第27話 狸、チンピラに絡まれる
この章で登場する神々はキャラ付けが不謹慎とお叱りを受けるかも知れませんが書いてる内にこうなっちゃいましたのでこんなもんだと諦めて遠い所からお楽しみください
もう一つ、この章は関西圏にあるとある大きな湖のほとりの街が舞台ですが筆者が関西圏の人間でない為言葉に地方色がありません
もしよろしければ関西圏の方や関西方面の言葉にお詳しい方は台詞を脳内変換してお楽しみいただければ幸いです ちなみにウーちゃんは人間でないので関西方面の言葉っぽい言葉でしゃべっていますが人間ではないのでそんなもんだと思っていただければ幸いです
電車を乗り継ぎバスを乗り継いで稲荷狐の情報網を撹乱しまくって辿り着いた湖畔の街。
ありとあらゆる神社を敵に回しているつもりで行動して、やっとあの狐目の恐怖から逃れられた気がするな。
駅の外のロータリーにディスプレイされたゆるキャラ(だと思う)が横に広げた巻物には『希望に満ちた新しい年20XX年まであと10日!』と書かれ、街中から聞こえてくるのは日本人のほとんどが信じてもいないのになぜか祝いたがるとある一神教の聖人の誕生日にちなんだ曲のメドレーの様だ。
景気がいいのか悪いのか知らないが、取りあえずこの街で仕事を探してみよう。と思っていたんだがね・・・妙なトレンチコートの一団に遠巻きながら囲まれちまったみたいだな。
駅舎の改札を抜けたところで遂に囲まれた。それも10人くらいいるぞ・・・暑苦しいな、少し離れてくれよ。
「アンタ、こないだあった悪神討伐事件で仮免の陰陽師と一緒に現場にいたホームレスのタナカだろ?」
僕の知っている人間の中にタナカなどと言う奴は、臭い山賊野郎しかいませんけどね・・・まぁ、葛葉嬢しかウーちゃんが明らかにしていないんだから仕方ないか。
「いきなりおしくらまんじゅう仕掛けてくる変態どもに名乗る名前はありませんけどね」
カッと眼を剝く一味の中で一際年嵩らしい中折れ帽とか言うハードボイルド映画とかで探偵がかぶってるのを見た事がある奴にサングラスに大きなマスクというフルフェイスヘルメット並みに怪しいいでたちの男が鷹揚に答えてくる。
「変態どもとは言ってくれるじゃないか。
素人の分際で神級の悪霊をたった3人で昇天させたなんて与太流されちゃこっちの商売が上がったりなんだがね」
三流の悪役が凄んでも有り難くないんですがね。
「玄人の分際で大人数でたった一人のおっさんを取り囲んで恥ずかしくないんですか?
ああそうか、チンピラさんはハートがチキンで弱い者いじめしかできないから数で勝負という訳なんですね」
ハードボイルドかぶれ以外の連中の中には、僕の言葉に反応して下を向く奴もいるな。こいつらはまだ真面みたいだな。
それ以外の7、8人はくそだな。中には自分の優位を確信してニタニタ笑っている奴すらいるぞ。
「口が減らないとは聞いていたが本当らしいな・・・無駄話の多い兄貴の話にしちゃ実があったな・・・どっちにしてもお前はウチで預かる事になるから諦めろや、な」
「やくざ者に上から物を言われる筋合いはないんですけどね」
「俺たちはやくざもんじゃねぇぞ!」
それは解ってますとも。ニタニタ笑っている連中を含めても喧嘩慣れしている風じゃないからね。
「じゃあ何者なんですか?いきなり取り囲むわ、自分は名乗りもしない癖に無礼な言い方で誰何してくるわ、それからなんですって?お前はウチで預かるから諦めろだ?
何様なのさ、あんたら」
「ふん、話にもならんわ。おい、こいつを連れて行け」
「坊主頭が多いって事は仏教系の除霊業者なんだろ、あんたら」
僕を連行しようとしていた連中の動きが一瞬硬直する。
「何を言っているんだ、お前は。儂たちは通りすがりのやくざ者だ」
「悪神討伐事件なんて霊障に詳しい連中しか知らない事を言って除霊業者以外の何者なのかね」
「除霊業者じゃない!儂らは霊能団体だ!
それにしてもお前も簡単に馬脚を現してくれたもんじゃないか、タナカよ」
「囲まれた時から覚悟はしていましたからね。あんたたちみたいに抜け駆けして青田刈りを仕掛けてくるあくどい連中がいるってね」
こいつらは、自分たちの事を“霊能団体”と称して“除霊業者”“除霊業界”なんて言い方は差別用語だと言って憚らない。
除霊以外に何ができるのやら。
その除霊にしたって値を上げるために、最初から出す連中は養成所上がりのヒヨコどもで失敗させて値を吊り上げて儲けを出しているのが実情じゃないか。
尤もらしい理屈をこねてほぼ不良品のような道具をぼりまくった値段で使用させ、上の奴らだけいい思いをしている事ぐらい葛葉嬢のあの札を見てよくわかったさ。
「抜け駆けだと!」
「じゃあさっきのセリフの説明をして頂けますかね“大日本調伏同盟”さん」
「!!」
サングラスを掛けてても目をひん剥いてるのはよくわかりますぜ。
僕がこいつらを大日本調伏同盟だと思った理由は、一つは坊主頭が多い事から仏教系だと思った事。キリスト教系神道系陰陽師なら頭を剃る必要が無いからね。それから通称“同盟”の本部がこの街にある事。
止めがあの悪神討伐事件だ。実を言うと闇営業で除霊に失敗した除霊屋たちの多くが大日本除霊同盟、通称“同盟”の所属、それもエース級だったらしくて業界内の影響力がガタ落ちしているらしい。
そうなったらその事件をたった3人で収拾してしまった“全日本霊能者連合”、通称“連合”出身の野良陰陽師狐塚葛葉とその一党、その中でも一番年上で司令塔だったらしい僕が出奔したらしいってのは戦力回復の絶好のチャンスになるって考えても不思議じゃないでしょ?
野良陰陽師がやった仕事をなぜか稲荷大社やら伊勢神宮やらからが神託で追認したもんだから業界も色めき立とうってもんさね。
そうしたらどうなったかって?
まず、能力はあっても認可を受けていない野良を世間に放逐したと言う言い掛かりを元に連合が解散させられた。まぁ、元からうさん臭さでは定評のある業界で4位の業績を保っていたんだから叩けばいくらでも埃は出ただろうけどね。
一つだけ弁護してやるなら唯一のマルチ系だったから同業他社のスクラム圧力に耐えられなかったのかもね。なんせ他の奴らは宗教毎に徒党を組んでやっているからそれなりの顔があちこちに効くだろうからね。
次に起きた事と言えば、こいつら同盟の格下げだった。まぁ、なんと言っても悪霊を悪神に押し上げちまったんだもの。その上エース級が総討ち死にとくれば連合の二の舞になるのも決定事項みたいなもんだろうさ。
そしてそれから起きた事は・・・葛葉嬢の引き抜き合戦って訳さ。最初に陰陽師の業界3位“除霊清浄社”通称“清浄社”と11位“東京晴明神社”通称“東京”あるいは“晴明”が手を上げたけどすっかりへそを曲げている葛葉嬢からは一顧だにしてもらえず撤退。最初に就職活動に来た時に雇っとけばよかったのにね。
それではと手を上げたのは陰陽師と縁の深い神道系。2位の“禊の会”通称同じ7位の“獅子の会”通称“獅子”13位“大阪霊能の会”通称“大阪”の3つが猛アタックをしてきたんだけどそれぞれが葛葉嬢に対して一本釣りを仕掛けてきて僕たちを蔑ろにしたからって蹴られちまった。僕としては道連れは勘弁して欲しかったんだけどね・・・あの暴走機関車が・・・
そんな事を考えている間にも時間は流れる訳でいつの間にか囲まれたまま駅の出口にまで来てしまっている。
僕が考え事をしているぐらいだから当然同盟の“かぶれ”は何も答えられていない訳で、そろそろ決着を着けちまわないと本当に拉致られかねないぞ。
「手厚い歓迎に涙が出そうなんですけどいい加減に開放してはもらえませんかね?」
ふんと鼻を鳴らす“かぶれ”。押し黙ったままの下っ端ども。
遠くでジングルベルが聞こえる中、道端の狸の置物が寒風に震えているみたいだ。
そう言えば、ここの土産って言ったら狸の置物がメジャーだよな。
カオルン少年の店先に飾れるように送っとこうかな。
BANされる前に星を恵んで頂けたら幸いです




