第200話 狸、修羅場る
「鬼ババアは内、福娘はいない」
世は節分ですが皆さんいかがお過ごしでしょうか(奥様、冗談だからね?)
ちなみに節分は本来陰陽道に基づく行事で寺でやるのも神社でやるのもちょっと待てと言いたくなるんですけどね
そんな事より本日もよろしくお願いします
「とこいで弁天しゃんは?」
と問えばなぜか指さすディーテの手下の指の先には、もうもうと煙が立ち込めている店の裏手がある。
「店ん中じゃなかと?」
寡黙と言うか言葉を発する事が出来ない船幽霊(トップの大漁丸、開洋丸、吉祥丸は出払ってるから氏名不詳)は自信を持って頷いてくる。
尤も包帯グルグルで表情も何も解らないから勝手に想像してるんだけどね。
ホントにそうだとしたら痴女はてっきり店の中であれこれ指示をしてくれてるとばかり思ってたからちょっと意外だな。
ウーちゃんの盟友だけあって現場監督やらせたらピカ一な神様なんだけどね?
船幽霊たちももともと恵比寿様の孫請けで仕事してたんだから七福神繋がりで面識はあっただろうし、ディーテもそれくらい見越して指揮系統の調整をしてる筈だし。
恐る恐る裏に回ってみると毘沙門様が天邪鬼を踏みしめて睨みを利かせ、その脇で河童たちがバケツリレーで消火活動をしている。・・・事前にディーテから聞いた話だと、河童ってのは水を操るのに長けていて霧雨から豪雨まで自由に降らせられるって聞いてたんだけど。
それ以前に、毘沙門様がどっかの仏像の再現を水でびしょびしょの春先の野外でやってるのってどういうこと?
「なんばしよらすとやろか?」
【おぉ、番頭殿か!我輩が火付けの真犯人を逃がさぬようこのように抑えておりました故、ご安心召されよ!】
脳筋オヤジは毘沙門の湯での決闘など無かったかのように僕に白い歯を見せて笑い掛ける。
脳筋オヤジが踏みしめているのは泥だらけで性別も判らない、人間かどうかも判からないような物体だった。
僕に付いてきたカオルン少年が脳筋オヤジに踏みつけられた天邪鬼を見て叫ぶ。
「!!
てめぇ、親父じゃねぇか!!!・・・ちょうどよかったぶっ殺してやる(ボソッ)」
僕は、カオルン少年が殺気を駄々洩れさせながら泥まみれの天邪鬼に飛び掛かろうとするのを後ろから抱き留める。
・・・はっ!勢い余ってカオルン少年の胸を鷲掴みにしちまった!
ちっ違う、これは事故なんだ。事故なんだよぉ!
「ばっ馬鹿野郎!
真っ昼間からするとかどうかしてるぜ!・・・こんな事は夜にこっそりとする事じゃねぇのか?(ボソッ)」
真っ赤な顔して満更でもなさそうなカオルン少年・・・そんなつもりはありませんよぉ!無実だ、無実なんだよぉ!
「社長だけに飽き足らず、どさくさ紛れに事業部長にまで手を出すとは・・・女嫌いだとか言っちゃって、専務も中々隅には置けませんね」
面白がってちんちくりんが僕の耳元でそんな事を囁く。
はっ!葛葉嬢にこんなトコを見られたらこの世の終わりがやって来かねん!
慌てて周囲を見渡すと真後ろに葛葉嬢が真顔で立っていた・・・あの吊り上がった眼が怖い・・・こんな冤罪でこの世を終わらせちまうとは、誰に謝っていいのやら・・・
【何を茶番をやってるんだか・・・玉藻殿は最初から見ていたのじゃろう?
夫の濡れ衣を晴らさんのかえ?】
動転して気が付かなかったけど痴女もここにいたのね?じゃあ僕の冤罪を晴らしてよ!
ん?葛葉嬢は最初から見てた?
【あらかた火も消えておりましたので薫ちゃんも安心しておふざけが入ったので御座いましょう。
それに私と薫ちゃんとチカさんは運命共同体で御座います。
ともに旦那さまを支え合っていくと誓い合った仲で御座いますれば別に怒りも何もする訳が御座いませんものを・・・旦那さまったらまだ薫ちゃんやチカさんを受け入れられないので御座いますか?】
えっ?怒ってないの?って言うかカオルン少年やちんちくりんの寝言を真に受けてるの?
いやいや、法律上許されないでしょそんな事。
前々から言ってるじゃないですか、もっと若いいい男がいっぱい世間には溢れてるからそっちを選びなさいって。
葛葉嬢の重い思いを受け止めるだけで僕のキャパシティはいっぱいですから!
【それは良いとしていい加減この不届き者を始末したいのだが】
よかないでしょ、そんな事!毘沙門さまは普段天邪鬼を踏み付け慣れてんですからもう少しそのままでいてくださいよ!
お巡りさん、こいつがセクハラやってました!現行犯です!重婚もするつもりです!
尤も被害者側が嫌がっていなければハラスメントにはならないんですけどね
要は受け手の感じ方次第で許されたり捕まったりするんですからもてないおじさんにとっては世知辛い世の中ですよ
そんなこんなでまた来週




