第168話 水の女神、勧誘する
猛暑だ大雨だと温暖化の影響が厳しい今日この頃、お元気でしょうか
夏バテに耐えながらなんとか書き上げましたので本日もよろしくお願いします
【神ころがしって奥方も例外では無いのか・・・恐ろしいおのこじゃ】
そう呟く裸に羽衣のみを纏っただけの仏神サラスバティこと弁天様が、恐ろしいものでも見るかのように僕を見ている。気のせいか眼の焦点がちゃんと合っていないような気がするんだけど?
ただ言っておきますがまだ葛葉嬢とは籍を入れてはいません。ですから『奥方』ではなく正しくは『婚約者』です。
そこんトコよろしく。
その朝の社員寮の食堂には社長以下の社員に加えウーちゃん、弁天様、白塗りお歯黒それから漸く階段を抜け出した牛が顔を並べていた・・・
我が社には社長室なんてしゃれたトコは無い(通称“お札工場”の作業場は社長室じゃないだろう)。幹部だけをと言う白塗りお歯黒のたっての願いを伝達の省力化を名目に無視して社員全員と白塗りお歯黒の報告を朝食を取りながら聞くという中々罰当たりな会合である。
【いくら神域ならどこでも顕現でけるゆうたかて随分いきなりやったやないかみっちゃん】
【色々と出雲で揉めておって漸う出張ってくればはや師走、年の瀬の声に流されるようになって初めて玉藻様と夫君の元に参上させてもろうたでおじゃります】
口火を切ったウーちゃんに続いて深々と頭を下げる白塗りお歯黒。ただその姿は中空を漂っていて饅頭型のUFOと言われても文句は言えないだろう。
祟り神界のレジェンドなのにね。
態々出雲の話まで引っ張り出して存在感をアピールしてくるけど何を言いたいのやら。
【麿は元来祟り神でおじゃる、恨み節が出るのは我慢して欲しいのでおじゃるが・・・
玉藻様、夫君、お二方はなぜ故神無月(10月)に出雲に御出でいただけなかったのでおじゃるか?】
ちっ、せっかく有耶無耶に誤魔化してきたのに正面から突いてきやがったな。
【えっ?そのように言われましても何の準備もしておりませんし、仕事も立て込んでおりましたからそのような余裕は【そないな建前どうでもよいのでおじゃる。後見人として立った麿はともかくウーちゃん様の顔に泥を塗る様な事をされた落とし前はどないされるのかと問うておるのでおじゃる】
えっ?ええと・・・】
あっこれはダメなパターンだ・・・感覚派の葛葉嬢に論理的な説明とか言い逃れとかできる訳がない。
責任者ぶって僕より先に喋ろうとか背伸びするから・・・
「そいぎん、今請け負うとっ神社ん設営やいノルマのごつ押し付けられとっ除霊んごたっとばひと月放置しても構わんちゅうこつやろか?」
【誰もシリウス全員で出雲に来いとは言って無いでおじゃる。お二人で来られれば後は残りの者で回せるであろう】
「僭越ながら口を挟ませて頂きます、弊社の経理を預からせて頂いている宇佐木と申します。
工事にどれだけの人員を割いているかご存知であられますか?」
詰る白塗りお歯黒にちんちくりんが横から噛み付いてくれる。交渉事はこの子に任せておけば大丈夫だろう。
【夫君の妾如きが不遜でおじゃるな。夫君の教育がなっておらんのでおじゃろうて。
まぁ口を挟まれてもうたは仕方ない。精々一人か二人であろ?】
「日曜休日返上で毎日二人です」
【であろうな、それであれば十分回せる筈でおじゃる】
「では日霊連を通して弊社に送り付けられる依頼はどれだけあるとお思いでしょうか?」
【月に10件ほどでおじゃるか】
「月に20件、今月に至っては35件です」
【今月はともかくとして1日1件も無いではないか】
「簡単な除霊ならそんな風に考えられても構わないでしょう。
でも弊社に持ち込まれるのはよそが処理できなかった所謂“シリウス案件”ですよ。
あたしらでも1日二日でカタが付かない二人三人と人手が掛かるような案件をそれも全国各地の案件をノブレスオブリージュだからって押し付けられるんです格安で。
旅費や宿泊費だけでも足が出そうな仕事を熟してもあたしらの腹は膨れないんです。
実力が付くからなんてお為ごかしで話を逸らそうったって現実はそうなんです。
仕方ないから喫茶店やら温泉旅館やら通販やらって多角経営をして近場の普通の案件を適正価格で熟して漸くみんなの給料を捻り出しているんです。
弊社の人員はどれだけかご存知ですか?ご存知ですよね!
天神様と弁天様が再教育に引き取って頂いている8人を除いて人間10人妖怪と精霊があわせて7体これには子化け狸2匹含まれてます。たったこれだけで金にもならない仕事で日本全国駆けずり回ってるんですよ!
再教育中の連中にも給料は出さなきゃならない。弊社の専務の眷属たちの配下の者たちにも無給という訳には行かない。もちろん休ませないなんて選択肢は人間にも妖怪にも適用させません。休みを取らないと労働監督署から是正勧告が来るし生身の身体が悲鳴を上げるんです。
それに弊社の貴重な戦力である妖怪たちは専務の眷属ですから当然専務に帰属しています。彼女らが主君抜きでひと月頑張れるとでもお思いで?
下手したら暴走してこの国を大混乱に陥れる事になりかねませんし、それだけの実力を彼女らは持っています。
それでも弊社のトップ二人を伊豆だか出雲だかにひと月拘束しようって言われるんなら、弊社は解散するしかないと社長には進言しておりますが!」
・・・日頃の鬱憤がすげぇ事になってるな。改めてちんちくりんを怒らせないようにしないとって心に誓いますよ、ええ。でも妾じゃありませんから、同僚ですから。
【相変わらず乳娘の圧は高いのう。そのように金払いが悪いのであれば妾が口を利くから鞍替えなんぞどうじゃ?】
うわ、弁天様が便乗して問題を複雑にしようとしてるっっ!でもまっすぐ立ってないんですけど?
【弁天様、横から話を混ぜくりかえすのは勘弁して欲しいのでおじゃるが・・・
おお、そうでおじゃる!少しばかりでおじゃるが経費を節減する事が出来るでおじゃる】
訝しげに睨むちんちくりんに取り繕いながら白塗りお歯黒が報告をする・・・すっかり立場が逆転してやがんの。
弁天様の勧誘よりちんちくりんのおっさん張りのぶちかましが目立っていたような気がするのはなぜでしょか
オカルトがダメな癖に神様には強く出れるという不思議な連中ですよね
熱中症やコロナ7波に負けないようにまた来週




