第187話 弁護士、詐欺を働く
本日、まさかの日本勝利に驚いて予約するのを忘れてました
と、とに、とにかく本日もよろしくお願いします
「デジタルかもんには・特に神様んもんは・・記録されんとよ・・・、なぜか、ね」
科学を凌駕する心霊現象に振り回されて証拠になる筈の物がゴミと化してしまった似非正義は、憎々し気に僕たちを睨みつける。
やっぱり女は怖いねぇ。性根を見透かされると牙を剝いてくる。
「騙したのね?」
「北側の土地を少々お借りしたいとか言って神社の裏庭全部を独り占めしようとしてた某学会さんの方にそんな被害者ぶった発言をされるとは心外だ、とウチの専務も思ってるでしょうね」
さすが第5の男、僕の考えを良く読んでるね♡!あとでなんか奢ってあげるとしよう。
似非正義から渡された資料には『貸与する』土地の範囲には明確な文言は記されていない。曖昧に『旧東京晴明神社の敷地の北側の一部』と書かれているだけだ。突き詰めればその範囲は好きなように拡げられるし期間も都合のいい表現で区切らせずにとくれば好きな所を好きなだけ、その上『排他的に』って文言が紛れ込ませてあったりと詐欺行為を働く気満々だよね。
都合のいい解釈すればするほどこっちが泣き寝入りする事間違いなしの策略を建てた某学会が『騙した』とは、どの面下げて言っているのやらだ。
短い時間にそこまで読み取られていると思っていなかったのか似非正義の顔は信号機みたいに赤くなったり青くなったりと忙しい。
「我々としてはあの丘陵地で何をしたいのか興味があるんですけどね。
後学の為にも教えて貰えませんかね」
「わたくしは弁護士として契約の締結に支障が無いかチェックを頼まれただけです。
それ以上もそれ以外も情報がありませんから」
すかさずウーちゃんと白塗りお歯黒と銃刀法違反オヤジからブーイングが来る。便利なウソ発見器だこと。
モブ2号もそれを聞いて胡散臭げに似非正義を睨みつける。
「あなたの言葉を八百万の神々が否定してますが?もう一度お返事お願いします」
「・・・守秘義務違反を犯す弁護士はいません」
その頑なな姿勢に裏がある事に気付いた僕はカマに掛ける事にした。
「根津くん、例ん件の漏れとっちゃじゃなかとか?」
「まさか!アレは最高機密じゃないですか!内部でも俺までしか情報が下りてきてないのに外に漏れるなんて有り得ませんよ」
小心者のモブ2号の演技がバレるかもと言う恐怖が滲み出た様子が迫真の出来となり、似非正義どころかモブ1号や元詐欺師までもが何があるのかと考えを巡らせるようになる。脂汗がリアルだよ、小心者。
「根津主任、古い付き合いの俺にも言えない秘密って何なんだよ!」
「根津さん!儲け話独り占めってそりゃないっすよ!」
「まさか、埋蔵金は誰も知らない筈だったのに!」
なんとあの丘陵地帯のどこかに誰かの埋蔵金が眠っているらしい。
神々もその事実は知っているようで誰も僕と眼を合わせてくれなかった。
かくして元詐欺師の妄想からの一言が呼び水となり似非正義の鉄壁の守りは無残にも崩れ去った。そういう事だったのね。こんな簡単に引っ掛かってくれるんなら僕たちも詐欺師になれるかも知れないねぇ・・・やんないけどさ。
僕とモブ2号の表情を見てすべてが露見したと悟ったのか、ごにょごにょと捨て台詞を残して似非正義は引き上げていった。
二度とここへは来ないで欲しいもんだ、こんな誰のものだかわからないような物件で揉めると泥沼になるのは眼に見えてるからね。
「さて、ジャマモンはおらんごつなったたいね」
改めて、空気になってその場をやり過ごすのに必死な貧乏神とその一党に問い詰める事にしましょうか。
【まぁこのゴミは早いトコ処理しないといけないでしょ。
ここはそこいらに隠れとる連中に片付けさせる事にして誰かここの主と一族郎党を呼んで来てくれないかい?】
大国主命(ほぼ確実)の言葉に鳩の大群がどこからともなく空を覆わんばかりに舞い上がり北へと飛んで行き、白と黒の2匹の大蛇がゴミ共地面を拭う様にして巻き取りどこかへ消えて行く。鳩と蛇って事は八幡様とお諏訪様夫妻が動いたって事か。
で、誰がこの銃刀法違反オヤジを紹介してくれるのよ。それにあいつらに落とし前はどうつけてくれるって言うのよ!
【夫君、どうやら諏訪の健御名方様と八幡の誉田別様がこれ幸いと別任務にお逃げになられたようでおじゃるので不肖菅原道真がこれなる方を紹介させて頂くのでおじゃる】
と、佇まいを正して白塗りお歯黒が漸く騒動の中心人物を紹介してくれる流れになった・・・それなのに紹介される当の本人から待ったが掛かってしまった。流れが悪すぎるだろうが・・・
【菅原の、丁度いい機会だから皆が揃うまで待とうじゃないの。
色々と纏めてやってしまった方が後腐れが無くていいだろう】
後腐れが悪そうな事をしたいんだったら僕は速攻で逃げるからね!




