどこにも行けやしない。
僕を追いかけてきたチンピラどもが交番に飛び込んだ僕の後を追って流れ込もうとして中の警官に制止される。
民事不介入とか言っても目の前で追われてきた人間と追ってきた人間を一緒にしようとはしないわな、さすがに。警官がチンピラの兄貴分の弟の他にもいてくれて助かったよ。
「いやぁ助かりました。急に取り囲まれて拉致されかけたもんで」
「!!拉致ですか?するとあいつらは山から下りてきたどこぞのカルト教団なのか?」
「栗栖君、それは見当違いだ・・・いやある意味中ってるか」
栗栖巡査に訂正をしながら交番に入ってきたのはもどきの弟だ。
確かに胡散臭さではカルト教団並みだよな、除霊業者ってのはさ。
「カルトみたいなモノって事ですか?でもさっきの駅の騒ぎの犯人なんですよね?」
「それはそうだがな、でもあいつら霊能団体だぞ」
「げっ!猫田さん、それじゃどうするんですか?指くわえて見てろってんですか?」
せっかく逃げてきたんだから匿ってくれよ・・・猫田?どこかで聞いた事があるような気が・・・とにかく、栗栖がんばれ!
「そうは言ってもねぇ・・・あのウチの兄貴が何をやらかすのかを考えるとここは見て見ぬ振りをした方が・・・」
やっぱりあのかぶれ野郎は要注意人物だったって事か。
「器物損壊だけで何回訴えられてるんですか、あの人?」
「・・・5回だ」
まさに苦虫を噛み潰したような顔で答えると外で交番を囲んで騒ぎ立てるチンピラどもを恨めしげに見据える猫田警官(階級は知らない)。
「それじゃあ、もしこの交番をあいつらが攻撃してきたら尻尾撒いて逃げ出すという事で間違いありませんね」
「一般人に公僕としての我々の行動をとやかく言われたくはないんですがね。
抑々あなたは何であいつらに狙われているんだい?」
なんとなく猫田という警官に胡散臭さを覚えて説明をしようかどうか逡巡をしてある程度嘘は吐かない範囲で説明をする。
要は駅に降り立ったら取り囲まれてタナカなる人物と間違えられて連行されそうになった事や一切名を名乗らない上に『お前はウチで預かる事になるから諦めろ』などと脅しともとれる物言いをされた事、そして無視して立ち去ろうとした時に肩を掴まれて拘束されかかった事を語った訳だね。
交番に入ってまだ一度も名を名乗れと言われないから黙っているけど、この件はどうするつもりかい猫田さんよ。
「ええ年こいてアホか。失礼しました。
あなたの証言は駅の防犯カメラでも調べればすぐに裏が取れる事でしょう。これで連中を逮捕して立件起訴とする流れが決まったようですね、ご協力ありがとうございます。ええとお名前は・・・」
さり気なく探りを入れてきたな、でも本当に捕まえる気があるのか?実の兄なんだろう?
「名乗る事によって僕の方に不利益が派生することが予想されますので黙秘させてもらいます」
交番の中はくそ気まずい空気と沈黙が支配していた。
書いてる本人だけはまぁまぁ面白い様な気がしていますが、チラッとでもそんな考えが頭を過ぎったら気が向いてください