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狸なおじさんと霊的な事情  作者: BANG☆
喫茶シリウスと荒ぶる少年(仮)編
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第26話 狐、仕組みを暴露する

「あぁ、旦那さまに背負って頂けるなんて私はなんて幸せ者なので御座いましょう。

 このままあの世に旅立とうとも後悔は御座いませんわ」


 目を開けたまま寝言を言う特技を持つ葛葉嬢(ポンコツ陰陽師(仮))の事は置いておくとして、今ここは悪霊の支配域ではなくなっていた。


 あのギスギスした空気感が失せ、暖かい木漏れ日が差し込んでくるような解放感に包まれて思わず深呼吸をしてしまった。


 と言うか、もしかして神域にいるみたいな清浄感さえあるな。


【せや♡、タマちゃんが悪神を倒してくれたおかげでワテんトコの祠も力を取り戻せて、この辺りも神域に又戻ってくれたわ。

 ほんま、ありがとなタマちゃん、タマちゃんの旦那だんさん、シャム猫の杏莉、それから素人やのに頑張ってくれた嬢ちゃん。

 もう一遍言わせて貰うわ。おおきに(・・・・)


「それはそれとしてさっきから説明をきちんとして頂いていないんですが?」


【そんなもん、おいおい自分で探し出してみたらええがな。

 1から10まで教えてもろうたって身には付かへんがな、な?

 何事も自分で苦労したもんが一番財産になるもんやで】


 そう言われると反論がし辛いじゃないですか。


「ウーちゃん、闘いの最中に色々とアドバイスを頂いて誠にありがとう御座いました。

 ただ、一つだけお教えして頂けないでしょうか」


【なんや、ええで。ワテとタマちゃんの仲やないの。遠慮せんでええで】


「先程、私が悪神を倒したとおっしゃっていましたが、私は初級の悪霊の集合体だから精々育って己級だと聞いていたので御座いますが?」


【・・・タマちゃんは今も前世もそのまた前世も変わらへんなぁ・・・

 疑い深いくせして信じ込んだら黄泉よみに着くまで信じぬいてまう・・・

 自分が今倒したんは自分以来のこの国での悪神やで。

 生まれたてとは言え、神を生身の人間が普通倒せるもんとちゃうで。

 それにしてもそこの嬢ちゃんのバカ親にコロッと騙されよってからに。

 あの取り巻き共も、騙されて返り討ちにうた霊能者と言うか零能力者の成れの果てであのボケをただの怨霊から悪神に育ててもうた元凶や。

 まぁ、なんちゅうめぐり合わせやろうね。

 現悪神が前悪神の生まれ変わりに倒されてまうなんてね】


 苦笑いを含んだような余韻を残して稲荷神の気配が消えた。


 僕としては、五芒星の発動のメカニズムを解析したかっただけなんだけどな。



「でもこれどうしようかな・・・おっちゃんとの愛の巣にするにはちょっとボロッちいけど(ボソッ)」


 立ち去ろうと背を向けた廃墟にカオルン少年が独りちる。


 ・・・そうだ・・・燃え尽きた信号機と言い空襲でも受けた様な周囲の焼け野原ぶりと言いこの場の責任の所在はどこにあるんだろうか、というよりどこに行くんだろうか。


 周囲には生者は僕たちしかいない。


 カオルン少年が乗ってきて信号機を溶かしちまったバイクは、入手経路やらカオルン少年の資格やらで揉めるかも知れないと言うより揉めるに違いない。


 カオルン少年についてだって、この“喫茶店”だったものの所有者の親族としていろんなしがらみで身動き取れなくなる可能性があるだろうし。


 僕と葛葉嬢に至ってはなぜここにいるのか問われて当たり前、というか単なる不審者だし。


 アンジェは・・・普通の猫の振りしてりゃいいか。


《ターさん♡、ウチの事だけなんか雑だわ》


 散々僕を棍棒扱いして振り回してた癖、利いた風な事を言うな。


「とにかく立ち去った方が得策じゃないのかな?」


「旦那さま、それではお祓い代がいただけませんが」


「誰が払ってくれるんですか?」


「・・・」


「だったらオレが働いて「薫くん、貴女まだ未成年では御座いませんか。学校もまだ行ってるのでは御座いませんか?業界の相場としては、初級で500万、己級で1000万、戊級で2000万だと言われているのですよ?お友達価格として半額にしましたとしても・・・アルバイト程度で払える金額じゃない事はお判りになりますよね?」狐のねえちゃん・・・先輩のヨシミって奴でもう少しまけられないかな(ボソッ)」


「? 先輩で御座いますか?」


「おっちゃんの嫁の先輩になるじゃん・・・オレ、欲しかったんだ、ねえちゃんがさ(ボソッ)」


 おい、何を赤い顔して鼻息荒くして興奮しまくってんだ、このポンコツ陰陽師(葛葉嬢)め。


「だ、旦那さま!お聞きになりました?薫くんが私の事を旦那さまの嫁だと言ってくださいました。姉が欲しかったとまで!」


 どうでもいいが大事なフレーズ飛ばしているぞ『嫁の先輩になる』ってな。


 何とか真面まともしゃべれる女性なんていないのに嫁とか妻とか無理ゲーにも程がある。


「狐塚さん、済まないけどさっきの初級500万の根拠って何なんだい?」


 ここは話を逸らすに限るな。


「んもう、他人行儀なんてお止め下さいませ。私は“葛葉”で御座います。

 ・・・ええと確か、主に装備や消耗品から算定された物らしいという事で御座いますけど。

 単純に今日使った札で言いますと回復符が買った物5枚作った物10枚が残り買った物3枚作った物2枚。

 金剛符が買った物3枚作った物5枚が3枚と1枚。除霊符が買った物3枚作った物10枚が作った方だけ1枚。封印符は買った物2枚のみで使い果たしました。

 差し引いて回復符10枚金剛符4枚除霊符12枚封印符2枚を消費してしまいました。

 もし全部を購入した物で計算するならば1枚単価が回復符20万金剛符10万除霊符50万封印符100万で御座いますから千と40万で御座います。

 今回は自作の物も併用いたしましたのでそれでも340万を費やした事になりますね。

 これに霊能者に対する謝礼や交通費、装備の償却なども掛かるので御座いますからこの物件が初級の扱いのままで御座いましたら通常で計算しても1500万ほどの赤字になる事と思われますが」


 あんな出来が悪そうな呪符でそんなにかかるのかよ・・・でも札がちゃんとたって自分の札だけを使えば丸儲けじゃないか。


 きっちり葛葉嬢の札が命中していたとしたら最少回復符3枚、金剛符4枚、除霊符8枚、封印符1枚で済んだ筈だから封印符以外は自前で済むんで札での出費は100万しかないって事で一応は黒字になる訳だな。


 評価としてアレが悪神認定してもらえたとするなら・・・


「狐塚さん、アレが貴女以来(・・・・)の悪神だと認定して貰えたなら報酬はどれくらいになるのかな?」


「・・・旦那さま、私は悲しゅう御座います。

 このまま朽ち果てるまでお認めにおなりになられないとすれば私は世をはかなんで世界を「脅される位ならサッサと逃げますよ、僕は」

 ・・・なんてむごいお言葉。でも私は負けません、必ずや旦那さまの「質問にお答え頂けませんかね?」

 くっ!単純な計算で初級の500万を倍々にする事が基本で御座います。

 下から初級、己級、戊級、丁級、丙級、乙級、甲級、神級。

 神級は核戦争級を想定した概念上の等級で御座いますから恐らくは甲級になるかと。

 で御座いますれば3億2千万が基本額これにオプションが付く事で御座いましょうから更に倍の6億4千万程度になるかと」


 周りの惨状からするとえらく安い気もするけど、金出す方からすると高くなると手が出なくなるだろうからな。


《だから最初は二線級三線級を出して失敗して見せて値を吊り上げるのね》


 祓われる当事者からごもっともな感想を頂きましたね。


「札の値段とか聞いていてもあんなゴミみたいなので100万とか掛かるんだったら値も上がるんだろうけど随所でぼったくってる感があるな」


「ゴミみたいな札ですか!?」


「だって狐塚さんが作った札の方が断然性能良かったもの」


「え・・え・・・ほ、褒めても何も出ませんよ・・・いえ、愛さえ頂ければ後は何もいりませんが・・・」


「嘘は言ってませんし。

 その等級って奴は誰が決めてるんですか?」


「祓う事業者ですけど?」


 ・・・公正な監査が必要ですね・・・




 最終的には、全国の稲荷神社などから一斉に出された宣託が決め手となってこの案件は史上初の神級認定となり、器物損壊等の罪に問われる事も無く、更地になった喫茶店は除霊を請け負わなかった各事業者の手によって再建され“喫茶シリウス”がカオルン少年の手によって営業される事となった。


 暴走族の巣窟になるであろうこの店から、僕はいち早く撤退し修行の旅と称して気ままな一人旅に出る事にした。


 戻ってくる気は更々ないが。


これにて第3章終了です。


1話閑話を挟んで第4章にしたいと思います。

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